空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

リアクション公開中!

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
「……戦う、と言われましても……私は歌うつもりでいましたのに」
「とーこだって、ちゃ〜み〜の歌声を拡張するくらいしかできないぞ!?」
 またどこからか響いてくる声に、『秋葉原四十八星華ロボ』の胸部、ほんの僅かに膨らんだそこで操縦を任されてしまった千代と塔子が、どうしましょうと互いに顔を見合わせる。
 
『あはははははは!! 無様なものね』
『所詮地方のアイドルなんてそんなもの! 秋葉原のアイドルを目指そうなんて、甘い、甘過ぎるわ!』
 
 上空に舞い上がった謎のロボから、見下したような声が降る。
「……あら、そのような事を言っていられるのも、今のうちですわよ。軽々しく発言をした報いを、受けてもらいましょうか」
 アンリがその4枚羽を展開させ、燐光をほとばしらせつつ、『秋葉原四十八星華ロボ』、長いので通称『四十八☆ロボ』が上空に舞い上がる。
『あら、飛べましたのね。……いいですわ、あくまで立ちはだかるというのであれば、お相手して差し上げましょう』
 
『A(秋葉原アイドル)RB(ロボット)28、オンステージよ!!』
 
「ちょっと、いつの間にロボットバトルが始まっちゃったわよ!? それにあれって、秋葉原四十八星華が……」
 秋葉原観光を遊馬 シズ(あすま・しず)と楽しんでいた東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)が、彼に連れられて来たイベント会場で突然、ロボットバトルを目のあたりにすることになり、困惑した表情を浮かべる。ロボが秋葉原四十八星華であることも、実は秋葉原四十八星華の一員だった彼女にとって衝撃を及ぼすものであった。もしかしたら自分もあの中の一パーツになって戦っていたのかと思うと、頭が痛くなってくる。
「お前ら、アイドルなら歌で戦え、歌で!! なんで急にロボバトルしてんだよ!?」
 さらに言えば、シズの突然の豹変ぶりも、秋日子の困惑に拍車をかけていた。そういえば、イベントの最中時折「音が違う!」と癇癪を起こしていたのを思い出す。どうやら、音楽には大分厳しいようだ。
(……とにかく、事態が落ち着くまで見守るしかないわね。下手に何かしたら私が秋葉原四十八星華の一人ってバレちゃうかもしれないし……)
 幸い、激しい戦いの影響は、このイベント会場にはほとんど降りかかってこなかった。もしかしたらそれは、観客を傷付けてはいけないというアイドルの本能からだったかもしれないが、そこまでの考えに至ることはなく、秋日子が事態を静観しようと試みる。
「サクラコ、お前は行かないのか? 最後に一花咲かせるつもりで行ってくればいいじゃないか」
「イヤですよっ! あんなのに巻き込まれるくらいなら、ふつーの女の子のほうが気楽ってもんですよ」
 会場の一角で、上空のアイドル対決(という名のロボバトル)を見学していた白砂 司(しらすな・つかさ)が、隣のサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)に参戦を持ちかけるも、サクラコは頑なに拒否する。彼女も秋葉原四十八星華としてアイドルをやっていたが、そろそろ飽きたようで引退を決意していたのだった。
「……それより、なんですかこれは。引退を前に『思い出作り』の場を設けてくれたことには感謝しますが、だからといってタワシはないでしょうタワシは」
「予算の都合上仕方なかったんだ」
「ふつーこういう時は、勿体無くて使えないものとか用意するでしょうに。前も散々訴えたじゃないですか、抱き枕を作ろうって」
「抱き枕は、その……なんだ、嫁入り前の女が軽々しく作るもんじゃない」
「……なんですかそれは。心配してくれてるつもりなんですか?」
「さてな。とりあえず作ったものは捌いてしまうぞ。荷物を増やしたくはない」
 作業に戻る司に、もう、と呟きつつサクラコが後に続く。
「な、何かすげぇ事になってんな! えっと、あのロボに千代が乗ってんだっけ? 千代ーっ、頑張れよー! 終わったらどっか遊びに行こうな!
 観客席では、千代がイベントに出ると聞いて応援に来ていたセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)が、上空に向けて声を張り上げ応援していた。
(秋葉原……話に聞いた通り、面白い街のようだ。後であちこち見て回るのも悪くなかろう。……ここはひとまず、セシルに付き合ってやるとしよう)
 隣では月の泉地方の精 リリト・エフェメリス(つきのいずみちほうのせい・りりとえふぇめりす)が、叫ぶ代わりに持ち込んだ鈴を鳴らして応援の代わりとしていた。
 
「それじゃ、行ってくるよ、父さん!」
「相手が本場の秋葉原のアイドルってんなら、負けてられないね!」
 『四十八☆ロボ』から十八号と桜が、ロケットを勢い良く噴射しながら放たれる。
『そちらがそのつもりなら、こちらはその上を行かせてもらいます!』
 それに対し『ARB28』は、自らの腕を勢い良く回転させ、飛んで来る二本の腕に向けて腕を放つ。やはりロケットを噴射して放たれた腕は、二本の腕を吹き飛ばして『四十八☆ロボ』を掠め、空中で宙返りして元の位置に戻ってくる。
(オレ、手だから、腕が飛んだ時、一緒に飛ぶハメになるんだよな……ちくしょう、巻き添えになるんだったらマリーアも巻き込んでおくんだった……)
 腕と共に飛ばされながら、カオルがそんなことを思う。ちなみにマリーアは再び地下に潜った台座の上で一人、エンドレス卵焼きを続けていた。
『今度はこちらから行きますわよ!』
 『ARB28』が、背中に交差するように背負っていた、スタンドマイクを模した武器を両手に掴み、ブースターを噴かして『四十八☆ロボ』に迫る。両腕を失ってしまった『四十八☆ロボ』に応戦する術はなく、瞬く間に両方の脚を切断されてしまう。
「弁髪36文キックを浴びせずして倒れるとは……無念!」
「お、落ちるよー!?」
「あーん、まだ歌を披露してないのにー!」
「こ、これが本当のポロリ……全然違うッスよー!」
 マリーとカナリー、歌菜とサレンが地上へと落下していくのを、武器に引っ掛ける形で『ARB28』が拾い上げ、神田川へと放り投げる。盛大な水飛沫をあげて、両脚が水没していく。
「歌菜ーっ!! 貴様、よくも歌菜を!!」
 胴体にくっつくように残っていた羽純が、歌菜を失わされた恨みを晴らすべく、自らを飛ばして『ARB28』に迫る。目前まで飛翔するそれはしかし、片手を空けた『ARB28』に掴まれる形で止められる。
『悔しい? でも、これが力の差なの!』
 そのまま槍投げの要領で、羽純も歌菜の後を追うように神田川に水没する。両腕両脚を失い、ろくな武装もない(煙玉は、周囲への影響が大き過ぎるということでオミットされた)『四十八☆ロボ』に対し、『ARB28』が再びスタンドマイク型武器を両手に持ち、いつでも止めを刺せるとばかりに佇む。
「むむむ、見るからに形勢不利……かくなる上は死して虜囚の辱めを受けず!」
「同時に、バリアーを暴走させて相討ち狙いね。魔法少女の生き様、見せつけてあげるわ」
「ま、待て待て! まだ決着がついたわけじゃないんだろ!?」
 既に自爆態勢準備完了といった感じの野武と綾香を、菊が必死に押し留める。確かに、背中のアキハバラシステムと胴体のバリアーで、胴体と頭部分は装甲以上の防御力を誇る。が、いかんせん両腕と両脚がないため、武器が運用できない。
「武器ならあるよ、この身体が! 無謀なんて気にしない! 体当たりで勝負だよ!」
「額の日輪からビームが出る……かもしれない」
「呪って差し上げるのも悪くないですわね」
「た、頼むから傍で一斉に喋らないでくれ、頭がくらくらする」
「あはははは、でも楽しいよー!」
 透乃と卑弥呼、陽子がそれぞれ主張するのに、フリードリッヒが頭を左右に振り、雪霞が相変わらず楽しそうにしていた。
「どうにしろ、このままじゃヤバイよ、千代」
 いずれにせよ、『ARB28』は既に殺る気満々である。早急に対策を決めねば、残る者たちの命はないであろう。
(……ですが、これが本当に正しいことなのでしょうか。私たちは何より、アイドルであるはず。そのアイドルがこのように戦うことが、果たして正しいことなのでしょうか)
 心に浮かんだ疑問に千代が葛藤していると、地上から何か音が聞こえてくる。
「おっと、何か聞こえるな。どれどれ……」
 フランシスが自身を地上に向けて、その音を拾う――。