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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第4章 魔将君臨【8】


 しかし、執念。ガルーダは引き剥がされまいとルミーナの身体にしがみく。
 神気も大分消費してしまったのか、既に身体のサイズは通常時に戻ってしまっている。
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)は戦場を駆けずり回りながら、ルミーナの魂にテレパシーで呼びかけた。
『ルミーナ、待ってろ……今、助けてやる』
 無論、声は返らない。だがそれでもいい。これは決意だ。彼なりの決意の表明だ。
 兄の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は緊迫する彼の表情に何か感じとったのか、優しくその肩に手を乗せた。
「はやる気持ちはわかりますが焦りは禁物です。不用意に動けば救出は遠のくばかりですよ」
「んなことわかってる……! ただ俺は……!」
「なら、ここは僕に任せてください」
 優斗はおもむろに全能弾を握りしめると、怪訝な顔の隼人を尻目にイメージを注入する。
「これでよし……じゃあ隼人。あとはこの弾に君のルミーナさんへの愛を込めてもらえますか?」
「はぁ? なにを急に……、つか、今何か念を込めてなかったか?」
「ええまぁ。でも、やっぱり眠り姫を起こすのは王子様のキスですから、一応げんを担いでおこうと思いまして」
「……マジか?」
 流石に兄の前じゃ照れくさいのか、小声で「ルミーナ、大好きだ」と呟き、弾丸に口付けた。
 優斗は複雑な表情で目を細める。
「……なんと言うか、弟が銃弾にキスしてる様を見るのはちょっと気まずいものがありますね」
「お、おまえなぁ……」
「でも」と弾丸を手に「隼人の気持ちはルミーナさんに届くはずですよ」
 そう言うと、サイコキネシスで弾丸をガルーダ目がけて発射した。
 閃光がガルーダを穿ち、その途端重なり合っていたふたりのビジョンは完全に引き離された。
「な、なんだと……!?」
 炎を思わせる深紅の髪と翼をひるがえし、元の姿となったガルーダは光に包まれるルミーナに目を向けた。
 退色したゆるやかな髪が次第に黄金に輝き、そして血の色に染まった瞳も宝石のような透き通る青に戻っていく。
「う、うう……」
 長らく抑え込まれていたルミーナの意識が目覚める……!
 ずっと待ち望んでいた光景に隼人は驚き、そして、それをやってのけた兄を見た。
「なにをしたんだ、優斗?」
「彼女の意識に覚醒を促したんです。覚醒させ、身体の所有権を彼女に優先させるように念を込めました」
 創造されたのもまた、理のひとつ。ルミーナが目覚めたとあれば、奈落人であるガルーダは憑依を維持出来ない。
 ガルーダは焼け野原に佇む隼人と優斗を見つけた。
「よくも邪魔を!」
「来たぞ……っ!!」
 応戦のため身構える隼人。しかし、二つの黒い影が飛び出し、放たれた炎から彼を守った。
 飛び出したのは、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)沖田 総司(おきた・そうじ)
「ここは私と総司殿にお任せを。隼人殿は自分のなすべきことをなさってください」
「ええ。その全能弾には俺達みんなの想いが託されてるんですからね。必ず彼に届けてくださいよ」
「孔明……総司……」
 【ホウ統 士元(ほうとう・しげん)】アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)も背中を押す。
「その全能弾には我々ひとりのひとりの想いがこもっています。隼人くん、あとは任せましたよ」
「絶対にルミーナさんを救うのよ、隼人! ルミーナさんを不幸にしたら許さないんだからね!」
 と、身に纏う魔鎧にして兄弟の父でもある風祭 天斗(かざまつり・てんと)も激励の言葉をかけた。
「愛する女を救うのは男として当然! で、どうせなら恋敵まで救ってこそ俺の息子だ」
「こ、恋敵とかじゃねぇよ!」
「どっちでもいい、ありったけの想いを込め……放て!」
「ああ、わかってる! みんな、ありがとう……!」
 魔道銃に全能弾装填、ガルーダに照準を合わせる。
 炎を纏った彼の姿は神話に出てくる怪鳥のよう、紫炎を灯した両手を伸ばし、隼人の眼前に迫った。
「ガルーダ……、おまえの気持ちはよく分かる。愛した女を求め続ける気持ちも、無力な自分を呪い力を求めた経緯も、理解出来る。けどなぁ、そこにルミーナを巻き込んだことだけはどうしても俺は許せねぇ……!」
「憎しみは力だ! ならば、貴様の心の赴くまま、オレと戦え!」
 しかし、隼人は首を振る。
だが、おまえの取り憑いてた女ならこう言うはずなんだ。独りでもがき苦しむ彼も救ってやって欲しい……ってな!
 その刹那、全能弾が放たれた。しかし、天眼でガルーダは直撃をかわす。
「馬鹿め、そんなものに当たるか!」
いや、当たるさ……その弾は外れねぇ、外すわけにはいかねぇんだ!
 ホウ統とアイナのサイコキネシスが弾道をねじ曲げる……、背後をとった弾丸はガルーダに直撃を果たす。
「な……!?」
 直撃と同時に、身体から影のようなものがはじき出され……すぐに霧散して消えた。
 身体には傷ひとつない。ただ胸の奥が暖かいもので満たされている……思えば、長らく忘れていた感覚だった。
「その弾には俺達の……俺達皆の『愛』が詰まってる」
 隼人だけじゃない。優斗、孔明、総司、アイナ、ホウ統、天斗……そして賛同してくれた仲間たち。
 たくさんの人の愛がたった一発の弾丸の中に入っていた。
おまえだって持っているはずだ。思い出せ、ガルーダ。優しさを……愛情を、もう一度取り戻すんだ……!
「くだらん真似を……」
 再び愛する者と巡り会うため、強くなるため、非情になるため、捨ててきた感情だった。
 だが今蘇ったあの頃の気持ちは、強く彼の胸を締め付けた。懐かしさとともに希望に満ちた時代を思い起こさせた。
 その胸にある面影が去来する。
マユリ……、おまえもオレは間違っていたと思うか……?」