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リアクション
第一章 二人の指揮官の誕生
夕焼けに染まる蒼空学園の校舎とその校庭。
クラブ活動を終えた生徒たちが校門を出るのとは逆に、これから学園に入ってくる生徒たちがいた。その生徒たちは、真っ直ぐに食堂近くの小さな池に集合し始める。その中には、イルミンスール魔法学校の生徒や、薔薇の学舎、波羅蜜多実業高等学校の生徒の姿も見える。特に、波羅蜜多実業高等学校の裟亥矩 炉不酢(さいく・ろぷす)は、先程から蒼空学園の生徒の方を見て、
「フンガー! フンガー!」
と、怪しく吠えていた。
その小さな池には、ドラゴンモスキートの幼虫であるボウフラが、ウヨウヨと浮かんでいる。
苛立ちを隠せない様子の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、
「もっと人は集まらないの?? こんなことで大丈夫なの? 我が蒼空学園は???」
と、周囲を見回した。
「本当に時間までに、全部を駆除できるかしら?」
環奈がふと池を見ると、ボウフラがコチラを向いて笑っているようにも見える。
「ウ……キモい……よーし、じゃ、そろそろ作戦会議を始めるわよ! みんな集合して!」
ゾロゾロと食堂から生徒が出て来る。
「たくさんいるじゃない! どこに行ってたの?」
桜井 雪華(さくらい・せつか)が、
「だって、校長、こんな寒空で待てますかいな!」
「まぁ……そうかもね」
今日だけは勘弁してあげるわ的な言い方をする環奈だった。
「じゃ、誰かこの作業を取り仕切ってくれる人、いない?」
「ところデ校長ちょい確認やけど、あの池埋めたらアカンか?」
雪華が、出し抜けに校長に突っ込むと、
「それはやめて欲しいな。景観が悪くなるよ」
慌てて、闇咲 阿童(やみさき・あどう)が口をはさんだ。
「なんつーか、普通の池にしか見えねーけど、俺には色々あるんだよ。だから……」
闇咲は、チラッと大神 理子(おおかみ・りこ)を見る。理子は、俯いて目を潤ませた表情で阿童を見つめている。
「阿童くん……僕からもお願いします。池の存続を守って、ボウフラを一掃しようよ」
「おまえ……」
雪華は、何処からともなくメガホンを取り出して、
「わーった、わーった。よっしゃ、私、現場監督引き受けるで!」
雪華は、もう一回言う。
「私、現場監督引き受けるで〜!」
なぜか、2回言う雪華。雪華のなんとなく凄い勢いに押されて、その場に集まった生徒は次々と拍手を送った。
「で。どうやって、このボウフラを一掃するんだ?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、不敵な笑みを浮かべていた。
「それやけど。一応、学校の倉庫にあった特殊な網で池のボウフラを掬って、あっちの焼却場までバケツリレーで運ぶのがええと思うんやけど。どやろ?」
「生ぬるい!」
「生ぬるい?」
「池ごとでも、なんでも、燃やした方が早いだろ?」
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が、
「そうだよ。臭いでレッサードラゴンが来るかも知れないなら、すぐに焼いちゃった方がいいんじゃない?」
「我もそう感じる」
デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)も頷いている。
「そやなぁ……」
雪華が、思案に暮れていると、松永 亜夢(まつなが・あむ)が、後ろの方から小さな声で言う。
「あのぉ。あたしも現場監督したいんですけど……よろしいでしょうか?」
少女の様な幼い風貌なので、周りの生徒が驚きの顔をする。
「一度、ためしにボウフラを燃やしてみたらどうですか? 出来そうならここで燃やした方が私も早いと思いますから」
「そやな。やって見よか!」
特殊な網で30センチほどのボウフラを一匹掬って地面に落とし、エヴァルト・マルトリッツが火を放つ。間もなく、苦しみもがくボウフラ。そして燃え始める。その途端になんともいえない悪臭を放つ。
「クッサァ!」
「うげぇ!」
逃げ惑う生徒たち。
「こりゃ、アカンわ! 焼却場にしよ! あそこなら、煙突があるさかい、大丈夫や!」
周囲にいた生徒たちは、全員、鼻を押さえて何度も頷く。
「ええこと言うなぁ! 一緒に現場、仕切ろか?」
亜夢が、笑って。
「ハイ。」
「よし! 明日までにみんなでボウフラを退治するぞ!」
「オー!」
何年振りかに、知らない人と肩を抱き合って円陣を組むみんなは、ちょっと嬉し恥ずかしの表情を浮かべていた。
そういう事で、ボウフラ駆除の現場監督は二人に決まった。亜夢と雪華が協力して、二人で現場監督をする事になった。
「名付けて、リレー方式で網を使いボウフラを掻い出す組やで!」
意気込む雪華。
作業は、夜通し行われる事が想定される為、環奈校長が、
「明日は特別に、全員休みにしてあげようかしら?」
と、呟きながら、作業する生徒を眺めていた。
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