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お祭りなのだからっ!? 

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お祭りなのだからっ!? 
お祭りなのだからっ!?  お祭りなのだからっ!? 

リアクション



◆ ◇ ◆ 『なんだかんだで大盛況?』 ◆ ◇ ◆

「『≪ヴィ・デ・クル≫恒例!』」「『大盛り上がりの夏祭り!』」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の声がスピーカーを通して街中に響き渡った。

「「『これより開始いたします!!』」」

 開始の合図と共に、今か今かと待ちわびていた人達から一斉に拍手が巻き起こる。カル・カルカー(かる・かるかー)によって縮小されたビラが花吹雪のように降り注ぎ、華やかに≪ヴィ・デ・クル≫の夏祭りが開始された。

 懸命な宣言効果の甲斐もあり、祭りは大盛況。露店が並ぶ通りを、埋め尽くすほどの人が流れる。街の総人口の数倍の人が押し寄せていた。
 その中を進む佐野 悠里(さの・ゆうり)は、目が回るような感覚に捕らわれる。
「すごい人がいっぱい……」
「悠里ちゃん逸れないように手を繋ぎましょう」
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が悠里の手を引いて、比較的人の少ない広場へと歩いていった。
 広場に出ると、悠里は落ち着こうと母親であるルーシェリアの真似をして深呼吸をした。
「……この街でお母さんは戦ったんだよね」
「そうですよぉ」
 見渡しても人目でわからない戦いの傷跡。しかし、垂れ幕を一枚捲ると痛々しい跡がしっかりと残されている。
 悠里は口の奥で苦い物を感じ、胸が締め付けられるような気持ちになった。それと同時に、勇敢に戦うルーシェリアの姿を見たかったと思ってもいた。
 そんな時、ルーシェリアが微かに笑い声を漏らした。不思議に思い振り返ると、ルーシェリアは口元に手を当てて必死に笑いを堪えていた。
「どうしたのお母さん?」
「ふふ、これをみて……」
 指差す先には戦闘で腕を欠落した男性の石像があった。それだけ見れば痛々しい思い出なのだが、なぜかその石像には派手な王冠やらマントが付けられ、髭とキラキラした目がペイントされていた。足元には戦いの記録と戦いに参加した生徒達を称える、と記された石碑が置かれていた。
 真面目なのにどこか遊び心を感じる石像は、住民の意志によってなされた物だった。
 悠里も堪えきれず吹き出すと、それを皮きりに二人は腹を抱えて笑いだした。
「この街の人は強いね」
 涙目で石像を見上げる悠里は、胸のうちから靄が消えたようだった。

 正面門から入ってすぐの場所にある、『ヴィちゃん』と『クルちゃん』のモニュメント製作予定地前。
「そろそろ……」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は時間を確認する。日比谷 皐月(ひびや・さつき)との待ち合わせ時間まで残り二十分をきった。
 緊張が身体全体を包み込み、見るたびほとんど進んでない時計の針に落胆し、周囲に待ち人の姿がないことに確認して、再び動悸が激しくなってそわそわしだす。それの繰り返しが何十分も続いていた。
 髪を結い上げて淡い水色に雪柄の浴衣を着込んだレイナは、待ち合わせ時間より一時間も前からこの場所で立ちつくしていた。
 その後も何回時計を見たかわからない。いい加減下駄を履いた足は棒になりかけた時、ようやく待ち人の姿を捕えることができた。
 待ち合わせ時間に十分以上余裕があったため、歩いて向かって来ていた皐月。ゆったりとした私服姿の皐月は、レイナの姿を見つけると慌てて走ってきた。
「もしかして結構待ったんじゃね?」
「いいえ……来たばかりです……」
「そうなのか……」
 お互いそれ以上かける言葉が見当たらない。色々考えていたはずなのに切りだす言葉が思いつかなかった。
 その時、放送でイベント会場の告知が行われた。皐月は放送に背中を押される形で声を発する。
「じゃ、じゃあ、まぁ、行こーか」
 レイナが静かに頷き、二人は活気づく祭りの只中へと歩き出した。

「祭りは大盛況。こういう時こそ気を引き締めないといけないわね」
 飛竜“デファイアント”の背に乗ったヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、空から街を警戒していた。
 ふいに道の真ん中に人だかりができているのを発見した。中心には泣いている男の子が一人。
「ちょっと道を開けない!」
 ヘイリーは急いで降下すると、人だかりを退けて飛竜から飛び降りた。男の子の傍らにしゃがみ込んで優しく背中を撫で上げる。
「大丈夫? 怪我はない? お母さんかお父さんはどこ行ったのかな?」
 質問を投げかけるが男の子からの返答はない。ヘイリーは周囲に両親がいないか呼びかけるが、人々は顔を見合わせるばかりで名乗り出る者はいなかった。
 ヘイリーは男の子に外傷がないことを確認すると、携帯を取り出して本部へ男の子の特徴を伝えた。そして、男の子をそっと抱きかかえて飛竜に飛び乗る。
 空に舞い上がり、男の子は戸惑いながら見下ろす街の絶景に泣き止み、代わりに笑うようになった。ヘイリーも安心して微笑む。
 子供が街の一点を指さす。そこにはイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)のたこ焼き屋があった。

「出来立てホヤホヤ、うまくて早いたこ焼き! 無数の触手が生み出す職人技を見るであります!!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が声を張り上げ呼び込みをする。無数の触手による串捌きでたこ焼きを作り上げるイングラハム。ペイントのインパクトもあり、屋台の前には沢山の人が足を止めていた。
 売り上げは順調に伸びている。
 客の一人が外見から触手をタコ代わりに入れてみたり、墨をかけてみたらどうだという冗談を投げかける。
「いやいや、さすがにムリ――」
 笑って答えていたイングラハムは殺気を感じて振り返る。すると、包丁と木槌を手にした吹雪が立っていた。
「お客様は神様であります?」

 ヘイリーは思わず男の子の目を手で隠していた。
 すると街の一角で喧嘩を始める酔っ払いを視認する。
「リネン! お願い!」
 ヘイリーはもう片方の手で近くを飛んでいたリネン・エルフト(りねん・えるふと)に指示を送り、自分達は運営本部に向かった。

 酔いがまわった中年男性が二人。些細な事で拳を振う喧嘩にまで発展していた。周りの人達は誰か事態を解決してくれないかと見守るばかり。
 そんな時――
「おまえらいい加減にしろ。他の人達に迷惑をかけるだろう」
 間に入ったナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)は男達の手首を掴んで動きを止めていた。ナンは男達を睨みつけるが、酔いがまわって勢い付いた二人を止めることはできなかった。
 襲いかかる男達。
「やれやれ……」
 だが男達の拳はことごとく回避され、代わりに身体を宙に浮かされ、壁と地面に叩きつけられる。打ちつけられた男達は呻き声を漏らし、立ち上がることができなかった。
 周囲の人々から拍手と歓声がナンに送られる。その間を抜けて、清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)がやってくる。
「後は任せるとしよう」
 ナンは北都達から逃げるように仲間達の元へと向かった。
「手当てをお願いねぇ」
「あいよ」
 北都は男達にヒプノシスをかけると、ソーマに治療を指示した。そして周りの人達に事情を聞き出す。
「これはどんな状況?」
 ちょうど話を聞き終わった所にリネンが降りてくる。北都は複数人から聞き出した内容を纏めて報告した。
 治療を終えたソーマが話に入ってくる。
「こいつらの怪我は大したことないな。後で説教でもしてやればいいと思うぜ」
「わかったわ。仲裁に入った人は事件に直接は関係なさそうね」
「そうだねぇ。残った問題はこっちなんじゃないかなぁ?」
 北都の視線の先には壊れた放送機器。喧嘩の最中に壊された物だった。
「確かこの後イベントの告知があったはずね。このままじゃこの辺だけ放送がいかなくなるわ」
「人為的な方法をとるしかないんじゃないかなぁ?」
 修理と交換が終わるまでの間、人を割いてメガホンで上空から告知をすることになり、彼らは早速迷子の連絡を行うことになった。

「思ったより賑やかだな」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、賑わう街中を進みながら心が躍るような衝動を感じていた。そんなグラキエスを横抱きにして歩くアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は、顔を近づけて問いかける。
「主、体調は大丈夫ですか?」
「問題ない。だからもっと色々見て回ろう」
「承知」
 アウレウスは周囲に邪魔にならないように展開した氷雪比翼と、鎧のひんやりした冷たさでグラキエスが周りの熱に体調を崩さぬように注意する。間近で声をかけられるたびに頬を緩め、それに気づいてすぐさま引き締め直していた。まるで周囲に花畑が見えそうなくらいにアウレウスは幸福絶頂中だった。
 グラキエスが屋台の一つを指さし、前を歩いていたロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)に呼び掛ける。
「キース。あの店の食べ物も買って行こう」
「またですか? 先ほども似たような物を買いましたよ。こういう物ばかりだと偏ってよくありません」
 指を立てて栄養の偏りは身体によくないと説明するロア。その姿はまるで母親のよう。
「違う違う。俺が食べるんじゃなくて土産に持っていきたんだ。あっちは忙しくて殆ど回れてないだろうからね」
「……ああ! そういうことですか。でしたら仕方ありませんね」
「主、それでしたら少し趣向を凝らした珍しい物を持って行かれてはどうでしょう」
「そうだな。面白い物があったら買っていこうか」
 グラキエスは周囲をキョロキョロしながら黄金色の瞳をさらに輝かせていた。

 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)達は休憩所を兼ねた屋台を出してきた。エプロンをつけて接客を担当していたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が見渡すと、お昼時が過ぎて人の流れが落ち着いてきたのが窺えた。
「やっと落ち着ける――おっと!」
 目の前で転びそうになったフレンディスの腰を掴んで支える。フレンディスは普段からぽやぽやしているせいか、先ほどからたまに転んでいた。
「あ、ありがとうございます、マスター」
「――っ!?」
 ベルクの視線がフレンディスの雪のように白いうなじへといく。頭の後ろで長い髪をお団子に纏め、割烹着に身を包んだフレンディス。彼女は頬をほんのり赤く染め、恥ずかしげにベルクを下から見上げていた。
 先日恋人同士になった(はず)が呼び方は『マスター』のまま。でもいつかはこんな格好で帰ってきた自分を出迎えてくれて、『あなた』とか『ベルクさん』とか言われたりするのかな。
 などとベルクが妄想を抱いていると、マリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)の声で現実に引き戻される。
「お二人さん、いい感じの所悪いんだけど、そろそろ働いてくれないと注文が溜まっちゃうさね」
 無言で見つめ合っていたフレンディスとベルクは慌てて距離をとった。客達の視線と失笑で二人の顔は真っ赤だった。
「いっ、今行きます」
「お、俺は注文を取りに――」
 客の待つテーブルに向かおうとしたベルクは、ポケットで鳴りだした携帯に足を止めた。電話はグラキエス達だった。店が空いてきた事を伝えると、彼らは顔を出しに来ると告げていた。
 ベルクは深呼吸をしてフレンディスの方を振り返る。
「フレイ、グラキエス達が来るってさ」
「本当ですか!? では、頑張っておもてなしをしなくては、ぁ――!?」
 笑顔で喜ぶフレンディスは手に持った盆を落としそうになっていた。その様子にベルクは笑いを漏らし、気持ちが落ち着く感じがした。
「フレイ、もてなすのはいいがもう少しシャキッとしたらどうだ? 戦闘中みたいにさ」
「戦闘中ですか……」
 息を吸い込んだ直後、フレンディスが纏う雰囲気が変わる。気配が鋭くなり、目つきが獲物を狙う獣のようになった。
 すると、マリナレーゼが背後からチョップをかまし、フレンディスが元に戻った。
「だめさね。それじゃあ客を脅すだけさね」
「そ、そうですか?」
「だな。やっぱ今まで通りでいいわ。武器はしまっておけ」
 フレンディスは渋々取り出した忍刀をしまった。
 殺気に凍りついた店内。そこに忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の自信に満ちた声が響き渡る。
「さあ! そこの下等生物ども!! この僕が暑い中歩きづくめで疲れているお前たちを癒す飲食物を用意してやりましたよ! ちょっと足休めに立ち寄るがいいのです! 存分に癒されてお祭りの続きを楽しむがいいのですよ!」
 看板犬として通り過ぎる人々に呼びかけるポチの助。その愛くるしい容姿と言動で、女性には特に人気だった。
「下等生物が気安く撫でるな!」
 台詞とは裏腹に仰向けになって腹を撫でられている間、尻尾は嬉しそうに振り続けていた。

 暫くして、グラキエス達が来店する。
「こんにちは」
「おっ、いらっしゃい!」
 ベルクは端っこの日陰になっている場所を勧めた。
「注文は何にする?」
「任せるよ。あと、これ土産だから皆で食べてくれ」
「おお、サンキュー。じゃあちょっと待っててくれ」
 屋台で買ってきた食べ物を受け取ると、ベルクはマリナレーゼの方へ歩いて行った。
 ロアが店でくつろぐ人達を見て微笑む。
「良い店ですね」
「そうだな。迷惑にならない程度にゆっくりさせてもらおう」
「主、態勢に問題ありませんか?」
「大丈夫ありがとう」
 グラキエスはアウレウスに横抱きにされたまま、くつろいでいた。
 少しして盆にハーブティーとお茶菓子を乗せたマリナレーゼが、グラキエス達の方へ歩いてきた。
「エンドはそのままで――」
 ロアは起き上がろうとするグラキエスを制し、代わりに立ち上がって挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私はロア・キープセイクと申します。エンド……グラキエス・エンドロアは体調がすぐれないのでこのままで失礼いたします」
 笑顔で挨拶をするロア。マリナレーゼも自己紹介を済ますと、ロアを座らせ一人一人の前にハーブティーと、中央にお茶菓子を置いた。
「大変さね。あたしのハーブティーは疲労にも効くさね」
 勧められた優しい香りのするハーブティーに一口つけると、胸の奥から暖かくなっていくのがわかった。
「いらっしゃいです!」
「久しぶり」
 グラキエスは傍に駆け寄ってきたポチの助の下顎を優しく撫でる。
「く、くすぐったいです……」
「あなたにもお土産があるんだ」
「はい。どうぞ」
 ロアから受け取った“ほねっぽん”を、ポチの助にプレゼントするグラキエス。
「ありがとうなのです!」
 嬉しそうに受け取って噛みつき始めるポチの助。すると、ベルクが傍にきて、腰に手を当て仁王立ちする。
「おい、駄犬」
「なんだよエロ吸血鬼」
「お前さっきから食い過ぎだぞ」
 ベルクの指摘にポチの助は隠しようのない焦りを見せる。
「そ、そんなことない!」
「いいや食いまくってる。客からも色々もらってただろ!」
「そうさね。あたしが見るといつも何か加えてさね」
「うぐぐ……」
「太るぞ」
「ダイエットさね」
「ではポチは今度一緒に地獄の特訓をしましょうか」
「「「え!?」」」
 いつの間にか近くにいたフレンディスの笑顔の一言に、三人が驚いていた。そして、ポチの助が青ざめて震え出す。ベルクとマリナレーゼが同情の眼差しを向けて、そっとポチの助の頭を撫でた。