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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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  ☆ ☆ ☆

「このまま簡単に調査が進むとは思えない。蛇遣い座は勿論、メニエス・レイン(めにえす・れいん)マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)にも気をつけたいところだ」
 闇市から今回の現場にやってきた橘 カオル(たちばな・かおる)は、敵の襲撃を予想して警戒していた。
「同感だぜ。何が起こるか分からないからな」
 彼とタッグを組むのは渋井 誠治(しぶい・せいじ)だ。こちらは、先日の遺跡調査から引き続きリフルたちと一緒に行動している。
「オレは地上、入れればあの物体の中で警備に当たる。誠治は空を頼んだ」
「おう、任せてくれ」
「話すのは初めてよね。携帯電話の番号とアドレスを交換しましょう」
 誠治のパートナー、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)がカオルに近づく。カオルは彼女の知的な顔立ちと美しい髪に見とれた。尤も、カオルは胸に一番関心があるのだが、ローブの上からではヒルデガルトのバストサイズがどれほどのものか分からない。
「……橘君?」
「あ、携帯ね! 是非」
 ヒルデガルトの胸を凝視していたカオルは、彼女の声で我に返る。二人は連絡先を交換した。
「じゃあ何かあったら連絡する。気をつけろよ、カオル」
「ああ、そっちもな」
 誠治とヒルデガルトはカオルと別れ、小型飛空艇で空へと向かう。
「さて、他にも空で襲撃を警戒してるやつがいたら、いざというときどうするか相談しておきたいな。……お、あれは」
 左右を見回していた誠治の目に、見知った顔がとまる。九条 風天(くじょう・ふうてん)だ。
「よ、風天さん」
「これは渋井さ――ひっ!」
 振り返りかけて、風天は悲鳴を上げた。
「あ、ごめんなさい」
 その横を、巨大甲虫に乗った月島 玲也が通り過ぎていった。
「どうしたんだ?」
「いえ、なんでもありませ――わっ!」
 今度は小さな虫が風天の顔に飛んでくる。風天は大げさに手を振ってこれを追い払った。
「……もしかして、風天さんて虫苦手? なんか意外だなあ」
「ボクにだって苦手なものくらいあります。それに、虫が駄目だという人は少なくないでしょう。同じ【義剣連盟】の緋桜さんだってそうですよ」
「その連盟大丈夫? 虫の大群とかに襲われたらやられちゃいそうだけど」
「大丈夫です。いざというときは、気が引き締まりますから」
 風天はきっぱりと答える。確かに、この間の遺跡では玲也の巨大甲虫も気にせず戦っていた。
「そんなことより、ボクに用があったのでは?」
「ああ、そうだった」
 誠治は思い出したように言う。
「敵が襲ってきたときどうするか、話し合おうと思って。俺は地上の仲間と連携して戦うつもりだ。ヒルデ姉さんは――」
「誠治のサポートに回るわ」
 羅針盤や物体にはとても興味のあるヒルデガルトだが、彼女は、蛇遣い座に完全敗北したことを今でも悔やんでいる誠治が心配だった。そこで調査は他の生徒に任せ、自分は誠治を援護することに決めたのだ。
「ボクは、爆炎波を疾風突きに乗せて放とうと考えています。乱発できる技ではないので、使いどころを見極めなければなりませんが」
 風天は、そう自らの秘策を語った。
「蛇遣い座にせよ悪事を働いている生徒にせよ、予想される敵は強力だ。こっちも上手く力を合わせないとな」
 それを聞きながら双眼鏡で下を覗ていた誠治は、リフルと並んで空を飛ぶ七枷 陣(ななかせ・じん)の姿を発見した。
「戦力になるから、陣さんも一緒に戦ってほしいところだが……まあ、戦闘になったら来てくれるだろう」
 とりあえず、今は邪魔しないでおこうと思う誠治であった。

「みんな物体物体言ってるけど、頭の中でゲシュタルト崩壊しねーかな」
 誠治たちより更に上空で、高村 朗(たかむら・あきら)は物体の写真撮影を行っている。そこに、エリシュカがふわふわと寄ってきた。
「キミも写真を撮ってるんだ。私も上の平らなところに降りて写真とか動画とか撮ってみたんだけど、それだけじゃよく分からないやあ。何なんだろうね、このおっきいの」
「俺は写真を元に全体の立体図を起こしてみようと思う。一部しか見えていなくても、みんなが集めた情報をわせて考えれば、おのずと正体が見えてくるはずだ」
「そうだね。一緒に頑張ろー」
 エリシュカは「おー」、と右手を突き上げる。
「俺はこれからあの上に降りるつもりだけど、キミも行くかい?」
 朗は物体を指さして言った。
「うーん、私はこれからパートナーに調査結果を伝えて、今度は側面を調べてみる予定なの。ごめんね」
「そうか、じゃあまた。何か分かったら教えてくれよ」
「うん」
 二人は挨拶をして別れ、別々の方向へと移動した。
 朗の目指す物体上部では、一番乗りして調査を行っていたイーディ・エタニティが、不思議そうな顔をしていた。
「やっぱりおかしいじゃん」
「何がだ?」
 葛葉 翔がイーディに尋ねる。
「トレジャーセンスを使ってみたんだけど、辺り一面に反応があって大混乱じゃん」
「なんだって」
 翔もトレジャーセンスを使ってみる。
「……本当だ。こりゃ一体どういうことだ」
「ここには、お宝が山のように埋もれているのかもしれませんよ」
 考え込むイーディと翔に、月詠 司が声をかけた。司は好奇心を抑えきれない様子で周囲を見回す。
「複数の者がトレジャーセンスの反応に違和感を覚えている……ますます期待が高まってきましたね」
「しかし、小さな反応がいくつもあるって感じじゃあないぞ」
「(自称)トレジャーハンターとしては、何としてもこの謎を解明したいじゃん。あ、リフルさんが来たよ。後で話を聞いてみるじゃん」
 イーディが指さす先では、ちょうどリフルたちが物体の上に到着したところだった。
「何やろね、このバカでかい物体。巨大機晶姫とか? ……まさかね」
 リフルの隣を歩きながら、陣が言う。しかし、彼にはこの物体よりも先に解明しなければならない謎があった。
「ちゅーか、オレはリフルちゃんの装備にツッコみたい」
 陣はびしっとリフルを指さす。
「特に俵と古王国の生キャラメル。俵は重いしかさばるだろう、常識的に考えて。そして5000年前のキャラメルって……体壊すってレベルじゃねえぞ。そんな恐ろしいもの捨ててしまえ」
 陣の指摘に、如月 佑也は陰で思い切り頷いた。彼もまた、ツッコミ待ちなのかマジボケなのか、リフルの装備が気になっていたのだ。
 リフルは表情を変えずに答える。
「俵は筋トレ。少しずつ重いものに変えることで、いつの間にか筋力アップ」
「……麻を跳び越える忍者みたいだな」
「生キャラメルは、古王国のものであることに意味がある」
 大マジだった!
 佑也はずっこける。
「分からんわあ」
 陣は腕を組んで首をかしげた。
「ボクもいっぱい食べるほうだけど、さすがにその生キャラメルはないと思うなあ。保存料満載で健康に悪そうだよぉ」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)も陣に賛同する。
「ほら、これあげるからさ。こっちを一緒に食べようよ」
 リーズは、妖精スイーツとシール入りチョコレート菓子を陣とリフルに分けた。
 受け取ったお菓子を早速口に放り込むリフルに、今度は美羽が話しかける。
「リフル、さっき筋トレしてるって言ってたよね。どうして?」
「私には星剣がない。元々非力だし、これからの戦いに向けて少しでも戦闘力を上げておきたい」
「それよ!」
 リフルの答えを聞いた美羽は、ずいと身を乗り出した。
「私も、リフルは戦う術を身につけた方がいいと思ってたんだよね。私の得意技を伝授するよ。それはずばり――」
 美羽は、超ミニスカートから覗く美脚を高く上げた。
「蹴り!」
 『魅惑の足技使い』の異名をとる美羽は、テコンドーやカポエラなどの足技を得意とする格闘技マニアなのだ。
「今からちょっと私の言う通りにやってみて」
 美羽は、その場でリフルに蹴り技の指導を始めた。
「こう?」
「そうそう! さすがリフル、運動神経いいね。じゃあこれはどうかな」
 美羽が教えると、リフルは次々に技をマスターしていく。
「いいよーいいよー、すごくいいよー」
 なんだかグラビアの撮影みたいになってきた。
「次はジャンプしながらやってみようか」
「えい」
「もっと高く!」
「えいっ」
「技名を叫びながら! はい、リフルキーック!
「りふるきーっく」
 なんと美しい! 自分にもう教えることはない。
 宙に舞うリフルの姿を見て美羽がそう思ったとき、リフルの目の前に突然何かが飛び出してきた。
「何ですか!?」
「避けられねえ!」
 
 デュクシ

 ヘルの顔面にめり込むリフルの靴。
「……ごめん」
「ぐおっ」
 シルヴィオのジャケットがなければ、この災難と引き替えにユートピアが垣間見えたかもしれないのに。
 ヘルは、彼を抱えたザカコもろとも真っ逆さまに落っこちていった。

 1HIT!

「ようし、あと一息だ。頑張れ俺の筋肉! ――ん? おおお!?」
 ヘルとザカコは、物体上部までもう一息のところに迫っていたラルクも巻きこむ。

 2HIT!

「上部には人がいっぱい行っているし、登るのも一苦労だ。俺たちはこのあたりを調べてみよう。点検用の扉から中に入れるかもしれんしな」
「私が貴様を支えてやりますわ」
 一輝とローザは物体の底部を調査している。
「気をつけてね」
 ローザマリアが二人の様子を見守っていると、エリシュカから携帯に連絡があった。
「お疲れさま、エリー。そっちの様子はどう?」
『上! 上―っ!』
「上?」
 ローザマリアが天を仰ぐ。何三人の男が猛スピードで落っこちてくるのが見えた。
「危ない!」
 一足早く状況を把握したグロリアーナが、ローザマリアに飛びつく。
「What!?」

 ローザマリアとグロリアーナはヘルたちをひらりとかわした!
 一輝とローザは避けきれない!

 3HIT! 4HIT!

 と、何かに気がついたセシリアが、不意に叫び声を上げた。
「メイベルちゃん、フィリッパちゃん、急いでここから離れて!」
「どうしたんですぅ?」
「いいから早く!」
「あらあら、大変ですわ」
 持っててよかった空飛ぶ箒。三人はすぐにその場から離れた。メイベルたちと逆方向を向いているユリウスには、何が起こっているのか分からない。
「おい、急にどうした? どわっ!」

 5HIT COMBO!

 こうして、りふるきっくは総勢6名を地面へと叩き落とした。
「エリーとライザに感謝しなくちゃね。いくら他校生と親睦を深めたいとは言っても、あんな交流の仕方はごめんよ」
 だんご状態になった被害者たちを見て、ローザマリアが言う。
「わーん、おやぶーん! おねえさまー!」
 安全な場所での待機を命じられていたコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は、目を回している一輝やローザの元へ、涙ぐみながら駆け出してきた。
 この惨状には、さすがの美羽も冷や汗を流した。物体の上から恐る恐る下を覗き込んで言う。
「えーっと……私のせい?」

「おやぶーん、よかったよー!」
「おまえのおかげで助かった」
 抱きついてくるコレットの頭を、一輝が優しく撫でる。
 コレットが応急処置の特技やヒールのスキルをもっていたおかげで、りふるきっくの被害者たちは無事ですんだのだ。
 酷い目にあったものだと口々に言う彼らの元に、イルミンスールのトラブルメーカー、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が小型飛空艇で現れた。
「ふふーん。キミたち、そんなことして遊んでていいのかな? 私がささっとあの物体の正体突き止めちゃうもんね!」
 玲奈は空気の読めない発言をすると、上空へ飛び立とうとする。
「とうっ、便乗人間パラミアント!」
 そのとき、五条 武(ごじょう・たける)が玲奈の小型飛空艇にしがみついた。
「わ、ちょっとキミ、何するのよ!」
「このまま上まで連れていってもらおう」
 武は当然のように言う。
「冗談じゃない! 自分で行ってよね」
「いいじゃねぇかこれくらい。今回ネタが浮かばないんだ! 少しは目立たせろ」
「ネタに走らないで真面目にやれ!」
「俺のポリシーが許さん!」
 二人の醜い争いを見て、取り残された生徒たちは、ああはなるまいと誓った。
「みなさんは私が箒でお運びしますねぇ」
 それに比べてメイベルのなんと癒し系なことか。
「お、重いですぅ……」
「すまねえ、筋肉は重いんだ!」