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Dragon Buster

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Dragon Buster

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■第五章

 炎を吐きながら威嚇を続ける純白のドラゴンを、数機のイコンが取り囲んでいく。
「久しぶりだなぁ、この感触」
「気ぃ抜かないでよ? 自分達だけで戦ってるわけじゃないんだし」
 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)が、コームラントの座席に座って嬉しそうに呟くのを、苦笑しながらルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)が嗜めた。
 和葉は、わかってるよ、と明るく返事をする。明るい表情を浮かべながらも、周囲の警戒は怠らないように気を張っていた。
『こちら【ミッシング】。適当に攻撃していいよ。フォローはするからさ』
『了解した』
 緩やかな通信を受けて平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、クェイルをドラゴンに向けて走らせた。
「レオ。一撃離脱で体力を削いでいくぞ」
 複座からイスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)がレオに向けて作戦を伝えていると、祠堂 朱音(しどう・あかね)から通信が入る。
『こちら【フォーチュン】。サポート入りまーす』
『了解。ありがとう』
 子供らしい口調の朱音からの通信を受けて、レオの顔にも余裕が生まれる。
『周囲の索敵は任せて下さい。何が以上が有ったら直ぐに伝えます』
 朱音が乗るイーグリットの複座からシルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)も、レオにコンタクトを取る。
『ありがとう――行くよ! 【ズルカルナイン】。エンゲージ』
『『了解』』
「……っと!?」
 ドラゴンが射程の範囲内に入った瞬間に、サイドステップで撹乱しようと操縦するが、制御が取り難く歩幅が予定よりも大きくなった。
「コームラントと随分違うな……動きやすいって言うよりも、軽い」
『攻撃、来ます!』
 ドラゴンが目の前にいる集団に向けて炎を吐き出す。
 レオが回避する方向に合わせて、朱音と和葉も回避行動を取り、ドラゴンに向けて発砲。
『フラフラしてるけど、大丈夫?』
『コームラントと同じ要領で操縦すると感覚ズレちゃうから気をつけてねっ』
 朱音と和葉から、次々と通信が入る。メインモニタの片隅には丁寧に、機体の違いがデータ化された画像も送られてきた。
『【ズルカルナイン】。次の攻撃を避けたら一斉に攻撃に入るよ。タイミングはイスカに任せるから、回線はそのままで』
「ふむ、任せておけ」
 その言葉を聞いて、イスカの瞳の輝きが増した。
 モニタに映るドラゴンの動きを見逃さないように集中する間にも、照準制御の調整をしている。
 動きを止めないように前後左右へ移動し続けるイコンに、ドラゴンが爪を振りかぶった瞬間、イスカが叫んだ。
「レオ、右に回避じゃ!」
 反射的に振り下ろされた爪を右へ避ける。コクピット内にパネルを叩く音が響くと、モニタ上に映し出されたドラゴンの翼がロックされた。
 画面情報を共有していた朱音と和葉の機体も、合わせて翼をロック。
「発射ぁ!」
 イスカの喜々とした叫びと共に三機のイコンから発射された銃撃が、ドラゴンの翼を貫いた。
 皮膜が裂けたドラゴンが、叫び声を上げる。次の瞬間、レオ達のイコンが散開。
 わずかに遅れて、開いたスペースに黒いドラゴンが落ちてきた。白いドラゴンを守るように、漆黒のドラゴンは、口を開いて炎を吐き出す。
 背後から同時に純白のドラゴンも、炎を吐く。正面から見るとそれは、二対の頭を持つドラゴンの様にも見えた。
「ルアーク、旋回して!」
「はいよ」
 前方に炎を吐く二体に対して、和葉達のコームラントが大きく回りこむ。
 ドラゴンの頭部に向けて和葉が照準を合わせる。
 モニタに表示されているサイトでは再現できないほどに精密な狙いを付けて、トリガーを引く。
 射撃、というよりも狙撃に近い正確さで、和葉の放った攻撃はドラゴンの眼球を撃ち抜いた。

 ――白い鱗に、鮮血が流れる。



 隻眼となった純白のドラゴンの周りを、次々とイコンが取り囲んでいく。その上空を、血を流しながら漆黒のドラゴンが飛び回る。

「イコン、か。悪くないですね」
 適当にドラゴンへ向けて射撃を繰り返しながら杵島 一哉(きしま・かずや)は、ぼんやりと呟いた。
 新規に配備されたイコンのテストに、と今回のドラゴン討伐に参加しているので、攻撃もそこそこにイコンの操作を確かめている。
「そうですね……ただ、慣れないと、思ったとおりの戦闘はできそうにないです」
 流れ弾に当たらないように、アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)がクェイルを操作しながら答える。
 それよりも気になるのは、先程から一哉の撃った弾丸が、どれも当たっていない事だ。
「当てる気、ありますか?」
「ん、そこそこ」
「……」
『こ、これがイコン……!』
 何とも微妙な空気が流れている一哉達のコクピットに、空白の書 『リアン』(くうはくのしょ・りあん)の声が響いた。
 初めて乗るイコンに、若干テンションが高くなっているのか、感嘆の声が止まらない。
「もう少し、落ち着いて下さい」
 複座で操縦をしている古代魔装 『アイジス』(こだいまそう・あいじす)が興奮しっぱなしのリアンを見て、眉根を寄せる。
「……リアン」
 モニタの向こうでいつもよりはしゃぐリアンを見て、が哀れむような視線を送った。

「ドラゴン……ね。相手にとって不足なし!」
 上空で他のイコンと交戦している黒いドラゴンとの接触を避けながら、葛葉 杏(くずのは・あん)の乗ったコームラントがドラゴンの真上を位置取る。見下ろしながら、地上にいる白いドラゴンに機銃をバラまくと、表皮を削られたドラゴンが目を閉じながら頭を下げた。
 その隙を見逃さず、振動剣を手に降下していく。
「杏さん、接敵後の姿勢制御は私が」
 パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)が、状況を判断して杏に指示を出す。
「わかった。まかせるわ」
 杏が返事をしながら機体の重量を乗せて、機銃で傷ついた部分を狙って振動剣を突き刺した。
「この野郎!!」
 叫び声と共に、刺さった振動剣を機体ごと深く突き入れていく。
 抵抗するドラゴンの爪で装甲が削られていくのも構わずに、出力を最大のままに体制を維持する。
 ドラゴンは口から血を流しながら、耳障りな鳴き声を上げた。
 根元まで刺さったのを確認すると、再び機銃をバラまきながら後退をはじめる。
「損壊度、60%です。さすがに毎回こんな無茶は出来ませんよ……」
「何言ってるのよ。まだ40%も残ってるじゃない」
 やや控えめに苦言を漏らす早苗に、杏が小さく溜息をつく。
(次からは、射撃に専念してもらいたいなぁ……)
 戦況を確認しながら、早苗は胸中で小さく呟いた。



 飛行を続ける黒いドラゴンを、地上から富永 佐那(とみなが・さな)が乗るクェイルが追う。
 佐那は天御柱学院の生徒だが『機体が違うのに腕を比べるのはフェアではない』と、クェイルで出撃をしていた。
「ふむ、飛べぬというのは不便なものなのだな」
 飛行が出来ないクェイルに不便さを感じながら、機体を走らせて足利 義輝(あしかが・よしてる)が冷静に判断する。
 クェイルの操縦をしながらシミュレーションをしていた義輝が、短く息を吐く。

「脚部小型スラスターエンジンを搭載したホバーユニットを取り付け地表を滑走するように出来れば、量産型機でもドラゴンの動きを追えると思うのだが……
 佐那よ、学院側に提案してみてはどうだろうか? これではドラゴンは兎も角、寺院のイコンとの苦戦は必至ぞ」
「そうですね……この戦闘が終わったら、戦果を含めて学校側に申請してみましょう」
 佐那がそう答えながら、クェイルの両腕に持たせたアサルトライフルを上空のドラゴンに向けて発砲する。

 被弾したドラゴンに向かって、イーグリットが迫る。横には、聡が乗っているコームラントもいた。
『こちら【ホワイト・ライトニング】。聡、さっさと終わらせてナンパしに行くぞ! 百戦錬磨のこの俺が極意を教えてやるぜ』
『そりゃあ良い。どっちが多くデート出来るか賭けようぜ』
「ねぇ、ウォーレン。もう少し真面目にしてよ……」
 戦闘中にも関わらず、聡と軽口を叩き合うウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)を、水城 綾(みずき・あや)が呆れ顔で注意する。
「サクラさんも聡さんを止めてください」
 翼を広げて飛行するドラゴンから攻撃を受けない位置取りを心がけながら、綾がサクラに助けを求める。
 が、モニタの隅に小さく映し出されているサクラの表情が、操縦に集中しながらも怒りに満ちているのを見ると、それ以上触れるのを止めた。
 パートナーの只ならぬ雰囲気を感じて、聡の額に汗が流れる。
「……何か今日、不機嫌?」
「そんな事無いですよ。たまには戦闘に集中して下さい」
「たまには、って……」
 抑揚の無い声で答えるサクラに聡が苦笑する。
 そんな二人のやり取りを聞いて、ウォーレンが楽しそうに笑った。
「それじゃぁ、真面目にやるか。こちら【ホワイト・ライトニング】。一気に切り込む! 援護頼む!」
 綾が飛行中のドラゴンにイーグリットを接近させると、ウォーレンがビームサーベルを使ってドラゴンの背中を斬り付ける。
 攻撃を加えられた方向に反転して反撃を加えようとするドラゴンに、死角に潜り込んだ聡のコームラントが発砲。
 上下左右からお互いに死角を取り合ってイーグリットとコームラントが攻撃を重ねていく。
 翼を更に羽ばたかせ、ドラゴンが高度を上げて綾達のイコンを纏めて焼き尽くそうと炎を吐き出す。
 ギリギリの所で回避するコームラントに向かって爪で攻撃を仕掛けようとしたドラゴンを、横からビームが襲う。
『こちら【スプリング】。二人で楽しんでないで、俺も混ぜろよ』
 ビームライフルを構えたイーグリットから、和泉 直哉(いずみ・なおや)の通信が入る。
「結奈、頼むぞ」
「大丈夫。任せて、兄さん」
 和泉 結奈(いずみ・ゆいな)が操縦するイーグリットが聡と綾達の動きに混ざり、攻撃は更に複雑化した。
 反撃する間もなく、ダメージだけが重なる空中を避けたのか、ドラゴンが鋭角的に方向転換して降下した。
 そのまま滑り込むように洞窟に入り込む。と、次の瞬間、轟音と土煙を巻き上げながら大規模な爆発が洞窟で起こった。
 洞窟内に仕掛けた爆薬の全てが炸裂して、洞窟が崩壊する。

 風が土煙を運んで、崩壊した洞窟が姿を現す。小さな石が落ちる音が聞こえるが、それ以外何かが動くような物音は聞こえない。
「警戒態勢を解かないで、そのまま待機して。まだ死んでいないかもしれない」
 洞窟の外で待機していたコームラントの中で、天司 御空(あまつかさ・みそら)がパートナーの白滝 奏音(しらたき・かのん)に指示を出す。
 崩れた洞窟へ向けてビームランチャーを向けながら、狙撃のタイミングを窺う。
(了解。……御空、誤差2。右下方10度修正して下さい)
 崩壊した洞窟の形状に合わせて、要が御空の脳内に直接、修正値を伝えた。
 遠くで聞こえる戦闘の音を耳にしながら、崩れた洞窟に注意を向けて待機する。

 そして、すぐにその時が来た。
 身体に乗る岩を撒き散らして、頭を振りながらドラゴンが姿を現す。
(敵影補足――今です)
 モニタに映った照準サイトは、位置を移動されるまでもなく色を変え、ロックが完了した事を短い電子音で告げる。
「ロックオン――ファイア!」
 要からの指示が頭に流れ込んできた瞬間、ビームランチャーのトリガーを引く。
 出現の不意を突かれたドラゴンは、これを回避できずに直撃を食らう。
 更に、身体を傾けるドラゴンにコームラントが接近。ドラゴンの前で停止をすると、ミサイルポッドを開く。
 射出されたミサイルは白煙を引きながら飛んでいくが、ドラゴンがミサイルに向かって炎を吐いた。
 間近で起きる爆発の勢いを利用して土砂に埋まった身体を強引に引き抜いたドラゴンは、頭上のイコン達を警戒したのか、低い高度を保ちながら飛び出した。

「出てきたねぇ、準備はOK?」
「当然。行くわよ」
 モニタ上でドラゴンが洞窟から離脱したのを見た月谷 要(つきたに・かなめ)の問いかけに、霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が洞窟付近で待機させていたイーグリットをドラゴンに向けて発進させた。
 変わらず低空飛行を続けるドラゴンを、同じく高度を抑えながらアサルトライフルで牽制する。
 背後から飛来するビームに、ドラゴンが振り向く。悠美香は、飛行の速度を落としたドラゴンに向かって加速。
 首を曲げた方向とは逆の位置を取り、ビームサーベルを抜いた。
 逆を向いていたドラゴンがこちらを見るタイミングに合わせて、頭部に斬激を浴びせる。
 頬を深く削られたドラゴンの顔から血が飛び散った。しかしドラゴンは飛行を止めずに、イーグリットを振り切ろうと速度を上げていく。
「単純にエネルギーで動いててくれたら、機能停止までの時間も出せるんだろうけどねぇ」
 緩やかに曲がりながら距離を開くドラゴンに、要が笑いながらパネルを操作する。
 悠美香は要の発言を聞きながら、ドラゴンにアサルトライフルを向けて射撃を続けていく。