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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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血闘! 瞑須暴瑠!(べいすぼうる)

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第5章 燃えろドラゴンアーツ
 試合に戻ろう。この段階で野球軍の残りは62人。
 タイタンズ4番、ラルク・クローディスが打席に入る。手にしているのは普通の木製バット。
「せっかくの4番なのに誰も塁にいないじゃねーか! まあいい、ホームラン出す勢いでかっとばすぜ!」
 野球軍ピッチャーはストレート番長に代わって火の玉番長。パラ実生にしては若干優男だ。
「フヒヒ、あっしの魔球の出番ですな! 新監督もよくわかっておいでだ。
 燃え尽きなせえ、魔球『ファイアボール』!」
 火の玉番長の投げたボールが炎に包まれる。乾いた荒野の空気を焦がし、火の粉を散らして球が迫る! すんでのところで身をかわすラルク。キャッチャーのミットには真っ黒になったボールが収まっている。火の玉番長に返球。
「これは『火術』ですねぇ。初歩的な魔術ですよ」
 ウィザードである助監督ルーシーがカラクリを見抜いた。初歩的といえども見た目の迫力は光条兵器に勝るとも劣らない。投球とともに吹き抜ける熱風ゆえ、並の神経ではバッターボックスに留まるのも難しい。
 だが『瞑須暴瑠』に志願するパラ実生が並の神経であろうはずがない。彼らの普段の根性試しに比べれば……たとえば落ちたら太平洋に激突するスパイクバイクでのチキンレースだとか……火達磨になる程度のことはさしたる恐怖ではないのだ。監督から指示が飛ぶ。
「構わん、そのまま打て。体格からして球威そのものはたいしたことないはずだ」
 二投目、ふたたび火の玉が放たれる。ラルクは両足に力を込めて踏ん張り、パートナーのことを思い出す。バットを振る両腕には尋常ならざるドラゴンの怪力が宿っていた。
 思ったほど打球は飛ばなかった。高熱によりボールの重さや堅さに影響が出ていたのだろう。不自然な弧を描きつつ打球はセンター付近に落ちていく。近くにいた野球軍選手が走り寄り、落ちてくる打球をつかんだものの、すさまじい熱さに耐えかねて取り落としてしまう。別の選手が必死の思いで拾い上げ送球するが、ラルクは一塁に立っていた。
 5番打者、ガイツ・レダスタ。ここまで彼はベンチで何か本を読んでおり、試合はろくに見ていなかった。周りから行ってこいと言われて、何を思ったかアサルトカービン片手にバイクに乗ったままバッターボックス入り。
「撃つには銃が、走るにはバイクが向いているのだよ」
 さすがの火の玉番長もこれには驚愕するが、冷静さを取り戻して投球。ガイツはラルクに倣ってドラゴンアーツ打法を試みる。
 そのとき事故が起こった。魔球によってバイクのガソリンに引火したのだ。黒こげになって倒れるガイツ。審判は相談の結果『デッドボールではない』と裁定。コーチによるとパラ実ではこのような場合次のように処理されるらしい。
「気絶者はそのままにして試合を続けるらしいです。途中で起き上がれれば問題ないです」
 そういうわけで試合続行となった。ピッチャーは適当に投球を繰り返し、ガイツは倒れたまま三振となった。1アウト1塁。
 6番、鎌田 浩文。名前と裏腹にどうみても女性だ。普通にバッターボックスに入ると、バットを掲げてホームラン予告。火の玉番長取り合わずに投球。鎌田もラルクと同じくドラゴンアーツを用いての怪力打法。高熱にさらされたボールに強烈な打撃が加えられ、粉砕されて飛び散る。主審は裁定を下せずにいる。こうした事態はルールにないからだ。火の玉番長は必死で破片をかき集めようとする。それをみて鎌田は猛然と走り出す。ラルクはとっくに走り出している。結局のところ、ラルク三塁、鎌田一塁という形で落ち着いた。ボールは新品と交換される。
 様子を見ていた助監督は不審な点に気づいた。火の玉番長の魔球がこれだけの被害を起こしているのに、キャッチャーは何事もなくボールを受けているのだ。
 7番、山田 悪義。パラ実においてドラゴニュートは人気のあるパートナーだが、悪義もまたドラゴニュートをパートナーに選んでいた。すなわち、ドラゴンアーツ打線がさらに続くということである。ここで火の玉番長はタイムを申し出た。ベンチに戻ると怪しげな栄養ドリンクを飲み干す。とたんに顔つきが変わり、何者かに取り憑かれたかのような物々しい雰囲気となった。彼の飲んだドリンクの正体は、ギャザリング・ヘクスで作り出された魔女の秘薬だったのである。
 それまでとは比べものにならない魔力を帯びて、火の玉番長がマウンドに立った。数倍の熱とサイズを持つ圧倒的なファイアボールが悪義に襲いかかる! だが悪義は一歩も退かず、むしろ踏み出してのバッティング。全身を焼かれながらも打撃は命中した。炭化したボールはわずかに飛ぶと、地面に落ちて砕け散った。あとには黒い粉しか残らず、それも荒野の風に吹かれて消えた。しかし奮闘むなしく悪義も燃え尽きて気絶。今回も王選手と同じように扱われ、悪義は気絶したまま一塁に置かれた。これによって満塁。
 悪義の壮絶な姿に怒りを隠せないのか、8番アシュレイ・ビジョルドはバットを激しく地面にたたきつけている。興奮が収まってから打席に着くまで、結構な時間がかかった。火の玉番長は容赦なく巨大ファイアボールを投げつける。一投一殺の構えだ。
 魔球が放たれるやいなや、観客席からアシュレイのパートナー、妻崎 潤也(つまざき・じゅんや)がフィールドに飛び込んで、火の玉番長を羽交い締めにした。直後にアシュレイのバットが魔球を捕らえる。女王の加護か、魔球の炎はアシュレイを焼くも軽傷である。バットは何度となく地面にたたきつけられていたため脆くなっており、ボールとの激突によってばらばらになった。その鋭い破片が雹のように降り注ぎ、身動きとれない火の玉番長に突き刺さった。
「これがわての必殺、『6月のうしかい座流星打法』じゃ」
 想像だにしなかった恐るべき必殺打法によって火の玉番長は倒されたのだった。