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血みどろの聖女

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血みどろの聖女

リアクション


Scene4
4-1

 さて、ゴンサロの酒場の爆発炎上はマレーナたちのいる公園という名の空き地からもよく見えた。
「いったい、どうして……」
 こんな事になったのか……マレーナは胸を痛めていた。
「まあ連中は勝手にやってるんだから置いといて、マレーナさんお茶でも飲まない?」
 ブロンドを三本編みおさげにしたルクレーシャ・チェンバレン(るくれーしゃ・ちぇんばれん)が、マレーナに紅茶の入ったカップを差し出す。
「あ、ありがとうございます……でも、このようなものをどこから?」
「細かいことは気にしちゃだめだよ。あと何か欲しいものがあったら言ってね、盗ってくるから」
 大きな声で言うことでもないが、その辺から盗ってきたらしい。「ねぇ、どうしたらマレーナちゃんみたくおっぱい大きくなるかなぁ?」
 自分の胸の小ささを気にしてか、ルクレーシャは自分とマレーナの巨乳を見比べる。
「さ、さぁ……」
 マレーナは答えようのない質問にあいまいな笑みを返した。
「そんなことよりも、マレーナさんに聞きたいことがあります」
「そんなことってなによー!」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が聞いてきた。
 そんなこと呼ばわりされたルクレーシャは抗議の声をあげるが、ナナはあえてそれを無視する。
 そして――
「そのような格好で何があったのですか? また、マレーナさんはパラ実の学生なのですか? あと他に誰かいるのですか?」
「マレーナお姉ちゃんは、ボクたちみたいな力は使えないの?」
 ナナが一息に質問し、彼女によく似た容姿のパートナーズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、マレーナを興味深そうにのぞきこんだ。
「これは……私が剣の花嫁だからですわ」
 体内から光条兵器を取り出す際に、どうしても破れてしまうのだと、自分の衣服がボロボロの理由をマレーナはそう説明した。
「あと、私はパラ実の学生ではありませんわ」
「じゃ、パラ実には何できたんだ?」
 村雨 焔(むらさめ・ほむら)が聞く。
 その背後では、アリシア・ノース(ありしあ・のーす)が警戒するようにマレーナを見ている。
「アリシア、くっつきすぎだ」
「だって、マレーナが焔を誘惑したらやだもん」
「それは考えすぎだ」
 自称・恋人のかわいい嫉妬を一蹴して、焔はマレーナに答えを促した。
「パラ実で、ドージェ様をお待ちする約束なのです」
「ドージェ!?」
 一同、異口同音に聞き返した。


4-2

 酒場が爆発炎上したため、戦いの場は場外へと移されていた。
 ゴンサロの行方はわからず、炎に包まれる店内か、それとも配下の守護天使に連れられて逃げたか……
 王大鋸は、途中までがんばっていたが、現在はズダボロになって伸びていた。
「しかたのないヤツ……」
 シー・イーがパートナーを呆れたようにコツづく。
 そして、最終勝利を手にした者へと視線を移した。

 炎の照り返しをうけてたたずんでいるのは、遠野 御龍(とおの・みりゅう)だ。
 血のように真紅のの超ロングのつんつん紅髪は流れるように背中をおおい、アサルトカービンを手に返り血を浴びていたその姿は戦女神のようだ。
 翠玉色のキツイ瞳が周囲を警戒して見回すが、己の勝利を確信してかその口元に笑みがこぼれた。
「すごいですわ、憧れてしまいます」
「誰だ?!」
 突然の声に御龍はとっさに身構え、相手を確認するまもなくアサルトカービンを突きつける。
 そこにはネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)が、銃を突きつけられてはいるが気にした様子もなく緑色の瞳を輝かせて御龍を見つめていた。
「お疲れになったでしょう? あちらでゆっくり休みませんか?」
 ネアは御龍の返答を聞かずに強引に手をとると、この場所から連れ出した。

 そんな様子を物陰に潜み周囲をうかがっている者がいる。
 ネアのパートナー朱 黎明(しゅ・れいめい)だ。
「私を卑怯と罵るものは罵るがいい、悪に美学は必要ないのだ」
 手段は問わない。最終的に残った者が勝利者――新しい四天王になるのだ。
 黎明はアサルトカービンの照準を御龍へあわせた。

ダーン!!

 銃声が響く。
 御龍はとっさにそれを身をひるがえして避け、ネアを連れて物陰に飛び込むと周囲を注意深く見回す。
「どこからだ?」
「……ここですわ!!」
「わっ!?」
「我が主人に勝利を!!」
 いきなりネアがホーリーメイスで殴りかかってくる。
「御龍!」
「させるか!」
 龍神丸 秋桜(りゅうじんまる・こすもす)がパートナーの異変に駆けよろうとするが、黎明がその足元に向かって狙撃して秋桜を足止めする。
「卑怯な……」
「ふっ……」
 秋桜の赤い瞳が黎明を睨みつけるが、黎明は意に介した様子もなくさらに銃撃しようと引き金を絞る。

 戦いの新たな幕が落とされた。


4-3

 新四天王をめぐる戦いに一段落がついたらしいとの報告が、マレーナたちのもとへもたらされ、一同はとりあえず安堵した。
 あとは、マレーナの待ち人が彼女を迎えに来れば、万事解決だと、思い思いにくつろごうとしたところで、ソレは起こった。
「きゃっ?!」
「なんだ?」
「静かにしてください!」
 マレーナの悲鳴があがり、最上 杏(もがみ・あんず)が彼女を拘束しマレーナの首に回した左手にカッターナイフ、そして突き出した右手にもったエンシャントワンドをかざして火の玉を周囲に降らせる。
「って、いったい何のつもりだ?!」
「べつに……楽しいことがしたいだけよ」
 村雨 焔が怒鳴るが、杏は悪びれる様子もなく笑う。
「少しでも動いたら、殺しちゃうわ――きゃ、きゃあっ!!」
「巨乳石いただいたでぇ!!!」
「きゃあああああっ!!」
 焔たちは、マレーナを人質にされたかたちで手が出せず躊躇していたが、杏たちの背後から突然現れた青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)が全身ボロボロの血みどろの格好で現れるなり、怯んだ杏からマレーナを奪い取った。
「は、はなしてください!」
 その手が何気にマレーナの巨乳をつかんでいる。
 一難去ってまた一難だ。
「こんな、卑劣で卑怯で不埒なやつ……許せません!」
 ナナ・ノルデンが仕込み竹箒を振り上げ、幸兔をぶん殴る。
 焔のカルスノウトがひらめき、ルクレーシャ・チェンバレンのリターニングダガーが飛んだ。

 幸兔から解放されたマレーナは一息つく間もなく、再び拘束された。
「いったいなんなんですの――?」
「それは、四天王を目指しているからだ」
 とは、現在マレーナに刃物を突きつけ人質にしている企野 望(きの・のぞむ)である。
 ちなみに、最上 杏も企野 望ももとはマレーナを守ると一緒に行動していた者たちだ。
「さあ、どうする?」
「……いつのまに、マレーナちゃんを手に入れた者が四天王って話になったの?」
 ルクレーシャの疑問。
 でも、それ違うから。

「そこまでです……ッ!」
「うわぁっ!?」
 マレーナを身動きできないように捕らえている望の手に、薔薇がサクッと刺さった。
 思わずマレーナを開放する望。
 マレーナの身を案じていた仲間たちは、薔薇を投げ捕らわれの姫を救い出した明智 珠輝(あけち・たまき)の姿に唖然と見つめていた。
 黒いマントに仮面アイマスク。
 上半身にはタキシード。
 下半身はピタピタのレオタード。
 そして口には赤い薔薇……
「我が名は、タキシード変態仮面、待たせましたね、セーラーマレーナ」
「は?」
 珠輝はさわやかな笑みを向け、キラリンッと白い歯が光る。
「僕はリア・ヴェリー(りあ・べりー)。ケガはない?」
「あの、あの?」
 と、呆然としているマレーナに手を差し伸べる。
 ピンクの髪の美少年の登場に、さらに戸惑うマレーナだ。
「……あそこの変態とは無関係だから……」
 リアはパートナーの珠輝を指し、自分は無関係だとことさら強調した。
「そんなことより、ドージェはいつ来るんだい? 僕でよければ探しに行くよ」
 ピンクの髪の王子様は、にっこりと微笑んだ。

「で、ドージェはどこにいるんだ? 居場所を教えてくれ」
 とは、秋岩 典央(しゅうがん・のりお)
 リアのように好意的な様子はない。
「知ってどうすんだ?」
「そんなこと聞くまでもないだろう?」
 にやりと不適に笑う。
 神とまで呼ばれる男との実力差は大きいだろうが、それでも戦うのが漢だと、典央は言う。
 そのために彼は、ドージェ居場所へ赴くつもりなのだ。
「待ち合わせてるんだから、来るよ……」
「パラ実の校門の方へ行ってるかもしれないけどな」
「そんなことより、なんだ? あの音は?」
 どこか遠くから、地鳴りのような音が聞こえてきた。