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ホワイトデーはぺったんこ

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ホワイトデーはぺったんこ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「こ、これは噂の青いキャンディ。俺はなんてついているんだ」
 園児服の販売でしこたま儲けたトライブ・ロックスターは、追加の服を仕入れに行く途中で空から振ってきたキャンディに驚喜した。
 この青いキャンディがあれば、園児服を売った女の子たちになめさせて、いやーん服がちいちゃくてキャストオフしちゃーう計画が実行に移せるではないか。
 いそいそとキャンディを拾い集めたトライブ・ロックスターは、誰か試せる女の子はいないかとあたりを物色した。
「なんか、焦げ臭いな」
 変な臭いに、トライブ・ロックスターはそちらの方向へ行ってみた。みれば、大破した小型飛空挺の前で、男が一人膝をかかえて落ち込んでいる。
「お、俺の飛空挺があ……」
「なかないの。よちよち」
 落ち込むアレクセイ・ヴァングライドの頭を、六本木優希がなぐさめるようになでなでした。
「よっしゃあ、ちっこい女の子が二人もいるぜ」
 トライブ・ロックスターは、いそいそと六本木優希たちに近づいていった。
「お嬢さん方、青いキャンディはいらねえか?」
 もちろんほしいに決まっている。
「ちょーらい、ちょーらい」
「よしよし、今お兄さんがあげよう」
 トライブ・ロックスターは、六本木優希と小鳥遊美羽に青いキャンディを渡した。
「私も、私も」
「僕も、僕も」
「あんたたちは、二人の後だ」
 栂羽りをを見て、トライブ・ロックスターは言った。青いキャンディが手に入ったからといっても、数はほんの数個だ。食べさせるのであれば、確実にキャストオフを狙える相手でなければならない。どう見ても、栂羽りをはキャンディをなめているようには見えなかった。ましてや、山本夜麻のような男は論外だ。
「いただきまーす」
 青いキャンディの効果は劇的だった。二人がみるみる元の姿に戻っていく。
「やったね、復活なんだもん」
 元の蒼空学園の制服ぴったりの体系になって、小鳥遊美羽が歓声をあげた。
「いやーん」
 ブチブチブチという音ともに、六本木優希の服が戻っていく身体に耐えきれず悲鳴をあげた。
「よっしゃ!」
 トライブ・ロックスターが密かにガッツポーズをとる。
「なんだ、その気合いの入れ方は」
 ひらりとマントを翻して、アレクセイ・ヴァングライドがトライブ・ロックスターに言った。そのさりげない仕種で、すっと六本木優希の身体がマントにつつみかくされる。
「ちっ」
 トライブ・ロックスターが舌打ちした。これは計算外である。
「さて、それでは、残りの青いキャンディを渡してもらおうか」
 まだ子供のままの山本夜麻を含めて、四人がトライブ・ロックスターを取り囲んで言った。
 
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「こ、これは……」
 足許に落ちていた青いキャンディを拾いあげてセルファ・オルドリンが目を丸くした。
「そんな、拾った物を食べてはいけません」
 当然のように御凪真人は注意したが、セルファ・オルドリンはそれを無視して素早くキャンディを口の中に入れた。
「ふっかーつだよー!!」
 むくむくと元の姿に戻ったセルファ・オルドリンが叫んだ。
「やった、これですべてが終わるんですね」
 やっと苦労しなくてすむと、御凪真人が言った。
「ううん、まだだよ、まだやることがあるもん」
 セルファ・オルドリンはそうつぶやくように言った。
 
    ★    ★   ★
 
 一方、屋上はもうしっちゃかめっちゃかであった。
 キャンディを拾おうとする者。それを阻止しようとする者。戦う者。気絶する者。
 大ババ様としても、まさか魔法で全員吹っ飛ばすわけにもいかず、ちょっと困り果てていた。多少は気も晴れたので、ちょっと、このままばっくれてしまおうかなどという考えも頭をよぎる。
「優希ねーちゃんにミラねーちゃんをいじめた、大ババ様覚悟ー」
 六本木優希と別行動をとっていたブラス・ウインドリィが、小型飛空艇に乗って屋上にやってきた。
 ひょいと落ちていた赤いキャンディを拾うと、素早く大ババ様に投げつける。
「ならくのてっちゃよ、かのもにょにいまちめを……」
 タイミングを合わせて、ミラベル・オブライエンが魔法を唱えた。
 瞬間、大ババ様の足が止まる。
「それがなんだというのじゃ」
 あっけなく、大ババ様は飛んできた赤いキャンディを手ではねのけた。
「大ババしゃまいじめちゃだめー」
 佐伯梓が、ブラス・ウインドリィに飛びかかっていく。このへんの戦いは、完全におこちゃまの戦いだ。
「遅れてごめん、ここから、本気モードだよ! 私にも青いキャンディをちょうだい」(V)
 ジュレを信太の森葛の葉たちに任せてきたカレン・クレスティアが、その場に飛び込んできた。その後ろからは、黒子と秋月葵もやってくる。
「なんだ、お前たちもキャンディをなめてぺったんこになった口か?」
 三人の姿を見て、まだ動きの鈍い大ババ様が言った。
 それは、秋月葵に対しては正しいのだが、後の二人はこれが素の姿である。
「はうぅ〜。ど、どうせ、ボクはぺったんこですよー!」(V)
 えらく傷ついたカレン・クレスティアが叫んだ。お返しとばかりに、ほとばしる恨みを、その身を蝕む妄執に込めて放つ。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁ」
 貧乳どころか、胸が凹む悪夢を見て、大ババ様が悲鳴をあげた。これはかなり効いたようだ。
「今だー!」
 すかさず、黒子が赤いキャンディを拾って大ババ様の口にねじり込んだ。
「し、しまったあ!」
 あわてて、大ババ様が下に落ちている青いキャンディを拾って食べる。だが、あまりにあわてていたので、数を間違えた。
「ま、まずいのじゃ」
 魔法の効果が現れる前に、急いで数を合わせようと今度は赤いキャンディを頬ばる。
「ああ、数が分からなくなったのじゃ」
 パニックになって、大ババ様は口に入るだけ、二色のキャンディを頬ばった。
 次の瞬間……。
「うわあああああ……」
 ボン!!
 大ババ様が爆発した。いや、別にスプラッタになったのではなく、白い煙とともに、たくさんのちっちゃなちっちゃな小ババ様に分裂したのだ。
「ま、魔力が分散してしまう……」
 小ババ様たちが唸ると当時に、キャンディが突然爆発し始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「なんと、空から飴が降ってくるとは」
 校庭を歩いていたレイ・コンラッドは、突然の出来事に驚きつつも、期待に胸震わせて落ちてきたキャンディを拾いあげた。
「残念、青い飴ですな」
 落胆を隠さず、レイ・コンラッドは言った。これ以上年を食ったのではたまらない。
「わーい、ちょーだーい」
 それこそ、自分が探している物だと、晃月蒼が歓声をあげた。
「これで、ワタシも大きな胸に見合った大人になれるよ」
 予定の半分だけれど、これでレイ・コンラッドとの年齢差も少し縮まる。
「あまり無理はなされませぬように」
 晃月蒼が喜んでくれるならと、レイ・コンラッドは青いキャンディを彼女に手渡そうとした。その指先に、キャンディから不穏な振動が伝わる。守護天使の本能的な勘で、レイ・コンラッドは赤いキャンディを投げ捨てて晃月蒼を守った。
 パシン!
 空中で、青いキャンディが砕け散る。
「ああ、キャンディが……」
 晃月蒼が、潰えていく野望に唖然とする。
「しかたないですな。代わりがないのが一番ということで」
 晃月蒼への慰めとも、自らへの戒めとも分からない笑みを浮かべて、レイ・コンラッドは言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ひゃあ」
 突然ポケットに入れていた赤と青のキャンディが爆発して、吹き飛ばされた九弓・フゥ・リュィソーはカフェテラスの床に大の字に倒れて気絶した。
「これは、時限式のキャンディだったの!?」
「そんなこと言ってないで、早く助けるのですわ。ますたぁ、しっかりしてー」
 冷静な九鳥・メモワールに、わたわたと九弓・フゥ・リュィソーに駆けよったマネット・エェルが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「まてー、天誅なんだもん。そこの駄メガネ、完全に破壊してあげるから、その本体のメガネをよこしなさい!」
「冗談じゃない、俺は、この人間の部分が本体だ」
 セルファ・オルドリンに追いかけられて、やっと動けるようになったばかりの山葉涼司は、ゼイゼイ言いながら逃げ回っていた。
「まてー、まってちょーだーい」
「もう、かんべんしてくれー」
 
    ★    ★    ★
 
「わあ、かわいい」
「こば?」
 後日、蒼空学園を訪れていたミレイユ・グリシャムは、物陰でちっちゃなちっちゃな小ババ様を見つけて顔をほころばせた。あれだけ騒いだのだが、子供になっていた学生たちは、一晩経つと元の姿に戻っていた。世はこともなきだ。
「こっちおいでー」
 ミレイユ・グリシャムが、小ババ様を誘った。
「こばばばばばば……」
 だが、さしだされた手を怖がるように、小ババ様はそのまま物陰に姿を消してしまった。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 終わったー。
 なんか、最近凄いタイトロープ渡ってる気がする。
 またちょこっと遅刻ですね。風邪と確定申告で六日ほどロスしたのが凄く響いてます。なんとか挽回しないと。
 
 で、ぞくに言われている大ババ様三部作の一作目です。とはいえ、続篇はいつになることやら。なるべく早くします。タイトルは「小ババ様騒乱」の予定です。
 なお、大ババ様は何かあるといけないと思って、悪戯書きされた予備のボディを使っていったので、魂は無事帰還しております。