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地球とパラミタの境界で(前編)

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地球とパラミタの境界で(前編)

リアクション


・1月12日(水) 16:30〜


 聖カテリーナアカデミー。
 イタリアの契約者養成学校であり、次代の武装勢力対策軍F.R.A.G.を担うパイロットの教育を行っている場所でもある。
 アカデミーではジナイーダ・バラーノワとして通っている富永 佐那(とみなが・さな)は、伊東 満所として通う立花 宗茂(たちばな・むねしげ)と共に、校長室を訪れた。
「さて、進路相談ということで宜しいかしら?」
 幼い少女にしか見えないアカデミー校長、シスター・エルザが確認してきた。それに対し、佐那はエルザと目を合わせ、頷いた。
「このままアカデミーに残るか、それとも天御柱学院に帰るか……あら、あたしが何も知らないで泳がせていたとでも?」
 エルザが紅と碧の瞳を細める。
「天御柱学院高等部パイロット科本科三年」
 佐那は本名を告げた。学籍にある名前ではなく、ロシア名の方を。
「ジナイーダは本名だよ」
 おそらく自分のことは全て見透かされているだろう。それでもこの名を名乗ったのは、アカデミーの人間として生きていく覚悟を決めたからだ。
 エルザの前に、二通の封書を差し出した。天御柱学院、聖カテリーナアカデミー、両方の退学届けだ。
「エルザ校長、あの時確かこう言ったよね? 『あなたにはその資格がない』て。今でも、そう思ってる?」
 教会が秘密裏に回収した、故マヌエル前枢機卿の機体【レヴィアタン】。その搭乗許可を求めたが、彼女は一蹴され、別のパイロットが搭乗した。
 それが何者であるか、佐那は未だに知らない。分かっているのは、男であるということと、地球にもシャンバラにも属さないとしている者だということだ。
「これが答えだよ。あたしは、あの時の校長の判断が間違っていたかどうかなんて瑣事でしかない。過ぎたことだから。でも、あの時の判断が間違っていたかも知れないと一瞬でも思わせるくらい、あれからあたしはずっと牙を研いできた」
 留学当初は実力を隠していたが、この半年間は自身の限界を超えるため、全力で訓練に臨んできた。資格無しと切り捨てられたのが悔しかったのもあるが、天学でのパイロット経験がある以上、後発のアカデミーの生徒には負けたくないという気持ちもあったためだ。
「教えて。今でもあたしは【レヴィアタン】に乗る資格はない? はっきり言うよ。あたしは、シスターがあの機体を託したパイロットに遅れを取ったとは全く思っていない。もう一度、そういう機会が来たら、あたしを今度は【レヴィアタン】に乗せて欲しい。私にも、等しくチャンスが欲しいんだ。絶対、モノにしてみせるから」
「もし、駄目だと言ったら?」
「その時は、あたしを放逐して。そのために退学届を用意したんだから」
 エルザが考える素振りを見せた。
「困ったわね。【レヴィアタン】は今、ヴァチカンに預けてあるのよ。元々、『聖歌隊』の子達が乗る『七大天使』があれば、もはやうちには必要ないと思ってたところだし……」
 何か思いついたのか、エルザが不敵な笑みを浮かべた。
「そうね。あれに乗りたかったら、『聖歌隊』メンバーからその座を奪うことね。学生のうちに専用機への搭乗が認められるのは、『聖歌隊』の七組のパイロットだけだもの」
 アカデミーに在籍している300組の契約者は、いくつかのグループに分かれている。
 下位の200組は一般生徒。上位の100組はF.R.A.G.への入隊試験が免除となっている。その上位組の中で50位以内にいる者たちは士官候補、20位以内は入隊後即F.R.A.G.の小隊長(階級は少尉以上)となる資格が与えられる。
 そして、一位から七位までの生徒による『聖歌隊』。アカデミー在籍時からF.R.A.G.の部隊長と同等の扱いという特権階級だ。席は七つあるが、一定水準以上の実力があるとエルザ校長が認めなければ、与えられることはない。今後、世代によっては、空席が出ることもあるだろうと考えられている。そのため、第八位以下とは別格の存在だ。
 現在交換留学でやってきている天学生二組ですら、11位と19位だ。留学前、パイロット科では上位をキープしていたとのことだったが、それでも一桁台にはなれない。それほどまでに、アカデミーのレベルは高くなっていた。
 佐那の順位は25位。『聖歌隊』に挑むには厳しいものがある。しかし、彼女に引くという選択肢はなかった。
「勝てば、認めてくれるんだよね?」
「もちろん。勝てれば、の話だけれど」
 挑発するように、エルザが言った。
 佐那が熱意を伝え終えたところで、宗茂が声を発した。
「一つ提案があります。国際条約が発効されてますが、その監査のために年に一度、あるいは数年に一度の頻度で各国のイコンを一つの場所に集めて演習を行ってはいかがですか?」
「そのあたりは国連が判断することよ。あくまでただの学校の校長であるあたしにどうこう出来るものじゃないわ。監査に関しては『ライセンス持ち』が動くはずよ。でも、各国で集まるって話はイギリスの王立ヴィクトリアカレッジや、アメリカのワシントンコントラクタースクールからも出てるから、そのうち地球各国の契約者が集まる機会はあるかもしれないわね」
 それに次いで宗茂が相談したのは、このままアカデミーに残留して教官の道を歩んでいいのかどうかについてだ。
「F.R.A.G.へ入隊するだけならともかく、教官を目指すのであれば、一度学院に戻ってちゃんと卒業した方がいいわ。中等教育を終えていれば、うちの在学期間を短縮出来る。そうすれば、早いうちに次の段階に移れるはずよ」
 通常なら五年間の在学期間が二年間になる。アカデミーではまだ一回生である佐那達にとって、この差は大きい。
 しかし一旦戻るにしても、まずは自分の力を証明することが優先だ。