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【2019修学旅行】紅葉狩りのはずが鬼と修行?

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【2019修学旅行】紅葉狩りのはずが鬼と修行?
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プロローグ

 秋の吉野山…紅葉が見頃のこの時期、結界の外では観光客たちが楽しんでいる様子が見えます。結界は異層空間に生徒たちを閉じ込めているらしく、生徒たちからは観光客が見えますが、観光客たちからは生徒や精霊、鬼の姿は見えないようです。

「くっそー! とっとと捕まえて、山の幸にありついてやるー!!」
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)はガッツポーズを決めて走り出しました。
「…ってどこへ?」
 生徒たちは涼司の背中を呆然と見つめるだけでした。

【第1章 エロエロ黒鬼を捕まえろ!】

 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は吉野の山へと向かっていた。
「さあ、天才策士とやらの、胸を借りるとしようか」

 黒鬼は自分の影分身を使い、吉野山での鬼ごっこを楽しむようだった。銅の鳥居の上にゆっくり、体を浮かせてぐるり、と吉野にいる生徒たちの気配を見つめるかのように見回した。
「可愛いお嬢ちゃんたちが、山のようにいますねえ〜、いやいや、楽しませていただきましょうかね〜。『先生』の許可も頂いていることですし、ここは私のテリトリー。あのうるさい赤鬼も、色気より食い気の黄鬼もいないことですから、エロスの世界を展開いたしましょう」

 超ミニの制服に、健康的な脚線美が自慢、ツインテールを束ねている大きなリボンがトレードマークの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は『山の幸』目当てに、こおりおにに参加していた。美羽はその身軽さを活かして、黒鬼探しに山の中を奔走している。と、美羽の足元が突然、空に舞う。黒鬼が仕掛けた落とし穴だった。
「早速トラップね!?」
 美羽は慌てることなく、その落とし穴の縁を蹴り、強行突破してしまう。
「こんな程度なのぉ? 黒鬼さん!」
 美羽は黒鬼を挑発すべく、次から次へ、落とし穴のトラップを踏み抜いては、飛んで行く。
しかし、次の瞬間、美羽の体は急に空中で動きを止めてしまう。次から次へ、実体化した雲の精霊二体が美羽に蜘蛛の糸を巻き付けてきたのだ。
「きゃあ! なによお、これ!」
「黒鬼さまのご指示で、我ら、蜘蛛の糸であなたさまのような方を足止めせよ、と仰せつかりました」
「ずっるーい!」
「私たちも、トラップの一部でございます」
「あなた様かお仲間が私たちにタッチしないかぎり、私たちは凍ることはありません故…」
「残念! 私にはこの程度はきかないもん!」
 スウェーで蜘蛛の糸を振り払うと、素晴らしい運動神経で美羽は蜘蛛の精霊二体を素早く捕まえてしまう。
「タッチ!」
 美羽が触ると、蜘蛛の精霊はみるみるうちに氷になってしまう。
「よっし、この調子で『山の幸』もゲットしちゃうもんね!」

 比島 真紀(ひしま・まき)と、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)はとにかく、山を駆け回っていた。
「黒鬼を捕まえるのは、他の人に任せといて、精霊たちをこおりおにでタッチすることに専念するであります!」
 さすがはシャンバラ教導団の一員、真紀は体力に任せて駆け回る。
 結界の中では普段、姿を現しにくい精霊たちも実体を表すような仕組みになっていた。
「俺も頑張るよ! おっと、早速、精霊発見!」
 ふわふわと浮いているわたぼこりのようなイキモノが、二人を見つけてびっくりして逃げようとするが、真紀が軽く叩くと一気に氷になって固まり、そのまま空中を浮かんでいる。
「本当に氷になるんでありますね。しかも、浮いているとは…さすがは結界の中。これは楽しめそうであります!」
 
「ああ〜んヤッダ〜、タンクトップが引っかかっチャウ〜、見えちゃう〜ネ」
 レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)は、白のタンクトップにホットパンツという出で立ちで、くねくねとポーズをとっていた。レベッカはわざと黒鬼のトラップに引っかかり、蜘蛛の糸で出来た縄を足に巻き付けて身動きが取れなくなっていたのだ。
パートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が慌てふためいて、寄ってくるが、レベッカは立ち上がれないふりをしている。
「レ、レベッカ、大丈夫ですか?」
「どうも、コレ、特殊な糸ミタイネ〜ワタシじゃとれないネ〜、あ、そこになんか花をアタマにくっつけた奴がいるヨ、アリシア」
「あ、精霊ですわ。氷にしないと」
 可愛い顔して、アリシアは容赦なく、近づいて来た精霊をぴしゃ! と叩いてしまうと、そのまま精霊は氷になってしまう。
「oh! ひどいネ、薄情ダネ、アリシア」
「だって、レベッカを守る為ですもの。それに、結界がとけたらすぐに復活いたしますよ」
 その瞬間、レベッカの耳元でパートナーの明智 ミツ子(あけち・みつこ)からハンズフリーイヤホンの携帯を通して連絡が入る。ミツ子は、隠れ身でレベッカたちの周辺を監視し、黒鬼や精霊たちが近づいてくるのを、警戒していたのだ。
「レベッカ、さっき、人影らしきものが横切ったわ。…あれは、もしかして本能寺で私が討ち取った織田信長…」
「そんなワケナイネ。ノブナガに会いたいなら、高野山行くネ。高野山金剛峯寺に、ノブナガの墓あるって聞いたことアルネ〜?」
 即刻のレベッカの却下に、ミツ子は黙ってしまう。
「はい、その通りですよ。それに信長にはそんなに会いたくはないわ。…じゃなくて、人影が近づいているわ」
「ワカッタね、で、オーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)はどうしてル?」
「天狗の子供の精霊を捕まえたらしく、タッチしてからモフっていますが、どうもこの結界のルールらしく、凍った状態なのでモフってもかちかちで固いだけみたいよ」
「奈良だから、鹿がいて、もふれると思ったのに〜しかも天狗の子を捕まえてみたら、かっちかちです〜」
 オーコはぐずぐずと悲しい気持ちを天狗の子供(冷凍中)に語りかけている。いや、鹿がいるのは奈良公園…と思いつつも、ミツ子はめんどくさくて黙っていた。


 勇者ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は勇猛果敢にも、吉野の山に踏み込んでいく。
「黒鬼め! この『鉄壁』ベア・ヘルロットが来たからには、お前のおもいどおりにはさせーん! あーははは! この勝負貰ったようなもんだぜ!黒鬼なんて文学系のなまっちょろい奴だろ!? 自分のこの『体力』を持ってすれば…あんなモヤシみたいなヤロウなぞ速攻で捕まえてやるぜ☆ くっくっく・・・3分でこの勝負決めてやるぜ!! 残念だったなっマナお前の出番ないぜ☆ って、どーん!!」
 自分で効果音を声に出してしまうほどに、ベア・ヘルロットは驚いていた。黒鬼のサルでも分かるトラップ、すなわち落とし穴におちてしまったこと、自分のぼんやり加減にただただ、驚いていた。そして、落とし穴の中に仕掛けられた黒鬼のトラップに、驚くしかなかった。
「おおおおおお…!! なんじゃこらああ〜!!」
 トラップの底には、斜めに切られた竹槍が何本もぱっくりと口を開けてベアに向いていた。
 ベアは必死になって、四肢を踏ん張り、穴の途中で落ちないように踏ん張るしかできなかった。
「あ、ありえない、こんなトラップ、ありえない…!」
 ベアは力が続く限り、生まれたての子鹿のようにぶるぶると手足を張り、それでもその腕力でもって徐々にそのまま少しずつ、落とし穴を上がっていく。
「あり得ないのはベアの方だよ! この脳みそ筋肉男! 何が『三分でこの勝負を決める』よ! もう、私の足手まといにはならないでよね〜」
 ベアのパートナー、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)がせっかく穴の入り口までやってきたベアの背中にひょい、と乗り、落とし穴を踏み越えていく。
「ぎゃあ! 何をするんだ、マナ!? 落ちる〜!! 落ちる落ちる〜!!」
「ありがと、ベア〜レディのために、体を張ってくれたのね!? ベアの犠牲を私は忘れないよ! よーし、黒鬼を私の魅力で捕まえちゃうんだもん!」
「おい待て、マナ!? マーナーちゃーん〜助けていけ〜」
 穴の中からの叫び声にも耳を貸さず、マナはステップも軽く山を駆け抜けていく。

「きゃああ!」
 フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)は吊り縄にひっかかり、宙づりになってしまう。
「おっと、また一人罠にかかったようですね。それに若いお嬢さんだ」
 黒鬼が嬉しそうに、フェリークスのもとにやってくると、顔をまじまじとのぞき込む。
「それ!」
 次の瞬間、フェリークスは自分の胸元をぱっとはだけて、黒鬼に見せつけたのだ。
「うわお!」
 黒鬼は胸元に目が釘付けになってしまう。
「引っかかったな!」
 そこに、フェリークスのパートナー、イーオン・アルカヌムがバーストダッシュで回り込んできて、雷術で黒鬼を撃った。
「うわあああ!」
 黒鬼はまさに真っ黒焦げ。
「タッチだ!」
 イーオンがその黒鬼をタッチするが、どろんと音を立てて消えてしまう。
「影分身か!?」
「イオ、そんなはずはありませんな、フェリークスはこいつがホンモノのスケベだと確認しますな…」
 フェリークスはわざと吊り縄にひっかかり、黒鬼を罠にかけたのだ。吊り縄を切ると、フェリークスはくるっと一回転して、着地した。
「いえいえ、確かに私はホンモノでしたよ」
「黒鬼!」
 イーオンとフェリークスは姿を現した黒鬼に、驚く。
「途中まで、私はホンモノでしたが、雷術を受けたとき、とっさに影分身と入れ替わったのです」
「さすがは天才策士と言ったところだな。術中にはめて、鼻をあかしてやろうと思ったが」
 イーオンはニコニコと笑いながら、黒鬼にバーストダッシュで詰め寄るが、黒鬼はその気配を察していたのか、すいすい、と木々を伝って逃げてしまう。
 イーオンとフェリークスは交互に挟み撃ちをするように、タッチ寸前まで黒鬼の近くに寄るが、黒鬼は見た目とは違い、素早く木を伝って上へと逃げる。どうやら、イーオンは本気で戦いを挑んでいるわけではなく、この鬼ごっこを楽しんでいるようだった。それに気がついたのか、黒鬼も二人との鬼ごっこを楽しんでいる様子で、イーオンとの間に奇妙な連帯感が生まれてきたようだった。
「ああ、楽しいですね、アタマの良い方との鬼ごっこは。しかし、私は次もありますのでこれにて失礼いたしますよ」
 黒鬼はそういうと、次の瞬間、ドロンっと煙幕を張って姿を消してしまう。
「…取り逃がしたか…しかし、久しぶりに鬼ごっこなんて楽しみましたな」
「イオ、まだまだ若いですね」
 フェリークスは、そのイーオンの姿にくすり、と笑いを漏らした。