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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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 先を急いだエステル・シャンフロウたちは、ほどなく別の障壁に行く手を阻まれてしまった。どうやら、完全に遺跡の罠にはまってしまったらしい。
 だが、行き止まりの障壁のむこうには、エステル・シャンフロウたちと同様に、遺跡の罠に捕らわれている者たちがいた。
「ソルビトール!」
 そこにいた者たちの一人の顔を見て、エステル・シャンフロウが叫んだ。
「これはこれは、なんという場所で再会するものだ。よくぞ生きていたものだ。ナグルファルから出たスキッドブラッドの艦隊は、あまり役にたたなかったと見えるな」
 ソルビトール・シャンフロウが苦笑した。
「それにしても、俺と同じように、トラップに引っ掛かるとは。シャンフロウ家の者は、よくよくついていないか、肝心なところで間抜けらしい。俺を信じていたお前の父親を筆頭としてな。それにしても、さすがはブラッディ・ディヴァインを退けたという遺跡だ。一筋縄ではいかん」
 いまいましそうに自分たちの行く手とエステル・シャンフロウたちとを隔てている二つの障壁を睨んで、ソルビトール・シャンフロウが言った。この二つに挟まれているために、動くことができなくなってしまっているらしい。
「進退窮まっているなら、諦めて降参しろ」
 桐ヶ谷煉が、ソルビトール・シャンフロウに降伏を求めた。
「はあ、貴様は何を言っている。進退窮まっているのは、貴様たちの方ではないのか?」
 聞く耳持たぬと言う感じで、ソルビトール・シャンフロウが言い返した。
「あなたは、なぜ反乱など起こしたのです。この遺跡に、何があると言うのですか」
 エステル・シャンフロウが、ソルビトール・シャンフロウを問い質した。
「何も分からぬ小娘が。それだから愚かしいと言うのだ。思えば、お前の父親も、俺の言葉に耳を貸さなかった。だいたい、なぜ、あの死に体の大帝などに偽りの忠誠を誓わねばならぬ。なぜ、枯れかけた世界樹に畏敬を払わねばならぬ。国家神を僭称する者たちの数のなんと多いことよ。この世界はもともと、一つの女王、一つの世界樹によってのみ統一統治されるべきものなのだ。それこそが調和、それこそが真理」
「その思想、グランツ教か!」
 ニルス・マイトナーが、最近エリュシオン帝国内で暗躍している武装宗教集団のことを思い浮かべて言った。最初は、地球圏でテロ行為を起こしていた鏖殺寺院の一派かと思われていたが、それとは別組織であることがエリュシオン帝国でも分かりつつある。
「それで、ブラッディ・ディヴァインとは別に行動していたというわけだな」
 ソルビトール・シャンフロウのスポンサーが分かったという顔で、エヴァ・ヴォルテールが言った。
「あんな奴らと一緒にするな。無人のイコンでこの遺跡を調査しようとして失敗する者たちなどとはな。おかげで、遺跡のシステムがイコンを解析量産して、いらぬ敵を増やしてくれたではないか。はた迷惑なものだ」
 心底迷惑そうに、ソルビトール・シャンフロウが言った。
 どうやら、ブラッディ・ディヴァインが中途半端にこの遺跡を調査して復活させてしまったために、やっかいなことになっているらしい。
「それにしても、ブラッディ・ディヴァインといい、お前といい、なんでこの遺跡にこだわるのだ?」
 エヴァ・ヴォルテールが、ソルビトール・シャンフロウに訊ねた。
「一緒にするな。奴らは、遺跡という入れ物を発見しただけだ。何があるのかも分かってはいなかった。まあ、宇宙港の場所を特定する手間が省けたので、役にはたったとしてやるべきか」
 苦笑しつつ、ソルビトール・シャンフロウが答えた。
「宇宙港?」
 秋月葵が聞き返す。
「そう、こここそは、ニルヴァーナの民がこの地を脱出するために建造した最大の宇宙港。ヴィマーナの大艦隊が眠る地なのだ。不幸にも、脱出計画の中途でイレイザー・スポーンに襲われて使用不可能になってしまったが、おかげで高性能のニルヴァーナ製大型飛空艇ヴィマーナが、ほぼ無傷の形で残っている。その数は約200隻。これだけの大艦隊を、お前たちはどうやって防ぐつもりだ?」
「防ぐも何も、まだ絵に描いた餅じゃないか。だいたい、イレイザー・スポーンに寄生されているのなら、使えないだろう」
 コハク・ソーロッドがちょっと呆れた。そんな間の抜けた計画のために、これだけのことをしでかしたのだろうか。
「逆だな。このイレイザー・スポーンは、マザーに一括管理されるタイプの物だ。それを利用すれば、コントロールなど簡単なこと」
「簡単じゃないだろうが。そんなことができれば、苦労はしないさ。イレイザー・スポーンをコントロールするなんてことは不可能だ」
 桐ヶ谷煉が言い返した。正確には不可能ではないのだろうが、その方法はまだ知られてはいない。
「マザーに、コントロール用のウイルスを感染させればいいだけのことだ。単純に、パラミタの世界樹への憎悪を植えつければいい。後は、勝手にヴィマーナがイルミンスールを、ユグドラシルを、すべてのパラミタの世界樹を滅ぼしてくれる。パラミタはいったん滅び、新たな世界樹によって再生されるのだ」
「そんなことはさせません。それ以前にできません。諦めなさい」
 エステル・シャンフロウが言った。それにしても、これだけの情報を、ソルビトール・シャンフロウはどこから手に入れたのだろう。
 その言葉を無視して、ソルビトール・シャンフロウがそっぽをむく。いずれにしろ、今のままでは双方共に手詰まりだ。
 だが、次の瞬間、思いもかけないことが起こった。突然、ソルビトール・シャンフロウの行く手をさえぎっていた障壁が消えたのだ。まるで、誰かがコントロールルームでスイッチを切ったかのように、あっけなく解除されてしまったのである。
「世界の天秤は、俺の方に傾いたようだな。お前たちはそこで見ているがいい!」
 勝ち誇ったソルビトール・シャンフロウが、高笑いをあげながら奥へと姿を消した。
「くそ!」
 桐ヶ谷煉が、機神剣『ヴァナルガンド』で障壁を斬りつけたが、効果がない。
「一斉攻撃を」
 ニルス・マイトナーが言った。
 桐ヶ谷煉がヴァナルガンドで、エヴァ・ヴォルテールがサイコブレード零式による疾風突きで、エリス・クロフォードが薔薇の細剣によるソードプレイで、コハク・ソーロッドがバードマン・アヴァターラ・ランスによるシーリングランスで、秋月葵が魔砲ステッキで一斉に障壁を攻撃した。
 さすがに、バリアがゆらいだかのように思えたが、破るまでには至らない。
「どうすれば……」
 さすがにエステル・シャンフロウが動揺を隠しきれなかったとき、忽然と目の前の障壁が消えてしまった。まるで先ほどのように、誰かがスイッチを切ったかのようだ。
「今頃攻撃が効いたの?」
 ちょっと、秋月葵がきょとんとする。
「すぐに、追いかけましょう。ヴィマーナを敵の手に渡してはいけません!」
 エステル・シャンフロウが叫んだ。
 桐ヶ谷煉が、テレパシーで今の情報を他の者たちに伝えてからその後を追いかける。
 通路を抜けると、エステル・シャンフロウたちは、宇宙港の格納庫に出た。一気に広がる視界の中に、巨大なヴィマーナの艦艇が視界を覆い尽くすように居ならぶ。見あげるエステル・シャンフロウたちからは、その全容が見渡せないくらいだ。さすがに、ソルビトール・シャンフロウの言葉が現実味を帯びてくる。
 さらに、その空間では激しいイコン戦が繰り広げられていた。
「デュラン、エステルよ、そこから叔父は確認できる?」
 空中にヤクート・ヴァラヌス・ストライカーの姿を認めたエステル・シャンフロウが、通信を入れる。
「確認しろ、フレロビー!」
 ショルダーキャノンでタンガロアを吹き飛ばしながらデュランドール・ロンバスが言った。
「見つけたわ。あの円盤型にむかっています。エステル様、左45度方向、壁にリフトが見える方の大型円盤型ヴィマーナです!」
 フレロビー・マイスナーが、エステル・シャンフロウに情報を返す。
「あちらです!」
 エステル・シャンフロウが、ソルビトール・シャンフロウのいる方向を指し示した。だが、その行く手に、イレイザー・スポーンに寄生された機晶姫たちが立ちはだかる。
「ここなら、遠慮しなくていいよね」
 秋月葵が、ここぞとばかりにシューティングスター☆彡で敵を薙ぎ払う。
 撃ちもらした敵をエヴァ・ヴォルテールがパイロキネシスの炎を展開して牽制した。そこへ、エリス・クロフォードがランバレストで突っ込んでいく。
 反対側の敵は、桐ヶ谷煉がアブソリュート・ゼロで牽制した。
「道を!」
 コハク・ソーロッドが、セラフィックフォースを発動させ、光の六翼を背に広げながらバードマン・アヴァターラ・ランスで道を切り開いていった。
 その道を、エステル・シャンフロウを追い越すようにして三船敬一たちのパワードスーツ隊が追った。どうやら、障壁が消えて、みんな追いついたようである。
「ソルビトール!!」
 エステル・シャンフロウたちが、一気にソルビトール・シャンフロウを追い詰める。
 一緒にいた黒衣の男たちが敵機晶姫たちを排除する間に、ソルビトール・シャンフロウがイレイザー・スポーンのマザーが寄生しているヴィマーナの母艦に迫る。
 機晶姫の攻撃で、黒衣の男たちが次々に倒れ爆発を起こした。どうやら、ギフトの一種だったようだ。
 コハク・ソーロッドが、バードマン・アヴァターラ・ランスを投げた。それが、ソルビトール・シャンフロウをかすめる。思わず、ソルビトール・シャンフロウが持っていたカプセルのような物を落とした。それが床に落ちて砕け散る。
「しまった、データが……」
 焦りつつも、ソルビトール・シャンフロウがヴィマーナの船体に触れた。何かのスイッチがあったらしく、ヴィマーナのハッチが開く。
 その瞬間、中から勢いよく結晶体が飛び出してソルビトール・シャンフロウを貫いた。
「なんだ……と……」
 信じられない物を見るように、ソルビトール・シャンフロウが吐血しながらつぶやいた。それを最後まで言い切ることもできずに、ハッチの中に引っ込む結晶体に引き込まれて、イレイザー・スポーンに取り込まれていった。
「これは……」
 なんとも言えない結末に、やっと追いついたエステル・シャンフロウたちが、しばし呆然とヴィマーナのハッチがあった場所を見つめた。
「あまり近寄ると危険だ」
 ハワードスーツの三船敬一たちが、エステル・シャンフロウとヴィマーナの間に立った。
『……は……なの……か』
 そのとき、どこからか、ソルビトール・シャンフロウの声が聞こえた。あわててエステル・シャンフロウを守る者たちが身構える。
『まだ……消えてはいない……。そうか、これがヴィマーナか。そのすべてを感じる……』
 声は、ヴィマーナから発せられているようであった。取り込まれたソルビトール・シャンフロウの意識が、イレイザー・スポーンのマザーの中でまだ生きているのだ。
『奴らめ、俺自身の中に、マザーを支配する因子を仕込んでおいたのか……。いいように利用された……。いや、こちらが利用させてもらおう!』
 ソルビトール・シャンフロウのつぶやきが、雄叫びに変わった。それに呼応するようにして、この場にあったすべてのヴィマーナが鳴動した。結晶体が光を発して明滅し、地の底で眠っていた艦隊が目を覚ます。
『目覚めよ、我が子たち、ヴィマーナよ! 開け、ヴィモークシャ回廊よ!!』
「何が起こったの?」
 エステル・シャンフロウが、護衛の者たちに安全な所まで後退させられながら叫んだ。