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リアクション
*8:00〜*体育祭実行委員会集合
「罰ゲーム?」
校長室でいまだに出発する気配を見せていなかった御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、改めて聞きなおす。桐生 ひな(きりゅう・ひな)は自らもよく似合う古風な体操着にブルマをはいた姿で、ビデオカメラを構えてにっこりと微笑んでいた。笑顔から除く八重歯が彼女をより魅力的に見せていた。
「はい、今回イルミンスールの校長からの挑戦状があると聞きました。なので、是非是非、向こうに一泡吹かせてやりませんか? 内容は負けてからのお楽しみってことで」
「……そうね、面白そうだわ。後夜祭も盛り上がるでしょうし、その案を通しましょう」
「はい! ありがとうございます。では、負けた学校の校長に、罰ゲームを受けていただくってことで〜!」
言い切ってすぐに、校長室の扉を開けて外へと向かう。ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)はそれを見送ると、環菜に向き直る。
「よかったのですか?」
「生徒達が楽しめるなら、それでいいんじゃない?」
私が言っているのは、負けたらあなたがそれを受けるのでは? ってことなのだけれど……
電波の天使は苦笑しながら体育祭の準備を進めていた。
校長室の外で待っていたのは、後夜祭実行委員のターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)だった。銀色のロングヘアをなびかせて、たわわな胸を隠そうともしないで両腕を組んで微笑んでいた。
「成功、みたいね」
「そっちは?」
「もちろん大成功よ」
親指を突き立てて作戦の成功を示す。二人はにんまりと笑うと、後夜祭のイベント進行表に『罰ゲームブルマ披露撮影大会』と書きこむ。
ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)は胃を押さえながらそれを眺め、リィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)にいたっては用意したブルマ一式を改めて眺めてニコニコしていた。
秋を通り越し、とっくの昔に冬になってもう年の瀬だというのに何故こんなイベントをやっているのだろうか。
空を見上げながら白波 理沙(しらなみ・りさ)はそんなことを考えていた。澄み切るほどに青い空からは想像もつかない、突き刺さるような北風が彼女の金色のポニーテールを揺らし、ブルマが良く映える白い彼女の生足に寒さを与えている。
「澄み切った空を見つめていると、なんだか悲しい気持ちにならないか?」
「え……?」
「あまり遠くを見つめてるから、ね」
ピンクの髪をかき上げながら、ジャージ姿のリア・ヴェリー(りあ・べりー)は語りかけた。すかさず明智 珠輝(あけち・たまき)は割って入り白波 理沙の手をとってその白い指を握り締める。
「美しい……なんと美しいブルマ姿……っ! その脚線美はまるでげいじゅつひっ!」
「ゴメン……兄貴……ポポガ、設営、手伝い中……兄貴、見えなかった」
ナイスタイミングでポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)は片手で抱えているテントの柱で明智 珠輝の後頭部にヒットを加えた。思わず親指を立てていたリア・ヴェリーを横目に、白波 理沙も堪え切れなくて噴出した。
放送担当、と書かれた札の立つテントは既に用意が済んでおり、テントの下には放送関連機材が置かれていた。九条院 京(くじょういん・みやこ)は早速マイクを握り締めて放送席を占拠していた。
「熱い実況は私にお任せなのだわ!」
「先ほど持ち回りでやるという話を聞いていなかったのか?」
文月 唯(ふみづき・ゆい)は眼鏡の奥にある青い瞳を細めながら、小さくため息をついた。持ち回りの順番の書かれた紙を、改めて放送席のよく見える場所に置いた。
午前の部
・呼び出し担当:リア・ヴェリー
・競技実況担当:白波 理沙
・解説担当:明智 珠輝
午後の部
・呼び出し担当:文月 唯
・競技実況担当:九条院 京
・解説担当:フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)
神和 綺人(かんなぎ・あやと)
「尚、実況担当は各競技場の指定場所にて現場からの中継を行うべし……大丈夫か?選手の邪魔をしてはいけないからな?」
「熱いわ! 熱い選手達の魂のソウルを伝えるのだわ!!」
その頃、二番目にポポガ・バビによって立てられたテントには『救護テント』と書かれていた。
イルミンスール魔法学校の養護教諭戸隠 梓(とがくし・あずさ)は、蒼空学園養護教諭の藍乃 澪(あいの・みお)と準備してきた救急箱の中身を確認しあっていた。
手伝いを申し出た四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は、持参した応急道具を持ってエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)と共に両教師の下へ駆け込んできた。
「おはようございます! 私もこれくらいもってきました」
「あら、四方天さん〜ありがとうございますぅ」
「お疲れ様、唯乃ちゃん。こんなに沢山、大変だったでしょう。テントの中は準備してますし、先に少し休んでください」
「それなら、私達も手伝います。エル、中の準備手伝いましょ」
「はいです」
「働き者ですねぇ〜。戸隠先生ぇ、私達は先にお茶でも入れて待ってましょうかぁ」
「そうですね藍乃先生、こういうときは学生達に働いてもらったほうがいいですしね」
くすくすと女教師たちは笑いあうと、持ち寄ったティーセットの準備を始めた。
テントの中には簡易式のベッドが置かれ、重傷者が一旦休むことができる仕様になっていた。本郷 翔(ほんごう・かける)はパートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は4台ほどの簡易ベッドを並べ終わったところだった。
「やっと終わった……このあたりにアロマポットも並べて……」
「ベッドとベッドの間に、仕切りくらい作ったほうが良くないか?」
「そういうものを作ると、よからぬ方向にこのベッドを使う人がいますからね」
「冗談抜きに、気遣っての結果なんだけどなぁ……」
「あら?もう終わっちゃった?」
「四方天様、ええ。あとはちょっとした内装がまだあります。あれ、フィア様は?」
「フィアは放送のお手伝いなのです……私は唯乃のお手伝いなのです」
「なるほどね〜。それじゃ、俺と一緒にあっちのベッドメイクなんてどう」
「ソール?」
本郷 翔は静かにパートナーの名前を呼ぶと、小さな舌打ちが帰ってきた。おとなしく内装を手伝っていると、かわいらしいソプラノが救護テントに近づいてきた。
「皆さーん! 一服入れませんか〜?」
看護師のかわいらしい服装を纏ったヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、両手に焼きたてのパンが入った紙袋を抱えて駆けてきた。その後ろにはユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が大きなクーラーボックスを抱えていた。中身は捻挫などの冷却用に使う氷だ。
「まぁ、それでは皆さん軽く朝ごはんにしましょう〜」
戸隠 梓が声をかけると、救護班のメンバーは綺麗に並べられたハーブティと購買から分けてもらった焼きたてのパンを囲んで食事を開始する。すると、藍乃 澪が手を叩いて声を上げる。
「救護戦隊SOSレンジャーなんてどうですかぁ?」
「藍乃先生……?」
「ああ、いいですねぇ。唯乃ちゃんはレッド、エラノールちゃんはブラックですね」
本郷 翔や四方天 唯乃があっけにとられている間に、二人の会話はぽんぽん進んでゆき、ついにはメンバー一覧表なんてものまで作り上げていた。
救護戦隊SOSレンジャー
レッド〜〜四方天 唯乃
ブラック〜エラノール・シュレイク
ブルー〜〜本郷 翔
イエロー〜ソール・アンヴィル
グリーン〜ユーリ・ウィルトゥス
ホワイト〜ヴァーナー・ヴォネガット
ピンク〜〜藍乃 澪
隊長〜〜〜戸隠 梓
「え、ボクも入っていいんですか?」
「ヴァーナーちゃんは百合園なのにこっちにお手伝いしにきてくれたんですもの」
「それに、なんでか明智さんも蒼空とイルミン担当の放送席にいますしねぇ〜」
「というか、何故私がグリーン……」
和気藹々とした空気が救護テントを包む頃、審判を任されたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は今回の特別ルールブックを読んでお互いに解釈の違いがないように勤めていた。
「ええと、障害物競走ですが……遙遠たちはゴール前で基本的にこの判定をするだけでOKてことですよね?」
「だと思います。アヤたちにもきいてみたんですけど、放送のほうに来ている台本とは相違ないみたいで……」
「難しい競技になりそうですね……その分、やりがいもありますが」
「はい、がんばりましょう!」
二人は指定されている【白い神父の服】を抱え、運営用テントで更なる準備を始めていた。
*9:00〜*生徒達集合
体育祭に使われている競技場はかなり大きく、六校合同というだけあって全校の生徒達が入れるだけの大きさを備えている。各実行委員会のテントも学校ごとに別れているのだが、それを押して他校の手伝いに来ているものも少なからずそこかしこにいた。
競技場内のトラックはプロが使用するものよりも安全面に力が入っており、ゴムで作られていた。転んでも、軽い転び方なら擦り傷一つできないだろう。むろん、競技中の事故は予想以上の怪我を引き起こすことが多いので、各学校が救護テントを用意していた。
中央に設置された巨大なスクリーンはどの角度からでも文字や映像がはっきり読み取れる仕様になっており、そこに映し出すためのカメラも会場内だけでなく、小さな妖精たちがカメラを持ってあらゆるところを飛行しておりリアルタイムであらゆる場所が撮影できるようになっていた。今はまだ、競技場内の様子をさまざまな角度から撮影している様子が、ランダムで映し出されている。
生徒達が入場口から各座席へと移動を開始する。座席には暖房がきちんと施されており、イスは座るとひんやりするどころかとても暖かい。参加者の熱気もあるのだろうが、極力観客席に座るものは身体が冷えない仕様になっていた。ひざ掛けまで無料貸し出しを行っているようで、救護戦隊SOSレンジャーの面々は自分達の学校の仲間に積極的に声をかける。
今大会のライバル、蒼空学園とイルミンスールは同じブロックに割り振られており、朝から対抗意識を燃やすものも少なからずいた。運営委員会たちから、競技以外の喧嘩はご法度と止められているので殴り合いの県下は今のところ発生していない様子だった。。
そこへ、放送がかかる。すると、放送席にカメラがつりインカムをつけた放送係の顔がスクリーンに映し出された。
リア・ヴェリー『借り物障害物競争の振り分けを行います。指定用紙に【自分の半身】というテーマに合った【大切なもの】を記入し、蒼空・イルミンの放送テントまでお持ちください』
指定用紙を高台に上ってポポガ・バビが振りまいていると、生徒達はそれを手におのおのの思いを紙にしたためた。
「はーい! 書いた紙はこっちにね〜」
「余計な事は書かないでくださいね〜」
白波 理沙と共にフィア・ケレブノアは淡々と紙を受け取って、順次放送席で書類整理を担当する九条院 京にわたしていた。パートナーに任せるとどうなるか分かっているので、文月 唯は自ら進んで届けられてくる書類整理に徹した。
「こうしてみるだけでも、沢山の思いを感じますね」
緋桜 遙遠は数枚の紙を眺めて小さく呟いた。横から覗き込んだクリス・ローゼンも大きく頷いて、集められた用紙を数組に分け、そしてさらにそれを3〜4人のグループに仕分ける。
その作業が一通り終了する頃には、購買の朝の活気が最高潮になっていた。
「さぁさぁ! ダイスで俺に勝ったやつは一割引だぜ!!」
ジャージ姿で早速祭りらしい売り方をしているのは神名 祐太(かみな・ゆうた)。色とりどりのダイスを並べて、自身は使い込んである愛用のダイスを握り締め、おみやげ物からスポーツドリンクにお弁当まで扱ったお店を出展していた。
本来は一人でやる予定だったのだが、実行委員会に申請を出したところ、営業は他のメンバーの作るお弁当を販売することで出展が認められた。
「神名さん! あんまり叩き売りしないでほしいのですっ」
広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は体操着(ブルマ)にエプロン姿というマニアなら涎モノの格好を披露しながら、色鮮やかなお弁当を並べている。とはいっても、朝食に用いれるように簡単なおにぎりやサンドウィッチがメインである。如月 さくら(きさらぎ・さくら)が用意してきたのも朝食用で、それでも朝から売れ行きは最高潮だった。早朝からであるためか、朝食を抜いてきた学生達が、おいしそうなにおいにつられて購入している様子だった。売り子をするウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は、ワンコイン価格のおにぎりや焼きたてのパンを手際よく捌いていく。
「ほらほら、あわてないあわてない、沢山あるんだからね〜。あと、運動の前だからゆっくり食べるんだよ〜」
「え、ええと、麦茶がこっちで、ウーロン茶と、スポーツドリンクと……あうう、順番は守ってください」
ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)も少し落ち込んだ様子を隠さないまま、手際よく注文の品を選定してお客に手渡していく。シフォン・リゼンハルト(しふぉん・りぜんはると)はとなりで出来立てのパンを詰め込みながら、肩を叩いて慰める。
「気にする事ありません。私もあまり得意ではありませんが、人には得手、不得手というものがありますから」
「新しいパン、おにぎり到着しました」
運営から借りた荷車に新しいおにぎりやパンを積んで持ってきたのは、如月 さくらのパートナーのルインアームズ・アリア(るいんあーむず・ありあ)、同じくパートナーのシフォン・リゼンハルトは作業を止めてその積み下ろしを手伝う。
「それじゃ、ファイもさくらちゃんを手伝いに行きますねっ!」
「気をつけてね、ファイ」
パートナー達から見送られて、広瀬 ファイリアは調理室へとかけていった。そこでは一人でせっせとパンを焼き続けている如月さくらがいた。広瀬 ファイリアに気がつくと、顔を上げて微笑んだ。
「朝食の売れ行きはどう?」
「ものすごっく好調ですよっ! あの売れ行きなら、お昼も期待大ですっ!」
「では、もっともっと作っておかないといけないわね」
「はいです! 運営さん達に配ったパンも大好評で、予約もらったって言ってましたよ〜」
「赤字の心配はなさそうね、がんばりましょう、ファイさん」
「後夜祭のお料理の準備もしないと〜」
話しているだけで楽しそうな二人の調理は、開会式のファンファーレがなるまで続いていた。
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