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【学校紹介】四天王を目指す歌姫

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【学校紹介】四天王を目指す歌姫

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現在から未来は生れ落ちる


 新入生歓迎会の会場となったのは、瑛菜を蝕慟に案内したいと言う楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)の希望を受けてそこで行われることになった──とはいえ、他の施設同様、壊れていて何もないのだが。
 その辺はガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が中心となって廃材から適した物を作り上げていた。
「瑛菜様達はいつ頃いらっしゃるでしょうかねぇ」
「先ほど試合を見に行ったら偶然会ってな、その時にここのことを伝えておいたから、そろそろ皆を連れてやって来るだろう」
 ガイウスが瑛菜に会ったのは、彼女がナガンに声をかけられる直前である。
 そこでガイウスは準備のために戻ってきたので、その後何が起こったのかは知らない。
「瑛菜様に乙カレーを召し上がっていただくのが楽しみですな」
 フロンティーガーは旧生徒会との戦いの折に、自分の店の従業員としてスカウトした者達と共に張り切って乙カレーを作っていた。このカレーは彼が開発したメニューだ。
 また、別の場所からも食欲をそそる匂いが漂ってきている。
 広島風お好み焼きを焼く八月十五日 ななこ(なかあき・ななこ)の屋台からだ。
 広島番長直伝の本格的お好み焼きだ。
 ……そのはずだ。
 と、そこにちょうど待っていた瑛菜にアテナ、【瞑須暴瑠】をやっていた面々が到着した。
 E級四天王や彼に敵対した者も味方した者も連れてきた姫宮和希が手を振って招く。
「わあ、いい匂い!」
 早く食べようよ、とアテナが瑛菜の手を引っ張って急かす。
 ガイウスが彼女達に挨拶をした。
「よく来てくれた──」
 瑛菜をはじめ、新しくパラ実に入った一癖も二癖もありそうな面々がガイウスに注目する。
「見ての通り、廃墟や荒地だらけのパラ実であるが、逆に言えばこれからいろいろなものを生み出していけるということ。協力しあって共に未来を築けることを願う」
 真面目な表情で話す彼の背を、和希がちょんちょんと突付く。
 ハッとしたガイウスは、小さく咳払いすると、
「あまり堅苦しいことを言って、場を冷めさせてもいかんな」
 と、呟いた。
 それから、フロンティーガーと従業員達が配って回ったドリンクの注がれたグラスが全員に渡ったのを見ると、大きな声で「歓迎する! 乾杯!」とグラスを掲げた。

 瑛菜が同じ新入生達と談笑していると、目の前に良い匂いと共に盆が差し出された。
 そこに乗っていたのはカレーライスだ。
「貴公が歌でパラ実トップを目指す瑛菜様で?」
「そうだよ。これ、あんたが作ったの?」
 盆の料理に興味津々の瑛菜に、フロンティーガーは満足そうに頷くと、
「僕が開発した『乙カレー』です。よかったらどうぞ」
「ありがとう! お腹すいてたんだ!」
 フロンティーガーが近くのテーブルに置いたカレーの前に、瑛菜は適当なところから引っ張ってきた樽を椅子代わりに腰掛けた。
「皆さんも遠慮なく召し上がってください」
 従業員達が並べていく乙カレーの前に、新入生達も喜んで座っていく。喧嘩や野球でみんな腹ペコだ。
 一口食べた瑛菜は、
「からーい! でも、何だろう。癖になりそう!」
 ただ辛いだけではない、次の一口も欲しくなる辛さを瑛菜は気に入ったようで、あっという間に皿の半分ほどがなくなった。
「従業員もいるって、本格的だね」
「僕もいずれは料理でパラ実のトップに立ってみたいものです。お互い、がんばりましょう」
「ふふ、競争でもする?」
 楽しそうに挑んでくる瑛菜に、フロンティーガーも小さく笑い声を返しながら、水を追加した。
 瑛菜が乙カレーに舌鼓を打っている頃、アテナはななこの屋台に引き寄せられていた。
「本格的広島風お好み焼き、どう?」
「いただきまっす!」
「まいど〜」
 できたての一品をパックに移し、ななこはアテナに手渡す。
 すっかりアテナを気に入って彼女の質問に答えていたヴェルチェ・クライウォルフは、屋台に並ぶ具材を見て不審そうにした。
「ねえ、それ……大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!」
 即答があやしい。
 しかし、その間にもアテナはさっそくアツアツのお好み焼きを口にしている。
「おいし〜い♪」
「あったり前じゃん。本場の人に教わったんだから」
「そうなんだ! 免許皆伝?」
「そうだよ」
 どこまで本当なのかしら、と疑いつつもヴェルチェはアテナに「一口ちょうだい♪」とねだってみた。
 どうぞ、と割り箸に挟んだ一口分をもらう。
「あら、けっこういけるじゃない」
 変な味はしなかった。
 ななこは得意そうに胸を張る。
 誰にも言えないことだが、廃材を適当に集めて組み立てた屋台や、お好み焼きを食べたいと言ってきたパラ実生がどこからかもって来た鉄板や火器、調理器具はともかく、食材はそこらにあるものをかき集めたものだった。
 食べられるものであることは間違いないが、名も知らない食材でもある。
 ななこは最後まで何も言わず、広島風お好み焼きであることを貫き通した。
 そのお好み焼きをもう一パックもらって瑛菜にも食べてもらおう、と彼女のもとへ向かうと、ちょうど弁天屋 菊(べんてんや・きく)と何か話しているところだった。
「あ、アテナ、いいところに。菊が新しい料理を教えてくれるって! お菓子のことも聞いてみたら?」
 瑛菜は家庭料理なら普通にできるが、レパートリーはそれほど多くない。
 だから菊のように料理が得意だという人から教えてもらえることはありがたかった。
 アテナはクッキーなどのお菓子ならかなり作れるほうだが、これまで他の誰かと情報交換することは少なかったので、他者の工夫を覗けるという点では菊の存在は貴重だ。
 刺激がないと、いつも同じになってしまう。
「えっと、それじゃあね……」
 アテナが話したいことを整理していると、傍を朱黎明が通りかかった。
 彼を見た瑛菜が「あれっ?」と声を上げる。
 思わず足を止めた黎明と目が合い、それから菊へ視線を移し……。
「──親戚? まさか、親子!?」
「……違います」
「証拠は?」
 つい口に出てしまった疑問に、黎明は否定を菊はそれに対する意見を言った。
 二人ともオールバックの赤い髪に東洋人の肌の色を持ち、茶色の瞳をしている。顔立ちも似ていなくもない。
 二人が親子ではないかという説は、少し前に出たものだ。黎明は先ほどのように否定しているが、菊はもしかしたらと思っている節がある。
 黎明はため息をつくと、菊に言い聞かせるように言った。
「私が何歳の頃の子供になると思っているのですか? 14歳ですよ。まったく……」
「おまえならやりかねない。なあ、あたしの母さんってどんな人だったんだ?」
「まだ33なのに19の娘がいてたまるか!」
「隠さなくたっていいだろ!?」
 普段の丁寧な口調も砕けて否定を続ける黎明だが、菊はよほど両親のことが気になるようだ。
 おろおろするしかない瑛菜とアテナだが、ここでも瑛菜の頭に四天王に関する黎明の台詞が過ぎり、ひょっとして、などと疑ってしまった。
 収拾のつかなくなってきた事態に軽く頭を振り、ヴェルチェが別の話題を切り出す。
 瑛菜が作りたいと言っている軽音部のことだ。
「バンド組むなら、あたしも混ぜてほしいなぁ♪」
「一緒にやってくれるの?」
「だって、おもしろそうじゃない♪」
「いいバンドにしてアトフェス──アトラスロックフェスティバルに出ましょうよ♪」
「それもいいけど」
 と、お好み焼きの食べ歩きをしていたらしい高崎悠司が、ヒョイと顔をのぞかせる。
「軽音っていや前にP−KOってグループがいたっけかねぇ」
 あれの信者は危険なんだよな、と続ける前に瑛菜が勢いよく立ち上がった。
「それ! あたしがバントやろうとしたきっかけなんだよ。アトフェスの舞台で会いたいって思って」
 目をキラキラさせて言う瑛菜。P−KOは彼女の憧れであり目標であった。
 瑛菜は悠司を引っ張り込み、ヴェルチェも交えてP−KOやアトフェスのことで盛り上がった。
 少し離れたところでそれを耳にした泉 椿(いずみ・つばき)が席を立ち、会話に加わってくる。
「それならさ、ここでちょっとおまえの歌を披露してくれよ。何ならあたしと勝負するか?」
 ニヤッとする椿に瑛菜も似たように笑う。
 現在、【怨獄叱】(音楽室)だったところでは、塚原忍の提案の歌合戦の準備が進められているところだ。
 そうと決まれば歌う側も準備しよう、ということになった。
 と、そこにローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)から瑛菜達とのコラボレーションの申し込みがあった。
 制服を脱ぎ、普段着の彼女は硬い感じが消えてとても親しみやすい雰囲気になっている。
「私はローザよ。まだまだ駆け出しだけれど、『Blue Water』って名前で細々とバンド活動をしているの」
 よろしくね、と微笑むローザマリアの後ろにメンバーであるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)上杉 菊(うえすぎ・きく)の三人がいた。
「これも何かの縁(えにし)ぞ。共に各々の楽器を調和させ爪弾いてみるのも一興と思うのだが、どうかの?」
 青い瞳を煌かせて言うグロリアーナの言葉に、瑛菜とアテナは顔を見合わせ頷きあうと、その誘いを受けることにした。
「瑛菜と私はパートがかぶってしまうけど、他は問題ないはずよ」
 グロリアーナはベース、エリシュカはドラム、菊はキーボードの担当だ。
「私はリズムもできるから、瑛菜はリードとヴォーカルで」
「わかった。アテナはサックスとハープを扱えるけど……サックスでいこうか。椿は?」
「あたしはこれだァ!」
 勢いよく突き出したのは、空き缶。
 思わず目を丸くする瑛菜とローザマリア。
「こいつで熱い魂を歌ってやるぜ!」
 しばらく考えた後、瑛菜が提案した。
「じゃあ、椿の空き缶独唱も混ぜよう」
「え、それじゃ勝負になんねぇだろ」
「一曲の中で勝負だよ」
「……なるほど」
 そんなわけで、彼女達は怨獄叱のはじっこで音あわせに取り掛かった。


 舞台準備もほぼ整い、和希やガイウスの誘導で新入生や在校生が怨獄叱に集まると、司会を買って出た忍が持参したマイクで声を響かせた。
「ようこそ怨獄叱へ! ここも廃墟だったが……見違えたろ?」
 舞台準備に奔走したのは火村 加夜(ひむら・かや)アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)だった。
 何もなかった怨獄叱に簡単ながら舞台を作り、どこからか発掘して使えるようにした照明やその他の設備など、本当によくやっていた。
 おかげでこうして歌合戦ができるようになったのだ。
 折りしも時間は黄昏時。
 照明も生きるというものだ。
「今日は朝まで楽しんでいこうぜ! おっと、新入りの瑛菜と元E級四天王の勝負も忘れてねぇからな。──それじゃ、最初の一曲は瑛菜、Blue Water、椿のコラボ」
「ちょっと待つヨ! 最初はわらわがやらせてもらうネ!」
 ダンッ、と舞台に駆け上がったのは緑の髪を後ろで束ねた男の子だった。
 しかもどこかで見たことあるようなド派手な衣装は……。
「薔薇学の校長?」
 どこかから声が上がる。まさにそれだ。
 だが彼はパラ実所属で名をマリエル・パウエル(まりえる・ぱうえる)という。
「ヒャッハー! 軽音部設立おめでとう!」
 まだ発表はされていないが、瑛菜が立ち上げようとしている軽音部への入部希望者はそれなりにいた。
「だから、このオレ様がバラ実にふさわしい歌を歌うぜ!」
 この言葉に一部のパラ実生のこめかみがピクリと震える。
 マリエルは気づいているのかいないのか、拍子をとって歌い始めた。
 戸惑いながらもライトをマリエルにあてるアレン。

♪せいやせいややおりゃー! せいやせいややおりゃー!
 せいやせいややおりゃー! おりゃおりゃヤるぞ!

 ジェイダス ジェイダス 突き進めぇー!
 愛の果てでも
 ジェイダス ジェイダス ジェイダスのパワー!
 すごいぞ今日も!

 ジェイダス ジェイダス 掘りまくれぇー!♪

「あれ? ちょっと、何で照明消すネ? oh! イタイ! 何す……ちょっとォ!?」
 急に暗闇になった舞台上で何が起こったのか。わかったのはマリエルがどこかへ連れて行かれたということだけだった。
 再びついたライトは忍を照らす。
「えー、不適切な表現があったため、マリエルにはご退場願いました。ご了承ください」
 他にも理由はあるが、それはパラ実で生きていくうちにわかるだろう。たぶん。
 そして、再度忍の紹介により瑛菜、Blue Water、椿によるコラボレーションが始まった。
 練習時間が短かったにも関わらず、経験者なだけあり息はぴったりあっていた。
 メトロノームのようにしっかりしたドラム、根幹を支えるベース、綺麗に演出するキーボード、メロディーラインを弾くギター、瑛菜とローザマリアとの掛け合いもあった。
 また、ソロとしてアテナのサックスと、一風変わった曲調から切り込んだ拳とうなりをきかせた椿の歌。本当に空き缶を叩いて拍子をとった。

♪校舎がなくても気にすんな 熱いハートがあればいい
 不良? 違うぜ喧嘩上等! 自分の正義に嘘はつけない
 走れ 貫け パラ実漢(おとこ)道!♪

 彼女自身の作詞である。
 新入生へのエールだった。
 ガラリと変わったこの雰囲気が良いスパイスになっていた。
 曲が終わると割れんばかりの拍手と歓声があがり、どこからか爆竹音も鳴り響いた。
 舞台から降りたアテナにエリュシカはほんのりと笑顔を浮かべて感動したように言った。
「はわ……アテナ、練習の時よりも、じょーず、だね。エリーも、もっと頑張らなくちゃ、なの」
「エリュシカのドラムが最高だったからだよ。だから、すっごくのれたんだ!」
 アテナはご機嫌だった。
 菊も楽しさと共演の興奮を残したままの笑顔だ。
「皆様、上手でいらっしゃいました──わたくしにとりましても、よい刺激でござりました。お役に立てましたか?」
「ちゃんと聞こえてたよ。菊が曲の色づけしてたね。すごく気持ちよかった」
 瑛菜の賛辞に菊は嬉しそうだ。
「今度はお互いビッグになって、どこかの大会で会えるといいわね」
「必ず会おう、ローザ」
 ローザマリアと瑛菜は握手を交わした。
 それから瑛菜は椿を見やる。
「どっちが勝ったかな!?」
「そりゃ、あたしだろ……なんてな! なかなかやるじゃねぇか」
 パンッと背中を叩かれながらの褒め言葉に瑛菜は素直に喜んだ。

「さて、次はいよいよ歌合戦だ! 元E級四天王対新入生瑛菜! 同じ舞台に立って歌いあってもらうぞ! 良い音楽は自然と耳に入ってくるもの!」
 メチャクチャな理屈を言う忍だったが、誰も気にしなかった。
 舞台に元E級グループと、今度は騎沙良 詩穂(きさら・しほ)咲夜 由宇(さくや・ゆう)が瑛菜とアテナについて舞台に上がった。
「パラ実のバンドなめんじゃねぇぞ! ここでてめぇら全員ひん剥いてやるぜ!」
 ギターを下げた元E級の言葉に、バンドメンバーが下品な笑い声を立てる。
 しかし瑛菜も負けていない。
「そっちこそ、二度も負けて泣きべそかくなよ!」
 瑛菜がメインヴォーカル、由宇はメインギター、詩穂がベースとサブヴォーカル、アテナはハープで挑む。
 忍の合図で両バンド演奏が始まった。
 いきなり仕掛けてきたのは元E級グループのギターその2だ。
 一番弱そうとみたのか、ギターをかき鳴らしながらアテナに向かって飛び蹴りを放つ。
「──甘いですぅ!」
 超感覚で音感も五感も敏感になっていた由宇のエレキギターが鳴ると、閃光と共に落雷が発生した。
 ドカン! という轟音に一瞬全ての音がかき消される。
 そして、プスプスと黒煙を上げるギターその2。
「や〜りやがったな、コンチクショ〜♪」
 元E級の歌に合わせ、ドラム担当から飛んできたスティックが詩穂に当たった。スティックの代えは山ほどあった。
 詩穂の笑顔に亀裂が入ったが、秋葉原四十八星華のリーダーとしての意地か、決してその笑顔は崩さなかった。その代わり、ずいぶん冷えた笑顔だったが。
「瑛菜ちゃん、詩穂と一緒に!」
「はい!」
「アテナちゃんも由宇ちゃんも──観客のみんなも!」
 詩穂は客席にマイクを向ける。
 最前列で見ていた加夜は、仕掛けのレバーを落とした。
 すると舞台後方から霧状に水が噴き上げられた。
 アレンが照明器具を操作し、まるで虹のように彩られる。

♪いま、ここでいまの時間を止めれたなら
 ぼくは君に会いに行くのかな?
 けどぼくは、ただそこに居たいだけ
 無限大の可能性を今ここに感じて
 飛べない鳥はこの蒼空に消えてった♪

 二回、三回と繰り返すうちに、メロディーも覚えて舞台と客席が一体となって歌の奔流が生まれた。
 詩穂は由宇作詞のこの歌に幸せの歌の効果を乗せた。
 歌い終わると、元E級はがっくりと膝を着いた。
「完敗だ……! つられて歌っちまった!」
「勝者、熾月瑛菜組!」
 忍の宣言に観客席が大いに沸いた。
 その熱気も冷めやらぬ中、ギュゥゥゥイィィィィン! と、まったく色の違うギター音が鳴り響いた。
 飛ぶように瑛菜と詩穂の間に登場したのは五条 武(ごじょう・たける)だった。
 武は瑛菜の勝利を祝福した後、こんなことを言った。
「よォ嬢ちゃん。テメェの歌でパラ実のトップ取るんだって? だったらまず、俺のギターに勝ってみやがれェ!」
 より激しくエレキギターをかき鳴らす武。
「こんな小娘の歌なんかより、俺のメタルを聴きやがれ!」
 武はロックやメタルを愛する男だった。
 封印解凍により通常の倍以上の速さで繰り出されるギターリフに、観客から怒号のような声があがる。
 瑛菜は思わず息を飲んだ。
「ハッハァ! テメェらの心に響くだろォ! だが……まだまだノリが足らねぇぞ!」
 喧嘩を売るような暴力的な演奏だったが、確かに観客の心は掴んでいた。
 するとそこに新たな飛び入りがやって来た。
 ビキニ水着の色っぽい女──ヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)だ。
 ヨーフィアは自分の魅力を最大限に引き出すポーズをとり、瑛菜に勝負を挑む。
「あなたの歌と私の踊り、どちらがより観客を魅了するか勝負よ!」
 二人から挑まれたが、瑛菜は躊躇わず受けて立った。
「やってやろうじゃないの! 詩穂、由宇、アテナ、よろしくね!」
 瑛菜の威勢の良さに笑みを浮かべたヨーフィアは、この日のために選んだレゲエで注意を引いた。
 甘い香りに誘われるように観客の体がメタルからヨーフィアの動きにシフトしていく。
 そこに瑛菜達の歌が割り込む。
「混沌としてるっすねー」
 一応警備のためにここに来たサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が、舞台の様子に呆然と呟くと、たまたま近くにいた加夜はその声を拾って返してきた。
「でも、みんな楽しそうです」
「そうっすね。私も楽しいっすよ! これでヨーさんと瑛菜さんに友情が芽生えれば文句なしなんすけどね」
 ヨーさんとはサレンのパートナーのヨーフィアだ。
 加夜は小さく頷いた。
「大丈夫ですよ、何の心配もいらないと思います」
 舞台に上がろうとした観客を殴り飛ばし、サレンも頷いた。

 結果はどうなったかというと……うやむやになってしまった。
 観客自身が決められなかったからだ。
 もちろん、それぞれの一つが一番だったと言う者もいる。
 しかし、とにかく聞こえた曲に、見た踊りに、魅せられるままに声を発し体を動かし、大満足でどれか一つなんて選べないという者が多かったのだ。
「勝負はまたいつかだな! それじゃ、今日の歌合戦はおしまい! 後は好きにしやがれぃ!」
 忍のまとめで歌合戦は終わった。

 舞台を降りた瑛菜とアテナが水を飲んでいると、
「よぅ、がんばったな」
 気さくに声をかけてくる者があった。
 【『神楽崎分校』生徒会長】の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だ。
 魅世瑠も瑛菜が作ろうとしている軽音部に、それなりの人数が集まっていることを知っていた。さすが生徒会長と言ったところか。
 魅世瑠はまだ興奮に包まれたままの周囲を見回してから話し出す。
「今日は特別なんだ。昼間に見てわかったと思うけど、施設はどれもこれもぶっ壊れてる。何をやるにもお天道様の下だ──わかるか?」
「えーと……?」
 瑛菜は魅世瑠の言いたいことがわからず、首を傾げる。
 魅世瑠は丁寧に教えてくれた。
「つまり、青空教室やってる傍でチューニングなんぞやると、はた迷惑で揉め事が絶えず、毎度毎度喧嘩することになるだろうってこと」
「あ……っ」
 小さく声を上げた瑛菜に魅世瑠は笑う。
 そんなことではおちおち練習もできない。
 どこか、適した場所が必要だった。
「部室がほしいよな。そこでだ」
 魅世瑠は分校制度について説明した。
 例えば神楽崎分校はパラ実生に占拠されていた喫茶店だったこと、イリヤ分校はD級四天王のいる農村だったことなどだ。
「音楽室が再建されるまでどっかのライブハウスでも屯って、そこを分校にしちまったらどうだ?」
「ぶ、分校じゃくて部室でいいよっ」
「ははは、それならそれでいい。場所を確保するならな」
「うん、ありがとう。さっそく探してみるよ」
 瑛菜に新しい目標ができた。
 話が落ち着いたのを見計らったように弥涼 総司(いすず・そうじ)が預かっていたギターケースなどを瑛菜とアテナに渡した。
 あの大騒ぎの中、どうやって保護していたのか預けた時と何ら変わりのない楽器ケースだった。
 そして、入部希望者は以下である。

 騎沙良詩穂
 弥涼総司
 ヴェルチェ・クライウォルフ
 スレヴィ・ユシライネン
 春夏秋冬真菜華
 姫宮和希

 誰でも受け入れるつもりの瑛菜だったが、やはり音楽をやる者としてはどの程度できるのか気になるところだ。もちろん、何もしらなければ楽譜の読み方から教えるつもりだ。
 詩穂の力は問うまでもない。
 誰もがそれなりに楽器はやれそうだし、やる気もあった。
 真菜華はキーボードを熱烈に希望してきた。
 ピアノの経験があるそうだから、鍵盤には問題ないだろう。後はピアノとの違いに慣れればいいだけだ。
 和希は『どら☆すれ』というバンドの経験がある。
 総司は趣味がギターだそうだ。
 ヴェルチェは未知数だがアテナがついていればいろいろ覚えてくれそうだ。
 スレヴィは……歌が壊滅的に下手だった。
「声はいいのに……!」
 愕然とする瑛菜。
 音痴を治す特訓をするか楽器に専念するか決めてもらうしかない。
 ともあれ、新しい土地での新しい学園生活の始まりである。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

 お待たせしました。
 『【学校紹介】四天王を目指す歌姫』をお届けいたします。
 初めましての方もお久しぶりですの方も、ご参加くださりありがとうございました。
 皆様のおかげで瑛菜はE級四天王になりました。

 パラ実の最大部活動の野球を紹介してくださった皆様、ありがとうございました。
 ミツエシリーズでお馴染みのNPCも呼んでいただき嬉しいかぎりです。
 ですが、今後はシリーズあるいはグランドシナリオのみの登場となる予定ですのでご了承ください。

 アクションに『軽音部に入部希望』と書かれていた方に【パラ実軽音部部員】の称号をお送りしました。
 ご確認ください。

 それでは、今後の学園生活をお楽しみくださいませ。