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爆弾鳥リインカーネーション

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爆弾鳥リインカーネーション

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剛毅果断! 空京大学編


 やってきた大学内はどこか慌ただしく、月見里 迦耶(やまなし・かや)は不安そうに辺りを見回した。
 蒼空学園生の彼女が空京大学にやって来た目的は、王 大鋸(わん・だーじゅ)に会うことだった。孤児院への寄付金を彼に渡すためだ。
「何でこんなにざわざわしてるんだろう……王さん、どこかなぁ」
 なんとなく不安にさせられるざわめきに、迦耶もつられて何となく落ち着かない気持ちになってくる。
「……?」
 中庭のベンチに座って少し休もうとした時、足に何か当たった。
 石でも蹴ったのかと最初は思ったが、どこか石とは違う感覚に、体をかがめて拾い上げると、それは卵だった。
「ってひびが入ってる。まさか……私が蹴ったから!?」
 どうしよう、と慌てていると、卵全体にひびが入り、中から……
「ぴ♪」
 赤銅色のヒヨコが孵った。
「え……」
「ぴぃぃ」
 丸い目を大きく見開いて、迦耶の顔を覗き込むように見上げ、羽を震わせてヒナはひと鳴きした。
 ……ヒナは、迦耶を親と認識したのだ。
 だが迦耶はまだ、この時、このヒナの正体を知らなかった。
「可愛い……」


 爆音が聞こえてきた。
「これは……」
 佐野 和輝(さの・かずき)は、学舎の一棟から立ち昇る煙とそこに見える破壊の跡を見て言葉を失くす。
「あれが爆弾鳥の仕業なのか……」
 和輝は教授から、不死鳥調査の手伝いを頼まれていたので、その教授から予め、爆弾鳥について現時点で判明していることは教えられていた。また、それが研究室から逃げだして学内のあちこちに紛れ込んでしまったらしいという情報も仕入れていたので、少し遅めに様子を見ながら登校したのだが。
「え〜、鳥さん爆発するの〜?」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)は、和輝の隣りでただひたすらぽかんとその騒ぎを眺めている。
「ねぇ和輝〜、和輝は卵を研究するんだよね?」
「うん、まぁな。しかし、それがどこにあるのか……」
「え〜、分からないの?」
「逃げ出しちまったらしいからな」
「アニスも探してあげるよー」
「……いや、危ないから見つけたら近寄ったら」
「ん? 何が言った? …あ! はい、これでしょ?」
「えっっ!!!???」
 アニスがけろっと無邪気に差し出したのは、紛れもなく爆弾鳥の卵。
「待てこれどうしたんだ」
「さっきあそこの窓から、誰かが、大声で何か言いながら、ポーイ! ってしたんだよ」
 ――つまり、爆破された教室から誰かが、半狂乱になって何か喚きながら、災厄の種である卵を投げ捨てた、ということだ。
「アニス、それを」
「あ、割れた! 何か生まれた! すご〜い」
「ぴぃ」
 無邪気に孵ったヒナを掌に乗せて笑っているアニスを抱え、和輝はヒナをぽいっと投げると猛ダッシュで逃げ出した。



「さっき、爆発みたいな音が聞こえたけど、何? 皆凄く騒いでない?」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が、授業の終わった教室の窓から顔を出して廊下の方を見た時、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は何となく嫌な予感がした。具体的に何故かとは言えない、直感的なものとしか言いようがないが。
 なるべく関わりたくないのだけど、というアデリーヌの心も知らず、さゆみは好奇心の赴くまま、皆が騒いでいる方へと向かって歩き出した。仕方ないのでアデリーヌもついて歩いていった。

「え? 本当にこれ、爆発したんじゃない? ドアが壊れてる……」
 人だかりができている教室の近くでさゆみは足を止めた。
 何故か壁が天井から4分の1ほど崩れ、煤だらけになっている。
「何があったの……ん?」
 人だかりの足元から何かが転がり出てきた。さゆみがそれを見ていると、その楕円形のものは人だかりを出たところで止まった。卵のように見える。見ている間にそれにひびが入り、ぼろっと上半分が崩れ落ち、なかから赤銅色のものが出てきた。
 一度体をぶるっと震わせ、よちよちと歩き、ぽてっと転んでまた歩き出す。紛れもなくヒヨコだ。
 何でこんなところにヒヨコが、と思う間もなく、ヒヨコはさゆみを見た。大きな丸い目でしばらくじっと見ているヒヨコに、思わず手を差し伸べる。ヒヨコはぴいぴいと甘えるように鳴きながら寄ってきた。
「可愛い〜」
 さゆみはしゃがみこんでヒヨコを撫でた。ヒヨコは全く恐れずにさゆみの指に撫でられてぴぃぴぃ高く囀る。
「どうしたの、これ?」
「分からないけど、そこから出てきたの。可愛いわね〜、ちっとも人を恐れてないみたい」
「さゆみに甘えているんじゃないかしら。唇もちっちゃくて……可愛いわ」
 と、さゆみとアデリーヌは、しばし人懐こいヒヨコとの触れ合いを楽しんでいたのだが……
 気が付くと、周りの人間が恐怖の表情を浮かべて2人から遠ざかっていく。
「ば、爆弾鳥だ……!」
 誰かが叫んだ。その聞き慣れない言葉に、さゆみは立ち上がって「何!? 爆弾鳥って!」と尋ねた。
「孵化して5分後に爆発する鳥だ!」
「この教室を爆破した奴がまた孵化したんだ!!」
「逃げろ!! 懐かれたら追いかけられるぞ、地の果てまで!!」
 そして周りにいた生徒たちはひとり残らず逃げ去った。
「……」
 さゆみとアデリーヌは顔を見合わせた。
 次の瞬間、回れ右して逃げ出した。



「かわいいですねぇこの子」
 迦耶は、掌の上で迦耶に向かってぴいぴい鳴くヒナ鳥を心奪われたような目で見ていた。
(友達になれたらなぁ……)
 そっと顔を寄せ、頬に小さな柔らかい羽毛を押し当てる。温かい。
「よし、名前を付けます。う〜ん……『ぴよら』。『ぴよら』ちゃんってどうですか?」
 ヒナは賛成するようにぴーいと鳴いた。

 ――この時、無意識のうちにヒナに【潜在解放】をかけていたことに、迦耶はまだ気づいていなかった。

「あ、王さん!」
 中庭の向こうの通路を歩いてくる王 大鋸が見えた。



「学校の至る所で爆発が起こって焼き鳥ができては、また生肉になって走り回ってる、聞いたネ」
 どこかちょっと間違っている情報を仕入れたロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が、目を光らせる。
「いや、そうじゃなくて」
 同級のひとりが訂正してより詳細な情報を教えたのだが。

「不死鳥?
 再生?
 ――ノン、ノン、それだけ、ではなんの役にも立っていないのコトあるネ!」

「アモーレ!
 カンターレ!
 しかし、より『人』が生きていくに必要なマンジャーレ!」


 そしてロレンツォは、そのヒナを手に入れてきた。
 実験室のテーブルの上で、カゴをかぶせて上から重石を置いて閉じ込めている。――ロレンツォを親認定しているので逃げることはないのだが。
「美しい声でなくでもなく、見目美しい羽根で目を喜ばせることもない鳥が、できることといえば、残されるはひとつ!
 ――神は、すべてを、人のためにつくりたもうた」
 肉切り包丁を手に、ロレンツォは、不敵な笑みを浮かべてカゴをあけた。
「…おとなしく、食われるあるよろし」

「ぴーっ」
 ダンダンダンダンダン(包丁がまな板を叩く音)
「ぴーーーーっ」
 ダンダンダンダンダ

 ちゅどーーーーーーーーん

 執拗な包丁攻撃に逃げ場もなく耐えかねたヒナが爆発。
 真正面から爆風に飛ばされ、フラフラになって倒れた。
 だが、むくりと起き上がる。
「ふ……この程度の爆発で引き下がると思ったら甘いネ……」
 マンジャーレを求めるロレンツォの闘志はまだ絶えてはいない。
「…ふ、イタリア人の美食と健啖を侮るのは百万光年早いわ!
 タメはるなら、鉄の胃袋、四足は椅子以外、飛ぶものは飛行機以外なんでも食べるある中国人くらいヨ!」
 啖呵を切っている間に卵は再び孵化し、再びロレンツォを親認定する。
「恨むなら己の学習能力のなさを恨むあるヨ」

 ダンダンダンダンダ

 ちゅどーーーーーーーーん

「懲りないアルネ! 自ら望んで苦痛を繰り返すアルか!?」
 ダンダンダンダンダ

 ちゅどーーーーーーーーん

「……なかなかやるネ。しかし、人の威信をかけて負けるわけには――」
 ダンダンダンダンダ

 ちゅどーーーーーーーーん


 もはや爆発で服はぼろぼろ体は煤だらけ頭はアフロのロレンツォだが、意地で包丁を握る。
 が、その包丁を捨てた。
「戦況を見て戦法を変えるのも人の叡智……!
 羽をむしって直接火にかけて丸焼き戦法!!」

 わしゃっわしゃっわしゃっ(毟る)
 ぼっ(バーナーを点火)
 ……

 どぐぉおおおおおおおおおおおおおん

 爆発に直火の炎が乗って、部屋には一瞬、本物の不死鳥が舞った――かのような焔の影が躍った。
 爆風はすべての窓ガラスを吹き飛ばし、ロレンツォは……もはやイタリア人とも日本人とも中国人とも違う、別の人種になったかのような様相を呈していた。

「ぐ……ま、まだ……」

 それでもまだ立ち上がろうとしていたロレンツォだったが、立て続けに爆発が起こるので人が集まってきて、さすがに止められ宥められ、野望を捨てざるを得なかった。

「無念……レフェリーストップあるネ……
 しかし、この次は必ず……あいるびーばっくヨ……!(がくっ)」