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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第7章 ――いろいろな意味でしばらくお待ちください――

「ん? 『ホレグスリ』……?」
 海の家の近くを歩いていた時。
 ミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)はとある売店の前で足を止めた。見間違いではない。メニューに確かに『ホレグスリ』の文字がある。そこで、ハルカちゃんが笑顔で声を掛けた。
「いらっしゃいませー」
「これ、ホレグスリって、本物?」
「はいー、むきプリ君直伝です、本物ですー」
 どうしようかな、と、ミヒャエルは思う。いつもはむきプリ君から直接貰っているわけだが、予備としていくつか持っていてもいいかもしれない。
「ありがとうございましたー」
 結局、何本か買ってまた歩き出す。浜では、神無月 勇(かんなづき・いさみ)がぼーっと海を眺めているし、そちらに戻ろうとした時――
「あ」
 彼は、むきプリ君を発見した。

 飾り鎖に拘束されたまま、むきプリ君はアーデルハイトのコスプレ姿で転がっていた。なんだかもう、既に犯罪の域である。というか犯罪である。
「ムッキー! 何があったんだ!?」
 そこに、ミヒャエルが浜辺にいた勇を引きずってやってくる。むきプリ君は2人を見て、少し思考力を取り戻した。
「お前達は……」
 かつてこの2人に――自主規制――され、空京のホテルで別のカレに――自主規制――されて更に警察に捕まりかけたところを助けられた。警戒すべきなのかフレンドリーにすべきなのか、何とも判断に困るコンビである。
 ちなみに後者では、――自主規制――はされていない。
 ミヒャエルはむきプリ君を飾り鎖から開放し、言う。
「ムッキー、僕達は友達だ。いや、親友だ! さあ、何でも話してみなよ。浜辺に行こう」
「友達、親友、だと……?」
 だがむきプリ君も人の子だ。友達という言葉には弱い。勿論、それを手放しで受け入れて警戒を解くことはないが、話をしてもいいか、という気になった。いや、むきプリ君自身が誰かに話をしたかったのだろう。誰でもいい。この際トーテムポールでもいい。でもトーテムポールだと悲しさが増してハートが涙で溢れそうだから言語の通じる人の方がいい。
「休憩? ああ、好きにするがいい。このまま戻ってこなくてもいいぞ。営業妨害だ」
 休憩を申し出ると、闇口からそう言われて3人は浜辺に行った。むきプリ君はハートが涙で溢れた。
 だがむきプリ君も人の子だ。勇の状態が多少気になりながらも、ビニールシートの上に座る。するとミヒャエルは、慰めるように彼の肩をぽんと叩いた。
「ムッキー……。魂云々をMSが優先した結果登場が皆無になり、あまりのモテなさっぷりに陰で枕を濡らす日々が続いていると聞いた。辛い毎日だったんだな……」
「な、なぜそれを……!!!」
「なぜ? そんな細かいことはいいじゃないか。今日もその格好……、どうしたんだ?」
「あ、ああ、そうだ聞いてくれ! 今日はプリムに呼ばれたんだが……」
 むきプリ君はかくかくしかじかとこの半日ばかりの出来事を細かく話した。ついでに、この前の花見時のことも一通り聞き、ミヒャエルは優しく彼に言う。
「そうか……でも、そんなに落ち込むことはないよ。ムッキーには凄い才能があるじゃないか。新薬を作るという才能だ!」
「さ、才能……だと?」
「そうだ、ムッキー、勇の治療に使いたいから安心薬を貰えないか? それと、勇の精神を治す為の特効薬の処方を頼みたいんだ」
「特効薬……?」
 褒められ、更に薬の製造を依頼されてむきプリ君は驚いた。しかし、ミヒャエルに彼をからかっているような雰囲気はない――ように見える。どこまで本気なのかは本人にしか分からないが……。
「今ある薬じゃあきっと一時しのぎにしかならない。大丈夫、ムッキーなら出来るはずだ!!」
「あれは……ネッシー……?」
 波打ち際の夜刀龍がそう見えたらしく、勇はぼーっとしたまま抑揚なく呟く。さっきは1人「とうしん……」と言っていたような。
「……俺が、こいつを治す為の新薬……」
 驚きすぎて呆然としていたむきプリ君だったが、やがて目にやる気を爛々とみなぎらせて無駄に立ち上がり、無駄に叫んだ。
「分かった! 作ってみよう! まずは安心薬だったな!」
 そうして、アーデルハイトコスのローブに手を入れ……入れ……
「クスリが無い!!!」
「えっ!?」
 その言葉には、流石のミヒャエルもびっくりした。むきプリ君ともあろう者が、クスリを持っていないなんてことがあるのだろうか。
 あるのだ。
「そうか、着替えさせられた時にバッグも剥がれ海の家に置きっぱなしに……!!」
 渡る世間から鬼が来そうな説明口調であった。

「おぉ……!! あったぞ! 俺のホレグスリよ、無事だったか……!!!」
 海の家に戻り、むきプリ君はホレグスリと安心薬の入ったショルダーバッグを我が子のように抱いてむせび泣き始めた。そんなに大事なのか。家にもあるだろう家にも。それから、追いついてきたミヒャエルに安心薬を渡す。
「安心したら喉が渇いたな。飲み物は……」
「じゃあ、これを飲みなよ」
 ミヒャエルは、スポーツ飲料のボトルをむきプリ君に渡した。先程、ハルカちゃんから買ったホレグスリを入れておいたものだ。むきプリ君は、何も疑うことなくごくごくと中身を飲み干した。そして、後味に何か親しみのある違和感を覚える。
「む? これは……」
 その隙に、ミヒャエルは彼の巨体を後ろから押し、熱い砂の上に転がした。
「うおお熱い! 何を……、を……」
 抗議をしようと顔を上げたむきプリ君は、ミヒャエルの顔を正面から見た途端にとろんとなった。製造者すら、何度飲んでもホレグスリに耐性は出来ないらしい。
「勇、吸精幻夜だ!」
「…………」
 言われるままに、勇は光を失った瞳でむきプリ君を見つめ、胸板に歯を立てて血を吸った。むきプリ君は、ますますとろんとなる。
「ムッキー……。キミも私を裏切るのか? やはり、筋肉がある相手の方がイイのか?」
 幻惑の力と、ミヒャエルにほれてしまった骨抜き状態の中で、彼はそんな声を聞いた気がした。言った本人――勇もまともな脳内ではないのだが。
「辛いことも苦しみも快楽に変えれば楽になれるさ……」
 甘く囁くように、ミヒャエルが言う。彼は筋肉の江戸っ子よりもテクが上だと証明したいらしいのだが――それはもしかしたら、新しい扉への悪魔の囁きだったかもしれない。

 やがて、3人は海の家近くの茂みへと消えていった。

              ◇◇◇◇◇◇

「夏です、海です、ホレグスリですっ!」
「うわあひな、いっぱい貰ってきたねーっ!」
「むきプリ君は気前がいいのですよー」
 むきプリ君達とはまた別の一角、人気のない場所では久世 沙幸(くぜ・さゆき)桐生 ひな(きりゅう・ひな)の貰ってきたホレグスリを見て歓声を上げていた。ピンク色の小瓶が、砂の上に山となっている。砂山ならぬホレグスリ山である。瓶が太陽光を反射して大変美しい。
 ちなみに、ホレグスリ山の隣には日焼け止め液状タイプ(大)が数本あった。透明容器に入っていてこちらも大変美しい。
「やっぱり、海といえば日焼け止めだよね。久しぶりの海水浴だし、クスリの勢いに任せて塗り合いっこしちゃおう!」
「海水浴っていっても、海には入ってないですけどねー」
「そ、それは言わないお約束だよっ」
「では、ホレグスリを全部飲んじゃいましょー。まずは一気にとろっとろに出来上がるのが大事です〜。さゆゆ、行きますよ〜」
 そうして、ひなはホレグスリ瓶の蓋をきゅぽっと開けた。

「沙幸さんったらわたくしたちを置いてひなさんと遊びにいくだなんて……」
 その頃、藍玉 美海(あいだま・みうみ)ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)と一緒に浜辺を歩いていた。彼女達は、以前に空京でのホレグスリ騒ぎの時に置いていった、と沙幸達をシチューの出汁にしたことがあったが、そんなことは気にせずまたもや置いていかれてしまったのだ。
「また妾達を置き去りにして行くとは許さないのじゃっ! 痛い目を見せてやらぬといかぬのぅ。美海もそう思うじゃろ?」
「もちろんですわ、ナリュキさん」
 そんな事を話しながら歩くことしばし。2人は、密着してホレグスリを飲ませあっている沙幸とひなを発見した。既に、かなり気持ち良さそうだ。
「ほら、やっぱり2人だけで盛り上がっていますわよ」
「……人気の無い場所という事は、大方日焼け止めの塗り合いじゃな」
 美海も、ナリュキと同じ事を考えていた。そして確認する。
「わかっていますわよねナリュキさん?」
「うむ。おっぱじめる前にこっそりと、日焼け止めを菜種油とすり替えてやりゅ」
「ええ。2人に気付かれないようにやってしまいましょう」
 息ぴったりとは正にこのこと。美海とナリュキは海の家に行って菜種油をゲットした。焼きそばやバーベキュー用に油も何種類か置いてあったらしい。交渉は必要だったが、割と簡単に陥落できた。
 散乱するホレグスリの空き瓶に混じって置いてあった日焼け止めをすり替える。クスリに夢中で、ひな達は気付く素振りもない。いや、気付いたかもしれないが気にしていない。
「炎天下の下、太陽光でじっくりと焼かれてしまってくださいませ」

 からんっっ。
 最後のホレグスリを空にして、頭の先から足の先までとろんっとろんになったひなはほやほわと笑う。
「いつもながら、かいほうてきな気分です〜。この焼ける様な夏の日差しに負けない位、熱い絡みをしちゃうのですっ」
「うん、いろいろと楽しんじゃおう」
 沙幸は油をいっぱい手に取って、やさしくひなの肌に塗りはじめた。思ったよりぬめりがあっても気にしない。
「ますますいい感じなんだもん……」
「ぬりぬりですね〜」
 やさしい手つきで、水着の中までくまなく油でコーティングしていく。ひなも沙幸の水着の内側に手を入れ、ふんだんに塗りつけていった。
 甘い高揚感の中で2人は盛り上がり、上から胸にたっぷりとたらす。
 湯水のように油を使い、全身をこすり合わせて絡み合う。
 水着は必然としてもう脱げていて。
「いつのまにか脱げちゃったけど……そんなの些細なことだよね」
「身体重ねて隠すので無問題ですっ」
「ねぇ、一緒に気持ちよくなろっ♪」
 快楽を求めて敏感になった所やもっと敏感な所を弄り合い、擦り合う。
「欲望に身を任せて溶けちゃうしかないです〜」
 2人は、貪る様に深いキスをして――
 やがて、果てて太陽の下で眠ってしまった。

「……妾達の出番じゃな」
 遠くで様子を見ていたナリュキと美海は沙幸とひなの元まで行き、彼女達を見下ろした。ローアングルから見ると逆境でよく見えないが、あまりお目にかかりたくない類の笑みを浮かべている。
 沙幸達が絡まったままの状態で、きっちりとロープで縛り上げる。
「ふふ……両面海辺焼きですわね」
「油でてかてかなら間違い無くこんがりじゃ。満遍無く焼ける様に調整するぞぇ」
 シートの上で、固定された彼女達を適宜ひっくり返して焼いていく。……網の上で魚を焼いているかのようだ。
 何度かひっくり返したところで、ひながまず目を覚ました。
「う、動けないです〜」
「あ、あれー? ひな、なんか私達焼けてない〜?」
「日焼け止めを塗ったのにおかしいですね〜」
 呂律はまだおかしいが、大量のホレグスリを飲んだのに寝て起きたら割と正気、流石である。
「妾達を置いて楽しんだ罰なのじゃ。焼いて干物になったら、持ち帰って食べるのじゃー」
 慌てる彼女達に、ナリュキがほくそ笑む。その笑いに、ひな達はやっと事情を悟り、ますます慌てた。
「ご、ごめんなさいですよ〜」
「もうしないからほどくんだもん!」
「こんがり焼きあがった後は……わたくしたちがいただかせてもらいますわ」
 しかし、美海達に2人を解放するつもりはないようだった。謝ってもやめない。だって、お仕置きだから。
「ふふっ、今夜は寝かせませんわよ」
 そう言って、美海は妖艶な笑みを浮かべた。