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「さすが……お嬢様学校と名高い百合園女学院です! 創作意欲が刺激される……と思います!」
 ヴァイシャリーに訪れている時に話を聞いた茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は、パートナーのレオン・カシミール(れおん・かしみーる)茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)と共に、裏方として手伝いたいと申し出た。
 カジュアルなティーパーティと聞いていたが、私服の百合園生は皆ドレスや上品なワンピースを着ており、招待客もブランドものと思われる服を纏い、優美に着飾っている。
「当然ですが、女の子沢山! 宣伝効果抜群です!」
 自分とパートナーの他に、衿栖は4体の人形を連れている。
「さぁ、これからは私とみんなのショータイムよ!」
 衿栖は人形師。
 今日は人形工房の宣伝もかねてやってきた。
 人形に興味を持つ客は、やはり男性より女性の方が多いから。
「最初に注文した飲み物だ。あのテーブルの客は、ぬいぐるみが好きらしいから、行ってみるといいだろう」
 レオンは根回しで調べた情報を、衿栖へと話していく。
 客のリストに最初に注文した飲み物、食べ物の好みや、趣向について調べては情報を書き込んでいる。
「飲み物か果実系がよさそうね。100%よりは、甘いものが好みそう! 準備を終えたら突撃よー!」
 早速、衿栖はパートナー達と飲み物や茶菓子を取ってくることにする。
「うん、朱里は冷蔵庫から必要なものを運んでくるよー」
 朱里は準備をしている百合園生に近づいて、追加の飲み物やお菓子を取りに冷蔵庫のある調理室へと向かっていく。
「私は敢えて今回はウェイターはしないぞ」
「わかってるって」
 レオンにそう答え、衿栖はワゴンの上に飲み物を沢山乗せていく。
 一人で配るのは大変な量だ。
 冷たいジュースや、熱いお茶が生ぬるくならないうちに、配らなければならないけれど……。

(いたいた! ……ふうん……)
 少し早目に来て、給仕として手伝っていたリン・リーファ(りん・りーふぁ)は、探していた男性を見つけた。
 黒のスーツに、白いシャツ。首にはゴールドのネックレス。
 指にはシルバーリングがいくつか。
 他の招待客に比べて少し派手だけれど、普段よりは落ち着いた格好だった。 
「あそこのテーブルはあたしに任せて!」
 トレーの上に、茶菓子や紅茶を乗せてリンはさっそくそのテーブルへ近づいていく。

「神楽崎先輩とは、どういった経緯で契約されたのですか?」
「先輩のご友人には少ないタイプかと思いまして……」
 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)のパートナーであるゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は、中央のテーブルで、百合園生達に囲まれていた。
 少し遅れてきて、百合園生だけ集まっているテーブルに彼の方から近づいていったからだが。
「どうぞ」
 ホワイトブリムと上品なメイド服。
 そして、黒髪のウィッグに黒い瞳のコンタクト。メイクで顔の印象まで変えたリンが、茶菓子――パートナーの関谷 未憂(せきや・みゆう)が作った、チョコチップクッキーをテーブルに置く。
「あー、そうだ」
 言って、ゼスタは周囲を見回した後、持っていた花束――水仙の花束を、リンへと差し出した。
「花瓶に活けてくれる? 可愛いお嬢さん」
「うん」
 いつもの笑顔を浮かべそうになったリンは、ごまかそうとお辞儀で顔の緩みを隠すと、ゼスタが差し出した花束を受け取った。
 そして、花瓶を取りに戻っていく。
「互いの家と学校からの紹介。固い女だけど、分かりやすいし、結構気に入ってる。優子チャンがどーしてもっていうんなら、初めての嫁にしてやってもいいかなってカンジ」
 ゼスタが冗談っぽく、そんなことを百合園生に言っている。
 リンはちらりと振り返って、彼と、彼との会話を楽しむ百合園生達を見た後、手の中の花束に視線を落とす。
「この花――本当は飾るためじゃなくて、あの子に渡すために持ってきたのかな」
 水仙の花言葉を思い浮かべ、そして薔薇学の知り合いから聞いた話を思い出す。
 水仙は十二星華のサジタリウスの花。
 リンは会場を見回してみるが、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の姿はまだない。
 来賓の迎えに出ているらしい。
「ま、どっちでもいいよね!」
 パタパタ、リンは花束を持って花瓶を取りに向かっていく。

 会場までゼスタや薔薇学の学友と一緒に来た黒崎 天音(くろさき・あまね)は、ラズィーヤの姿を見つけると席を立って歩み寄った。
「ラズィーヤさん、こんにちは。今日も綺麗だね」
 言って、鞄の中からラッピングされた袋を取り出して、ラズィーヤに差し出す。
「これお土産」
「……ありがとうございます。そろそろ面談に向かわなければなりませんけれど、少しの間だけでも楽しませていただけそうですわ」
 袋の中を見て、ラズィーヤは微笑みを浮かべる。
 彼女は相変わらず、忙しそうだった。今回の個別面談では、彼女との面談を望む者が非常に多かったらしい。
 渡した袋の中に入っていたのは菓子壺。
 壺の中身は、動物の形の小さな砂糖だ。
 共に席につき、スプーンをとって、その上に砂糖を乗せてみる。
 とても可愛らしい真っ白な動物の姿に、周囲の表情も緩んでいく。
 天音は彼女の隣で、普段通りの表情で彼女の顔を見ながら――深く考え込んでいた。
 先日のこと。
 大荒野で起こった激しい戦闘のことを。その結末の詳細を、自分の口から、彼女に聞かせてあげたい気もするけれど、今日この場で話すには少々――いや、かなり場にそぐわない話になってしまうから。
 口には出さずに、ただ考えていた。
 もしかしたら……あの娘の。ユリアナ・シャバノフの最期は、特に東西分裂の頃には、この聡明な女性の身に起こったことかもしれない。
 そんな風に、ぼんやりと普段より口数少なく、天音は考えていた……。