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【借金返済への道】眠れるアイスタイガー

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【借金返済への道】眠れるアイスタイガー

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第3章


 ひんやりとした洞窟内。
 中は凍っているわけではなく、涼しいだけ。
 幅はかなり広く出来ていて、4・5人がいっぺんに通れるほどだ。
 先頭を歩いているのは藍澤 黎(あいざわ・れい)。その後ろをヴォイド・コーウェン(うぉいど・こーうぇん)倉田 由香(くらた・ゆか)サーミス・エシュトリーク(さーみす・えしゅとりーく)と一列に続く。
 最後尾にいるサーミスは大きい懐中電灯で前方を良く照らし、罠の発見にだいぶ貢献している。
「あ、そこの天井気をつけて下さい。氷柱(つらら)があります」
 サーミスが黎の少し前方の上を照らす。
 すぐにランスをスタンバイし、ジャンプをしながら氷柱の根元を薙ぎ払う。
 氷柱は細かく砕け、メンバーの上へと降り注ぐ。
「うひゃ〜。冷たいね」
 由香が自分の頭にかかった氷の粒を払いながら言う。
「由香さん! そこの足元、なんだか変ですよ!」
「へっ?」
 サーミスが声をかけるが、時すでに遅し。
 由香は足元にあった盛り上がった土を踏んでおり、スイッチ音が聞こえた。
 地面から押してしまったスイッチを中心に円形の口がパックリと開く。
 穴の2メートルほど下では氷で出来た無数の針が下に落ちてくる者を待ち構えている。
 飲みこまれそうになる由香。
「倉田!」
「由香さん!」
 前後に居たヴォイドとサーミスが慌てて手を伸ばし、由香は両腕を掴まれ宙ぶらりんな形となった。
 黎も手を貸し、一気に引っ張り上げる。
「あ、有難う。助かったよ」
 冷や汗を額に浮かべ、由香はお礼を言う。
「まったく。気をつけろよな」
「ヴォイド殿はあの時、だいぶ焦っていたからな。余程、心配だったのだな。表情はそう言ってるように見えないが」
 言うと、黎は少しだけ微笑む。
「うるせぇ」
 照れくさそうにヴォイドが顔を変える。
 落ちそうになったのを見てサーミスは青い顔をしていたが、2人やりとりを聞き、気持ちが持ち直したようだ。
「怖いですけど……まだまだありそうですから頑張りましょう」
「そうであるな」
 小さく気合いを入れるサーミスに黎が答える。
「あ、この穴どうします? 危ないですよね」
「埋めるような道具もないし、このままで気をつけて通るしかないんじゃない? 穴の直径もそんなに広くないから、横から奥に進めるし」
 サーミスの危惧に由香が返事をする。
「それで良いと思うぜ? 外にいる洞窟組を連れてくる時に注意を促せば大丈夫じゃないか?」
「うむ。では、先に進もう」
 罠解除組は最初と同じ列に戻り、歩みを進める。
 進める毎に寒さが増してくる。
 さらにトラップを3つ解除すると、突然開けた場所へと出た。
 今までの天井よりも高くなっており、ドームの形をしているのが解る。
 道ではトラップ以外の氷は無かったのだが、この場所には氷が壁や床を問わず覆っていた。
 どこかからか光が漏れているのか、懐中電灯がなくても十分明るい。
 サーミスが辺りを照らすとキラキラと光りが反射し、氷の表情が変わるようだ。
 この場所の中央には一段高い寝床が氷で作られている。
 寝床では深雪の色をした毛を煌めかせている1匹のアイスタイガーが、冷たい寝息を立てながら静かに眠っていた。
 その上ではアイスタイガーの出す冷たい息から作られたのか、ひと際大きな氷柱が存在する。
 それを確認するとゆっくりと後ろへ下がり、道を少し戻る。
「我が戻り、ここまで皆を連れてくる」
「了解」
 黎の言葉にヴォイドが返事をする。
 2人も頷き了承する。
 サーミスが今まで持っていた懐中電灯を黎へと渡す。
「だが、貴殿らは――」
 サーミスが懐から小振りな懐中電灯を1つ出すと、黎は言いかけていた言葉を切る。
「では、行って来る」
 黎は出口へと向かう。


 洞窟から出てきた黎の先導で中へと入った洞窟組。
「ああ〜。涼しいぜ〜。あ、ご主人。気をつけろよ」
「有難うございます、ベア」
 ソアを常に庇いながら進むベア。
 ふと視線を上へとやるとキラリと光る何かが――。
「あぶねぇ! うおりゃあ!!」
 落ちてきた氷柱を自分の爪で破壊し、前にいたフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)を助ける。
 砕けた氷の欠片が飛び散り、皆に涼しさを与えた。
「ふぅ……助かったぜ。サンキュ、ベア」
 フリードリッヒがお礼を言いながら笑いかけると、氷柱の欠片が刺さっている頭から血が垂れてきた。
「あっ……すまねぇ。全部を壊せなかったみたいだ」
「へっ? おあぁ! 血、血がぁ!」
「た、大変です〜!」
 フリードリッヒが叫び、ソアがわたわたする。
「ほら、頭を出せ」
 呼雪は欠片をはずすと、さくっとヒールを唱え傷を癒す。
「サンキュ、呼雪。出血多量で死ぬかと思ったぜ」
 フリードリッヒのお礼を聞き、呼雪は元いたホイップの隣へと戻る。
「わきゃっ!」
 戻ってすぐ、ホイップがさっきの欠片で足を滑らせる。
 地面にぶつかるのを覚悟し、ぎゅっと目を瞑る。
「あれっ? 痛くない……ほあぁ!」
 しっかりとホイップの体を抱きとめていたのは呼雪だった。
「大丈夫か? もうお前の身はお前だけのものじゃないんだぞ」
「……えっ?」
「っ!?」
 ホイップは勿論だが、呼雪の言葉に一同びっくりして声が出ず。
「……借金返すまでは」
「あ、あぁ。う、うん、そうだね」
(もしかして……クーデレ?)
 ホイップ含む皆の心が一致した瞬間だった。
「紛らわしいよ!」
「ん? 何がだ?」
 ファルが赤面しながら呼雪につっこむ。
 列の少し後ろでは、今まで奥へと進んでいたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が洞窟の外に向かっていたので、葉月が腕を取り止めていた。
「ミーナ、どこに行くんです? そっちは外ですよ」
「へっ? あれ? こっちじゃないの?」
 ミーナはキョトンとして見つめてから、葉月の腕に自分の腕をからませる。
「こうしていれば、葉月を心配させないで済むでしょ?」
 へへっ、と葉月へと笑いかける。
 つられて少し葉月も仕方ないと微笑む。
 まだ残っていた罠をジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が発見し、素早く爆炎波で粉々にしたりして、 一行はちょびっとだけ騒がしく洞窟の道を行く。
 先頭を歩いていた黎が前方に懐中電灯の明りを見つけ、罠解除組と合流した。