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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

リアクション


【五 再出現】

 白竜が受けたアロコペポーダの攻撃力に関する情報が、再度管制室から、孝明による一斉同報にて各コントラクター達に通達された。
 最上層と上部第二層からの脱出は何とかなりそうだが、下部第三層と最下層は、極めて深刻な状況に置かれているといって良い。
「う〜ん……展望塔に戻った方が良いかなぁ?」
 空京バーチカルビューランド備え付けの小型飛空艇を借り出し、メガディエーターの捜索に当たっていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)であったが、アロコペポーダなる新たな脅威の出現に、このまま継続してメガディエーターを追うべきかどうか、真剣に悩んでいる素振りを見せた。
 が、真面目なのはその端整な顔立ちだけである。
 いや、本人は本当に真面目なのだが、その服装を見ると、どうにも本当に真面目なのかどうか、誰の目から見てもいまいち判別出来ない。
 というのも、今のセレンフィリティは布面積の極めて小さいビキニ姿であり、どう考えても空中戦に臨む者の格好ではない。
 パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)などは、寒くないのかと本気で心配する有様であった。ところがセレアナ自身も、何故かワンピースの水着という格好であり、最早どっちもどっちの様相である。
 だが、セレアナもセレンフィリティと同様、メガディエーター捜索に対しては、実に真面目な気分で臨んでいる。決してふざけているつもりは無かった。
「で、どうするの? 獲物は空と塔内のふたつ。二兎は追えないわよ」
「分かってるけどさぁ……」
 ふたりして小型飛空艇を停止し、ホバリング状態で宙空の中に浮遊していると、浮島方向から見覚えのある顔が飛んできた。
「あら、おふたりさん。どうしたんですのぉ〜?」
 宮殿用飛行翼で飛翔するレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と、自前の翼で滑空するミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の両名であった。このふたりとセレンフィリティ達は、同じシャンバラプロ野球機構傘下の球団に所属していることもあり、友人という程でもないが、それなりに顔を見知っている間柄である。
「セレンたら、さっきのアロなんとかの情報を聞いて、迷ってるのよ」
 肩を竦めながら、セレアナが正直にセレンフィリティの悩みを口にした。その間もセレンフィリティは腕を組みながら、うんうんと唸っている。
「でも、避難誘導にも結構な数のコントラクターが動いているみたいだから、任せておいても良いんじゃないかしら?」
 ミスティの指摘も一理ある。
 が、何事にも万全の対処をしたいと考えるセレンフィリティとしては、ここはどうしても悩みどころになってしまうようであった。
「あぁ〜、そういえば」
 不意にレティシアが何かを思い出したかのように、水平にして上に向けた左掌に、右の拳をぽんと置いた。
「ルカさん達から、調査報告が来てますのよねぇ」
「あら、どんな?」
 悩んでいるセレンフィリティを尻目に、セレアナが若干身を乗り出すような格好で耳を傾ける。
 曰く、あの巨大鮫には、高度な意思や判断力などは欠片も無かった、というのである。
 ただとにかく、特定の存在に対する闘争本能と、貪欲なまでの食欲だけで生きており、いってしまえば普通の人喰い鮫と何ら変わらないのだという。
 但し、圧倒的な戦闘力と規格外の巨体という点に於いては、そこらの魔物やドラゴンなどよりも、余程たちが悪いとの分析結果も添えられていた。
 ちなみにあのメガディエーターの全長だが、記録した映像から調査したところ、どうやら40メートル近くあるらしい、というのである。
 普通メガロドンの全長はどんなに大きくても15メートルぐらいまでなのだが、矢張りメガディエーターは元々が改造生物兵器なので、かつて存在していた古代生物の規格は当てはまらない、と考えるべきであろう。

 レティシアがルカルカから得た内容とほぼ同じ情報が、別の空域を捜索している月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)の元にも寄せられていた。こちらの情報源は、ルカルカと同行していた理沙であった。
「ふぅん……やっぱりあの怪物は、元を辿ればただのお魚さんと同じって訳ね」
「にゃにゃにゃ! それならもう遠慮なく、ばくっといっちゃって良い訳にゃ!」
 ペガサスの背に跨り、ひとり興奮しているミディア・ミル(みでぃあ・みる)が、猫そのまんまの容姿のその口元から涎をだらだらと垂らし始めた。
 対するあゆみは、強化光翼とロケットシューズで宙に浮いている為、全身が自由に使える。それはつまり、ピンクレンズマンの決めポーズが、大空でも自由自在という訳であった。
「よぉっし! 愛のピンクレンズマンが、展望塔のひと達を平和へと導くよ!」
 右手を腰に当て、左拳を突き上げる仁王立ちポーズでひとり気を吐くあゆみだが、そのすぐ傍らから、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)が物凄く申し訳無さそうに、おずおずと声をかけてきた。
「あのう……あゆみちゃん」
「ん? な〜に?」
 左手の方向に、陽気な仕草でくるっと振り向くあゆみ。満面の笑顔である。
「気合十分なところ、申し訳、ないんですけどぉ」
 いいながら、日奈々があゆみの右手側、即ち今は背後になっている方向を指差した。
「その……居るんですけどぉ」
「はいぃ?」
 裏返った声で応答しつつ、いわれるがままに振り向いてみると、すぐ目の前に、雲を割って飛び出してきた巨大な空洞が迫ろうとしていた。
 その戦艦並みの大きな鼻先が上向き、上下に開いた顎からは、鋭く巨大な歯列が並ぶ白っぽい色合いの歯茎がせり出してきていた。
「ぎにゃ〜!」
 妙な悲鳴をあげながら、あゆみは慌てて転進し、今まさに閉じられようとしている牙のシャッターから辛うじて逃げ延びた。
 参考までに言及しておくが、メガロドンの噛む力というのは、古生物学者の研究によれば20トンにも達するといわれている。これは、ティラノサウルスの3トン強を遥かに上回る破壊力であり、具体的にいえば、大型トラックを一噛みで噛み潰してしまうという程の威力になる。
 だが、ここに現れたのはサイボーグ化された巨大鮫である。その顎の力はメガロドンの比ではない。恐らくダンプカーぐらいは軽く食い潰す程度の破壊力があろう。
「で、出た〜! お魚にゃ〜!」
 ミディアの目の色が変わった。その一方で、あゆみは左の手の甲に罵声を浴びせながら滑空を続ける。
「こ、このスカポンタン! レンズのくせにあんなに近づかれて、何考えてんのよ!」
 いかがわしさ大爆発のピンクレンズマンが、パチモンのレンズを叱責する構図は、ある意味、シュールでさえあった。
 それでも必死にメガディエーターの追撃にかわすところは、さすがである。だが、見ている側としては奇妙な光景であった。
「ちょっと前に、こういう似たような感じのコメディー番組を見たよね」
 若干呆れ気味に、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が呟く。
 しかし、いつまでも呑気に眺めている訳にもいかない。日奈々と千百合は即座に猛スピードで上昇し、メガディエーターの頭上数十メートルの位置を取った。
 と思った次の瞬間には、ふたり揃って下降を始める。ほとんど自由落下に近い高速であった。
 ふたりの目前に、メガディエーターの巨大な頭部が見る見るうちに接近してくる。
 向かい風が強烈で、息も出来ない程ではあったが、まるで気にかけた様子もなく、日奈々と千百合の小さな体躯がどんどん急降下していった。
 途中、日奈々は僅かに軌道を外し、メガディエーターの胸鰭付近を通過して一気に下降していった。そのすれ違いざまに、雷撃の破壊力を叩き込んでいた。
 一方の千百合は、拳に全エネルギーを集中させメガディエーターの脳天に当たる位置に激突した。
 手応えはあった。
 凄まじいまでの衝撃が、肩を伝わり、全身を痺れさせる。それでも千百合はそこには留まらず、すぐさま転進して上昇を始めた。
 メガディエーターの動きに、変化が生じた。それまで執拗にあゆみを追っていたのだが、すっと向きを変えると、再び高い濃度で天空に舞う雲海の中へとその巨体を突っ込ませていったのだ。
 効果はあった。少なくとも、撃退には成功した。
 だが、それでは意味が無いのも事実である。ここで倒し切れなかったということは、再び空中展望塔への攻撃が発生する可能性がある、ということでもあった。
「よぉっし、今度こそ名誉挽回よ! 絶対に見つけてみせるんだからね! クリア・エーテル!」
 いつも以上に気合を入れて、雲海沿いに飛翔を始めたあゆみ。
「ま、待ってにゃ〜!」
 その後を、涎が尾を引くミディアが追いかけてゆく。
 日奈々と千百合はというと、やれやれと肩を竦めながらも、あゆみとミディアの後に続いた。