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キロス・コンモドゥスの罠、夏來香菜を助け出せ!

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キロス・コンモドゥスの罠、夏來香菜を助け出せ!

リアクション

目を覚ましたエースは驚いた。契約者たちが自分と同じように縄に縛れていたのだ。
彼は頭上を見上げるといびつな穴が開いていた。どうやらかなり深くまで落ちたようだ。地下は薄暗いところで埃が漂っている。
「うーん、立派な骨格であります、しかしこれはなんでありますか……人間とはどうも違うような……」
吹雪がいた。彼女は腕を組んで眉根に皺を寄せそれをじっと見つめている。
立ち上がれば3メートル以上あるだろう。
巨大な骸骨が石造りの椅子にもたれ掛っている。
低い階段の踊り場にある骸骨。それは足から首までは人間の骨格だ。
だが頭部だけは烏(カラス)の頭蓋骨でよく見れば五本の長い指はカギヅメのように鋭い。
吹雪がエースの視線に気がついた。
彼女は「おはようございます!」と彼に向き直りビシッと敬礼をした。
「君はさっき僕たちを落とした……ああ、おはよう。ところで悪いんだけれど縄をといてくれないか。
渡せなかった花を渡したいんだけれど」
エースは微笑みを向けるが吹雪は人差し指を横に振った。
「のんのん。逃げ出そうったってそうはいかないであります。君たちは自分が手柄を立てた証拠にするのでありますから。
……にしてもドクター。まさか爆弾と眠りだまを摩り替えていたとは……うーん。変わり者のすることはよく分からないでありますな」
吹雪はいびきをかいて眠っているハデスの頭を指で突っつく。
だがハデスは全くの無反応だ。大きないびをかき鼻ちょうちんを膨らませている。
「何はともあれ。これだけの契約者を捕まえたのであります。これで報酬は自分のもの。それだけでなく願いだって叶えてもらえる。
ムフフフフフフ……あ、いけない自分としたことがヨダレが」
吹雪が口元を拭いた、そのときあのボロボロの奈落人がやってきた。

「おや?どちらさまでありますか?もしかしてキロスケを助けにきた契約者……ああ!危ないであります、近づいてはいけないであります!」
吹雪の警告を無視して短い階段を登って、奈落人が骸骨の頭部に触れようとしたそのときだった。
「ワタナベユウリ!」
キロスの声が弾ける、奈落人は色の抜けた顔で振り返った。
部屋の入り口にキロスと香菜、それとさきほどの祭壇の広間にいた契約者たちが集まっていた。
「へへへ観念しな、ワタナベユウリ!」
「おおキロスケ。ずいぶん男らしくなったでありますね」
「やめてくれ恥ずかしい。あの奈落人がオレを操ってたんだよ」
「ユーリ……!どうしてその名前を!」
キロスは手に握り締めたそれを奈落人に向かって放り投げる、キラキラと流れ星のように軌跡を描いてゆき奈落人はキャッチした。
彼女の手のひらで光るそれはネックレスだった。
2つのリングが1つに結びついている。1つのリングに YUURI WATANABE と名前が刻まれていた。
「私のペアネックレス!」
奈落人は慌てて自分の首元に触れ「あっ!」と短く声を漏らすとネックレスのチェーンを取り付けだした。
「へへへっなかなかいい名前だぜ、お前」
「うーん、私だったら違うわね」
胸を張るキロスに香菜は言った。
「ペアなら自分の名前じゃなくて相手の名前のネックレスをつけるわね、自分のじゃ名刺になっちゃうわ」
したり顔のキロスの表情が一瞬くずれたが彼はすぐさま笑顔を繕う。
「その話は一旦置いとこう。さーて。確か奈落人はナラカに生きる種族。ナラカでしか生きてけねーって話だ。
こんなとこで遊んででいいのか?お前の体、相当ガタがきてんじゃねーの?」
「ざーんねんでした。コレコレ。これは錬金術でつくられた魔法のネックレス。
これがあれば私1人だってパラミタだろうが、地球だろうが問題なく行動できるのよ。んベーッ!」
奈落人がキロスにあっかんべーしたそのときだ。眠りだまの効果が切れたのだろう。
なんだどうしたと、縄に捕まっていた契約者たちが次々に目を覚まし始めた。

「お取り込み中失礼。やいぶりっ子奈落人。見ての通り自分が一番手柄を立てたであります。
さっそくではありますが報酬を払って願い事叶えるのであります」 
奈落人は「んー?」と高く鼻を鳴らし、今度は吹雪に向かってんベーッ!
「なんで敵さんのお願いなんて聞くぅ?地球人は私の敵よ。地球人のパートナーになるパラミタ人もダメー」
「えーっ!ず、ずるいであります。それじゃ自分の頑張りはなんだったのでありますか!」
「さぁ?私はあなた達が苦しんでくれればそれだけで幸せハッピーだし」
「そんなことが目的だったのでありますか!むむむ。凶霊団とはずいぶんつまらない賊であります」
「凶霊団?ああおしまいよ。みんなかいさーん。もう飽きちゃったし凶霊団は今日でおしまい。もーちろん。あなたたちもね!」
骸骨の額に手を添えた。すると奈落人の手のひらが輝きだし指の隙間から光が浮き上がる。
「このアジトは昔、鏖殺寺院のアジトだったの。奴らはネフェルティティ様に生贄を捧げる儀式を行っていたわ」
突如としてカラスの頭蓋骨の周りが燃え始める、頭蓋骨を中心に鬼火のように燃え盛る。
骸骨は体を軋ませながらゆっくり立ち上がった。
カラスの頭が吼えた、鋭い雄たけびに契約者たちは全員耳をふさいだ。
これはまずいとキロスは直感したのだろう。縛られている契約者たちのロープを斬りに向かう。
「おーよしよし、いーこいーこ。この子はね鏖殺寺院が作りだした侵入者迎撃用のモンスター。
名前はペステちゃん。こーんな薄暗いなかずっと1人で寂しかったでしょー?おーよしよし、
ねえあなた達。この子と遊んでくれないかしら?まあ私はさよならだけど。じゃそういう訳で。ばいばーい」
奈落人は契約者たちへ投げキッスをすると、文字通り壁の中へ入り姿を消した。