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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第九幕・疾風迅雷分身姉弟】

 三号との戦いの後、透乃、泰宏、陽子の三人は、次の相手を分身姉弟に定めて校内を探し回っていた。
 そして二階にある座敷教室で、ようやく目的のふたりを見つけ出した。
 そこは机などが取り除かれ、綺麗にただ畳が敷かれているだけだった。どうやら彼らにとって都合のいい戦闘の場を事前に用意しておいたらしい。
「くふふ。ようやく敵来たよ、塵丸」
「かはは。待ちくたびれたな、蘭香」
 ふたりは男女の違い以外はほとんど同じで、小柄な身体に生意気そうな顔つき、更に人を小馬鹿にした笑い方も、その声さえもほとんど変わらずに仲良くお揃いの黄色い忍び装束を着ている。
 どうやら得意の分身を生かす意味で、意図的にそうしているとわかった。
「あのふたりが蘭香ちゃんと塵丸ちゃんかぁ〜、ホントにそっくりだね」
「ああ。相手はどうやらやる気満々みたいだな」
「そうですね……気をつけないと」
 三人が部屋に足を踏み入れると同時に、姉弟はトントンとその場で軽く跳び始める。
「かはは、それじゃあ相手してあげるとしようかな」
「くふふ、どこまで私達について来れるか見ものね」
 姉弟の動きは徐々に横方向にも広がっていき、更に前後運動も加わっていく。そこまでであればただ飛び跳ねて遊んでいるように見えただろう。現に透乃はちょっと面白そうに見入っていた。
「くふふ、スピードあげていくよいくよいくよぉ!」
「かはは、どんどん加速加速加速加速加速加速ぅ!」
 だがそれも、速さが留まるところを知らない勢いであがっていくまでだった。部屋の中を縦横無尽に……それこそ目にも止まらぬ速さで駆け抜け本当に分身しているかのように、姉弟の残像が目に残っていく。
「ふたりとも、作戦通りいくよ〜!」
 それに対し、透乃はおもむろに目を瞑った。しかも泰宏と陽子も同様に目を閉じている。その上で三人は殺気看破で気を張り巡らせる。どうやらその速さを目で追うことはせず、気配で察する作戦のようだった。
「かはは、そんな戦法が通用するかな?」
「くふふ、怪我してもしらないからね!」
 その声と共に、ついに姉弟は三人へと向かってきた。
 その気配を察し泰宏がディフェンスシフトで蘭香を受け止める。
 更に反対方向から接近してきた塵丸に、陽子は奈落の鉄鎖で重力を掛ける。
「透乃ちゃん! 今です!」
 それに透乃は自身に軽身功を使い、身を軽くして一気に距離を詰め左の鉄拳を叩き込んだ。それを喰らった塵丸は、そのスピードのままバランスを崩し錐揉み回転しながら部屋の壁に激突した。
「がはっ!」「塵丸っ!」
 駆け寄った蘭香の叫びを聞いて、三人はやられたのは弟の塵丸の方だと知った。
「やったよ陽子ちゃん!」「はい、やりましたね!」
 思わずハイタッチをする透乃と陽子。
 だが、泰宏はあまりに上手くいったことで逆に何か嫌な予感を感じとっていた。
「か、は、は、蘭香。あいつらどうやら今のが最高速だと思ってるみたいだ」
 それを証明するかのように、物凄い勢いで壁にぶつかった筈の塵丸はあっさり立ち上がりこちらを睨みつけていた。
「くふふふふ、塵丸。それじゃあそろそろ準備体操は終わりにしましょうか」
 同様に視線に力を込めた蘭香はそう呟き、そして――

 利経衛と一輝、そしてリカインとシルフィスティは、二階廊下を走っていた。
 ちなみにアストライトは磔のまま放置され、この場にはついてきていない。
「はぁ、はぁ、そ、それで一体何がどうしたんでござる?」
「黒脛布さんが捜索中に偶然、激戦中の教室を見つけて教えてくれたんだよ。ああ、そこの三番目の教室だ」
「へぇ、そんなに凄い相手と戦ってるのかな」
「なんだか興味深いわね。ね、リカイン」
 そんな四人に加え、
「あの場所か、面白い。現代の忍者、特殊部隊の戦術にどう対処してくるかな」
「貴公がウッチャリ君ですか。大変ですね。試験は。でも洋さまがいる以上、安心してください」
 途中で洋とみとに遭遇し、
「なんにせよ、これほどの大人数であれば大概の相手には遅れをとらないであろう」
 そして大佐も一緒に来ている。
 合計七人となった精鋭は、ふと目的の部屋から誰かが出てきたのに気がついた。
 最初は敵かと思い身構えた利経衛だったが、
「やっちゃん! 大丈夫ですか、しっかりしてください!」
「だ……大丈夫だって陽子さん。透乃ちゃんも心配し過ぎだって」
「うん。わかってる、わかってるよやっちゃん。だけど……」
 それは傷ついた透乃たち三人の姿だった。
 特に泰宏は他ふたりに比べ傷が深く、透乃と陽子に肩を借りている状態だった。
 三人は利経衛たちには気づかず、そのまま反対の廊下から保健室へと向かっていった。
「どうやら、本当に気を引き締めねばならないようでござるな」
 そして、
「よし。私とみとは外で仕掛けることがあるから」
「先に行って下さい、わらわ達は機を見て突入しますわ」
 という洋とみとを残し、五人は座敷部屋へ足を踏み入れた。
「待たせたでござるな」
「くふふ。ウッチャリがやられに来たわよ、塵丸」
「かはは。ウッチャリがやられに来たなぁ、蘭香」
 入って早々嘲りの言葉で出迎えられる利経衛。
「相手はお主達でござったか。ならば問答は結構、いざ尋常に勝負でござるよ」
 そっけなく対応した利経衛が面白くないと感じた姉弟は、さっさとケリをつけるべく先程と同様に上下左右に飛び跳ね、そこからスピードを加えて残像分身を作り出していく。
 そこで大佐は隠れ身で部屋の隅に潜み反撃狙いの体勢に入り、他四人は徐々に部屋の中央に追い込まれていく。
「ねぇねぇ、リカイン。フィスいいこと思いついちゃった」
「ほんと? どんな……え、それ本当に大丈夫なの? 正直私は自信全然ないんだけど」
「まあ、フィスも知識として知ってるだけだけど、リカインならきっと出来るから自分を信じなさいって」
 そんな中でなにやら耳打ちでの相談をしているリカインとシルフィスティ。
「かはは、いつまで余裕でいられるかな?」
「くふふ、そろそろ攻撃仕掛けるわよっ!」
 そして、蘭香が一気に方向転換しリカインへと突撃し。
(き、きたっ! こうなったら……一か八か!)
 リカインは足元を思いっきり殴りつけた。畳の丁度境目あたりに狙いを定めて。
「な!?」
 蘭香はリカインが何をしたのか一瞬わからなかった。
 だがリカインの周りの畳が一気にめくれあがったのを見て、その意図を悟った。だが速さが災いして止まるに止まれず畳に追突する蘭香。
「やったあ、成功っ! あとはフィスに任せて!」
 シルフィスティは後の先とバーストダッシュを駆使して蘭香へ突撃し、そこから足袋を剥がそうと取っ組み合いに発展していくふたり。
「てめっ、蘭香に触るんじゃねぇ!」
 と、助けに入ろうとした隙を見逃さず、大佐は塵丸を仕留めるべくリターニングダガーを投げての攻撃を仕掛けた。
 が、そこで塵丸は逆にめくれた畳を勢いよく蹴り飛ばして自身の盾にしてダガーを止め、そのまま駆け抜けざまに蘭香をシルフィスティから引き離した。
「ああっ、もうちょっとだったのにぃ……」
「なるほど。障害を自分の利になるよう使うなんて、中々面白いじゃないか」
 仕留め損ねたふたりが悔しそうに言葉を漏らす一方、
「く、ふ、ふ。まさか畳返しなんて旧世代の技でくるとは予想外だったわ」
「かはははは。しょうがないな、やっぱり本気出して勝負するとしようか」
 蘭香と塵丸の姉弟は瞳に炎を宿して、そこからゆっくりとクラウチングスタートの姿勢をとった。刹那、姉弟の姿が消えた。
「っ! 皆、姿勢を低く! めくれた畳の影に隠れるでござる!」
 利経衛の叫びの直後、めくれた畳の一枚が物凄い勢いで吹き飛んで壁に激突した。
 思わず目を見張る他四名。
「かははははは! これこそが俺達の超絶究極最強無敵必殺忍法、爆砕・縮地の術だ!」
「くふふふふふ! 今度はどんな防御も無駄よ、さっきの連中もこの技に敗北したわ!」
 その言葉を証明するように畳がバンバンと吹っ飛んで、下の木目床が晒されていく。更にその床さえバキリと足型に砕けた。かと思うと次の瞬間には壁や天井、とにかく至る所が少しづつ砕けて窪んで行く。
「なんだよ、このデタラメな技は……!?」
「これはバーストダッシュによる高速ダッシュと、軽身功を組み合わせた絶技でござる。これを出す前に仕留めたかったのでござるが……まさかこんなに早く奥の手を出してくるとは拙者の読みが甘かったでござる」
「おい、今更後悔してる場合か。とにかくなんとかするぞ!」
 一輝は利経衛を叱咤しながら、アーミーショットガンを構える。
 だが今度ばかりは相手の足を狙うどころか、まともに姿さえ捉えきれそうもなかった。時折かすかに忍び装束の黄色が目に入るくらいで、まるで雷が部屋中を飛び交っているかのようだった。
(でもまだ誰一人攻撃を受けていないところを見ると……いたぶってから倒すつもりか? けど、その傲慢さが命取りだ!)
 そして。一輝はシャープシューターを使いながら硬質ゴム弾を連射していく。そうして発射された弾は、精密に壁へと当たり……そこからまるでビリヤードのように跳ね返っていく。
「きゃっ!!」
「なにっ!?」
 すると時折姉弟の悲鳴がそこかしこから聞こえ始める。
 ここまで室内を素早く移動していれば、跳ねた弾が当たる確率は格段に上がるのは明らか。一輝の攻撃手段はまさにうってつけだと言えた。ただ……
「くそっ、蘭香! もうさっさとやっちまおう!」
「そうね、塵丸! 一気に片をつけてあげるわ!」
 それは姉弟を怒らせることにも繋がり、直後一輝は背中に強烈な打撃を受ける。
「!!!」
 本気で一瞬息が詰まり、そのまま一輝は気絶してしまった。更に利経衛、リカイン、シルフィスティ、隅にいる大佐までもがその身を容赦なく攻撃されあっという間に絶対絶命の窮地となる。
 利経衛の頭に諦めがよぎり降参の言葉を告げようとした、そのとき――

「洋さま……準備完了です」

ドガアアアアアッ!

 洋が破壊工作スキルを発動させ、思い切り壁を爆破させた。
「突入! 殲滅戦だ!」
 飛び込んできた洋はスプレーショットを駆使しながらトミーガンで弾丸を乱射させ、
「みと! 最大火力! 見敵殲滅! 二人が投降、確保するまで撃ちまくれ!」
 みとは、事前にギャザリングヘクスで上げておいた魔力攻撃力による最大火力の火術を撃ち込んでいく。
 命中するかどうかも、味方への誤射も、校内が火事になることすらも二の次なその猛攻にさすがの姉弟も足を止めさせられていた。
 というより、壁が破壊されたせいで技の本領が発揮できなくなったと言った方が正しい。先程の脅威の移動は、周囲にちゃんと足をつけられる壁が無いと成り立たないのだ。
「投降しないと、もっともっと派手に行きますよ! 命令内容は見敵殲滅ですから!」
 一角の壁がほぼ瓦礫となり、硝煙の臭いが舞う弾丸の嵐に容赦ない火責め攻撃。
「かは、は。ここまでかな、蘭香」
「くふ、ふ。ここまでよね、塵丸」
 これ以上たかが試験で危険を冒すこともないかと考えた姉弟は、渋々ながら両手をあげて降参の意を示すのだった。

 そして姉弟は縛られ、洋に足袋を脱がされる。
「悪いな。これも任務なんでな。作戦完了、みと、撤退するぞ」
「はい。了解です、洋さま」
 洋から足袋をうけとる利経衛は、感謝の言葉を伝えようと口を開かせたが、
「くふふ……ウッチャリ。勝負には負けたけど、あんたは結局役立たずだったわね」
「かはは……そうそう。結局お前は助けがないとなんもできねーの証明しただけさ」
 その前に口を挟まれて、言葉を失ってしまった。
「なによもう、せっかくの勝利ムードなのに! そんなこと言う子には、くすぐり地獄をプレゼントよ!」
「え? きゃ、ちょ、ちょっとなにす……やめ、くすぐった、くふ、きゃはははははは!」
「おい、蘭香に手を出すな! やるなら俺を……って本当にやるか、かは、あはははは!」
「やめなよフィス姉、大人気ないなぁ」
 そうしたリカインとシルフィスティをよそに、利経衛はすっかり俯いてしまっていた。
 そこへ洋がぽんと肩に手をおいて、
「いいか? お前にも可能性があるんだ。今度は自分で奪ってこい」
「検討を祈っています、ウッチャリ君」
 それだけを告げてみとと共に去っていくのだった。