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リアクション
【2】覇王マリエル無双拳……6
「だったら私がやるよっ! 女の子だったら触っても大丈夫だよね!」
マリエルの親友である小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は言った。
その昔、マリエルシナリオNPCの一線をはっていた頃は、よく一緒に冒険に繰り出していた仲なのだ。
「あの頃は愛美じゃなくて、マリエルのほうがメインのシナリオもあったんだよね……」
久しぶりに再会したと思ったら覇王である。悲しすぎる。
「美羽……。私も一緒に戦う……」
ボロボロの崑崙旗袍を引きずって、愛美も名乗りを上げた。
轟衝波でボコボコにされた所為で満身創痍だが、その目に燃える闘志はまだ消えちゃいなかった。
「大丈夫なの、愛美……?」
「マリエルのことだもん。皆に任せっぱなしにはできないよ」
「そっか……そうだよね。わかった。愛美は私がサポートする。一緒にマリエルを元に戻そう」
「俺もお手伝いします」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)も援護を申し出た。
守るべき人が出来て大人っぽくなったのか、以前の頼りなさは薄れ、どこか頼りがいのある空気を持つようなった。
「彼女の注意を出来るだけ引き付けます。妻以外の女性に触れるつもりはないので、秘孔はお二人にお任せしますね」
三人がかりでマリエルに挑む。
まず仕掛けたのは陽太だ。素早い身のこなしで間合いを詰め、拳撃を繰り出した。
しかしマリエルはパシパシと掌ですべて受け止めてしまった。
「これなら……!」
必殺の胴回し蹴り……だがこれもいとも簡単に止められてしまった。
(少しでも時間を稼げればと思いましたが、これでは数秒稼ぐのも際どそうですね……)
「我に正面から挑む度胸は認めてやる。だが、貧弱な拳では我の前に立つに値せん。弱者の拳に用はない」
「く……っ!」
その時、マリエルの身体を異変が襲った。
動悸、目眩、急な発熱が突然何の前触れもなく襲ってきたのだ。
「ぬううう……。な、なんだこれは……」
陽太ははっとして、美羽のほうを見た。
「よしよし、すごく効いてるみたいだよ」
美羽は携帯でベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に言った。
ベアトリーチェによる遠隔呪法、呪詛攻撃である。
とは言え、腹痛や発熱で止められるほど覇王は柔ではなかった。むしろそれで止められるようでは覇王失格である。
「我が全身全霊の闘気よ……。くだらぬ呪いなど我に触れさせるな……!」
マリエルを覆う気がより集束し始めた。気は幾重にも層をなし、呪詛がその身に届くのを妨げる。
「どこの誰だか知らぬが、我を倒したければ直接拳で挑んでこい! それ以外に我を倒す術はなし!」
「……でも、一瞬だけど隙は出来たねっ」
美羽のアクセルギアが発動する。
超加速状態に入った彼女はこの五秒間で、通常時なら絶対にとることは出来ないだろう、覇王の背中をとった。
この時点でアクセルギアの効果は消失。高速で回り込んだ美羽の足元から、摩擦で生まれた白煙が舞い上がった。
「むぅ!?」
マリエルの視線が一瞬美羽を追った。
「今だよ、愛美!」
「うん、行くよ、美羽!」
その刹那を逃さず、愛美が正面から迫る。
美羽がお尻の二点を、愛美が胸の一点を、タイミングを合わせ秘孔突きを繰り出した。
「……覇道拳奥義『二指挟握把』!」
美羽の放った突きはマリエルのお尻に刺さった。
けれど愛美の一撃は届かなかった。覇王の人差し指と中指に挟まれ、その先に突破することが出来なかったのだ。
「マリエル……!」
「ふん、そんな小細工で我を倒せると思ったか!」
反撃に放たれた突風の如き回し蹴りが、二人を激しく吹き飛ばす。
「うわああああああ!!」
「きゃあああああ!!」
「……愛美さん! 美羽さん!」
「力の差のわからぬ貴様らに見せてやろう。貴様らと我の間に深く横たわる絶望的な力の差を」
突き出した両の手に、轟衝波をも上回る量の気が集束していった。
その凄まじい気迫はゴゴゴゴゴゴゴ……と大気を不穏に鳴動させるほどだった。
「塵と消えよ! 覇道拳最大奥義『百勝激烈』!!」
「あ、危ない……っ!!」
咄嗟に陽太は飛び出し、床に倒れる愛美と美羽を放り投げた。
次の瞬間、マリエルの両手から放たれた極太ビームのような気功波が陽太を飲み込んだ。
その威力は尋常ではなく、ネカフェの半分が消滅、お向かいの雑居ビルのワンフロアもすべて吹き飛んでしまった。
「ぐ……が、がはっ! げほっ! げほぅ!!」
立ち込める煙の中、陽太は嗚咽をもらした。
全力防御で耐え凌いだものの、装備のほとんどが消し飛び、衝撃で全身の骨がバキボキに砕けていた。
口からドロリと鮮血を吐き出し、気を失って崩れ落ちた。
・
・
・
あまりの衝撃に誰もが言葉を失ってしまった。
愛美も顔面蒼白で壁が吹き飛んで、丸裸になってしまった空間を呆然と見つめていた。
「戦意喪失か。無理もない。それがうぬらの限界よ」
「ま、まだだよ!」
張りつめた空気を切り裂いて、陽太の相棒、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は叫んだ。
「ワタシたちはまだ負けてないっ! 負けたって思うまで勝負は負けてないんだよ!」
「ノーンちゃん……!」
その言葉は愛美をはっとさせた。
「ではまだ戦うと言うのか、小娘?」
「今はちょっと無理だけど……そうだよ、決闘だよ! 決闘で勝負を決めるんだ!」
「ほう、決闘か……おもしろい。我はいつ何時誰の挑戦でも受ける。せいぜい腕を磨いてこい」
「マナミンが絶対にマリエルちゃんを倒すんだから!」
マリエルは踵を返した。
「逃げたら、こっちの不戦勝だよ! 負けた方が勝った方に謝るんだよ!!」
「黒楼館で待つ。口だけに終わらぬことを願うぞ」
マリエルは剥き出しの空に飛び出し、空京の雑踏の中に消えていった。
「…………」
「マナミン、勝手に勝負を申込んでゴメンナサイ……」
「ノーンちゃん……」
「でも、マリエルちゃんとは拳を付き合わせるのが一番いいと思う。マナミンもマリエルちゃんも拳士だもん」
ノーンはそう言いながら、陽太にテキパキと手当をほどこしていった。
「大丈夫、マナミンなら出来るよ。誰かを大切に想う気持ちは、どんな不可能も可能にするんだよ」
それに、と付け加える。
「『万勇拳に1度見た技は通用しない……最早これは常識』なんだよ!」
「うん……!」
再び瞳に炎を取り戻した愛美は眼下に広がる雑踏に想いを馳せた。
「……あの子、完全にワタシのこと忘れてったヨネ……」
そしてカソは青白磁とコハクに捕まったままだった。
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