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三日目 part9 疲れを癒す気持ちのいいご褒美


 翌朝。昨日の嵐が別世界の出来事だったかのように空は晴れ渡り、島には鳥のさえずりが満ちていた。
 原住民の薬を投与してもらった泪はすっかり元気になって、生徒たちの前に立っている。
「皆さーん! 三日間お疲れ様でした! そして昨夜はありがとうございましたっ! 見事に実習を合格された皆さんに、疲れを癒す気持ちのいいご褒美があります!」
 なんだろう、と首を傾げる生徒たちに、泪は面白そうに笑う。
「それは見てからのお楽しみ! さあさあ、私にちゃんと付いてきてくださいねっ!」
 生徒を先導し、草原の方角へ進んでいく。
 伏せっていたとは思えないほど泪の動作は機敏だったが、生徒たちの足取りは重かった。合格したのはいいものの、慣れないサバイバル生活の疲れが溜まり、みすぼらしい姿になっている。
 草原から海の方に降り、原住民の村とは反対側へ。岩と樹木の密集する獣道を抜け、絶壁と海に挟まれた非常に細い道を歩いていく。案内されなければ、行ってみようとはとても思えない道だ。
 だがその先に待っていたのは。
「「「これは……」」」
 生徒たちは目を見張った。
 そこには、岩に囲まれた天然の露天風呂があった。広さは小学校の運動場ぐらい。白濁した温泉がこんこんと湧き上がり、辺りは白い湯気に満たされている。まるで棚田のように段々になっていて、各段も岩肌で幾つにも分かれている。
「三日間、水浴びは満足にできませんでしたし、昨日の雨で冷えたでしょう。しっかり疲れを癒してくださいね!」
 泪が告げると、生徒たちは歓声を上げて温泉へと走った。付近の林から木材を伐採して運び、協力して仕切りを作っていく。
 そんな中、ソランだけは作業を手伝わずにたたずんでいた。
 ハイコドに告白するなら今しかない。男女ごとに分かれてしまったらチャンスはないし、風呂が終われば帰還だ。みんなが密集していてハイコドが逃げられない今しか!
 ソランは意を決してハイコドに駆け寄る。
「ハイコド!」
「ん? なんですか?」
 木を運んでいたハイコドが立ち止まる。ソランは恥ずかしさに拳を握り、震える声で一気に喋った。
「私は君の事が好きだよ、前に言ったけど本当に運命の人って思ってる! だから、付き合ってくださいっ」
 衆人環視の大胆な告白に、生徒たちがどよめく。
 ハイコドの全身がかっと熱くなった。彼も恥ずかしくてたまらなかった。
 だからなにも言わず、気持ちを受け入れる証しとして照れ隠しのキスを。唇が重なり、ソランの瞳が大きく見開かれる。二人とも、これが初めての口づけだった。
 大胆な返事の仕方に、生徒たちはさらに騒然となる。

 いいものを見せてもらった一同は、ほこほこした気分になって男女別の温泉に体を沈めた。
 ルカルカは大きく息を吐く。
「はあーっ、生き返るわあー。まさかここで蜂が出たりしないわよね……」
「つまりそれは蜂を煮て食べたいということですね?」
 真面目な顔で問うナレディ。
「なんでそう判断したのよ……」
 小夜子は契約者の考えがいつもながら分からない。
「もう蜂は懲り懲りだわ」
 リカインは思い出して身を縮めた。
 ライゼはばしゃばしゃ水を跳ね上げてはしゃぐ。
「あれれー、淵ちゃんは? なんでこっちにいないのー?」
「なんでだろうな? 迷子になったのか?」
 垂が合わせる。

「聞こえてるうえ、わざとらしいぞ……」
 男湯の方では、淵が怒りに体を震わせていた。
 ザカコが首を傾げる。
「どうしてこっちにいるんですか?」
 カルキノスも追撃。
「そんなに男の裸に興味があったのか?」
「おまえたちもか!」
 淵はお湯を思いっきりぶっかけて復讐した。

「氷藍殿、まことにいい湯でござるな」
 幸村が笑い、氷藍がうなずく。
「ああ、こっちに探索に来ればよかったのにな」
「ダウジングで発見することもできたろうが、あまりに場所が違いすぎる」
 洋が首を振った。
「なんか筋肉痛になってるみたいだぜ……」
 つぐむは自分の肩を手で揉んだ。
「筋肉痛か。一度どういうものか経験してみたくはあるな」
 羨ましそうに見るガラン。
「ったく、あいつが浮かれたカップル予備軍だったとはな」
 ネルソーはつぶやいた。
「まあまあ、姐さんを祝福してあげてください」
 信が微笑した。

「やっとまともなお風呂に入れました……」
 椿は目を閉じてリラックスする。
「泉と海で体を洗うぐらいしかできませんでしたものね」
 みとはお湯を手の平にすくって眺める。
「天音とブルーズは別かあー。仕方ないけどさ……」
 ヨルはちょっと不満げである。
「ワタシはつぐむ様と一緒に入るんです! 放してください!」
 女湯を必死に脱出しようとするミゼを、
「そんなこと許すわけないでしょー!」
 真珠もまた必死に捕まえている。

「ふう……。これはひとときの休息だな」
 マクスウェルは湯に体を伸ばした。
「ローマにも公衆浴場はあったが、これほどのものは珍しいな」
 プッロが感嘆した。
「ヨーロッパにこんな感じの温泉があったよな。どこだったか……」
 一輝は思い出せずにもどかしい。
「今度はヨルと三人で釣り旅行に行くのもいいかもね」
「だな。そのときは我がもっと完成度の高い釣り竿を作ってやろう」
 天音とブルーズは湯を楽しみながら語り合う。

「あー、桃花と一緒に来たかったわー」
 郁乃が空を仰いでつぶやいた。
 灌がメイド服コスプレに尋ねる。
「ビデオカメラは持ってきてないのですか?」
「ミーだってポリシーはあるヨ。裸はアウトネ」
 メイド服コスプレは偉そうに胸を張った。

 加夜が不思議そうに尋ねる。
「先生、それはお風呂でも外さないんですか?」
「一心同体ダカラネ!」
 カナは福ちゃんをここまで持ち込んでいた。
「ふーっ、蒸れたッスー」
 ミミはクマの着ぐるみを脱いでウサギのヌイグルミの姿になっている。
「生活の要はやっぱり水よね!」
 詩穂はにこにこしながら髪を洗う。
「水はしばらく見たくないと思いましたけど、お湯なら大歓迎ですわ」
 クロスフィールドは詩穂の背中を布で擦ってあげていた。

「この温泉の主成分はなんでしょうか。気になります」
 湯に浸かりながらも興味津々の春美。
「ふわー、ぽかぽかー」
 ディオネアはうっとりして水面に浮かんでいた。
「クラーケンと戦ったあと、ここに入れたら良かったんですけどね」
 ヒルデガルトは長い髪を湯に漂わせている。
「帰りはちょっと寒かったもんねー」
 あゆみはまだ塩っ気の取れない腕を手の平でさすった。
 セレンフィリティはクラーケン戦を脳裏に再現する。
「あのイカスミ、なかなか美味しかったわよね!」
「普通、戦いの最中にそんなの味わってないわよ……」
 セレアナは恋人のマイペースぶりにため息をつく。

「天音、いろいろしてあげるからこっちに来なさいよ」
 紅凛が手招きすると、天音は断固として首を振った。
「せめて『なんにもしないから』と言って欲しいです!」
「いつも大変ですね……」
 ブリジットは離れた場所で傍観している。
「お姉様とお風呂、嬉しいです!」
 イヴは既に紅凛と肩を寄せ合ってご満悦だ。
(こういう世界もあるのね……。オカマのスコルティスが男湯に入るのは倫理的にどうなのかしら……)
 美苗は紅凛のハーレムを眺めて考え込む。
(むむむ……。まさかお風呂にまで獣が忍び込んだりしないですわよね……?)
 リリィはまだ昨夜のことが頭に残っているようだ。

「ご褒美が金銀財宝ではないだと……そんな馬鹿な……」
 ブラッキュはショックを受けつつも気持ち良さそうではある。
「名湯じゃのう……極楽、極楽……」
 アキラは表情までお爺ちゃんみたいに弛緩しきっていた。
「くそう、なぜ混浴ではないのだ……」
 河馬吸虎は不満げに顔をしかめた。
 サイは女湯の方を見て拳を振り上げる。
「おいおい、ここで覗かなきゃ男じゃねぇだろ! 俺は行くぜ!」
「やめとけ……。向こうには恐ろしいハンターがいる」
 周はリリィへの恐怖がまだ抜けきっていなかった。

「気持ちyyyyー」
「り・りさん、温泉に混ざったらいけませんよ」
 り・りの体が水中に広がっていくのを見て、ラムズが注意した。
「のぞき音頭〜のぞき音頭〜お風呂でうたへ〜♪」
 薫は上機嫌で幸せの歌を熱唱する。
「原住民の奴らも呼びたいな」
 康之は大の字になって伸びをした。
「案外、あいつらは知ってそうな感じもするがな。原住してるんだし」
 某が指摘した。
「嵐のことも勘付いてたしな。科学なんてないのにたいしたもんだぜ」
 皐月は感心しながら、頭まで沈んで全身で湯を味わう。
「『疲れを癒す気持ちのいいご褒美』ってのはこれだったかー……」
 総司は原住民の女の子のことを思い浮かべた。
「あぁっ、美少年に美青年の裸体がたくさん……。ここはユートピア? それとも幻? ワタシ、きっともうすぐ死ぬんだわ……」
 スコルティスは歓喜に打ち震えている。

「やっぱり具合悪かったんじゃない。無理しちゃ駄目よ、先生。もうお風呂入って平気なの?」
 幽那は泪の体調を気遣った。
「そうですよぉ。大事を取った方がいいですぅ」
 明日香も心配そうに泪を見る。
「もう完璧に元気ですよ! それに、暖まった方がかえって良さそうですし!」
 泪は明朗な笑顔で二人を安心させた。

担当マスターより

▼担当マスター

天乃聖樹

▼マスターコメント

初めまして。シナリオを担当させていただきました、天乃聖樹です。
新人マスターに辛抱強くお付き合いくださり、感謝の念に堪えません。
個性的なアクションが多く、どれも楽しく拝見させていただきました。

野牛狩りは、十人メンバーが必要なのに対し八人で戦われましたが、直接対決を避けたので成功しました。
ヌシ釣りは、十人必要に対し九人。ガチバトルだったため完全勝利とはいかず、ゲソ九本の獲得となりました。
全体としては食糧も足り、生存に必要なアクションも満たされたので大成功です。
三日目のパートで生徒たちがご褒美をもらっているのでそちらもご一読ください。

機会があれば、またご一緒させていただきたければ幸いです。
この度はまことにありがとうございました。
こういうシナリオがあったらいいな、等のご意見がございましたら、気軽にお寄せください。