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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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「うおー、すっげー!!」
 遺跡に入るなり、ラッキー・スター(らっきー・すたー)が感動の声を上げる。
「ラッキー、静かにしろ!」
 はしゃぐラッキーをハレルヤ・ドヴェルグ(はれるや・どう゛ぇるぐ)が注意した。
「全く、とんだへまをしでかしたものです……」
 昨日ツァンダをぶらぶらしていたラッキーと出くわしたハレルヤは、つい口を滑らせ、遺跡に出かけることを教えてしまったのだ。
 神秘的な遺跡に大喜びのラッキーは、先頭を歩くリフルに話しかける。
「やぁ! 僕はラッキーだよ! 君は蒼学の人かい? この遺跡は凄いね!」
「……」
「何か凄い古代兵器でも眠ってそうな気がするよ。見つけた時はもちろん手持ちの武器に加えるさ! 君も探索に来たのかい? あ、宝物があったら早い者勝ちだからね! そうそう、ツァンダの街はとても綺麗だね。僕は教導団所属なんだけどあの街が結構好きでさあ。昨日も散歩をしてたんだけどね……」
 リフルからの反応は一切ないが、ラッキーは構わず話続ける。
「みなさん、すみません……」
 こうなったラッキーは止まらない。なんで自分が……ハレルヤはそう思いながら仕方なく頭を下げた。
 入り口こそ人一人がやっと通れるほどの大きさしかなかったが、遺跡の内部は奥に進むにつれてどんどんひろがっていく構造になっていた。興味津々のハレルヤは歩きながら遺跡を入念に調べ、気になったところや遺跡の様子を細かくノートに書き込んだ。
 しばらく行くと突如目の前が大きく開け、広場のような場所に出る。ラッキーは一番に飛び出した。
「ひゃー、広い! とても遺跡の中とは思えないよ! ん? あっちの方になんか落書きがしてある……」
 ラッキーが壁の一部に駆け寄る。そこに描かれていたのは壁画だった。中心で玉座に腰掛ける神々しい女性と、その周りに跪く十二人の乙女。
「ねーねー、これ何!?」
 目を輝かせながらラッキーが壁を指さす。リフルは壁画にゆっくりと近づいていき、ライトを照らした。
「……これは古代シャンバラ女王と十二星華を描いたもの」
「じゅうにせいか?」
「女王を描いた壁画というのが世間一般の認識。でも本当は、寧ろ十二星華を描いているというほうがふさわしい。とても貴重」
「これが……」
 沙幸は顔を上げて壁画に見蕩れる。その沙幸に美海は小声で話しかけた。
「沙幸さん、リフルさんはこの間アムリアナ女王のことを、まるで会ったことがあるかのような口ぶりでお話になっていましたわよね」
「うん、ケーキ屋さんでのことでしょ。私もちょっと気になってたんだ」
「ご先祖様や、もしかしたらリフルさんご本人がアムリアナ女王と何らかの関係をもっているのかもしれませんわ」
「そうねえ……何か分かるかしら」
 沙幸はトレジャーセンスをはたらかせながら、大きな壁画をまじまじと見て回る。しかし、これといって目を引くようなものは見つからなかった。
「まあ、そりゃそうよね。……ねえリフル、この前アムリアナ女王はとても素晴らしいお方だったって言ってたけど、どんな人だったのかもう少し教えてくれない? 確か12振りの星剣を12人の剣の花嫁、つまり十二星華に託したんだよね?」
 リフルがこくりと頷く。他の生徒たち壁画の前に集まって静かになった。
「アムリアナ女王陛下は古代シャンバラ王国最後の統治者。絶対王政の頂点であり、同時に宗教的最高権威者でもあった」
 リフルは壁画に目を向けて続ける。
「様々な壁画に描かれた姿から、女王陛下は神であったと考えられている」
「神様……」
「女王陛下は善政を敷いたことで知られ、臣民からも慕われていた」
「でもその……古代シャンバラ王国は内乱で滅んじゃったんだよね? 女王様はみんなに慕われていたのに内乱だなんて……どうしてだろう」
「それは古代シャンバラ王国最大の謎」
「不思議よね」
 話が一段落したところで、メイコ・雷動(めいこ・らいどう)が手を挙げてリフルに言った。
「ちょっといいかな」
「なに?」
「恐らく、女王の崇拝者達が国を裏切るきっかけとなった事件が何かあったはずなんだ。気を悪くしないで聞いてほしいんだが……」
 メイコがリフルの顔を伺い見る。リフルは表情を変えずに続きを促した。
「どうぞ」
「女王はポータラカから教わった秘法で数々の奇跡を起こしたものの、その力は人の手に余るもので、結果道を失った。だから、女王の崇拝者たちは敢えてその身を闇に染めて国を滅ぼした。そういう話がうちに伝わってるんだけど、リフルはどう思う?」
「光条兵器や機晶姫はポータラカからもたらされたものである、そう言われているのは事実。だけど私の知る限り、あなたが今言ったような話を聞いたことはない」
「そうか……。こんな話をして悪かったな。リフルの話も参考にして、あたしも自分なりに真実を追い求めてみようと思う。ありがとう、リフルに会えてよかったよ」
 メイコは笑顔でそう礼を述べると、隣にいるパートナーのマコト・闇音(まこと・やみね)に話を振った。
「そうだまこち、まこちもリフルに聞きたいことがあったのだろう? せっかくだから今聞いておいたらどうだ」
 マコトは仰々しく頷いてみせる。
「うむ。我としては、十二星華とやらがどのような者たちだったのか尋ねてみたいところだ」
「十二星華……十二人の剣の花嫁は姿も性格も皆バラバラ。ただ、女王陛下に対する忠誠心は同じだった」
「ほう、現在十二星華についてはほとんど分かっておらぬ状況だというのに、随分と詳しいのであるな?」
 首をひねってみせるマコト。
「そんな気がする、と言おうとしただけ。十二星華に関する資料は私もほとんど見たことがない。それ故この遺跡は貴重」
「なるほど。彼女らは王国の滅亡時どうしていたのであろうな」
「勇敢に戦ったと思う。命を落とした者も少なくないかもしれない」
 リフルの話を聞き終えると、マコトはリフルに歩み寄って一枚の紙切れを差し出した。
「興味深い話、感謝する。貴公には是非また会ってみたい。これは我の連絡先だ。よければとっておいてくれ」
 リフルはマコトからそれを受け取り、制服の内ポケットにしまった。
 一通り質問が終わった後、リフルは遺跡の説明を行い、それに絡めて古代シャンバラ史の話をする。そしてそれも終了すると、こう告げた。
「ここからは自由行動。聞きたいことがあったら来て」
 自由行動と聞いて生徒たちはばらけ始める。アーキス・ツヴァインゼファーは、リフルが一人のうちに彼女に尋ねた。
「単刀直入に聞こう。シルヴェリア、お前はクイーン・ヴァンガード襲撃事件に関わっているのか?」
「……」
 リフルは疲れたような目でアーキスを見る。お互い黙ったまましばらく見つめ合っていると、誰かが二人に近づいてきた。
「……邪魔したな。あとでデザートにでもしてくれ」
 アーキスはリフルにみかんを渡してその場を去る。入れ替わるようにしてリフルに声をかけたのはイーオン・アルカヌムだった。
「疲れているのか?」
「……少し」
「無理もない、ここのところうっとうしい輩に四六時中つきまとわれているのだからな。おまえは夜も遅くまで読書をしているのか?」
 イーオンは何気なく探りを入れる。だが、リフルはまたしても口を閉ざした。イーオンとしてはもう少し聞きたいことがあったのだが、リフルを傷つけるのは本意ではない。彼は話を切り上げて踵を返した。
「お帰りなさい、イオ。リフルさんとお話しはできましたか?」
 やや下がったところで待っていたアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が、イーオンを迎える。
「少しだけな」
「そうですか。どうでしょう、せっかくの機会ですから遺跡の中をじっくり見てきては。きっとよい勉強になりますよ」
「そうだな。アル、お前は――」
「はい、私は引き続き、イオの指示通りゲイルスリッターの襲撃に備えます。こんなところまでやってくるかは分かりませんが、ここにはクイーン・ヴァンガードも大勢いますから油断はできません」
「分かった」
 イーオンはそう答えると、もう一人のパートナーセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)の方を見る。
「私もクイーン・ヴァンガード隊員の方からリフルさんを庇うように動き続けます。随分と非難を受けていることもあってか、今のところリフルさんにひどい仕打ちをする方は見受けられません」
 セルウィーは機械的にそう言った。セルウィーがイーオンに発見されたのもとある遺跡の中でのことだ。今こうして再び遺跡に足を踏み入れ、彼女は何を思うのだろうか。
「うむ、では頼んだぞ」
 イーオンはそう言い残して遺跡の奥へと歩いて行った。