校長室
リアクション
● イーダフェルトで様々な労働に就くポムクルさんたちには、帰る場所だってある。 今回、いくつもの新しく建てられた施設のうちの一つのポムクルマンションが、そうだった。 「むー、食事のあとは惰眠を貪るに限るのだー」 食堂でご飯を食べてきたポムクルさんは、休憩スペースでごろんっと寝転がる。 と、そこに―― 「こらそこ! 食っちゃ寝食っちゃ寝してないで、ちゃんと荷物も運びなさい!」 怒りの藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が叱りつけてきた。 実はこのマンション、まだいろいろと準備が整っていないところである。 一人一部屋の個室にはまだまだ家具が運ばれていないところは多いし、衣類も栄養バランスの取れた食事も、少ない人数でなんとか回している状態だ。 そこでエリスと、次百 姫星(つぐもも・きらら)といった面子が、その環境改善にやって来たのだった。 「エリスさーん! この洗濯機とか冷蔵庫、どこに置けばいいですかー?」 「えーっと、洗濯機は共有スペースに置いて、冷蔵庫はキッチンの奥に――ってこらあぁぁ! 勝手に冷蔵庫の中身を食うなあぁぁ!」 もぐもぐと冷蔵庫からハムだソーセージだを盗んでゆくポムクルさんに、エリスが怒鳴り散らす。 その頃、ひゅーっと、窓の外からバシリス・ガノレーダ(ばしりす・がのれーだ)が降りてきた。 「エリスー。ポムクルたちの簡単な家具は部屋に運んだネ……って、なにやってるのヨ?」 エリスはポムクルたちと冷蔵庫の中身争奪大戦争をしている。 姫星が苦笑しながら言った。 「ま、まあ、エリスさんにもいろいろあるんですよ」 「そんなもんネ?」 「とにかく、あとテレビとか、ベッドとかも運ばないといけないですからね。頑張りましょう」 「あいあいさーヨ!」 いくらポムクルさん用の小さな家具とはいえ、数があればそれなりに重くもなる。 一生懸命運ぶ姫星とバシリスを応援するため、エリスのパートナーのアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が小さな舞台上で応援ソングを歌った。 「ぽみぽむ ぽむぽむ 小人さんだよ〜♪ いっしょうけんめい 運びますよ〜♪」 そりゃあ、歌なのだから元気は出るかもしれないが。 本人も姫星たちを思ってのことなのかもしれないが。 が―― 「…………出来れば歌うのではなく手伝ってほしいネ」 はあっと、ため息をついて諦めるバシリスだった。 ● ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……。 イーダフェルトに響く箒の音があった。 そこにはユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)とユゥノ・ユリン(ゆぅの・ゆりん)の姿がある。外見はどう見てもかわいらしい女の子にしか見えない男の娘である二人のメイドは、ただひたすらにイーダフェルトの庭や通路をはわきまくっていた。 「お父さん……」 「なに? いま忙しいから話しかけないで」 機嫌が悪そうなユーリに拒絶されるも、ユゥノは無視して続けた。 「なんだかボクたち――すごく寂しい気がするんですけど」 「言うな! それは言っちゃダメのお約束なんだよっ!?」 ユーリは大袈裟にのけぞって叫んだ。 「たとえ見ている人が一人もいなくとも! 汚れた場所を掃除する! これが“ぼーいずめいど”の宿命なの! ――こらそこ! 地味すぎるとか言わない!」 「誰に向かって言ってるんですか……お父さん……」 第四の壁を突破して叫ぶユーリに、未来の息子であるユゥノは戸惑いを隠せない。 が、とにかくいまは、ユーリの言う通りに頑張るしかなかった。 「お父さん……ぼーいずめいどの道って大変なんですね」 「そう! つらく、長く、険しい道なのだ! でも頑張る! すげー頑張る! なぜならそれが、“ぼーいずめいど”の宿命だから! びば! 掃除! びば! 箒!」 高らかに宣言するユーリと、その息子ユゥノは、頑張って掃除に励んだ。 |
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