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リアクション
第4章
TVからは相変わらず冷静な小次郎の解説が続いていた。
「各地でアシガルマ戦が続いているようですが、外部からは猛吹雪のため、中の細かい情勢は掴みにくいですねぇ。実況のメトロさん?」
メトロは相変わらずマイトの背中でリポーター役である。
「はーい、こちらはあの『冒険屋ギルド』のメンバーさんにインタビューに来ていまーす」
マイトのカメラが三人のメンバーを順番にクローズアップする。
クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)、七刀 切(しちとう・きり)、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)、の三人である。ふと見ると、それぞれ三人の背中に張り紙がしてある。
「えーと、『この三人組はあくまで妄念であり、実在の地球人・契約者・冒険屋とは一切関係ありません。』? これはなんですか?」
メトロが不思議な顔で三人に尋ねるが、
「男の勲章だ」
という一言で一蹴された。さっぱり意味が分からない。
その頃、冒険屋本陣で炊き出しの手伝いをしながら観戦していたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)はパートナーのルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)と共に頭を抱えていた。
「あっちゃ……TVに映っちゃったかー……」
「あ、あの、フリッカ? 張り紙はいくらなんでもやりすぎじゃない? あれじゃクドさん達が……」
だが、ルイーザの言葉にフレデリカは首を横に振る。
「ルイ姉、あの三人に対してやりすぎという言葉は存在しないわ。放っておいたら冒険屋の評判は地獄の底までガタ落ちよ! あの子達がうまく止めてくれればいいけど……」
祈るような気持ちでTVを見つめるフレデリカだった。
あの子達、とはフレデリカとルイーザが作った『サングラサー』という小型の雪だるま集団だ。10数体のサングラスを掛けた雪だるま、という可愛らしい雪像だが、それとなくその三人の周りを警戒している。ちなみに、フレデリカとルイーザの二人分の雪だるマーで10体以上を動かしているので、一体ずつの能力はかなり限定的だ。
「ところで、みなさんは冒険屋ギルドの中ではどんな集まりなんですか?」
その質問に、切がずずいと顔を乗り出して答えた。メトロの差し出したマイクに顔を近づけたので、自然とカメラにアップで映る。
「ワイらは遊撃変隊『KKK』! 今回の狙いはズバリ、四天王のフブキちゃんとツララちゃんだぜぃ!!」
「……今、ちゃん付けした?」
思わずマイトに同意を求めるメトロだが、どうやら聞き違いではなかったようだ。
「ワイはKKKが一人、血染の切! もちろんフブキちゃん狙い! 和服少女とかもうたまらん!」
一人悶える切を前にしてメトロはもうどうしていいか分からない。ちなみに、血染め、とは鼻血的な意味である。
「鬼羅星! オレはKKKが一人! 羅刹の鬼羅! オレはツララを狙うぜ! いろんな意味でな!!」
目ピースをしながらギラリと瞳を輝かせるのは、メイド服にマフラーという珍妙ないでたちの天空寺 鬼羅だ。
「そしてこの俺はKKKが一人! 大海のクド! さあ、御託はここまでだ! 行くぜ野郎ども!!」
「おう!!!」
インタビューの途中だったメトロを放置し、KKKの三人はクド、切、鬼羅の順番で縦一列に並び、猛烈な勢いでスケーティングを開始した。当然、狙いは冬将軍四天王、フブキとツララだ。ものすごいスピードでアシガルマ達を蹴飛ばしていく三人に、思わず小次郎の解説が入る。
「ほう、これはさすがですね。」
「そうなんですか?」
「はい、一列に並ぶ事で敵から受けるダメージや妨害を最小限に止められますし、相手からしてみれば後ろの二人がどう動くか分かりにくいですから。KKKの目的はさておいて、さすがは冒険屋ギルドのメンバーですね」
一方、フブキとツララの二人は他の参加者にアシガルマをけしかけている最中で、猛烈な勢いで遠くから迫ってくる三人にちょうど気付いたところだった。
「何あれ!?」
指差すと同時に、それがアシガルマを次々と蹴散らして迫る敵であることを認識したフブキは、着物の袖を振りかざしてブリザードを発生させる。強烈な雪と氷のつぶてが先頭のクドを襲うが、三人の勢いは全く落ちない。
「俺は大海のクド! あまねく全ての愛を! この懐で受け止めてみせましょう!!」
クドは避けるどころか両手を広げ、満面の笑みでブリザードを受け止める。雪だるマーでかなり冷気はシャットダウンされているものの、ダメージがないわけではない。だが、クドが攻撃を受け止めることで後ろの二人をノーダメージにすることができる。
「ふふふ、このくらい我々の業界ではご褒美よ!」
「き、気持ち悪い!!」
今度はツララが長さ1mほどのつららを発生させ、クド目掛けて次々と飛ばしてくる。そのうちの幾つかはクドをかすり、いくつかはクリーンヒットするが、それでも三人は止まらない。それどころか――
「ありがとうございます!」
と、クドは攻撃を受けるたびに律儀に礼を言い、宣言通りに全ての攻撃をその胸で受け止めているではないか。なんという懐の広さ、これが大海のクドの実力か!
「ほ、本当に気持ち悪い!!」
じりじりと後退しながらフブキとツララは戦慄した。一切の攻撃をしてこない相手の底知れぬプレッシャーを跳ね飛ばそうと、協力攻撃を仕掛ける。
「フブキ!」
「ハイ!」
ツララが作りだした超特大の氷柱、それをフブキがブリザードに乗せて弾き飛ばす二人の最強攻撃だ。もの凄い勢いで射出され、クドに向って一直線に飛んでいく氷柱。これを直撃してはさすがのクドと言えどもタダでは済まないであろう。
だが、迫り来る巨大な氷柱を前にしてもKKKはひるまない!
「ありがとうございましたー!!」
それが、クドの最後の言葉だった。
一瞬だけヘルファイアで矛先を変えるが、それでも特大の氷柱は頭部にヒットし、さすがのクドも耐え切れず激しくふっとんでいく。だが、すんでのところで雪だるマーを切り離し、それを鬼羅に譲渡するクド。クドは雪だるマーを失ったため救護施設にテレポートされた。
「ありがとう同志! クドの犠牲はムダにはしないぜえぇぇぇ!」
2番手につけた切がフブキとツララとの位置を測ると、もう少し距離がある。またあの攻撃を撃たれる前に接近しなくてはならないのだ。迷ってはいられない、ここで切はブーストを使うことにした。
「雪だるマー! ワイに力を貸してくれぇぇぇ!! 風のブースト!!」
雪だるマーが風の力を切に与える。途端に切のスピードがアップするが、だがまだ遅い。しかし、それでも彼にはまだ奥の手があった。
「まだまだ! 久しぶりの全力だぜぇ!!」
実は切は同じ冒険屋ギルドの朝斗とルシェンからあらかじめ雪だるマーの譲渡を受けていた。これにより切は3回のブーストを使用することができるのだ。そして切はその3回全てを自分のスピードアップのためだけに使用したのである。
3つのブースト強化を1回分に凝縮したその効果は凄まじい。常人では目で追うことすら適わない、まるで光の矢のようなスピードでフブキに到達する。
「この迸る愛を受けよ! 必殺!! 『ワイといちゃいちゃしてくださーい』!!!」
まさに【最速の白光】の称号に恥じぬスピードであった――目的がソレでさえなければ。実際のところ切のしたことは、猛烈なスピードで着物姿の少女にタックルして押し倒した、ということである。その相手は氷の彫像で、しかも敵だというのに。
あっという間にフブキに抱き着くことに成功した切は、そのまま小柄なフブキを押し倒し、全力でいちゃいちゃし始める。
「な、何!? 何コレ? なになになにー!?」
四天王として幾多の戦場を駆け抜けてきたフブキだが、こんな攻撃を仕掛けてきた相手は今までいなかった。
当たり前だ。
混乱している間にも切はフブキを力いっぱい抱き締めて頬ずりするのだった。
「ああー! なんという可愛さ! ちょっと冷たいけどそこがまたイイ!!」
「いやあー! 何コイツ頭おかしいよ!!」
だが、フブキは基本的に吹雪による遠距離戦がメインなので、その腕力ではなかなか引き剥がせない。しばらくの間、切に思う存分いちゃいちゃされてしまうフブキだった。
一方、一人残された鬼羅もまたツララに接近しようとしていた。だが、切のように雪だるマーが3つあるわけではないので、そこまでのスピードは得られない。クドから託された雪だるマーもかなりのダメージを負ってしまっているので、ブーストの効果も薄いだろう。だが――
「だがオレは愛のために!! 戦って勝つ!!」
鬼羅の根拠のない自信に押され気味なツララだが、攻撃の手は休めない。
「ええい、いい加減にしろこの変態がぁ!!」
次々と飛んでくるつららを辛うじて避けていくが、徐々にその攻撃がヒットし始める。ここを最後の勝機と見極め、鬼羅はブーストを使用した。
「いくぜ! 風のブースト!!」
スピードアップしながらつららの雨の中を一直線に飛ぶ鬼羅。攻撃がかするたびに身につけた衣服がちぎれ飛んでいく。防御のことなど考えず、自らも衣装を剥ぎ取り、足りないスピードを補うために少しでも重量を削ろうというのだ! これぞまさに神速の真髄!!
「その胸いただきぃ!! とどけえぇぇぇ!!!」
最後には雪だるマー以外の衣服は全て弾け飛んだ状態でツララにダイブする。まさに『羅刹の鬼羅』の異名に恥じぬ姿であった。
ちなみに裸説、とも書くらしい。
「アホかぁぁぁ!!!」
辛うじてツララに胸を抱擁しようとしたその時、ツララの左腕が鬼羅の胴体に接触した。ツララはその左腕一本を太いつららに変えて、押し倒されながらもゼロ距離から鬼羅に向けて射出する。
「げほぉっ!?」
自分の身体から生成したつららは、そこらの雪から作り出したものとは威力が違う。さすがの鬼羅も粉々になった雪だるマーごと吹き飛ばされて戦闘不能、自動的にテレポートされた。
そして、唯一の成功者に思えた切はというと――
「そんなにいちゃいちゃしたいなら、思う存分してあげるわよ!! そう、死ぬまでね!!!」
ささやかな胸に抱き付いていた切の身体が違和感を感じ――そしてそれを感じた時にはもう遅かった。
「お? おおお?」
徐々に身体がフブキにめり込んでいく。フブキは自らの身体を溶かし、切を融合して取り込もうというのだ! 雪だるマーのおかげでそれほど感じていなかった冷たさがダイレクトに肌に凍み込むようになってくる。
「おお、冷たい冷たい! マジでマジで!!」
ずぶずぶとフブキの中でひとつになろうとしている切。その冷たさもやがて、まるで聖母の抱擁を受けているかのような暖かさに変わり――
「あー、逆になんかすごい気持ちいいー。コレいいわー」
「危ないでスノー! 超危ないでスノー!!」
このままでは切の生命がリアルに危ないと感じた雪の精霊は、切を強制的にテレポートさせる。フブキと融合しかかっていた切が無理やり引き離されたことでフブキの身体を構成する氷が大きくえぐれ、予想外にそれなりのダメージを与えたようだ。
「最終的にはツララとフブキに大ダメージを与えることに成功したKKKです。真面目に戦っていれば二人ともとっくに倒せたのではないでしょうか」
と、小次郎はあくまでも冷静だ。
さて、自らの目的をある程度叶えたKKKのメンバーはというと。
あらかじめ雪の精霊にテレポート先として設定された救護室で満身創痍であった。全員もれなく凍傷、切り傷、打撲のオンパレードで、とてもではないが動ける状態ではない。
「こんなに大怪我するなんて……ここまで激しい戦いになるとは思いませんでした」
三人に包帯を巻きながら救護室に詰めていたクロスは呟いた。クロスはTVを見ていなかったのだろう、救護室に駆けつけたフレデリカとルイーザに即座に否定される。
「違うの。この三人が超弩級のアホなだけなの」
フレデリカの言葉に反論するクロス。
「そんな、こんなになるまで頑張った人に……」
だが、ふと右手を見るといつの間にかクドの手が両手でクロスの手を握りこんでいた。
「あ、ありがとうお姉さん……ところで、今日の下着の色は……」
「すみません、何となく分かりました」
「ご理解いただけたようで、何よりです」
ルイーザも三人を弁護する言葉が見つからない。というか、元よりする気もない。
「あーあ。せっかく作ったサングラサー達も無駄になってしまいましたね、フリッカ」
「そうね。おしおきしようにも、これじゃねえ」
三人は怒ったクロスに全身包帯でぐるぐる巻きにされていた。さすがにこうなってしまっては何もできずに、ムグムグと何事かを呟く三人だった。救護室の白衣の天使をナンパしている幸せな夢でも見ているのだろう。
「敵は弱ってるぞ! 今がチャンだー!!」
童子 華花が動かす雪像『オラ』はダメージを受けたフブキに無数の氷玉を発射する。名前が『オラ』なのはその雪像が華花自身を模して作ったものだからである。特にオリジナルの名前を付けなかったので、登録名が『オラ』になってしまった。ちなみに雪像を直接動かしているのは雪の精霊だが、その製作者は雪の精霊――雪だるマーとシンクロすることで、ある程度感覚を共有することができる。視覚情報や、作戦命令、照準の決定などである。製作者たちはバトルフィールド間近の観客席の最前列で応援しているが、雪の精霊と共に戦っているとも言えるのである。
もっとも、華花は今回の戦いを大規模な雪合戦大会程度にしか考えていないため、あくまでもお遊び気分だが。
「いけいけ、やっつけろー!! そこでブースト!!」
とは言え、お遊び気分で氷玉をぶつけられるフブキはたまったものではない。なんとか吹雪を発生させて抵抗するが、辛うじて目隠しできる程度だ。そこに華花の掛け声で氷結のブーストが発動した。空中に超巨大な雪玉を発生させて落とす「雪のゆりかご」だ。轟音と共に大量の雪が舞い上がり、『オラ』の視界が奪われてしまう。
「あれー? どこ行った? ……んー、見失ったか」
濃い吹雪に視界を遮られ、フブキを逃がしてしまった『オラ』。観客席の華花はキョロキョロとフィールドを見渡して言った。
「そういえば、あの二人が作ったやつはどこ行った?」
あの二人、とは同じくリカインのパートナーであるアストライトとシスフィスティのことだ。隣の席のリカインを見る。
「あれ? そうよね、二人とも頑張って作ってたのに……」
その時、観客席にどよめきが走る。
「おい、あの雪像すげえぞ!」
「ああ、あの動きはハンパじゃねえ!」
観客の視線を追うと、フィールドの一部分でかなり濃い吹雪に覆われて見えないところがあり、そては先ほどのフブキのものよりも濃い。だれかがブーストを発動したのだ。その雪と風の壁が徐々に晴れていくと、そこに一体の雪像が現れた。それは2mもあろうかという大きなアライグマの雪像で、何故か胸のあたりに氷で作ったドクロが据えつけられている。
「なっ……!!」
それを見た瞬間、リカインの表情がひきつったまま凍りついた。そのアライグマの雪像、名づけて『裸SKULL(ラスカル)』が両手を開くと、キレイにもぎ取られたアシガルマの首がごろりと転がる。氷結のブーストで視界を遮り、一気に頭蓋をもぎ取る荒業『野生の真髄』である。すでに2回目のブーストなのであろう、その足元には20個は下らないアシガルマの首が転がっている。裸SKULLは新たな頭蓋骨を求めて野生の咆哮を上げた。
「キュイィィィー!!」
同様の叫び声が、華花のすぐ隣からも聞こえた気がした。リカインだ。実は彼女の超感覚こそがアライグマだ。過去の事件や、仲間から色々とからかわれたことでそれがすっかりトラウマなってしまい、あまり公言はしていないが。
要するに、この雪像はアストライトの嫌がらせなのだ。
「ふ、ふ、ふふふふ」
氷より冷たい笑みを張り付かせながら、リカインはガッチリと怪力の籠手を装着し、パワーブレスをかける。そのままずんずんと観客席を離れていった。その横顔を笑い飛ばすのはパートナーのアストライトだ。
「うひゃひゃひゃひゃ! 見ろよあの顔! やってやった、やってやったぜ!」
心底おかしそうに転がりまわるアストライトだが、事情を飲み込めていないシルフィスティは目をぱちくりとさせるばかりだ。
「え、何がそんなにおかしいの? ってうわぁ!」
シルフィスティが驚くのも無理はない、一瞬姿を消したと思ったリカインが両手で超巨大な雪玉を頭上に持ち上げて、鬼の形相で戻ってきたではないか。ちなみに彼女はドラゴンアーツの使い手でもある。
「ど〜こ〜だ〜」
頭に角が生えていないのが不思議なほどの迫力。周囲に降り積もった雪もその熱気で溶け始め、陽炎となってリカインの怒りを表現している。
「わー!!!」
「あ、バカ!!」
あまりの迫力に恐ろしくなって叫び声を上げてしまうシルフィスティ。その声に反応してリカインがギギギと首を回して振り向く。
「そ〜こ〜か〜」
見つかった。今のリカインの視線に捕まることは、まさしく死を意味するのだ。
「わー、待って待って待って! フィス知らないよ! みんな喜ぶって言うから手伝っただけー!!」
アストライトと逃げながらもシルフィスティは叫ぶ。だが、その声は今のリカインには届かない。
「くらえー!!」
校舎の壁に二人を追い詰めたリカインは容赦なく雪玉をアストライトに向けて落としていく。
「うぎゃー!!!」
自業自得とはこのことだろう、アストライトはあっけなく巨大な雪玉の下敷きにされてしまった。巻き添えのシスフィスティについては災難であったとしか言いようもないが。
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