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スライムとわたし。

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スライムとわたし。

リアクション

「ちょっと! 何あたしにまで桃色光線出してんのよコラー!!
 かたくなにエロ展開はここまで逃げ続けてきたんだからねっ! こっち狙うなー!!
 未来のトップアイドルに黒歴史つくろうっていうんなら、本気で相手になるわよ!! 今はこうして避けてばっかりだけど、こう見えてすごいの隠し持ってるんだから!! それ、使っちゃうわよ!! そのうちね!! それでもいいの!?」
 シュッシュ! と、冴えたフットワークで桃色光線を避け続けるラブ
 そのそばではリーレンが、やはりラブと同じく「えーいっ」と必死の顔で野球バットのように剣を振り回しているが、切っているというよりカッ飛ばしている感じだ。全然スライムがダメージを受けている様子はない。
 そしてまた別の場所では、
「うおーーーーーー! 服ーーーーー!! 服だーーー!! だれか服を寄こせーーーーー!! 私に似合う服だーーー!!」
 手あたり次第、目についた男を襲っては服をはぎとって自分が着て、ビリビリに裂いては泣き叫び、また男に遅いかかるコア
 美羽は抱き合ったまま離れられずにいるコハクと半裸のベアトリーチェの姿に、もはやスライム退治どころじゃなくなってるし、その周囲では小型のスライムによってピラミッドのような小山がいくつもできていて、しかもどうやらその下ではだれかがだれかとなんやかんやでくんずほぐれつしているらしく、色っぽい声がしていて……。
 なんかもうすでに手におえないてんやわんや状態なんじゃないかと思えるなかで、真面目にスライム退治を考えている者がいないのかといえば、それがそういうわけでもなく。

「な、な、な……」
「な?」
 歌菜の意味不明な言葉に月崎 羽純(つきざき・はすみ)はとなりで眉をひそめる。
「なんて破廉恥な……っ」
「ああなるほど」
 目前の光景に遠野 歌菜(とおの・かな)は唖然となって、それっきり、口がきけなくなってしまったようだった。
 本来なら、寝室という一番プライベートな場所で行われるべき行為が――大事なところはしっかりスライムでガードされているとはいえ――、あられもなく平然と行われていることに、真っ赤になって絶句している。
 そしてそれは、月谷 悠美香(つきたに・ゆみか)も全く同意見だった。
「これ以上被害が広がる前にどうにかしないと…! あんなのが海京に来たら大惨事だわ!」
 今向かっているのはツァンダかもしれないけど、いずれは海京に迫るかもしれない!
 その可能性は十分ある! と深刻そうに表情をこわばらせる悠美香。
 一方で、月谷 要(つきたに・かなめ)は冷静に
「おかしいなー。あの桃色した光線って、単に服が脱ぎたくなるだけに見えてたんだけどねぇ」
 なんでみんな、頭のなかまで桃色になっちゃってるの? と首をひねっている。
「ねえ悠美香――」
「いいから武器を抜いて、要! 1匹たりとこの大荒野から先に進ませるわけにはいかないんだから!」
「あー、うん」
 いまいち身を入れてる様子のない要にかちんときて、悠美香はずいっと詰め寄った。

「まだ分かってないのね。あなた、これをただのスライム退治だと思っているんでしょう?
 あれが海京に来ればどうなるか? 猥褻物陳列罪で捕まる人続出よ? そんなことになれば、海京そのものがピンク街と呼ばれかねないのよ? どこを歩いてもモザイクだらけ! 海京に行けばエロ同人誌のような行為が見られるとか、薄い本をさらに薄くすることができるとか言いだす人が現れて、そのうちオタクの聖地とか呼ばれる観光地なんてできちゃったりして、名前もピンク京に変えられるかもしれない! 略してピー京よ、ピー京! 「おまえ、P音で名前消される街に住んでんのかよーダッセー」とか笑われて後ろ指さされて暮らしていく覚悟があなたにあるっていうの!?」

「……いや、さすがにそれはないですケド……」
 あの、悠美香、サン……?

「鏖殺(おうさつ)よ」

 ウルネラント・ルーナを持ち上げ、悠美香は人が変わったような冷徹な目でつぶやくと突貫を開始する。
「ちょ!? 待って悠美香ちゃんっ、1人で突っ込まないでー」
 あたふたとあとを追って行く要。
 そのころ、ようやく歌菜もフリーズが解けて頭が再起動したようだった。
「き、き、聞いてないよっ、あんな光線! あんなの受けたりしたら――って、はっ!
 羽純くん! 羽純くんの貞操は、私が何をしても守るからっ! 裸はだめ! 絶対だめっっ!!」
 だれにも見せちゃいけませんー!
「分かった。分かったから、いいから落ち着け。
 大体、男の俺よりおまえの方が深刻だろう」
 しかし歌菜は聞いちゃいなかった。
「羽純くんは私の後ろに! 決して前に出ないでね!」
「しかしそれでは――」
「私は大丈夫! 全然大丈夫だからっ!」
 私が羽純くんを守らないで、だれが守れるっていうの!
 雄々しく奮起して、使命感に燃えたまま歌菜はハレンチスライムとの戦場へと赴こうとする。

 いやもう、これ、だれがどう聞いたってフラグでしょ?

 その心意気や良し、とスライムが思ったかどうかは知らないが、狙いすましたかのように歌菜が一歩前に踏み出すと同時に桃色光線がピカーーーーッと真正面から浴びせられた。
 そしてそのあとを追うように、小型スライムの溶解液が。
「歌菜!!」
「……はにゃ?
 あー、羽純くぅん……。なんか暑いの……」
 急に脱力した歌菜を羽純が支えた。
「しっかりしろ、歌菜」
「暑い……。
 ああそっか。私、どうして気づかなかったんだろ。暑ければ、裸になればいいんだよね」
 すでに十分ボロボロになっていた服を、いきなり引っ張って破りだした歌菜に、こうなると思った、と羽純は頭からマントをかぶせて岩陰へ運び込む。
「なんでー? 羽純くん、こんなことしたらますます暑いよ!」
 熱っぽく顔を蒸気させて「こんなのイヤ」とだだをこねる上目遣いの歌菜を見て、羽純はどうしてほかの者たちがああなっているか分かる気がした。
「……いいから。じっとしていろ。今スライムが来たらおまえを守りきれない」
 マントごし、歌菜を抱きしめて暴れているのを無理やり押さえ込んだ羽純は、その乱暴さを詫びるように――そして騒ぎに気づいたスライムが寄ってこないように――唇を触れ合わせて話すのをやめさせる。
 突然のキスに歌菜は驚いたように口元に手を添えて
「……もうっ」
 と口先をとがらせると、観念したように羽純の胸に頭を預けた。
「こんなに暑いのに我慢するの、羽純くんだからなんだからねっ」


 一方、両手足首に装着したF3ギアと機晶ブースターの併用で高速攻撃をしていた悠美香は、巨大な両刃剣を攻撃兼防御の盾がわりに用いることで桃色光線や溶解液もものともせず、もっぱら中型〜大型のスライムを相手に順調に退治をこなしていた。
 弾力が並はずれているとはいえ、どんな攻撃も受けつけないわけではない。さまざまなスキルによって大幅に増強された剛力で、ほぼ力任せにぶった斬っていく。
 1匹倒してはまた1匹。冷静に、着実に、少しずつ、敵の本陣へ斬り込んでいくことに集中していた悠美香は、そのとき突然背後に何かよからぬ気配を感じた。
「はっ! ――って、要っ!?」
 反射的、剣を振り切った悠美香は、そこに今まさに飛びかかってきていた要の姿を見て目を瞠る。
 あわてて剣を止めようとしたが、もはや悠美香にも止められない。
 剣は確実に要を一刀両断するタイミングで振り切られていたが、要はポイントシフトを発動させ、後方へ距離をとった。
「……く。気づかれたか」
 そこで、口惜しそうにつぶやく。

 その姿は全裸だった。

 小型スライムが貼りついてくれてたおかげで大事なところはもうほんと、ギリッギリセーフ状態だったが、全裸であるのはひと目で分かる程度には肌が露出している。
 悠美香は混乱した。
「ちょっとちょっと、待って要! あなたいつの間に!?」
「許してくれ、悠美香ちゃん。これもすべて、きみを守りたかったがためのこと! きみが全裸になることだけは、この身を挺してでも防がなくてはと思ったんだ!
 だけどこうなった今は、きみの服を脱がしたくてたまらないっ! たまらないんだあああああああっ」
 なんかもうホラッ、体が勝手に動くっていうか!
 もうね、手がね、こう、うずうずしてねっ!

 自分以外のだれかを!
 脱がすことを!
 強いられてるんだッッ!!

「そんなわけないでしょうーーーーーーーッ!!」


 ついさっき自分で言ったばかりだろうがスタンクラーーーーーッシュ!!
 いくらポイントシフトで超高速移動を可能にした、無駄にスタイリッシュな動きをしていようとも、攻撃が素手であるのは分かっている。
 岩と岩の間に入り、真正面から服を引き破りにやってきたところで、全力のスタンクラッシュをたたき込んでやった。
「いくら要でも、スキルの悪用は許しません!」
 足元できゅうっと目を回している要をしかりつける。
 でも。
「私も、暴力はいけないわよね……」
 要は正気じゃなかったんだし。
 すぐに反省をして、気絶している要の頭をひざに持ち上げて寝かせる。
 さらっと髪を梳く指に何かが触れて、悠美香はつぶやいた。
「あ、たんこぶできてる……と、10円ハゲ?」