空京

校長室

【十二の星の華SP】女王候補の舞

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【十二の星の華SP】女王候補の舞
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リアクション

「ルーシーは、あなたが獣人達の村を襲った時、近くにいたわ。ティセラさんは面白い活躍をしてたわよね」
 次の相手が現れる前に、百合園のリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)が、ティセラに近づく。
「その時もそうだけど、ミルザムや現在の情勢は気に入らないの。あなたのようなイレギュラーな存在が羨ましいわ。是非理想の軍事国家に変えてほしいの」
 リュシエンヌの言葉にティセラが頷く。
「私もです!」
 リュシエンヌの後ろにくっついて、抱きついたり頬を弄っていたウィンディ・ライジーナ(うぃんでぃ・らいじーな)
がびしっと手を上げる。
「ティセラのようなイレギュラーな人物が居るからこそ、パラミタでの生活が楽しくなるわ。ミルザムは確かにシャンバラ地方の人達に人気があるけど、シャンバラ人全員がミルザムを好きなわけじゃないわ。疑惑の声も多々上がっているしね」
「ありがとうございます。女王になれましたら、必ず強固な国を作ってみます」
 そのティセラの答えに、嬉しそうな笑みを浮かべて、リュシエンヌはねだるように言葉を続ける。
「ルーシーはティセラさんの傘下に入りたいな、お願い……っ」
 両手を組んでティセラを見上げると、ティセラは穏やかな微笑みを浮かべる。
「わたくしの考えに賛同し、強さを求めて下さるのでしたら、歓迎いたしますわ」
 その言葉を耳にし、蒼空学園のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)もまたティセラの方へと歩き始める。
「お嬢は……女王候補としてそちらを選ばれるんですね。自分はクイーンヴァンガード、つまり先に候補として名乗り出たミルザム様のため一族から送り出された身。それをそう簡単に変えてしまうことは出来やせん」
 共に訪れたパートナーのヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は一緒に歩きはせず、後ろからリカインに語りかける。
「……それでも王国復興という点では目指すものは同じはず。大きな声では言えませんが、お嬢が信じる道であるならばどうか貫いてください」
 ヴィゼントの言葉に振り向かず、ただ頷いてリカインはティセラの前まで歩いた。
「……はっきりさせておきたいことが2つ。女王候補として確実に狙ってくるであろう鏖殺寺院にどう対応するつもり?」
「鏖殺寺院にも認めさせますわ。詳しくは話せませんけれど、その算段はあります」
「では……」
 一呼吸置き、リカインは真剣は目で問う。
「今の私は、ティセラにとって手駒足りうる器かしら?」
「手駒という表現は好きではありません。わたくしに心から賛同して下さる方であれば、手駒のような扱いはいたしませんわ。今は力がない方であっても、協力者として助けていただきたいですわ」
 ティセラの言葉に、リカインは頷いてはっきりと言う。
「貴方のやり方をあれこれ言う人は多いけど、私にはそういう人も同じことをしているようにしか見えないの。それなら誤魔化すような言い方をしない方につく……それだけだから」
「ありがとう」
 ティセラはそう言って、リカインの肩に手を置いて微笑んだ。
「オレと踊ってくれないか?」
 教導団の坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)がティセラに近づいた。
「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
 小川麻呂と共に、ティセラはまた踊り始める。
「こうして結構ティセラの味方につこうって奴もいるみたいだし、ティセラを護る為のヴァンガードを作らないか?」
「そうですわね。わたくしも正式に認められはいませんが、女王候補としてシャンバラで暮らす方々で結成された親衛隊をもちたくもありますわ」
「よし決まりだ」
 まだ音楽の最中だったが、小川麻呂は教導団の上着を脱ぎ去って、ティセラに跪いた。
「捨て駒でも構わない。ただお前を護るためだけに、傍に居させてくれ」
 小川麻呂の言葉と行動に周囲がざわめき、音楽が止まる。
「……」
 パートナーの坂上 田村麻呂(さかのうえの・たむらまろ)は、黙って小川麻呂を見守っている。小川麻呂に賛同しており、干渉するつもりはなかった。
 しばらくして。
 ティセラは軽く屈んで、小川麻呂の手をとって立ち上がらせる。
「あなたのお気持ちを嬉しく思います」
 そして周囲を見回して宣言する。
「最も王に近い家系といわれているヴァイシャリー家主催の貴族も多く参加している舞踏会で、そして地球から訪れた各学園の契約者も大勢いるこの場において、わたくしを支持すると表明した者をわたくしは自分の親衛隊員として承認します」
 リュシエンヌ、リカイン、その他にも拍手で賛意を示す者がいる。
 圧倒的な力を持つティセラはパラ実生達にも神と認定され、帝世羅・蛮牙亜怒なるものが、結成されているという。
 クイーン・ヴァンガードほどではなくとも、親衛隊に入り彼女に協力をする者も増えていきそうだった。
「そう簡単には決められない。今日は舞踏会だしな」
 蒼空学園の風祭 隼人(かざまつり・はやと)が、ティセラの前に歩み出る。
「一曲踊ってくれないか?」
「構いませんわ」
 そして、隼人はティセラと踊り始める。
「貴女は女王になり先程宣言した通りの国を作った後、俺達に何を見せてくれるんだ?」
 隼人は踊りながら、尋ねていく。
「今のところ、俺は自分や誰かのパートナーが操られ意に反した破壊行動をやらされたり、一般市民が苦しめられたりするとか、ろくでもないことしか見せてもらってないんでな。貴女が築こうとしている未来の姿を知った上で、判断したい」
「どんな力にも負けない国を。わたくしが目指す軍事国家は、侵略国家ではありません。どんな侵略行為も、テロ行為をも退ける、国民1人1人が強固な意志を持った強い国家です。国作りに終わりはありません。永久に強い国であれるよう、わたしに賛同する国民と共に、歩み続けますわ」
パン
 突如、銃声が響いた。
 シャンデリアの破片が降り注ぎ、会場が騒然となっていく。
 天井に銃を撃った男に警備を行っていた契約者達が駆けていく。
「こういう場でなければ、堂々と交渉の席にもつくこともできないのか。弱いな」
 嘲笑のような薄い笑みを浮かべながら、その男は再び銃を撃つ。
「動くな、盾になる!」
「伏せて!」
 身を挺してティセラを庇ったのは、仮面の男、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)と、ずっと警護していた白百合団のミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だ。
「馬鹿なことはおやめなさい!」
 シャンデリアの破片からは、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)がティセラを庇っている。ティセラに反意を持っていても、この場でティセラを傷つけることがいかに危険かはわかっていた。
 それを口実に、エリュシオンが戦争を仕掛けてくる可能性だって考えられる。
 2発目の弾丸はミューレリアの肩を撃ち抜いた。
 ティセラは倒れかかるミューレリアを抱きとめ、男に目を向ける。
 銃を撃った男――イルミンスールのレン・オズワルド(れん・おずわるど)は身を翻して窓の方へと走る。
 ガチャン
 窓ガラスが外から割れた。
 続いて、弾丸が飛び込んでくる。
 窓際に避難していた百合園生から悲鳴が上がり、身を屈めていく。
 しかし直ぐに、襲撃は終わる。外からの狙撃を試みたレンのパートナーザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が、警備兵に取り押さえられたのだ。
「気持ちはわかるが、ここでそりゃねぇだろ!」
 警備を担当していた七枷 陣(ななかせ・じん)、それから、姿を消して手薄な場所を警備していたデュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)らにレンも囲まれ、取り押さえられる。
「お怪我がなくて、何よりです。本日はご存知のようにエリュシオン帝国からの使いの方をお招きするために設けた場ではございませんので、武器を持った不届き者の侵入を許してしまったようです。申し訳ありません」
 ラズィーヤが護衛の者と一緒にティセラの元に歩み寄る。
「覚悟の上でしたから、問題ありません。寧ろそういった小さなテロ行為を行うものに、不利な条件下でも決して屈することのない強さをお見せしたかったですわ。彼女の手当て、お願いしますわね」
 ティセラは心配気な目をミューレリアに向けた後、ミューレリアを彩蓮に預ける。
「しっかりしてください」
 医療知識のある彩蓮は、その場で応急手当を始める。
「全然平気だって」
 ミューレリアは痛みに目を細めながらも笑みを見せた。
「では、そろそろ戻りますわね。後当主様によろしくお伝えくださいませ」
 舞踏会を続けられる状態ではなくなり、ティセラはラズィーヤ、そして皆に礼をして会場を後にしていく。
 護衛としてヴァイシャリー軍の兵士が数名ティセラについていく。
「あの」
 ずっとティセラやホールの人々を観察し記録をしていたホウ統 士元(ほうとう しげん)が、入り口でティセラにの前に回りこむ。
「私はいずれエリュシオンへ取材の旅に行きたいと思っています。紹介状の作成をお願いできませんか?」
「知り合いでもない人物を紹介することはできません。尤も、あなたが6首長家当主など、紹介するに値する人物であるなら可能ですわ。少なくても一般人をわたくしが紹介することは現時点では行えることではありません」
 微笑んだ後、ティセラは会場の外へと出て行った。

 会場を襲撃したレンとザミエルは、暫くの間ヴァイシャリー軍に拘束をされ、獄中生活を送ることになる。