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リアクション
出撃前、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)はダイオーティやケレヌス、ヴァランティに対し、以下の様な考えを語っていた。
「今の私の為すべき事……それは友として契りを結んだ友のために新たな道を指し示す事だ。
新たな道……それは龍族、鉄族共に生き残り、共に天秤世界から出る事だ。龍族と鉄族がいがみ合う事を止め、手を取り合えば共に生き残れるはずだ」
涼介の言葉に、ダイオーティとケレヌス、ヴァランティはともかく、他の龍族は「何を言っているんだ」と言いたげな顔をする。それでも涼介は言葉を紡ぐのを止めなかった。
「この世界の理が『争い』。相争う2つの勢力のうち勝ったほうが元の世界に戻り、負けたほうはこの世界に閉じ込められる……ならば、4つの勢力がいる現状は3つの勢力が手を取り合い、共通の敵である勢力を打ち破ればその3勢力がこの世界から出ることが可能ではないだろうか」
「…………、それは、信ずるに値するのか?」
ケレヌスの問いに、涼介は確証こそ無かったものの、頷く。……たとえ理が龍族と鉄族を戦わせようとするなら、理を覆すまで。
「……分かった」
それだけを口にして、ケレヌスとヴァランティは『龍の眼』からやって来る『疾風族』への対処のため、出撃する。涼介はクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)と、ダイオーティの直衛として『ソーサルナイト2』で出撃する旨を伝えた――。
そして出撃した涼介は、戦闘をするためではなく戦いの矛を収めさせるべく行動を開始する。
『我々は今こそ手を取り合い、この争いが理の世界から抜け出る事を考えるべきではないのか。
今こそ、手を取り合い共通の敵を打ち破る時ではないのか。双方今は矛を収め、話し合う時だ』
そう、周囲で戦闘を続ける龍族と鉄族に呼びかける。時に誤射を喰らい、標的にされることもあったが、涼介は決して撃墜しようとしたりはせず、戦闘を回避しながら訴え続けた。
(……確かに、今まで長年争ってきた者同士が急に手を組む事が難しいのは分かる。
しかし何のためにケレヌスや紫電が契約者と言葉と矛を交えたのか。彼らの想いや明日への道を途絶えさせないために、私は周囲から裏切り者と罵りを受けようともこの戦いを止めよう)
涼介の脳裏に、出撃するケレヌスの姿が映る。
(ケレヌスよ、君の悩みや想いは確かに受け取った。ダイオーティ様の護衛は任せてくれ。必ず、無事に連れ帰る。
そう、例え私の半身であるソーサルナイトが砕けようとも友よ、この誓いは必ず守る。だから、君は彼女の帰るべき場所である昇龍の頂を護ってくれ)
身を犠牲にしてでもダイオーティを護ると誓った涼介、同じくクレアも出撃するヴァランティを頭に思い描き、誓いの言葉を並べる。
(私だって、ヴァランティさんと約束したんだ。ダイオーティ様を護るって。
彼女と話をしてよくわかったんだ、ダイオーティ様が龍族にとってどんなに大切な人なのか。それは王というよりも母親……そこまで大切な人なんだから何かあったら嫌だし、悲しいよね。
だから私もヴァランティさんとの約束……いいえ、誓いを守るためにダイオーティ様を無事につれて帰るよ)
そして、大切なもう一人のパートナー、『ソーサルナイト2』に呼びかける。
「いくよ、ソーサルナイト。今回も厳しい戦いになるけど、よろしくね」
クレアの呼びかけに、『ソーサルナイト2』はレーダーを明滅させて答えた、気がした。
『家族が、自分たちの一族が大切だと思うのなら、もう一度考え直してみてほしい。
お互いがお互いを根絶やしにするまで戦うというのは、本当に大変なことだから。そうして残った方が復讐を繰り返し、結局ずるずると血みどろの戦いは続いてしまう。
そんな未来は誰だって、嫌なはずなんだ』
涼介が双方に訴えかけているのと同じくして、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)とリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)は『エールライン・ルミエール』に搭乗し、両方の種族に訴えかけていた。
『きちんと話をして、お互いに譲渡できる部分は譲渡して……。
水に流せない部分もあったって仕方がない。それでも話し合いをして、お互いの言い分を聞くところからはじめるのが、今すべきことだと、僕は思う。
とりあえず振り上げた手を下ろさないと、何も解決しないから』
そう、博季が呼びかければ、激昂した様子で双方の陣営から声が飛ぶ。その中でも特に響いたのは――。
『戦い続ける事が全てじゃないってのは理解してる!
けど、敵が目の前まで来て拳を振りかぶってる時に、戦いの手を止めることは出来ないんだよ!』
『そうだそうだ! 何もせず殴られろというのか!? そうして俺たちは虐げられてきた!
自分も、自分の後の世代も殴られ続ける未来しか無いのなら、立ち上がるしか無いんじゃないのか!?』
というものだった。それに対し博季は毅然として、こう返答する。
『だとしても、そうして得た未来が血に塗れたもので、子供たちは喜ぶんですか?』
その言葉には、反論はなかった。
『僕は、愛する妻との未来が、血に塗れた世界だなんて嫌です。
これは決して、他人事で言っているんじゃない。……僕だって次の世代に、僕の子や、その子供たちにそういう未来を見せたくないし、禍根や責任を押し付けたくない。
子供たちには、平和な未来を、作ってあげたい。それが『今』を生きる僕たちの責任であり、義務ではありませんか?
子を成し、次の世代を育て、未来を託す……その託すべき未来は、もっと綺麗で、穏やかな未来がいいと思いませんか?』
言い切り、呼吸を整える間、博季はリンネへ振り返る。博季から操縦を託されていたリンネは、笑みを浮かべて博季を見る。
『簡単なことじゃないってわかってる。……でも、いつか誰かがやらなきゃいけないから。
その『誰か』に決断を押し付けて争い続けていたら、未来永劫戦いは終わらない。だから、『今』こそ戦いをやめるべきなんです。こうやって第三者が介入出来る『今』こそ』
そして最後に博季は、一際大きな声で、思いを込めて、両陣営に呼びかける。
『お願いです。今からでいい。
歩み出してみようと思う方は、戦いをやめて』
「ねーダイオーティ様。もしの話だけれど、今の劣勢を凌ぎきった結果、今度は鉄族が劣勢、龍族が鉄族を滅ぼすまたとないチャンスとかになったら、どうする? 鉄族を滅ぼしに出かけたりする?」
出撃前、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)がダイオーティに話を振る。パートナーのルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)とヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)は、とある作戦のため絶対無敵要塞『かぐや』に向かっていた。
「…………。
ダイオーティガが存命であったなら、おそらくはそのようにしたでしょう。ですが私ではその選択を選び切れないでしょうね。
あちらが攻めてこないのであれば、こちらとしては攻め込むつもりはありません。戦う必要がなければ戦いを止める方向に進むでしょう」
ダイオーティの言葉は、いかにも本人らしい言葉に思えた。
「ふーん。ま、今をどうにかしないと『もし』なんてものは存在しないかんな。
答えてくれてありがとなー。ま、やるだけやってみるわー」
軽く手を振って、アキラもルシェイメアとヨンの所へ向かう。
「あーくっそ、予想が外れた。“灼陽”め、なんで進路外れてんのさ」
『絶対無敵要塞『かぐや』』の司令官室で、アキラが“灼陽”に文句を垂れる。彼は“灼陽”が『龍の耳』へ来ると予想し、『絶対無敵要塞『かぐや』』を付近の地中に隠しておいたのだが、その後の情報で“灼陽”が進路を外れ、『昇龍の頂』方面へ向かったと知って、当てが外れた格好になった。
「こちらにはオリュンポスパレスが来ておるな。奴は“灼陽”の強化を手伝った相手じゃ。
もしここで鹵獲することが出来れば、“灼陽”の弱点を知ることが出来るやもしれぬぞ?」
「現在、オリュンポスパレスはこちらの前方に待機しています。……! 前方のオリュンポスパレスより高エネルギー反応を確認!
これは……『ビッグバンブラスト』です!」
レーダーが捉えた情報をヨンから受けたアキラが、げっ、と言うような顔をする。これがもし『龍の耳』を直撃すれば、あの程度の建物では瓦礫の山と化してしまう。
「あぁもう、ここに設置したのがある意味運のツキかな。ルシェイメア、浮上してビッグバンブラストを受け止める!」
「仕方あるまいな。折角修理したのにまた壊れるのは口惜しいが……ま、修理費は大ババ様に計上することにしよう。
ヨン、バリアーを最大出力で展開出来るように準備せよ。急速浮上したのちバリアーを展開、ビッグバンブラストを受け止めるぞ」
「はい! バリアー展開準備、同時に急速浮上準備!」
アキラからルシェイメア、ヨンへと指示が渡り、『絶対無敵要塞『かぐや』』はバリアー展開準備と浮上準備を急ぐ。
「ビッグバンブラスト、発射されました!」
「急速浮上準備、完了じゃ!」
「よーし、『にょっきり』だー!!」
アキラがぽちっとな、とスイッチを押すと、物凄い浮上Gがかかり、『絶対無敵要塞『かぐや』』はその巨体からすれば瞬時、という速度で地上に姿を現す。
「弾幕を張る!」
砲撃を管制するルシェイメアの下、『絶対無敵要塞『かぐや』』から無数の砲弾が発射される。その大半は当たらず通り過ぎるが、一発の砲弾がビッグバンブラストの上方を掠め、それによりビッグバンブラストは軌道を変えて『絶対無敵要塞『かぐや』』に落ちる形で迫る。
「衝撃に備えよ!」
ルシェイメアが叫んだ直後、『絶対無敵要塞『かぐや』』を激しい衝撃が襲う。ビッグバンブラストは『絶対無敵要塞『かぐや』』を直撃する形で爆発し、辺りに爆風を撒き散らす。その影響は『龍の耳』の建物を半壊させるほどだったが、全壊までには至らず、また『絶対無敵要塞『かぐや』』も大きく抉れているものの、全損には至らなかった。
「……皆、無事か?」
「は、はい、なんとか……。
アキラさん、大丈夫ですか? ……アキラさん?」
ルシェイメアの問いにヨンが答え、アキラに問いかけるがそのアキラからは返事がない。慌ててアキラの下に駆け寄れば、
「うーん……」
アキラが目を回してのびていた。『にょっきり』の際に浮上Gがかかることをつい忘れ、立ったままスイッチを押してしまったことで天井にしこたま頭をぶつけ、その後激しい横揺れを受けたアキラはある意味戦闘不能状態に陥っていた。
「……き……きのこだったら危なかった……」
「お前……それをきのこ派に聞かれようものなら戦争になるぞ……」
この状態でなお冗談を口に出来るアキラに、呆れつつホッとした表情を見せるルシェイメアとヨンであった。
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