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(5)イルミンスールの森探検・1―洞窟へ向かおう―


 ナナたちキノコ採取班は『青い星のキノコ』を求めて学校を出発し、現在イルミンスールの森を進んでいた。
 学校のある世界樹の周辺には、この広大な森が広がっているのだが、当然ただの森ではない。奥地には巨大な動物や植物が生息しており、非常に危険な場所である。
 一方で、貴重な薬草などがある場所であることも確かなので、金儲けのためにこの森を探検に来る者も割とよくいるらしい。
 『青い星のキノコ』のある洞窟はそこまで奥地には行かない、比較的安全な場所であったが、それでも狼などの野獣が出る危険はあった。

 一時間くらい歩いただろうか。アーデルハイトからもらった地図によれば、目的の洞窟の場所はそう遠くはなかった。
「何の音だ?」
 「キノコ採取班の」一人鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、彼らの周りの茂みが先ほどからゴソゴソ物音をたてているのが気になっていた。
「モンスターか盗賊かもしれないわ」
 松本 可奈(まつもと・かな)は剣を構えて、ゆっくりと茂みに近づく。
「怪しい奴! 出てきなさい」
 可奈は剣を茂みに向かって降りおろした。すると、2体の影があわてて茂みの中から飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと待つでござる。拙者たちは怪しいものではないでござるよ〜」
 飛び出してきたのは忍者口調の男、ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)イリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)
「どこが怪しくないんだ、ふざけた格好して」
 真一郎が二人の姿を見ていった。二人とも森の中を探検するのにはやや場違いな感じの、トレーナーとオーバーオール姿であった。
「森でキノコを探すにはうってつけでござろう?」
「なんで私たちがキノコを探していることを知っているの?」
 十六夜 泡が不思議そうにたずねた。
「もちろん、一流の武士を目指す拙者は情報収集にも長けておるからでござるよ……なんでもイルミンスール魔法学校では今、怪物が現れて姫を困らせておるそうでござるではないか」
 現在のクロードは怪物には違いないが、姫とは誰だろう? 校長たちではなさそうだし、なにやら噂に妙な尾ひれが付いているようだ。
「そう、それで勇者がパワーアップして怪物を倒すためにキノコが必要なのよね! だから私たちが手伝いにきたのよ!」
 イリスキュスティスがポーズを決めながら、楽しそうに言う。
 微妙に間違っている、というか怪物とキノコ位しか話は合っていないが、真相を話しても聞き入れてくれる相手じゃなさそうだ……

「しかし! キノコの生えている洞窟には恐ろしいグリズリーがおるそうではないか! 凶暴な獣だが無益な殺生はよろしくない。そこで拙者たちはよい案を考えついた!」
 ゴザルザが力説している間に、イリスキュスティスが袋の中から何かの包みを取り出して、可奈に手渡した。
「このお肉を使って、敵の気を引くのよ!」
「あ、ありがとう……」
 相手に気圧されたようで、可奈はとりあえず肉の包みを受け取る。
「よかったよかった、これで恐ろしい怪物に勝ったも同然でござるよ」
 ハハハと胸を張って笑うゴザルザ。
「はあ……」
 真一郎が気の抜けた返事をするが、ゴザルザは気にしない様子。
「では皆の者、さらばでござる!!」
 そういうと、ゴザルザとイリスキュスティスはダッシュで森の中へ消えていった。後にはキノコ採取班たちと静かな森が残された。
「まあ、悪い人たちではないようだったから、いいかな……」
 可奈が包みを見ながら言った。

 しかし、去ったと思った珍客たちは、すぐに引き返してきた。
「いやーっ!!」
 イリスキュスティスの悲鳴である。泡は何事かと驚いて前を見ると、なんと二人が2匹の狼に追いかけられていた。
「殿方の方は、武士じゃなかったのかしら……」
 しかし、脱力している場合ではない。気を取り直して、泡たちは狼から二人を助けることにした。
「火術は……森に燃え移ったら危ないから、これね! やーっ!」
 泡は逃げ惑う二人と狼たちの間に飛び込み、飛びひざ蹴りで狼たちをなぎ倒した。
 狼たちは地面に叩きつけられてキャンキャン悲鳴を上げる。
「もうこれに懲りたら、人間に近寄るんじゃないわよ!」
 起き上がった狼たちはあわてて森の奥へと逃げていった。
「いやー、ありがたい。助かったでござるよ」
 ゴザルザは嬉しそうに泡の手を握る。
「まあ私の魔闘拳術にかかれば敵じゃないけど……ちょっとはしっかりしなさいよ」
「ははは……」
 イリスキュスティス、ゴザルザの二人は恥ずかしそうに手を振りながら、今度こそ森のどこかへと去っていくのだった……

 気を取り直して、一行は洞窟へと向かうことにした。

 しばらく歩いていると、真一郎たちは向かい側から二つの人影が近づいてくるのに気づいた。
「この地図ほんとにあってるのかな……」
「あってると思いますけど、ちょっと大ざっぱかもしれませんね」
 森の中をさまよっていたのは、蒼空学園の皆川 ユイン(みながわ・ゆいん)宮辺 九郎(みやべ・くろう)であった。
 二人は珍しい『青い星のキノコ』の噂を聞いて、イルミンスールの森の中を探索していたのだ。もちろんキノコを手に入れて、大儲けするのが目的である。持っている地図は、雑貨屋で買い求めたものだった。
「君たち、そこで何しているのです?」
 真一郎が声をかけると、ようやく二人はキノコ採取班たちの存在に気づいたようだ。
「やあ、あんたたちもキノコを探しにきたのか?」
 九郎が真一郎たちに声をかける。
「ええそうよ。今、イルミンスールで先生が怪物になって大騒ぎになってるから、元に戻すために必要なの」
 可奈が説明する。
「そうでしたか。実は私たちもその噂を聞いて、力になれないかとキノコを探していたんです」
 ユインが言った。そして謝礼金をもらうのが最終的な目的であるが、そこまではさすがに言わない。
「それなら話は早い。戦力は多い方がいいですからね、一緒に洞窟へ行きましょう。もう近くだと思いますが……」
 九郎たちは真一郎の提案どおり、一緒に行動することにした。自分たちだけでキノコを見つけた方がもうけられたかもしれないが、グリズリーに二人だけで挑むのは心細かったのだ。

 泡がアーデルハイトに印を付けてもらった地図の通りに進んでいくと、急な斜面に大きな穴があいているのが見えてきた。
 周りに似たような穴は見あたらなかった。きっとグリズリーの洞窟に違いない。
「思ったより早くついたわね」
 可奈が言った。すぐにキノコを見つければ、あまり遅くならずに学校へと戻れるだろう。
「では熊対応班の方、よろしくお願いします」
 ナナがフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)ら熊対応班の生徒たちに頼む。
 洞窟内で多数のグリズリーたちと戦うのは危険だ。そのため事前の作戦で、洞窟の前で煙などを使い、グリズリーをおびき出そうということになっていた。
 もちろん全部のグリズリーが出てくるかは実際にやってみないとわからないので、キノコ採取を担当する生徒たちも戦闘の準備を怠らないようにしている。
 熊対応班たちは、持ってきていた薪を使い、洞窟前で煙を起こす準備を始めた。はたして作戦はうまくいくのだろうか……