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作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

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作戦名BQB! 河原を清掃せよ!
作戦名BQB! 河原を清掃せよ! 作戦名BQB! 河原を清掃せよ!

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  3.河原はやっぱりBBQ


 ボランティア清掃隊による清掃終了が宣言されるのとほぼ同時に、背中にバーベキューセットを括り付けた男が河原に現れた。
「BQBもいいけどBBQも欠かせない」
 イルミンスール魔法学校の白砂 司(しらすな・つかさ)である。司はあたりに可燃物がないことを確認すると手際よくバーベキューセットを組み立てていく。
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)はバーベキューセットの横に巨大なクーラーボックスを降ろす。
「あ、わんこだ!」
 羽入 勇が司の横に座り込んであくびをしている犬科の獣に近づく。大型騎狼のポチだ。
「あ、手を出さない方が」
 司が声をかけるよりはやく、ポチの方が大きな舌で勇に手をなでた。
「あはは、はじめましてー。お名前はなんていうのかなぁ」
 勇は自分より大きな大型騎狼の首をなでながら尋ねる。
「ポチだ」
「あらあら。犬と戯れる少女、いいわね」
 葛葉 明(くずのは・めい)がやってくる。女性としての本能か、勇は半歩退いて身構える。
「そんなに身構えなくても大丈夫よ」
 明はクーラーボックスを地面に降ろす。
「あら、あなたは蒼空の――」
 明は、ファーストキス泥棒事件の時に見かけた彩祢 ひびきの姿を見つけた。
 ひびきは引きつった笑顔で会釈する。
「あたしは二度同じ乳は揉まない主義なのよ」
 明はいい笑顔をひびきに向ける。
「にくにくにっく〜」
「もうちょっと待て――なかなか炭が――」
 司はようやく炭に火をつけることができたようだ。
「気をつけて――あまり暴れると走り出しますからね」
 サクラコは、勇をポチの背中に乗せてやる。
「おお――騎士にでもなった気分だよ……」
 勇は普段よりずっと高い視点からカメラのシャッターを切る。ニセフォールは小さくサクラコに会釈する。
「よっしゃカルビもらい!!」
 明が生焼けのカルビをバーベキュー網から拾い上げそのまま口の放り込む。
「むふ……んまい」
 乳を揉んでいるときと同じくらいに嬉しそうな顔でカルビをかみしめる明。
「がうがう!」
 サクラコも獣人らしく肉にかぶりつく。
「あっ、こら、まだ生焼け……野菜も食べろよ! ポチ、タマネギ食べるなよ!!」
 大型騎狼のポチは、クーラーボックスに鼻面を突っ込んで、茶色い皮がついたままのタマネギをかじろうとしていた。
 司は自分が食べる時間もほとんど確保できず、ひたすらに肉と野菜を焼いていく。サクラコも明も野菜をまったく食べないので、司のための取り皿には少し灼きすぎの野菜ばかりが積み上げられていくことになる。

 ――
 サトレジ川に伝わる伝説。
 昔、とある女空賊がここで水浴びをし、そのエキスが川全体に広がったという。
 それ以来、サトレジ川はBQBのパワースポットとして密かに若い女性達の進行を集めている。
 ツァンダ周辺で今もっともホットなスポット。
 ―週刊パラミタウォーカー 夏直前! パワースポット特集より一部抜粋―
 マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)は手にした雑誌を、声に出して読む。
「エキスだよ! エキス! ナイスバディーになってサクセスサマーをゲットだよ!」
「うーん、どちらかというと、マナミンはキュート路線かな」
 小谷 愛美(こたに・まなみ)は,強い日差しを避けるための大きめの麦わら帽子を揺らす。
「ん? バーベキューやってる人たちがいるね」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は着替え用の目隠しカーテンを樹の間に吊しながらあたりをきょろきょろと見回す。服の下に水着を着てきても帰るときには着替えなければならない。
「みるでぃ! ダンゴムシ見つけたよ! 拳大のヤツ!」
 イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)が木の根元野石をひっくり返す。その下には、巨大なダンゴムシが蠢いている。
「お……うぉぅ」
 ミルディアはふらふらとよろけながらも、野球の硬球ほどの大きさに丸まった巨大ダンゴムシをイシュタンから受け取り、元いた場所に戻してやる。
「わたしは頼れるおねえさんわたしは頼れるおねえさん」
 震える唇で、何事かを呟きながらだったけれど。
「やっぱり河原と着たらバーベキューだね〜」
 先ほどまでは清掃隊として獅子奮迅の活躍を見せていた朝野 未沙(あさの・みさ)は、あたりに漂う香ばしい匂いを嗅ぎながら小さく頷く。
「おーい、よかったら食べますかぁ」
 ひたすらに網の上をひっくり返すという仕事を続けていた司が、未沙たちに声をかける。
 あるいは、未沙のメイド服を見て、彼女を誘えば無限に続く肉焼き地獄から逃れられると考えたのかも知れない。
「っもう! そこまでいうなら仕方ないなぁ!」
 マリエルは言葉とは裏腹に、河原をスキップしながらバーベキューへと向かう。
「ありゃりゃ。まなみんはどうするの?」
「んー、お昼も食べてきたし、先に着替えて雰囲気だけ味わおうかなぁ。今日はねぇ、あえて学校指定水着なんだよ! みんなは?」
「見てのお楽しみ!」
 巨大ダンゴムシのインパクトからようやく回復したミルディアは手にした鞄を抱いて笑う。
「あたしはメイド服だよ!」
 未沙はその場できれいにターンしてみせる。

 拳大の石が無数に転がる河原に、海岸でよく見かけるようなパラソルが立てられている。
「おお、このゆで卵、ひよこさんの形になってるね」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が作ってきてくれたお弁当に入っているゆで卵をしげしげと観察する。
 黒ごまのつぶらな瞳に、ハムの小さなくちばし。
「お気に召して頂けたようでなによりです。どうぞ召し上がってください」
 清掃隊として、清掃に携わっていた彼女らも清掃が終わってからはゆっくりと川辺の空気を楽しんでいる。昼食を取り終わったら、メインイベントともいえる水浴びの時間だ。
 葵は、ひよこ型ゆで卵をつまみ上げ、見つめる。
「かわいいなぁ。なんだか食べちゃうのがかわいそうだなぁ」
「葵ちゃんなら食べていいよ。おいしく食べてね」
 エレンディラは、自分もゆで卵をつまみ上げ、人形を喋らせる要領でゆで卵を揺らしながら呟く。
「あはは、じゃあ遠慮なく!」
 葵はエレンディラがつまんだゆで卵にかぶりついた。ちょうどいい塩味とタマゴの甘さが口の中に広がる。
「む……み、みず……」
「まぁ!」
 エレンディラは慌てるが、自身の右手はタマゴを喉に詰まらせた葵に握られている。彼女が持ってきた水筒は両手を使わなければ開けることができないタイプのものだ。
「失礼しますね」
 エレンディラの背後から細い腕が伸びる。月島 悠(つきしま・ゆう)は水筒に入ったお茶をコップに取り、葵に差し出す。
 顔を真っ赤にした葵はそれをなんとか受け取り、ゆっくりと飲み干す。
「――はぁ――」
 喉に詰まった卵はなんとか流せたらしい。葵は肩で息をしながら自分の胸をさする。
「ゆで卵って喉に詰まるとしゃれにならないですよね」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)が悠の背後から顔を覗かせる。
「ありがとうございます」
 エレンディラが立ち上がって頭を下げる。
「悠くん、あっちにいるみたいだよ」
 翼はバーベキューセットの周りで騒いでいる朝野 未沙を指さした。
「あ、ほんとだ。未沙―、ビーチセパタクローしようよー」
 悠はその場で小さく飛び跳ねながら未沙たちに向かって手を振る。
「それでは。良かったらまたあとで遊びましょう?」
 悠と翼とは手を取り合って友人の元へと向かった。
「葵ちゃん、大丈夫ですか?」
「ン? オッケーなりよ」
 エレンディラの問いに、葵はガッツポーズを作ってみせる。
「フフフ、ゆで卵ヒヨコくん、良くもやってくれたわね」
 葵は半分だけになったゆで卵を口の中に放り込んだ。今度は喉に詰まらせないように気をつけて。