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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3
【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3 【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3

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終章 蘇る翼



「機晶エンジン始動!」
「システムオールグリーン。安全弁の解除を確認、各機関にエネルギーの注入を開始!」
「離陸準備は第三フェイズに以降。各員、離陸にそなえよ」
 船内に警報と声が響き渡った。
「悪いがシートベルトなんて気の利いたもんはない。すっころんで仕事増やすなよ。医務室なんて作ってないんだからな」
 三日目の日が落ちる前に、古代戦艦の修復は滞りなく終了した。
 純白の美しい船体には、黒と黄のラインが象徴的に縦に引かれている。デザインした人物の意向通り、騎士道を彷彿とさせる仕上がりだ。船の安定を司るプロペラは左右に八機ずつ、合わせて十六機のプロペラがある。中央にあるマストの上方では、ロスヴァイセ家の紋章が風を受けてたなびいている。
 艦橋の艦長席には、ナリュキ・オジョカンが腰を下ろしていた。
 乗組員の心をひとつにするため、全員分のユニフォームを作ったのが、フリューネの心を打ったのである。
 艦長指名の際、ナリュキがまたフリューネの胸を揉もうとしてひと悶着あったのは言うまでもない。
「さて……、じゃあ、艦長として一声かけるかのぅ。古代戦艦……、発進じゃ!」
 ナリュキの号令を受けて、機晶エンジンがフル稼働する。リリ・スノーウォーカーの整備により、赤ん坊の揺りかごよりも安定した出力を保つのに成功した。十六機のプロペラが全速回転し、船体がゆっくりと宙空に浮かび上がる。
 5000年を過ごしたドックに別れを告げ、古代戦艦は白き海原に乗り出した。
「あのオンボロな船がよくここまで戻ったわね……!」
 感心するフリューネだったが、戦艦修復に当たっていた生徒たちの表情は重い。
「……どうかしたの?」
 どうしても黙っている事が出来ず、閻魔王の閻魔帳がこの船の致命的な欠陥を口にした。
「実はこの船……、なんにも『武装』がされてないんですっ!」
「……へっ?」フリューネは目を白黒させた。
 これからヨサーク大空賊団に挑もうと言うのに、武器がないとはこれは如何に。勿論、勝てる戦と決まったわけではないので、決死の覚悟はしている。しかし、武器がないのでは、その覚悟も報われないではないか。
 ここで各作業員が制作したものをリストアップしてみよう。

・ペガサスドック(兼ハルバード置き場)
・ロスヴァイセの旗(クィーンヴァンガードの旗も)
・船内の詳細な地図
・ラムアタックに備え強化された船首
・全部屋に監視カメラ、映像の確認は朝野未沙の自室でのみ可能
・フリューネと同じ衣装(全員分、メンズサイズも有り)

 なかなか絶望感溢れるラインナップであると思う。
 しいて言えば、武器になりそうなのは強化された船首と、大量のハルバードぐらいなものだろうか。
「最悪、この飛空挺を囮にして敵の本陣を攻略するくらいの無茶な作戦も必要かと考えていましたが……」
 御凪真人はため息まじりに言葉を続けた。
「早速、最悪の時が来てしまいましたね……」
 艦橋の空気が圧壊しそうなほど重苦しくなった。それにしてもどうしてここまで、内装重視の改造に隔たってしまったのか不思議である。思い返してみれば、作業している生徒の数もそれほど多くはなかった。
「……て、テレビ!」未沙が叫んだ。「テレビでも見て気分転換しようよ」
 折角、大きなモニターがあるので、電波を受信出来るようにアンテナを取り付けておいたのだ。
「この大画面で見れば、ちょっとは空気も軽く……、なるといいんだけどなぁ……」


 ◇◇◇


 どこかの街が映った。
 フリューネの記憶によれば、この街はナムリスと言う。カシウナ近郊の沿岸都市のひとつだ。
 切迫した表情のリポーターらしき男性が、マイクに向かって声を張り上げている。
『見て下さい! 空を覆わんばかりの飛空艇の大軍です! 先日のカシウナ陥落に続き、ナシャーク、ミラルダを攻め落とした大空賊団がとうとうこのナムリスの街にもやって来ました。皆さん、避難を急いで下さいっ!』
 彼の横を重装備の警備隊が駆け抜けていく。通りの前に隊列を組んだ彼らを、向こうから来る何かが小虫を払うように蹴散らしていった。何かはわからない。姿はどこにも見えない。だが、警備隊は次々と血飛沫を上げ、横たわっていく。
『な……、なんと言う事でしょう。ナムリス警備隊が全滅です。な、なにが……、ああっ、誰かがいますっ!』
 あたかも舞踊を舞うかのような構えで、一人の女性が血の海の中に現れた。
 十二星華の一人、【乙女座(ヴァルゴ)のザクロ】だ。
 背後からは、ヨサーク空賊団の旗艦が低空飛行で大通りの上にやって来る。その瞬間、ふっとザクロが視界から消え、次の瞬間には船の舳先に移動していた。誰も目で追う事の出来ない、人知を超越した神速の動きだった。
「そんな……、あの力は白虎牙の……」
 ユーフォリアは愕然とした表情で言葉を漏らした。
 と、その時。数発の銃声が鳴り響き、ザクロの前に八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)が躍り出た。
「ゆ……、優子!?」
 唐突かつ鮮烈なテレビデビューを果たした愛弟子の姿に、フリューネは思わず目を見開いた。
 優子はアサルトカービンを構え、取り巻きの空賊たちを次々に撃ち倒していく。察するに、船内に捕らえられていたのだと思われるが、何故そうなかったかは都合により省略する。詳しくは、例によってヨサークサイドを参照して頂きたい。
『……奪われたものは奪い返す。怪我したくないなら、そこをどきなっ』
 取り押さえようと迫る空賊たちを、ヒロイックアサルトの『船上戦闘』で叩き伏せる。カリブの海賊の編み出した伝統的戦法で大立ち回りを繰り広げ、優子はとうとうザクロに銃を突きつけるところにまで迫った。
『やれやれ、随分と乱暴な嬢ちゃんだねぇ』
 余裕の表情のザクロが気に障ったのか、優子は小さく舌打ちをした。
『二度も言わないわ。とっとと女王器を渡すのね。あんたがすばしっこくても、この距離なら避けられない』
『さて……、そう思うなら試してみればいいじゃないか』
『……あっそ。じゃあ、そうする』
 目を細め、優子は引き金を引く。二発の乾いた音が鳴り響いた。
 確実に銃弾はザクロの眉間を捉えていた。優子は確信したし、現に弾丸は命中した。しかし、弾丸は命中するや、あっけなく弾かれしまった。優子のナチュラルボーンしかめっつらに、わずかに同様の色が浮び上がった。
 ザクロの全身は黒く変貌を遂げていた。光を吸い込むほどの漆黒の質感はまるで石像のよう。白虎牙に秘められた第二の能力、超硬化の秘術である。こうなってしまったら、銃弾程度では傷ひとつさえつける事は不可能だ。
『残念だったねぇ……』
 ささやきと同時に、ザクロは風のように姿を消した。優子が消失を知覚した瞬間、既にザクロは攻撃を終えていた。禍々しく赤光する星剣『澪標』の一閃が、優子の脇腹を神速で切り裂いたのだ。鮮血が空を真っ赤に染め上げていく。
『……く、くそっ』糸が切れたように優子は倒れた。
 だが、苦痛を顔に貼り付けながらも、その目から戦意は消えない。転がった銃に手を伸ばす。
『私はフリューネの弟子なんだよ……。シケた戦いは……、しない!』
『人生何事も引き際が肝心さね』ザクロはその手を踏みつけた。『あたしには勝てない、あんたも馬鹿じゃなけりゃわかるはずだ。速さでも、守りでも……、あたしに敵う奴なんざ、この世にはいやしないのさ』
 そこへ優子のパートナー、港町 カシウナ(みなとまち・かしうな)が飛び出した。
 その名の通り、数日前に大空賊団に耕されたカシウナの地祇だ。女王器の奪取を企んで戦闘の隙を窺っていたのだが、とてもそんな隙はなく、タイミングを逸し気味の登場だ。先の先を使って、ザクロに飛びかかる。
『女王器を渡しなさいっ!』
『次から次へと……、どうして世の中にはこう馬鹿が多いんだろうね』
 振り下ろされた澪標の一撃で、カシウナは床に叩き付けられた。相手は十二星華。たった二人で戦える相手ではない。
『……気はすんだかい?』ザクロは暗い眼差しを向ける。『こう見えてもマメな性格でね、邪魔な人間は殺しておかないと落ち着かないんだ。女王器にたかる二匹の虫けらは、ちゃんと踏みつぶさせてもらうよ……』
 狂気に満ちた視線に見据えられ、カシウナの背筋に恐ろしいものが走った。
『か、カシウナの街を取り戻すまで、死ぬわけにはいかないわ……!』
 彼女は唇を噛み締め、煙幕ファンデーションをバラ撒いた。撤退だ。瞬く間に黒煙が一帯を包み込む。彼女達の行動は迅速で、ザクロが澪標で煙を払った時には、既にもう姿はなかった。
『……ま、今日は見逃してやるさ。あたしはそこまで暇なわけじゃないんでねぇ』
 そう言うと、ザクロはカメラをまっすぐに見つめた。画面が暗転する。


 ◇◇◇


 暗転してからの数分間、音声だけが流れていた。
『……この放送は全国ネットなのかい?』
『そ、その……、空京テレビはツァンダ・タシガン圏と……、あと空京で放送しているのですが……』
『まあ、いいさ。それだけ、放送してれば充分さね』
 不意に画面にザクロの姿が映し出された。おそらく船の甲板の上だろう。中央に真っ赤なソファーが置かれ、その上にザクロが寝そべり、紫煙をくゆらせている。周りにいる空賊たちはかしづいてザクロの言葉を待っている様子だ。
『テレビの前の紳士淑女の皆々様、お初にお目にかかる……、あたしの名はザクロ。この大空賊団を仕切っている女さ。と言っても、これはあたしの顔のひとつに過ぎない。ある時は酒場のしがない芸者だし、ある時は乙女座の十二星華だったりする。まあ、近い将来、あたしを除く十二星華は死に絶えると思うがねぇ……』
「はぁ? なに言ってんのよ、こいつ……!?」
 映像を観ていた生徒に動揺が走る中、一際大きな声を上げたのはセイニィだった。
『あたしの目的は、単純にして明快……、五獣の女王器と女王像を全てこの手にする事さね』
『そ、それは女王候補宣言ですか? 確か、天秤座のティセラという方が、既に女王に名乗りを上げてますが……』
『ふん』ザクロは目を細めて、テレビクルーを威圧する。『5000年前はアムリアナ。あの女がいなくなったと思えば、今度はティセラが名乗りをあげる始末。いい加減にして欲しいねぇ。あたしは誰の下につくのもまっぴらだってのに……』
 飄々とした彼女の顔に、一瞬不快の色が浮かんだものの、すぐに消えた。
『……まあ、それも終わりさね。ティセラの星剣が少しばかり強力だったおかげで、大人しくしてたけど、この白虎牙があたしの手元にある以上、もうあの小娘に従う理由はなくなった。今のあたしに指図出来る人間はもういない』
 そう言うとザクロは合図をし、カメラの前に石像の下半身部分を運ばさせた。
「あ……、あたしがカシウナに隠してた……、女王像……」
 またしてもセイニィが大きな声を出した。
『既にこっちは女王像の一部も確保してる。残りが集まるのも時間の問題さ』
『し、しかし……、女王になろうという方がこのような虐殺をするなど、ゆるされる事ではありません……』
 勇敢なるリポーターが意見をするも、ザクロは表情ひとつ変えなかった。
『ゆるされるさ。もうしばらくすれば、あたしに意見する人間はこの世からいなくなるはずだからねぇ』
 常軌を逸した発言だが、それを本気で言ってる事は、画面の向こうからもひしひしと伝わってくる。
『さて、これからの予定だけど……、ティセラを殺す楽しみは後に取っておくとするよ。その前に……、もうひとりの邪魔な女王候補を始末しておこうかねぇ。ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)、あんたの持つ五獣の女王器【朱雀鉞(すざくえつ)】と女王像の欠片……、必ずあたしが手に入れてみせるよ』
 不敵に笑うと合図し、部下にテレビクルーを射殺させる。悲鳴と共に映像にノイズが走り、消えた。


 ◇◇◇


 静まり返る艦橋。
 セイニィは壁はガツンと殴りつけた。
「……折角修復した船を壊さないでもらえる?」フリューネは一瞥して言う。
「あんた、事の重大さがわかってるの? あの性悪女に女王器を奪われて……」
「どうやら裏切られたみたいね。……仲間、だったんでしょ?」
「……あたしはあんな奴、初めっから信用してない。だから、あいつに女王器探しを手伝わせるのは嫌だったのよ」
 苛立たしげにセイニィは語る。ティセラに向けられた敵意を、見過ごす事が出来なかった。
「しかも、よりにもよって白虎牙があいつの手にあるなんて……」
 そう言って、強く拳を握りしめた。
「白虎牙を持った十二星華なんて手に負えない。攻守共に隙なし、どうやってあいつから白虎牙を取り上げるのよ?」
「……それを今、考えてるんじゃない」
 フリューネは腕組みし、思索を巡らせた。
 状況は前向きに考えても絶望的だ。ザクロの前には大空賊団が立ちはだかり、それをよしんば突破出来たとしても、一騎当千の怪物が待ち構えているのである。しかも、その戦闘力は同じ一騎当千のセイニィさえも凌いでいると言う。
「あんな奴にコケにされるのも我慢ならないってのに、おまけに船がこのポンコツじゃたまんないわ……」
「みんな、頑張って直してくれたのよ。そんな言い方はないんじゃないの……?」
 なにやら、不戦協定が破棄されそう勢いで、両者は睨み合った。
「あたしは事実を言ってるだけでしょ。現実を見ろって言ってんのよ」
「こ……、この船だって立派に戦えるわよ!」と言って、小さく「たぶん」と付け足した。
「……まあまあ、おふたりとも。なんとか方法を模索いたしましょう。時間は限られています」
 仲裁にユーフォリアが入ると、フリューネは目を泳がせ、そして、はっと気が付いた。
「なんとかなるかも……」
 セイニィは怪訝な顔を浮かべ、ユーフォリアと顔を見合わせた。
「全ては歴史が示しているわ」
 フリューネは注目する一同を見回した。
「白虎牙だって万能じゃなかった。だからこそ、ユーフォリア様は5000年も封印される事になった。硬化の術を解除不能にする呪法……、あの呪法が現代にも遺っていれば、勝機は見えてくるわ……!」





つづく

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村象山です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、またしても公開が遅れてしまいまことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。

私としては戦艦の改造がメインになるシナリオかと思ったのですが、
思いのほか、空賊の迎撃に回るかたが多かったです。
前回のロスヴァイセ邸陥落があったので、迎撃に慎重になってしまったのかもしれません。
そのため、余裕で空賊団を叩き潰せるほどの人数が集まりました。
その余波かどうかはわかりませんが、古代戦艦がなかなかの内装重視な船に仕上がっております。
ヨサーク大空賊団あらため、ザクロ大空賊団とちゃんと戦えるのか、今からドキドキです。

また、もうひとつ、私の想定を覆す事件がありました。
サンプルアクションでそれとなく示唆しているのに、気付かれた方もいらっしゃると思いますが、
今回でユーフォリアを抹殺しようと考えてました。
理由は幾つかあるのですが、ここでは触れないでおきます。
ただ、物語の流れで命を落とさせるのも、ゲーム的にどうかなと思ったので、
プレイヤーが介入出来る余地を残しておいたところ、見事に介入されてしまいました。
これによって、先々の展開が結構変わってくると思います。

あと、もうひとつ余談ですが、
実は『横綱のモンド』はアクション次第では仲間になる流れを考えていました。
スピネッロは悪過ぎるので無理ですが、モンドはリアクションの通り普通の人なので、
場合によってはフリューネ側に付いても、おかしくないんじゃないかと思い、考えていたのです。
誰かひとりぐらい『空賊を説得する』と言うアクションがあるかと思ったのですが、なかったようです。
ここは別段、伏線も張ってなかったので、そんなアクションがなくても仕方がないです。
あくまで、あるアクションに対するおまけ的な要素でした。

さて、次回が正真正銘の最終回になります。
最終決戦を前に、これまでの空賊シリーズの戦闘アクションを振り返って、思った事を報告します。
思ったのは、スキルに頼ったアクションだと、目立たなくなってしまう可能性があるという事です。
スキルはレベル次第で誰でも使えるものですから、それ以外の部分で+αがあると輝けるのではと思いました。
ちょっとささやかな部分での話ですが、もし参考にして頂けたら、嬉しい限りです。


次回シナリオガイド公開は、4月25日になります。
今回は、萩マスターに全てを委ねず、ちゃんと調べておきました(笑)
それでは、また次回、お会い出来る事を楽しみにしております。