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霊気漂う深夜の肝試し

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霊気漂う深夜の肝試し

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第1章 森に潜む黄泉の手

お化けが徘徊する時刻といわれる丑三つ時の深夜2時。
イルミンスール魔法学校の正面玄関の辺りに、生徒が数名集まっていた。
その集団の中には、本校以外の生徒たちも混ざっている。
彼らはエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が企画した肝試しの参加者たちだ。
封筒の形に折りたたまれた便箋が、学校の正面玄関の扉にセロテープで貼りつけられている。
イルミン学生よりも先に、シャンバラ教導団の学生である水渡 雫(みなと・しずく)が中を開けて便箋を読む。
「特別なアイテムじゃないようですけど、何かプレゼントがあるようですね」
「うーむ、ゴールまでの地図も人数分あるようだねぇ」
雫のパートナーのローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)が隣から文章を覗き込む。
我先にと他の参加者たちが、水渡の手にしている地図を奪い取るように持ち去っていく。



エリザベート・ワルプルギス校長の生霊バージョンに変装した黒水 一晶(くろみ・かずあき)が、ゴールに向かう生徒を驚かそうと草影の中で待ち構えていた。
顔に化け狐のメイクがされていて、オシャレのつもりで頭には丑の刻参りのように白い鉢巻をし、そこに蝋燭を立てている。
「どうやら誰か来たようですね」
緑色の双眸で見つめる視線の先には、ターゲットにされたどこかの学園の生徒がいた。
生徒は闇に紛れたら見つけづらい色をしたフードつきの服を着用し、手にしている魔剣カルスノウトの切っ先が燃えている。
対象と距離を見計らい、今だと言わんばかりに奇声を上げて草影から飛び出る。
しかし相手の姿はすでにそこなく、どこからか低く呻くような声が聞こえてきた。
「この森の静寂を乱す不届き者は誰だ…」
呟き声が聞こえるのと同時に、木々の間から炎が天に向かって噴出す。
レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が驚かそうとしてきた一晶に対して逆に仕掛けたようだ。
突然の出来事に一晶はビクッと身を震わせた。
「チッ…、仕掛けてきた奴どこに隠れやがった」
周囲を見渡してレイディスは仕掛けてこようとした相手を探す。
「木が邪魔でまったく分からねぇな…。どのみちこう暗くっちゃ探しようがないしな」
暗闇で一晶の姿を見つけられなかったレイディスは、仕方なくゴールを目指して歩き出した。
「しかしまぁアレだ。この俺を驚かせようなんて1億年早いぜ。はーっははは」
高笑いしながら剣を片手に、レイディスはイルミンスールの校舎へ向かっていく。
森の中で彷徨いそうになった途中でゴールに向かう生徒たちと出会い、行動を共にすることにした。
「今度はもっと大人しそうな奴を選んだ方がよさそうですな」
一晶の背後から初老の容貌の男、パートナーのディヌ・フィリモン(でぃぬ・ふぃりもん)が声をかけてきた。
ディヌも一晶と同じような変装をしている。
無言でコクコクと一晶が頷く。
「むっ、また誰か来たようですな」
次なるターゲットにされたのは、イルミンスールの生徒だった。
リーゼロッテ・ファルク(りーぜろって・ふぁるく)が、パートナーのダリス・アーシェス(だりす・あーしぇす)の腕にしがみついてトラップにかからないよう慎重に道を進んでいる。
「私から離れないでくださいよ……。絶対…絶対に離れないでください」
「―…あぁ、分かった」
怯えながら歩くリーゼロッテに視線を当てながら、ダリスが冷静な口調で言う。
「イルミンスールの校長からのご褒美はほしいですけど…。やっぱり怖いですよー…今にも何か出そうな雰囲気ですし」
リーゼロッテが抱くその恐怖感を、現実と化す出来事に遭遇してしまう。
樹木の背後に隠れて待ち構えていた一晶が、再び奇声を上げて現れた。
「みかぐら?みかぐらですぅー?!ハッピーハッピー、クエェエエーッ!!」
「きゃあぁあぁぁああー!!お化け、お化けぇえ!」
「リゼット落ち着け!ほらよく見ろ、あれは人間だぜ」
ダリスは慌てふためくリーゼロッテを落ち着かせようとするが、パニック状態に陥った少女の耳にはもはや届かない。
恐怖を増幅させるように、一晶の背後から顔を覗かせる老婆の格好をしたディヌの姿を見てリーゼロッテはさらに絶叫する。
「いやぁあ、来ないでくださぁあい!」
追ってくるディヌから逃れるため、ダリスの腕を掴んだままリーゼロッテはイルミンスールの校舎へ全力疾走した。



「なぎさんー、なぁあぎさぁあんー」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)は道の途中ではぐれてしまった、パートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)の名前を呼びながら、イルミンスールの森の中を探しまわっていた。
「あれぇ、どこに行ったんだろ」
辺りを見回すと眼前にある木の後ろから白い布が見え、それはなぎこのスカートの部分だと確信した。
「やっと見つけた!て…あれ!?」
何故かなぎこはカガチから離れるように走り出し、まったく別の人間に抱きつく。
「カガチィイー♪」
なぎこは飛びつく相手を間違えてしまい、いきなり抱きつかれた影野 陽太(かげの・ようた)は驚いて叫び声を上げながら走り去っていった。
「あれれ?」
「俺はこっちだよ」
「あーっいたいた」
呆れ口調で言うカガチに、なぎこが笑顔で駆け寄る。
無邪気な顔で見つめるパートナーに、迷子になったことを叱る気力を一気に失った。
一方、なぎこを幽霊と勘違いした陽太は、走りすぎて余計な体力を消耗してしまう。
「ぜー…はー…何で無理やり肝試しなんかに」
陽太はパートナーの魔女エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に、無理やり参加させられてしまっている。
ぶつぶつと文句を言い、トラップに気をつけながら歩いていると片足に何かひっかかった。
違和感のあった片足へ視線を移すと、足首に草のツルが巻きついている。
絡み付いているツルを手で除けようとしたその瞬間、突然ツルに足を引っ張られる。
「ぎゃぁああー!?」
強引に直径3mの深い落とし穴に引きずり込まれた。
背後から人の気配がし、恐る恐る振り返ると角の生えた悪魔の仮面を被った姿に再び絶叫する。
必死に落とし穴から這い出して、イルミンスール校舎へ走っていく。
走り去っていく陽太の姿を見ながら、仮面を被った少女がため息をついた。
「―…まったく情けないですわ。これくらいで驚くなんて」
トラップを仕掛けてきた少女の正体はエリシアだった。
エリシアは陽太の臆病な性格を直すため、肝試しに無理やり参加させている。
「まぁゴールに辿り着けば、少しはマシになっているのかしら」
一言そう言い終わると、次なる作戦を実行するためにエリシアも校舎へ向かった。