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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション

 武たちがメニエスと戦っている間、他のメンバーはゲイルスリッターを相手にしていた。
「どうやら内部の者の犯行ではなかったようだな……。ソア、ベア、もうでてきていいぜ!」
「了解です!」
「ったくもう、息が詰まりそうだったぜ」
 緋桜 ケイの合図で、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が突如姿を現す。
「うわ、びっくりした! 他にもまだ生徒がいたのか」
 思わずエースが声を上げた。
 ソアとベアは、襲撃者が内部の者であったときのための切り札。今までずっとケイの側に潜んでいたのだが、存在を知っているのはケイとカナタだけだった。
「謎の襲撃者だか何だか知らねーが、ことごとく不意打ちとはチキンな野郎だぜ! さあご主人、とっちめてやってくれ!」
 ベアは、ソアが魔法で戦いやすいように前に出る。そしてガードラインを使用した。攻撃することよりも仲間を守ることに重点をおいた立ち回りだ。
「ありがとうございます、ベア。まだ敵の実力がはっきりと分からない以上、慎重に行動したいですね」
「おらおら、いけいけー!」
「今こそ修行の成果を見せるときです!」
 ケイが機関銃をぶっ放し、ソアが魔法による攻撃を加える。襲撃者は、常に二人の攻撃の一歩先を旋回するように走る。
「くっそー、あとちょっとのところで当たらねえ!」
「ケイ、あれだけ動かれては有効打を与えることは難しいです。なんとかして動きを止める方法を考えませんと……」
 不意にゲイルスリッターが向きを変える。ベアの巨体を飛び越えると、ヴァンガードエンブレムをつけたケイ目がけて一直線に急降下した。
「しまった! ご主人すまねえ!」
「ケイ!」
「させるか」
 高月 芳樹はバーストダッシュで一気に距離を詰めると、弾幕援護でゲイルスリッターの前に弾幕を張る。そこにアメリアが轟雷閃を撃ち込んだ。ゲイルスリッターは瞬間的にバックステップする。
「ち、もうあんなところにいやがるぜ……」
 数メートル先の街灯の上に立つゲイルスリッターを見て、芳樹が言う。
「助かったぜ」
「お二人ともありがとうございます」
「なに、礼には及ばない。だがやつに同じ手が二度通用するとは思えん。どうしたものか……」
「みんな、また来るわよ!」
 アメリアが叫ぶ。
 迫り来る襲撃者を目にしながら、ソアは考えていた。
(何か手はないものでしょうか……。あの素早さの上にこう暗いのでは、こちらがあまりにも不利です。……暗い? そうです!)
 ソアは目の前まで来ていたゲイルスリッターに向けて手をかざす。
「ええい!」
 そして思い切り光術を放った。
「……!」
 突然の強い光に、ゲイルスリッターが動きを止める。そのときだった。
「うっしゃあ! このときを待ってたぜ! 炎の弾丸食らいやがれぇ!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が遠距離から爆炎波を放つ。彼はクイーン・ヴァンガードを見張って攻撃のチャンスを窺っていたのだ。
 炎がゲイルスリッターに迫る。これに対して視力の回復しきっていないゲイルスリッターは、他の感覚を頼りに鎌を振り抜いた。真空の刃が炎を切り裂き、ラルクを襲う。
「ぐおっ!? ……やろう、あんなことまでできるのか」
 ラルクの頬を血が伝った。
「光術とは考えたな。ソア、やるじゃないか」
 一旦距離をとったゲイルスリッターを射撃しながら、ケイがソアに言う。
「咄嗟に思いついたんです。でも、あの状態であれほど強烈な爆炎波を浴びせても決定打にならないとなりますと……」
「ううむ……」
 渋い顔をする二人に、これまで戦況を見守っていた天城 一輝(あまぎ・いっき)が口を開いた。
「……やるか」
「やるって、最初に言ってたやつか?」
 ケイが一輝に問う。
「ああ。果たしてどれほどの効果があるかは疑問だが、どうせじり貧だ。思いつくことをガンガンやって相手を揺さぶるしかないだろう」
「……そうだな、よし、やってくれ!」
 ケイの言葉に一輝は頷く。そして、大声で言った。
「みんな! 例の計画を決行するぞ!」
 次いで一輝は街灯をアサルトカービンで破壊する。辺りは真っ暗闇になった。
「……! これは一体どういうことでありますか!?」
 一輝たちと別行動をとっていた真紀は事態が把握できない。だが、今まで何度も危機的状況を乗り越えてきた真紀は、この状況に置かれてもすぐに冷静さを取り戻した。
「今自分が一番になすべきこと、それはミリィ殿の保護であります!」
 襲撃者が狙うのはクイーン・ヴァンガード。そして自分に守れるのはすぐ近くにいるミリィ。瞬時にそう判断した真紀は、ミリィを庇って彼女の上に覆い被さった。
 一方一輝は、被っているプロレスマスクの左目の部分に張ってあるマジックテープをはがした。左目が暗闇に慣れているので、これですぐに行動することができる。まず、立てたバットを結びつけてある自転車を壁の近くに置くと、一輝は制服とプロレスマスクとをマジックテープでバットに貼り付ける。そして自分は自転車から離れ、自転車目がけてコインを投げつけた。
 目と耳のいいゲイルスリッターは、人のような影とコインの音に反応して自転車に斬りつける。それを確認した一輝は、ゲイルスリッターをライトで照らし出した。
「そこだ!」
 ゲイルスリッターはライトの範囲から逃れようとする。しかし一輝はそれも想定済みだ。
「そうはいきませんわよ!」
 少し離れたところで待機していた一輝のパートナーローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が、一輝たちのいるところが暗くなったのを合図に現場に急行する。ローザがバイクのヘッドライトをハイにしているおかげで、とうとうゲイルスリッターの全身が明るみに出る。

 仮面にマント、巨大な鎌。そして――小さな体。

「あら、随分とちんまいですわね? 思っていたよりもずーっと弱そうですわ。本当にこんなのが噂の襲撃者ですの?」
「ローザ、ナイスタイミングだ!」
 一輝がローザに親指を立ててみせる。
「気をつけてください! 敵が相当の実力者であることは間違いありません!」
「……分かりましたわ。私は光を提供するのに専念します」
 芳樹がローザの前に出る。
 状況の進展に周りが騒がしくなる中、ラルクはエース・グランツとそのパートナークマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)、そして悠久ノ カナタを呼び寄せていた。
「俺に考えがある。協力してくれねえか?」
 ラルクは三人に作戦を説明する。エースは即座に反対した。
「何考えてるんだよ! そんなのいくらなんでも無茶だ!」
「無茶をしなきゃあいつには勝てねえ」
「確かにあまりにも危険であろう。しかし、それ以外に方法はないかもしれんな……」
 カナタが複雑な面持ちで言う。
「でも……」
「頼む、やらせてくれ。あまり時間をかけてはいられねえ」
「……分かったよ。そこまで言うなら俺も全力で手伝わせてもらおう」
「エースって何だか基本的に衛生兵だよネ。ま、オレもせいぜい頑張らせてもらうよ」
 エースとクマラが作戦に賛同する。
「恩に着るぜ。よし、それじゃあさっそくいくか!」

「明るくなって大分戦いやすくなったが、依然手強いことに変わりはないな!」
 ケイたちはゲイルスリッターと激しい戦闘を繰り広げている。その横をカナタが通ったかと思うと、彼女は一人ゲイルスリッターの前に歩み出た。
「襲撃者よ、これが目に入らぬか? ほれ、おぬしの大好きなヴァンガードエンブレムじゃ」
 カナタがゲイルスリッターにヴァンガードエンブレムを見せつける。ゲイルスリッターはまっしぐらにカナタへと突撃した。
「何やってる! 下がれカナタ!!」
 ケイは悲鳴にも似た声を上げた声で手を伸ばす。ソアも思わず目を閉じた。
 が、そこでラルクがカナタの前へ出る。鍛え上げられたラルクの体に鎌の刃が食い込む。ラルクはニヤリと笑った。
「よう。真っ向勝負といこうじゃねえか」
「はああああっ!」
「でええええいっ!」
 エースがパワーブレスを、クマラがナーシングを全力でラルクにかける。
「くたばりやがれえええええっ!!!」
 ラルクは、ドラゴンアーツで強化した拳を全力でゲイルスリッターの顔面に叩き込んだ。

 パンッ

 ゲイルスリッターの仮面にひびが入り、砕け散る。
「……!」
 その瞬間、ゲイルスリッターは顔を隠して一目散に逃げ出した。
「待ちやがれ! ぐっ……」
 その後を追おうとして、ラルクがうずくまる。
「それ以上無理をするな」
 エースが彼を支えた。
「行かせるか! ご主人、頼むぜ!」
「それ!」
 ベアがシャープシュターでゲイルスリッターの足を狙い、ソアが氷術で逃走経路を封じようとする。だがどちらもあと少しのところで届かなかった。
「……あら、これは予想外の展開ね。追いかけなくっちゃ」
 逃走するゲイルスリッターを見て、メニエスもその場を去ろうとする。武は彼女を挑発した。
「逃げるつもりか!」
「逃げる? あたしが? あなたから? 馬鹿言わないでちょうだい。あたしはあの襲撃者さんに用があるのよ。見逃してもらえただけでもありがたいと思いなさい」
「なんだと!」
「やめるんだ! 今回は退いた方がいいよ。こちらもダメージが大きい」
 いきり立つ武を、サイモンが必死に制止した。