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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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【4章】

「お宝―お宝どこかに落ちてませんかー。むしろ歩いて来てくれてもいいですよー」
千鶴 秋澪(ちづる・あきれい)はきょろきょろと洞窟内を探索していた。盗賊等が出没するから危険だという噂が広がっていたこの洞窟だが、それなら盗賊より前にお宝をこの手にしようと秋澪は思って来たのだ。
万が一怪しまれたとしても、今生徒たちがこの洞窟に何人も来ているらしいから、その中に紛れ込んで話を合わせれば問題無いし、盗賊と同類扱いされることもないだろう。
「はっ……お宝!」
 噂をすればなんとやら。岩陰から粒丈のラインストーンが入った赤いリボンが目に入る。もしかしたら誰かが落としていった高価なものかもしれない。
 そう思って手をのばすと、突然それが動き出したからびくっと驚いてしまった。
「……誰? お姉さん」
 岩陰をのぞき込むと、小さな女の子がしゃがみこんでいた。お宝かと思ったリボンはこの子の髪飾りで、子供が付けているものなのだからフェイク品だ。
「こ、子供? なんでこんなところに……」
 戸惑いながらも女の子を見下ろす。しゃがんで同じ目線になってみると、「おねえちゃん学校の人?」と上目遣いで聞いてくる。
「そうだけど……もしかして迷いました?」
 女の子はこくりと頷く。子供をないがしろにするのもしゃくだし、参ったなと思いながらも、他生徒が見つかるまで手を繋いで歩く事にした。
「一緒に誰か探しましょう。こんな暗くて足場が悪いんじゃ、危ないから」
 ゆっくり歩いていると、盗賊が落としたらしき高価な時計を見つけ、即座に広い取る。慌てて「悪い奴らから高価なものを守ってるのです」と弁解した。



「あ! 見つけた、リボンの子!」
永井 託(ながい・たく)は洞窟内に声を響かせる。探している女の子が偶然見つかったので指さした。目立つリボンだったので、覚えやすかった。
「お兄さん!」
 たたたっと女の子は託と雫澄に向かって走っていく。
高峰 雫澄(たかみね・なすみ)はパペットを取り出して、「もう大丈夫だよ」と女の子を迎えた。
「さっきあっちの岩陰に隠れていたんですよ」
「この子はぐれちゃって、盗賊が追ってくる時にとにかく走れって。そしたら道間違えちゃったみたいなんだよねぇ」
 託は軽く経緯を説明する。
「見つけてくれたのが盗賊じゃなくて助かったよ〜」
「そうですか。なら良かった。それじゃあこの子は任せます」
「任せて! そっちも一緒に来る?」
 雫澄はパペットを動かして秋澪も誘ってみるが、「いいや」と首を横に振る。
「お姉さん、もう行っちゃうの?」
 背を向けて歩く秋澪に、女の子は呼び止める。
「私は仕事がある。無事外で会ったら、綺麗なお宝をあげましょう」
「うん! 約束!」



「なぁなぁ、そのお宝と俺の、交換してくんねぇか?」
「あ”? 何だ兄ちゃん」
獣 ニサト(けもの・にさと)は人攫いと思わしき男を発見した。ニサトのお宝センサーが人攫いの持っているものは貴重品だと察知したらしい。
「いやね、俺の持ってるお宝の方がぶっちゃけてめぇのよりランク高いわけよ。でも俺が欲しいのはてめぇのお宝ちゃんなわけ」
「へぇ、兄ちゃん見る目でもあるのか」
「こう見えても色々かけずり回ってるから、目利き良くなっちゃってな。悪い話じゃないと思うけど、おっさんどうする」
「決める前に、そっちのお宝見せてくんねぇか」
「もちろん。ほら、これだ……っ隙有り!!」
 自分の獲得したお宝を一瞬見せ、人攫いが油断した隙にニサトは刀で攻撃する。人攫いは一撃で気絶し、持っていたお宝は全て頂くことにした。
「よし、人攫い成敗したぜー! お礼としてきっちりこれは貰っていく!」
 やりぃ、と拳を握ったところ、どこからともなく「お宝発見ーっ!!」とロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)がニサトに足蹴りをしてきた。
「痛ぇ! 何すんだよ」
「何するも、このお宝は俺が頂く」
 足蹴りされて手離してしまったお宝は、いつの間にかロアの手にあった。ニサトは負けじとロアに食らいつく。
「逃がすか! これは俺がゲットしたもんだぜ!?」
「そこを狙ってたんだよ、馬鹿が。俺が興味あるのはお宝だけ……レヴィシュタール、お前も手伝え!」
 ふん、と鼻をならしながらロアは言ってのける。二人とも力は五角ぐらいで、お宝を離そうともしない。
ロアのパートナー、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)はやれやれと苦笑した。
「面倒だからそこの青年にあげてしまえばいいと思うのだが」
「なんだか知らないがそっちの奴はいい奴じゃねぇか」
「何言ってる! お前俺のパートナーだろー!?」
 仕方ない、とため息をついて、レヴィシュタールはニサトを後ろから羽交い締めしてひっぺがす。
「卑怯だぞ二人係で!」
「卑怯も糞もあるかよ。行くぞレヴィシュタール」
 ぎゃんぎゃん喚くニサトなど放って置こうとした二人だが、「そこの3人待ちなさい!」とアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が向かって来た。
「あなたたち人攫いね!」
「いや、洞窟を探索に来ただけで決して怪しいものでは」
「そうそう、俺たちお宝探しに来たわけで、人身売買とか本当興味ないし」
 弁解しようとするが、アリアはブライトグラディウスを向けたまま下ろそうとしない。
「お宝って、盗賊なことには変わりないでしょう。可能性は捨てきれないし。さぁ、盗品をそこに置いて」
 そう言われても、素直に従う男共でも無かった。
「金銀財宝よりイイお宝発見しちまったじゃねぇか。可愛い子も宝石の一つだぜ?」
 ニサトはにやりと笑い、起き上がると、アリアの肩を引き寄せた。
「きゃっ! 何するの!」
「じゃあ、お前にはそのお嬢ちゃん譲るよ。出口の近道教えてやるし」
 ロアは金品は頂く変わりに、アリアの身柄を譲り出口まで案内してあげることにした。単純なのかニサトもすぐに同意する。
「よし、合理的だな」
「どこが合理的よ! 離しなさいよーっ……うう、こんなの有り得ない」

「どうしたのこのお嬢ちゃん」
 田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)はニサトの別行動から戻ってくると、ニサトが抱えて気落ちしたアリアをつつく。
「お宝ー」
「へぇ、私の飲み仲間に良いかも」



「人攫いは? さっき声がしたと思ったんだが」
斎賀 昌毅(さいが・まさき)は人攫いたちの手掛かりを追っていた。狙っている子供や、盗品の目的を調べれば、一気に捕まえられる。救出班とは別れ、こちらは調査班の役割だ。
「待ちたまえ、那由他がせっかく探してやってる時に急かすことはないだろう」
阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)は、トレジャーセンスを発揮してお宝の有りかを探す。
「あ、あったぞ! 前方50メートル右折なのだよ」
 那由他の誘導に、昌毅も付いて行くとその場に人の気は無いものの、人攫いが落としていったと見られる盗品が見つかった。
「こんなもの落としたら気づいて戻って来るだろうにな」
「うむ。那由他も不自然だと思う……。よっぽど目先の物が気になったのだろうな」
 チャラチャラ、と音を立てて貴金属の盗品を、昌毅は保管袋に入れる。岩陰から、ガルル……と人ではない息遣いが聞こえた。
「え、まさかモンスター……?」
「後方2メートルに何か現れ……」
 恐る恐る後ろを振り返ると、意外にも大きなモンスターが立ちはだかっていた。ぎゅっと武器を握りしめる。人の臭いか、貴金属の響く音に反応したかは不明だが、二人の方にゆっくりと近づいてくる。
「そこの二人、退いてください!」
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)はモンスターを追いかけて来たようで、モンスターに魔石で殴りかかる。キシャーッと叫び声を上げたモンスターは一度よろめくが、一撃では倒れてくれないようだ。
「そのモンスターさんは私に倒させてくださいな!」
セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)も神速を使ってモンスターに飛びかかった。
「くらいなさい! 等活地獄ぅ!」
「なんだかわからないが、手伝った方がいいのか?」
 昌毅はモンスターに飛びかかる二人に当たらないように、カメハメハのハンドキャノンを足元目掛けて発射する。
 なんやかんやと3人がかりで技をぶっぱなし、モンスターは目を回して倒れた。
「お見事なのだよ皆共!」
 ぱちぱちと隅っこで見ていた那由他は賞賛する。
「突然のとこすみません。人攫いの服を食いちぎったモンスターが、その臭いに釣られて来たらしくてこっちに……あなたたちは違いますよね?」
 エッツェルの説明に、倒れたモンスターをよく見れば、人の服のはぎれのようなものが牙に挟まっていた。
「俺たちは調査しに来ただけだ。それにしても、危険だな……モンスターまで追ってくるとは」
「大丈夫ですわ、片っ端から私がモンスターを倒して参りますから」
セシルは自慢気にぐっと拳を握りしめる。
「それなら那由他たちも安心して探索できるのだよ!」




「む! あれは危険だ……。モンスターは倒しておかねばならないでありますな」 
大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、持っている銃を怪しげなモンスターらしきものに照準を合わせる。
「当たれよ……!」
 バンッと放たれた銃弾は、当たらずすれすれでかすっただけだった。
「すばやいな、わしも加勢しよう」
 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)もモンスターが逃げるだろう方向に刀の花散里を向けて待ち構える。
 そしてさらに剛太郎が銃弾を放つとモンスターはわああっと悲鳴を上げて、両手を上げた。
「僕は敵じゃないしモンスターじゃない!」
モンスター……いや、救出活動に探索に来ていたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は焦って弁解する。
「嘘を付くでない! わしの目は騙せんぞ」
「子供たちを助けに来んだよ! 見た目こんなだけど」
 剛太郎と藤右衛門は救助隊とわかりやすい格好だが、こう暗い中だとブルタは盗賊なのかモンスターなのかすらわからなかった。
 ヒソヒソと二人は相談し、ブルタの身元を聞き出すと、やっと仲間だと了承した。
「そういや、救助に行く名簿に乗ってたような気するであります」
「じゃあわしらと一緒に来るか! そなたもまた間違えられたらたまらんじゃろ」
「本当? ならよかった」
 藤右衛門の提案に、ブルタも一緒に行動することにする。



「早く逃げてください! こっちへ!」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は、追ってくる人攫いから逃げるように、子供たちを誘導する。
「クコ、人攫いの攪乱をお願いしますよ」
 パートナーのクコ・赤嶺(くこ・あかみね)に、走りながらお願いする。
「わかってるわよ! 子供たちに当たらないうちに、霜月も早く行ってよね」
 いらいらしているのか、吐きつけるようにクコは言った。霜月の背を向け、追ってくる人攫いたちに立ち向かっていく。
「大丈夫そうか? あっちは……」
泉 椿(いずみ・つばき)は後ろを振り向きながら、霜月に問う。走りの遅い子供は腕に抱えている。
「ええ、まいてくれればこちらに戻ってくるかと。椿さん大丈夫ですか?」
「大丈夫! 女だからって見くびるなよ」
「もうあの人たち追って来ない?」
 涙声で聞く子供に、不安を与えないように椿は励ます。
「あたしたちが付いてるから、大丈夫だからな!」



「あっそこのおっさんたち! こっち手伝ってくんない?」
 霜月たちと別れたクコは一人で何人もの人攫いと格闘していた。通りかかった剛太郎と藤右衛門、ブルタを横目に叫ぶ。クコの後ろには、逃げ遅れた子供が一人隠れていた。
「おっさんたちとは何じゃ!」
「いや、そこ認めた方がいいでありますよ……」
 ブルタはクコの後ろにまわり、怖くて動けない子供の傍に駆け寄る。ブルタに驚いて子供は身を縮めた。
「わああっ……食べないで!」
「そんな事しないよ。怪我する前に僕と一緒に逃げよう」
 恐る子供に苦笑いしながらも、ブルタは子供の手を取って走り出す。
「任せたわ! 霜月たちと合流できればいいから!」
 子供を移動させたことで、遠慮なく攻撃ができる。
「くそっガキ逃がしやがって……」
「子供は渡さないでありますよ!」
 ぎりぃ、と歯ぎしりする人攫いに、剛太郎は睨みつけ遠慮なく銃弾を放つ。藤右衛門も刀で殴り、クコも後ろから爪で背中を引き裂いてやった。