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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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11・楽しい京都観光(清水寺)

 時間は大いに遡って。
 着付けの終わった生徒たちが、人力車に向かって歩いてくる。
 わらわらと大きな集団だ。
 先頭を歩いているのは、橘 柚子(たちばな・ゆず)だ。彼女は普段の巫女装束のままでいる。
 舞妓体験なのだから舞妓の衣装にと生徒会は強く主張したが、ご機嫌のラズィーヤが「構いませんわ」と承諾してしまった。
 そのすぐ後ろには、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)がいる。地毛で結うには少し髪が短かったため鬘をつけているのだが、大きな毬のような花簪もつけているので、頭がふらふらしている。
「おっ、重いです」
 薄紅色の着物の裾を踏みそうになって、柚子に捕まりっぱなしだ。

 真口 悠希(まぐち・ゆき)は、ふっくらと結った割れしのぶの髪に黒と赤の花簪をつけている。白地にピンクのバラが総柄に入った着物は愛らしく、半襟は今風のレースがついたものだ。
「静香さまは、もう行かれてしまったんですね」
 静香が先に、お茶グループと出掛けたと知り、少し落胆している。
「どこかで合流できるかもしれませんよ♪」
 淡いピンクに秋らしい紅葉柄の着物を着た神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が悠希を慰めている。

 目の見えない如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、遠鳴 真希(とおなり・まき)と手をつないで歩いてきた。
「ひなちゃん、足元少し段差あるから気をつけてね」
 真希は、日奈々の着付けも手伝っている。
「お揃にしようね♪」
 淡いピンクにコスモスの柄の着物を日奈々に選び、自分は水色にコスモスの着物を着た。かんざしは同じコスモスがたくさんついた花簪だ。
 真希は髪が短いので、鬘をかぶっている。なんだか頭が重くて動きにくい。
 日奈々の足元は履きなれた靴だ。少し覆いをつけて着物に合うようにアレンジしてある。

 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はいつものままの巻き髪で小さな花簪をたくさん頭につけている。お気に入りの着物を家から用意したヴァーナーは、半襟だけ白いレースの可愛いものにした。おぼこ(靴)にもレースの鼻緒をつけている。
「楽しみだね」
 ヴァーナーの袖を引っ張るのは、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だ。歩の着物には、鮮やかな檸檬イエローに鈴やら毬やら可愛い小物がいっぱいついている。
「歩ちゃん、可愛い」
「そんな、ヴァーナーちゃんみたいすればよかったかなぁ、髪の毛下ろしたままも可愛いよねッ」
 割れしのぶの結った髪が気になるらしく、なんども歩は鏡を見ている。
「歩ちゃん、可愛いよぉ」
「そうかなぁ」

 フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、赤い着物を着ていた。クラシカルで正統派の柄だ。合わせた白地の帯も古典柄でとても美しい。焦茶のロングヘアを少し大人っぽく結い上げ、品よく仕上げている。
 セラ・スアレス(せら・すあれす)シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)も着物にはまるで無頓着だったので、フィルが見立てて用意した。悩んだ末、セラには淡いピンクで裾に可憐な山百合が咲いているものを選んだ。シェリスは普段のゴスロリに近い着物と簪を選んだ。
 舞妓衣装にいつもどおり、フリル付の黒い日傘のシェリスが訊ねる。
「どうしてセラが可愛いのじゃ」
「ん?なんとなく」
 フィルも、ただ見てみたかったとはいいにくい。
「じゃが、似合っているぞ」
 セラは、どうも落ち着かない。

 柚子が人力車の車夫と相談している。
 観光ガイドらしく柚子が手を上げた。
「バスと人力車、どっちがええ?」
「人力車っ!」
 ヴァーナーが手を上げる。
 みんな「うんうん」と頷いている。
 一行は二人ずつ人力車に乗ることになった。
 最後は、シェリスが1人で乗る。
「日傘を差したいんじゃ」
 ところが、遅れて一人、見たことのない生徒がおぼこ(靴)を手に、足袋のまま走ってくる。
 裾がはだけて足が丸見えだ。
「・・・・」
 シェリスはじっと、そのむき出しになった足を見ている。
「すみません、遅れてしまって。載せてもらえますか」
 マコトが息を切らせて問う。
「・・・構わんぞ」
 これで6台の人力車に2人ずつの生徒が乗ったことになる。


 イルミンスール魔法学校の姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)は自由時間、どこに行こうか迷っていた。
「それほど頻繁に訪れる所ではないだろうからな。グレッグ、そなたが興味のある場所を回ってみようか?」
 ガイドブックを手に司がグレッグに問いかける。
「・・・ええと、そうですね。司が折角そう言ってくれるのなら、パンフレットに載っている『神社』や『お寺』などを巡ってみたいです。地球の歴史ある場所を辿るのは、私にとって、とても興味深い事なので」
 遠出は避けて、街の中心部を中心に回る計画を立てる。
 まず、向かったのは東寺。足早に見学したあと、平安神宮、南禅寺と向かう。
 南禅寺山門付近、歩きつかれた二人は、お茶屋で一休み。
 連なって動く人力車を目撃する。
「今の舞妓さんじゃないか」
「百合園の修学旅行かもしれないですね」
 はらはらと紅葉が司の肩に落ちる。
 ふと見上げると、頭上いっぱいに紅葉がある。
「たまにはのんびりもいいですね」
 グレッグは、京都がすっかり気に入ったようだ。
「では、清水寺にも言ってみますか」
 二人も、先ほどの舞妓たちのように人力車に乗ることにした。
 清水寺まではすぐだ。
 到着すると、ここにも舞妓の集団がいた。
「グレッグ見てみろ、ここにも舞妓の集団だ。着物の色柄もだらりの帯も華やかだな」
「司も着てみたら、きっと似合うし華やかだと思いますよ」
 グレッグの言葉には少し眉を寄せ、170センチの自分の身長に・・・と想像してみる。
「わたくしは背丈がな…おそらくあのぽっくりを履いたら、そなたの背丈とそう変らなくなるだろう。それに何となく転びそうだな、あれは」
 ざわめきながら笑いながら去ってゆく舞妓の集団を見送る。
「そろそろ時間であろうか。・・・ああ、そうだ。仕事が忙しそうな二人にもお守りを買ってから帰ろう」
 司の頭に思う浮かぶ顔がある。