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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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アトラスの傷跡

 
 
 先の戦いで傷ついたフリングホルニの艦隊他は、アトラスの傷跡にある宇宙港に集結して応急修理をしていた。
 フリングホルニは、ニルヴァーナへと逃れたソルビトール・シャンフロウを追って行くことは決定しているが、ヴィムクティ回廊を通過するために外部装甲の修理による気密化が急務であった。
 他の艦艇は、損傷の酷い物はここで修理をし、比較的軽い物や先行する物はゴアドー島の空港へとむかうこととなった。それでも、準備にかなり時間をとられる。
 ゴアドー島にむかっても、すぐにゲートが使える保証はない。敵よりも丸一日以上遅れることになるが、致し方ないといったところだ。
「なるべく早くニルヴァーナへ行って、待機しておくんだな」
「うむ、連絡は密に。頼むぞ」
 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)に送り出されて、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)へルタースケルターに乗って先行した。ほとんど戦闘を行わなかったヘルタースケルターは無傷のため、修理の必要はない。逆に、恐竜要塞グリムロックは、損傷のために恐竜騎士団で修理中だ。
「俺も先行するぜ。まずは情報がほしいからな」
 そう言うと、国頭 武尊(くにがみ・たける)もDS級空飛ぶ円盤に乗ってゴアドー島へと先行した。
 
 
    ★    ★    ★
 
フレスヴェルグの損傷はありません。出発可能です」
「よし、マイア、俺たちは先行するぞ」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)に答えると、フレスヴェルグを発進させた。
 奇妙な軌道を描いて先行する美しくも不気味なヘルタースケルターを追い越して、いかにもクルキアータベースというスマートな機体がゴアドー島目指して飛んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「補給はすんだから、一気にゴアドー島まで行けるよ」
 ブラックバードのコックピットに戻ってきた佐野 和輝(さの・かずき)に、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が告げた。
「了解だ。到着したら、スフィアにも連絡を入れる」
「わーい♪」
 スフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)に会えると、アニス・パラスが喜ぶ。
「ブラックバード、発進する」
 垂直に離陸すると、高度をとってからブラックホークが勢いよく加速する。高高度から、アトラスの傷跡近くに点在する多くの艦船やイコンをデータに収めながら、一気に南西方向へと機首を巡らせる。
「今の配置図、データとしてフリングホルニ他に転送しておいてくれ。敵は撃退はしたが、まだ気は抜けないからな」
 佐野和輝が、アニス・パラスにそう命じた。
 
    ★    ★    ★
 
「おのれ、よくも、我がオリュンポスパレスを沈めてくれたな。その罪、万死に値する!」
 先の戦いで、スキッドブラッドの艦隊に機動城塞オリュンポス・パレスを大破させられたドクター・ハデス(どくたー・はです)は、怒りに燃えていた。
 もっとも、大破の原因は、自滅に近いものであったのだが……。
「敵は、エリュシオン帝国の反逆者で、ニルヴァーナへと逃亡したということです」
 どさくさに紛れて情報を収集してきた天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が、ドクター・ハデスに報告をする。
「そうか。ならば、地の果てまで追いかけてでも、我がオリュンポスの恐ろしさ、その身に教え込んでやろうではないか。オリュンポス・パレスの修理の方はどうなっている?」
「はい、それはもちろんぬかりなくやっておりますわ。この状況ですから、防衛艦隊の一員ですと言ってちょっとお話をしましたら、皆さん喜んで修理に協力してくださいました」
 足許に、ちょっと軽くなった闇のスーツケースを置きながら、ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)が答えた。
「よし、修理は二人に任せる」
「お任せください」
 微笑みを浮かべながら、天樹十六凪が楽しそうにそれを請け負った。
「俺は……。来い、神剣エクス・カリバーンよ!」
 腕を突きあげてドクター・ハデスが叫ぶと、空の一点がキラリンと光った。次の瞬間、巨大な剣が落ちてきて大地に突き刺さる。
『俺を呼んだか、ドクター・ハデス』
 神剣勇者エクス・カリバーンの中から、システムをコントロールしている聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)が答えた。
「うむ。我らオリュンポスに敵対する者たちに、地獄を見せに行く。さあ、出発だ」
 言われて、イコン形態となった神剣勇者エクス・カリバーンがコックピットを開いてドクター・ハデスを搭乗させる。
「さあ、出発だ!」
「了解した、ドクター・ハデス!」
 再びソード形態に変形すると、神剣エクス・カリバーンがゴアドー島を目指して高速で飛行していった。
 
    ★    ★    ★
 
「やはり、わしらだけでは、まだ、ちとこの機体は扱いかねるな」
「どうするんです?」
 巨大なバロウズの広いコックピットでつぶやく夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)に、ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が訊ねた。
「もちろん改造だ。ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)阿部 勇(あべ・いさむ)に連絡して、ニルヴァーナ創世学園で準備をさせるぞ。バロウズは本隊から先行して、早急に改造を行う」
「わーい、さっそく連絡します」
 ブリジット・コイルは、コンソールに手をのばすと、さっそく通信機のスイッチを入れた。アトラスの傷跡の宇宙港にある通信設備が応答しないので、ゴアドー島のゲートと連絡を取って、メイルをニルヴァーナ創世学園まで転送してもらう。
 その間に、夜刀神甚五郎が浮遊させたバロウズを爆撃型のバロウズ・Fへと変形させていった。大きいだけに、変形も一苦労だ。
「バロウズ、発進する」
 
    ★    ★    ★
 
「航行中に、各部気密を再チェック。本格的補修はアイールのドックで行う。今は、ヴィムクティ回廊を通過できればかまわん」
 ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が、HMS・テメレーアのブリッジで言った。
「各部チェック確認。左舷13ブロック、気密作業中。上甲板第6エリア、硬化樹脂コーティング続行中」
 イコン格納庫へと移動したローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の代わりにオペレータ席に着いたグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、淡々と状況を確認した。
「手際は悪くない。普段の乗組員の練度がうかがわれるな」
「はっ、いたみいります」
 ホレーショ・ネルソンが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーに深く礼をした。
 英霊同志、現在の立場と同時に、以前の立場で自然と相対してしまう。提督としては、女王に対しては指令官と同等の礼を尽くすのが自然であった。それを分かっていてか、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーも相応の態度で応える。
「先生……いえ、提督、この艦なのですが、はたしてゲートをくぐれるのですか?」
 HMS・テメレーアの巨体を思って、見習いの常闇 夜月(とこやみ・よづき)が訊ねた。他にも、とてもゲートをくぐれそうもない巨艦が多数ある。
「心配はない。この艦は潜航しての運用も考えられているので、水中での抵抗の少ない形態も用意されているのだよ。その形態であれば、なんとかゲートをくぐれるであろう。もっとも、さすがに艦底部連絡救命艇は外すことになるだろうがな」
 心配する常闇夜月に、ホレーショ・ネルソンが説明した。
 そのころ、イコン格納庫では、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが運んできたHMS・レゾリューションの整備を、ローザマリア・クライツァールとフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が行っていた。ヴァラヌスを改良した青い恐竜型イコンだ。大型ゆえのパワーは、こういった作業では力を発揮してくれるだろう。
「グロリアーナのイコンだから、壊したら大変だからな。ちゃんと整備しておかないと」
「そ、そうよね」
 フィーグムンド・フォルネウスに言われて、ローザマリア・クライツァールがコクコクとうなずいた。
 艦船の改修はゴアドー島の空港にある設備である程度できるだろうが、急ぐとなればイコンを重機代わりに使った方が効率はいい。そのためのプログラム変更を急ピッチで行っていたのである。
 そのそばでは、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)も、HMS・テメレーアに積み込んだゲシュヴィントヒルフェの整備をしている。武者ケンタウロスをベースとしているため、HMS・レゾリューションと同様、大型のイコンである。重装甲と、有り余る出力は、戦闘以外でもかなり使えそうだ。
「それを持ってきていたのなら、早く出してくれればよかったのに」
 開け放したシュヴェルツェ・シュヴェルトのコックピットハッチに寝そべりながら、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が言った。
「キミにはもったいないでしょ。というか、キミのイコンが破壊されたら、こんなこともあろうかと、格好よく登場の予定で隠しておいたのよ」
 悪びれずに鬼龍白羽が言った。
「本当に、よく壊されなかったものだよ。無人で放っておいて、危ないとか思わなかったの?」
 ゲシュヴィントヒルフェの装甲に傷一つないことにほっとしながら、鬼龍黒羽が鬼龍白羽に言った。
「ぜんぜん」
 あっけらかんと、鬼龍白羽が答えた。