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【アナザー北米戦役最終回】 決戦! 黒い大樹!!

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【アナザー北米戦役最終回】 決戦! 黒い大樹!!

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03 第一次防衛機構

 
 
 
 現実世界における戦いも既存兵器による防衛網を突破し、第一次防衛機構都の戦いが始まっていた。
 キャロリーヌからのビームアイが、歩兵球に飛ぶ。
 キャロリーヌの好みからは遠く外れた現代兵器ゾンビや巨人の相手で食傷気味だったキャロリーヌは、この防衛機構たちも好みの範疇外だったらしく、お呼びじゃないんだよ! とばかりに激しいビームアイで防衛機構の球体たちを撃ち落としていた。
「ほら、キャロリーヌ! 行くよ!」
 リカインの声を受け、キャロリーヌは咆哮を上げる。
 歩兵球に近づくとワイアクローで攻撃して歩兵球を切り裂き、理解ンとフィスのために道を切り開く。
「よし、補給に戻っていいよ!」
 そんなフィスの言葉を受けて、キャロリーヌは補給のために一旦後方に戻る。
 だが、イコンが補給に並んでいたため、キャロリーヌはイコンに先を譲りしばらくその場で待機をする。キャロリーヌにとて、それくらいを考える脳みそはあるのだ。

「さすがに敵も後がないと見えて、すんなりとは通してくれなさそうだな」
 そんな風につぶやくのはシャンバラ教導団准尉のジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)だった。
「そうですわね。でも、だからこそ付け入る隙がああるはずですわ」
 そんなジェイコブに、妻であるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)が同意の言葉を告げる。
 ジェイコブは自分が防御側の立場として、どの様に防衛線を構築し、どの様にして守りを固めるかを考えた。
 具体的には、敵は「守るに易く、攻めるに難い場所」や「敵(自分たち)が最終目標に到達するのに絶対に通らねばならない場所」、具体的には「ここを必ず通らなければそのポイントへは絶対に辿り付けない、もしくは、到達できなくはないが非常に時間がかかり、かつ多大な犠牲を強いられるので、最も効率よくショートカットできるポイント」を中心に守りを固めているのではないか?
  逆を言えば、これらの条件に当てはまらないポイントについては、全く守りを固めていないわけではないが、どうしても兵力配置の関係上、薄くなりがちなポイントもある。
 そんなふうに推測した。
 その推測は間違っていない。
 地形的に必ず通らなければ到達できない場所というのは発生するし、逆に地形的に通りにくいから敵がこのルートを使用することはほとんどありえないというポイントも存在する。
 例えるなら義経の戦った一の谷の戦いのように、馬は超えることは難しい難路ではあるが鹿はここを通る。義経は、「ならば馬でも越えることはできるだろう」そう言って馬を進めることによって奇襲を成立させた。
 そして、ジェイコブはこの一の谷のように敵の防御が薄くなるポイントを見極めると、そこからの侵入を開始した。
 まずジェイコブは【隠れ身】を用いて姿を隠す。
 【神速】と【軽身功】併用して突入すると、敵がいないことを確認してからフィリシアにハンドサインを送る。
「………」
 フィリシアは無言で頷くとジェイコブに続いて侵入する。
「トラップは……無いようですわ」
 フィリシアはトラップの有無を確認すると、ジェイコブに報告する。
「では、先に進むか」
 そうしてしばらく進み、安全を確認したらフィリシアを招く。それを繰り返していくうちに、どうやら二人は防衛網の側面に出たようだった。
 二人は無言で頷きあうと、防衛網に対する攻撃を開始した。
 そして、二人のことを防衛網が認識したと悟ると、少しでも多くそれらを引きつけようと動き始める。
 ジェイコブはフィリシアの側面支援を受けつつ防衛機構に対する陽動を繰り返し続けた。その結果、防衛網突破部隊の被害が比較的軽微となったのであった。

 時刻はそろそろ20時を回ろうかという頃。本来ならば夜明けに作戦を遂行したかったところであるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達【Night‐9】だが、すでに戦端が開かれてしまった以上、時間を選んでもいられなかった。
 夜陰に紛れて高高度から空挺降下を行う【Night‐9】。
 いつものように靴や音のする物には布を挟ませる等して消音措置を取り、銃にはサプレッサー(消音筒)を取り付けると、地上に降り立ったローザマリアたちは行動を開始する。
「グルーム・リーダーより各員……【Night‐9】出撃。分断し各個に無力化――戦闘開始」
 ローザマリアは偵察として先行する上杉 菊(うえすぎ・きく)を支援するように防衛機構に対して狙撃を繰り返す。
 【光学迷彩】と【ベルフラマント】で姿と気配を消し去りつつ、湿度と風向きを測りながら【ホークアイ】で敵の動きを追いかける。
「……よし、見える!」
 そして、敵の動きを【行動予測】で予測する。
「照準……よし!」
 【スナイプ】及び【シャープシューター】で正確な狙いを定める。
「ファイア!」
 そしてローザマリアは【連射体勢】からの【五月雨撃ち】で圧倒的な弾幕を防衛機構に対して放つ。
 その攻撃に防衛機構が対応している隙に菊とエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)。そしてフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)の三人は内部へと浸透していく。
「よし、これでOKね」
 手応えを確認すると、ローザマリアはすぐに姿勢を戻してその場所を移動する。
 およそ援護射撃や狙撃のたぐいにおいて一箇所にとどまり続けるのは自分の位置を敵に明らかにすることであり、一度攻撃をしたならばすぐにその場所を移動するというセオリーに忠実に、ローザマリアは行動していた。
 そしてその支援を受けた菊は敵の内部に浸透すると配置を始めとした各種情報をイコンを経由して米軍の戦術リンクシステムにアップロードする。
 そんな中エシクは【ホエールアヴァターラ・バズーカ】で戦車の履帯を破壊。動きを止めた後にハッチをこじ開けようとする。だが、コープスはハッチ内に頭脳がある、というわけではないらしくハッチの内部に爆弾を落としてもしつこく稼働し続けるため、とりあえずは履帯と武装を全て破壊して無力化することを再優先に動くのだった。それでも、特殊舟艇作戦群【Seal’s】の支援を受けながら作戦は順調に進行していった。

「……大統領。こちらの部隊が孤立しかけていますが、このまま囮にすることでより多くの敵を殲滅できる見込みです」
 そんな風に本部で大統領に話しかけるのはミカエラだった。
「……しかし。ハイナ、余剰部隊はないか?」
「待ってくんなまし。……行けんす!!」
 大統領はハイナに指示を飛ばして余剰戦力を動かし孤立しかけている部隊を救うようにしつつも、その部隊が敵の注目を集めていることを利用して戦果をあげようとしていた。
「なるべくならば、捨て石にはしたくないな」
「お優しいことです。ですが、まだ戦力配置に無駄が見られますよ。今、再計算した結果を送信します……」
 ミカエラは銃型HCを経由して米軍の戦術リンクシステムに情報をアップロードする。
「……確かに、この方が効率的ですね。大統領、部隊の再編を指示してもよろしいでしょうか?」
 作戦参謀の一人が、送られたデータを見ながら大統領に尋ねる。
「最善を尽くし給え!」
 そして、現地における部隊の再編が始まった。
「今回は偵察に動いている契約者がそれなりに居るから、情報が集まりやすいようだな」
 そんなふうに言うのはパワードスーツを装備して大統領の警護に立っているテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)だ。
 実際、偵察を行っている契約者の数が多い事と、大統領という最高責任者がいて、その責任者が任命した情報を統括する責任者がいることは、彼らにとって有利に働いていた。
 集まった情報が全て一度一箇所に集められ、そこから具体的な指示となってのレスポンスが全部隊に一斉に行き渡る。戦術リンクシステムによって兵士の視線、兵士のいる位置、兵士が装備する各種センサーから収集された様々なデータが本部には逐次登ってくる。
 人間はそれらの情報をコンピューターの力を借りて整理・分類し作戦を次々と柔軟に変更していく。
 このような状況では当初建てた目標に拘泥して機会を失するということが起きにくく、最初の防衛網は次第に破られようとしていた。
「対空陣地はあらかた破壊しました。航空爆撃支援を要請する」
 それは、フィーグムンドから発せられた支援要請だった。
『イーグルよりホークへ。爆撃支援要請に従い爆撃を開始せよ!』
『こちらホーク。了解!』
 無線を通じてかわされたやりとりとともに、待機していた航空機を示す光点が急速に動き出す。
『イコン活機へ要請。制空権をこのまま確保するとともにホークに対する攻撃を防いでください!』
 本部からイコンへ、支援要請が行われるのだった。

『こちらスター1。了解。【星小隊】航空爆撃の護衛をするぞ!』
 要請を受諾したのは【星小隊】の隊長、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)だ。
 そして、シリウスの決断を受けてメインパイロットのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は機体を操作する。
 そしてそれに【星小隊】のイコンが続くのであった。