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第1章 瘴気に満ちた洞窟
計画を阻止しようと魔力タンクを破壊されてしまった十天君・姚天君は、ウイルスを完成させることが出来なかった。
なぜウイルスを作っているのか。
それはティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が女王になるために邪魔な存在、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)と妨害する剣の花嫁を葬ろうという計画だ。
自分たちの邪魔をした者への復讐を兼ねて、失敗の原因であるイルミンスールの森にいる妖精アウラネルクを探す。
妖精を捕らえ魔力を奪っているその間、姚天君と董天君はどこかでのんびりと待つことにした。
鑽針釘で魂を貫けば葬ることが出来るのだが、それはもう遠い昔になくなってしまい、現在では作る技術もない。
葬られない自信のある彼女たちは、余裕たっぷりの様子で過ごすことが出来るのだ。
しかし1つだけ葬る方法がある。
封神台を作り致命傷を与えることで、そこへ葬ることが出来る。
その中は、まだ身体に魂が残り再生可能な善なる者が再生を待つ上層地と、邪なる者が再生のない永遠に死の地獄の苦痛に苦しみ続ける下層地が存在する。
十天君どもが葬られた場合、封印される場所はおそらく、永遠に苦しむ死の地獄の下層地だろう。
ルフナ・ロードから封神台のことを聞き、悪女どもを葬るため生徒たちは向かい撃つ準備を始める。
1Day
-AM8:00-
「ここで何かあったみたいね・・・」
イルミンスールの森で騒動があったこと知ったスクルト・クレイドル(すくると・くれいどる)は、十天君の陣があった場に来てみた。
女子としてはかなり背の高い、落ち着いた雰囲気のヴァルキリーの彼女は、地面を見てみると何者かが争ったのか草花が灰になっている。
「あんなに沢山生徒が・・・どこへ行くのかしら?」
後を追ってみると森の奥にある洞窟の方へ向かっている。
近くまで行き会話を聞いてみると、十天君を葬るために封神台の材料を取りに行くようだ。
「なるほどね・・・今からだと合流出来そうになから、ランツェレットたちを呼んで来なきゃ」
材料を取りに行くためにランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)とシュペール・ドラージュ(しゅぺーる・どらーじゅ)を呼ぶことにした。
-AM8:30-
「材料とり頑張ってくださいね」
洞窟内へ材料を取りに行く生徒たちを、島村 幸(しまむら・さち)が見送る。
「孤島から奪ったウイルスが2・3日で死滅したことから察して、姚天君が残りを所持していたとしても、効力を保てるのはよくて3日でしょう。身体からウイルスが死滅する数時間後に出発するのも手ですよ。皆さんの判断にお任せしますが」
「そうですね、私たちは午後に出発しましょう」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は幻草陣に入る前、ウイルスに感染してしまったセシリア・ライト(せしりあ・らいと)を心配して出発を遅らせることにした。
「明珀石ってどんなのかな?」
メモ帳を開き神和 綺人(かんなぎ・あやと)はルフナに明珀石の形状を聞く。
「暗いとこで光る石やからすぐに見つかると思うんやけど。大体5cmくらいの琥珀色に光やつどすな」
「5cmほどの琥珀色に光る石だね・・・」
聞きながらペンでメモ帳に書く。
「誰か熔鉱水を取りに行く人いませんかーっ?」
洞窟の入り口付近で影野 陽太(かげの・ようた)が、誰か一緒に行かないか呼びかける。
「私たちでよければ一緒に行かない?」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が陽太の傍へ行き声をかける。
「あの孤島の施設でも、途中まで俺たちといましたよね」
「えぇ、そうね」
「今度もよろしく頼みます。最初の道はまっすぐ進めばいいみたいです」
陽太はケレスから聞いてメモ帳に書いた地図を美羽に見せる。
「じゃあ僕たちは先に行くね」
清泉 北都(いずみ・ほくと)たちは幸に手を振り洞窟へ入る。
「これが瘴気ですか・・・。何の力も持たない人には危険な場所ですね」
薄気味悪い褐色霧、洞窟内に漂う瘴気にクナイ・アヤシ(くない・あやし)は思わず顔を顰める。
「うん・・・。危険なモンスターも出るみたいだし気をつけよう」
超感覚で耳を澄ませ、クナイと逸れないよう傍に寄り警戒しながら進む。
「十天君のどっちかがウイルスを撒いてくるかもしれないから。何か変な感じがしたら教えてね、クナイ?」
「えぇ、分かりました」
「入ったばかりだけど結構暗いね。光精の指輪を使おうかな」
明かりの代わりにしようと光の精霊を呼び出す。
「これは・・・普通の石みたいだね」
丸っこい石を拾い明かりで確認する。
「もう少し奥へ進んでみましょうか」
20分ほど進んだところでは見つからず、もっと奥へ行ってみる。
「これも灰色だけど違うね。くすんだ灰色と、青っぽい虹色が混じた石じゃないね」
北都は地面や土壁に光を当てながら探してみる。
「キューキューで鳴き声が聞こえるけど、何かの生き物かな・・・?」
「可愛い鳴き声ですね」
「それでも油断は出来ないよ・・・凶暴なウサギがいるみたいだし。―・・・1匹?5匹かな・・・こっちに近づいてくる」
危険な生き物かもしれないと警戒し足を止める。
腹を減らしたウサギは北都を狙い襲いかかる。
彼に噛みつこうとする歯を、クナイがクレセントアックスで防ぐ。
斧を爪で掴みガジガジと噛み砕こうする獣ごと刃を地面へ叩きつけ、口と両手を真っ二つに斬り裂く。
「僕たちを動けなくしようと、腕や足を狙ってくるようだね!」
クナイの片足を狙う獣にナラカの蜘蛛糸を巻きつけ、ぐいっと引っ張る。
「まだ来る!ここで時間をかけるわけにはいかない・・・。いっきに仕留めるよっ」
実力行使で仕留めてしまおうと、糸をターゲットに絡みつかせ微塵にする。
肉片となったウサギの身体は土の上へ、ベチャベチャッと飛び散る。
「何とか片付きましたね、北都」
「そうだね・・・。―・・・うーん・・・何か歩きづらくなってきたね。それになんだか息苦しくなってきたかな・・・」
瘴気の影響で体力が減退してきてるのだ。
北都とクナイは獣たちがまた現れないうちに、ヒールで体力を回復する。
「この辺りにないか探してみようか」
招石がないかSPタブレットを食べながら探す。
「土壁の中に何かありますね」
採掘ように持ってきたスコップで掘っていると、カツンッと音が聞こえた。
「うん、これだね」
クナイの傍へ行き北都は光の妖精の明かりで照らし確認する。
スコップで掘り招石を袋の中に入れる。
「これもかな?」
地面を照らして見つけた石と比べてみる。
「合ってますね」
さくさくと周りを掘り、北都と一緒に持ち上げて袋の中へ入れる。
「持っていけるのはこれくらいだね。他の人も取りにくると思うから、そろそろ洞窟を出ようか」
「重い方は私が持ちましょう。北都はそっちの軽い方をお願いします」
集めた招石を入れた袋をクナイが背負う。
「(何か仕掛けてくると思ったけど、大丈夫だったみたいだね。運が良かっただけかもしれないけど・・・もしかしたらここへ来るかもしれないから早く出なきゃ)」
北都は襲撃されないように警戒しながら、袋を抱えてクナイと共に出口へ向かう。
-AM9:50-
「30分くらい進んだかしら?2人ともこっちに来て、ヒールで回復してあげる」
スクルトに呼ばれてきたランツェレットが、2人の体力を回復してやる。
「こっちに明かりをちょうだい。灰色にくすんだ色と、虹色が混ざった石・・・。これが招石かもしれないわ」
ランツェレットに光術で岩を照らしてもらい、スクルトは明かりで目的の石かどうか見てみる。
「とりあえず採掘して確認しましょう。シュペール、わたくしのパイルバンカーを・・・」
「アイ・サー」
「ありがとうございます、さて始めましょうか」
巨体すぎるゆえ屈んでいるシュペールから、若干採掘用に改良したパイルバンカーを受け取り採掘を始める。
ガツンッガキンッと岩を砕く音が洞窟内に響く。
「1つ取れました。これですよね?」
ランツェレットはスクルトに渡して確認してもらう。
「えぇそうね」
「一見地味ですが、青みがかったような虹色に輝く部分があるんですね」
宝石のような石をランツェレットは不思議そうに見つめる。
「見てる場合じゃないですね、採掘に集中しないとっ」
「壁際にも埋まっているわね」
「では、岩場の方が終わったら、そっちもやりますね」
「えっとシュペールは・・・ランツェレットが採掘した石を持って。私は周囲を見張っているわ」
せっかく見つけた石を粉々に砕いてしまうかもしれないと思い、シュペールには荷物持ちだけを頼む。
「(何の音かしら)」
トタタッと何かが走る音がスクルトたちの方へ近づく。
アーミーショットガンを構える。
「ん・・・ネズミ?」
どこからかネズミの鳴き声が聞こえ、採掘をしているランツェレットは手を止める。
「痛っ」
「動かないで!」
ランツェレットの足に噛みついた凶暴なネズミをスクルトが撃ち殺す。
「猛毒をくらってしまったようですね・・・」
ナーシングでランツェレットは手早く毒を取り除く。
「囲まれているようね」
「我がミサイルで撃ち落とすネ〜」
「狙うにしても的が小さすぎるわ、私とランツェレットでネズミを倒す」
素早くチョロチョロと土壁や天井に動き回るネズミに向かって、ランツェレットが雷術を放ち地面へボタボタと落とす。
「動き出す前に的を撃ってしまえば終わりよ」
銃弾をくらい小さな身体はバラバラになり、ベチィッと土の上に貼りつくように飛び散る。
「暗闇からの襲撃なんて厄介ね。早く出ましょう・・・と言いたいとこだけど。奥に行った人が戻ってくるかもしれないから、少しだけここで待ってたほうがいいかしら?」
「また襲撃されるかもしれませんから、シュペールに持ったもらった方がいいですからね」
「もう採掘する石はない?」
「あとこれで最後です」
ランツェレットは土壁から招石をシュペールに渡す。
「落とさないよう袋に入れておかないと。40分くらい待って来なかったら出るわよ」
シュペールが手に持っているやつを、スクルトは袋に入れ直して彼の手の平に置く。
「いつでも出られるように、隣に乗ってください」
「そうね、乗せてもらうかしら」
スクルトはランツェレットの隣、ヘキサポッド・ウォーカーに乗り、戻ってくる生徒たちを待つ。
「ルートによるとこの辺りのはずですが」
陽太はケレスに聞いたルートをメモ帳に書き、今どの辺まで来たのか確認する。
「まさか迷子になったのではないですわよね?」
肉獣たちに襲われないように、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)がディテクトエビルを発動させる。
片眉をひょいっと持ち上げ、口をへの字にして睨む。
「2つの道のうち、左側の方・・・」
「そっちで合ってるんですの?」
「―・・・だったはずです・・・」
自信がなさそうに陽太は、だんだんと小さな声になっていく。
「ちょっと見せて」
美羽がルートを書いた地図を陽太の手から取る。
「こっちで合ってるわよ」
「あぁ〜・・・よかったです」
道順が合ってることが分かり、陽太はほっと安堵した。
「少し・・・進みづらくなってきましたわ」
「大丈夫ですか?今、回復の術をかけます」
瘴気により体力が減退してしまったエリシアを、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がヒールで癒す。
「ありがとうございますわ」
「いぇいぇ、今回は補助の役目で来たのですから」
すっかり元気になり礼を言うエリシアに笑顔で言う。
「陽太、避けなさい!」
「へ・・・?はわぁ!?」
突然エリシアに言われ、何事かと振り返る。
彼女の声に驚き石のように固まった陽太の頭へ、ゴツンッと生き物の死骸の骨がぶつかる。
頭からバウンドし地面へコロンと転がり落ちる。
「―・・・ほっ、骨が石に!」
骨はカラスの足の爪から陽太を守ろうと、エリシアが投げつけたものだった。
「足の爪で骨が石化したなら、くちばしもそうかもしれません!」
陽太は博識で予想し、注意するよう叫ぶ。
「私たちが仕留めるからベアは下がっていて!」
もしもの時のために美羽はベアトリーチェを守るように、自分の後ろへ下がらせる。
カラスがカァーカァアーッ!と大声で仲間を呼ぶ。
バササッバサバサバササッ。
「私は足を狙うから、翼の方をお願い」
「は、はいっ」
大声を上げるカラスにビビリながらも陽太は星輝銃に帯電させる。
「まったく何匹いるのよ!」
美羽はブライトマシンガンの銃口をカラスに向け、爪で襲われないよう足を狙う。
足を痛めつけてしまえば、石化の脅威の2つのうち1箇所は防げるからだ。
「うくっ、うわっ」
「何やっているの陽太、早く撃ちなさい!」
くちばしで突つかれそうになっている陽太に向かってエリシアが怒鳴る。
「石化どころか重傷を負ってしまうかもれませんわよっ」
「あわわぁっ!」
怒鳴られた彼は慌てて羽を撃ちまくる。
バチチチッ。
感電したカラスがカァアッギャァェエッと悲鳴を上げながら羽をバタつかせる。
その隙にとエリシアはニヤリと笑い、マジカルスタッフから炎の嵐を放ち焼き払う。
焼かれたカラスたちがバタタタッと落下する。
「何ていうかとても香ばしいですわね・・・」
焼き鳥のような匂いが漂い、動き出さないか杖でつっつく。
「水といってもそれらしい場所が見つかりませんわ」
「どこかに湧いているのでしょうか?」
ベアトリーチェは3人の体力を順番にヒールで回復しながら言う。
「ねぇ皆、こっち来て!」
美羽がベアトリーチェたちを呼ぶ。
「何か見つけたんですか?」
「ここ・・・ちょっと水分と土が混ざって泥濘があるのよ」
「掘ってみましょう。―・・・涌き水ですか?泥水・・・ではないようですけど」
泥濘の辺りを陽太がスコップで掘ってみると、コポコポと涌き水のように流れ出る。
「ルビーのような色にも見えるけど・・・赤い炎みたいな色ね」
手にしているブライトマシンガンの明かりで、美羽がそれが何なのか確認しようと照らす。
「えーっと・・・聞いてきたのがそんな感じですね」
陽太はメモを見て熔鉱水だと確認する。
「これに入れましょう美羽さん」
ベアトリーチェが持ってきたタンクに熔鉱水を汲む。
「向こうにも何箇所か泥濘がありますね、掘ってみましょう。―・・・ありました!」
スコップで掘りトナカイのソリに乗せておいた容器に、陽太も汲みソリに乗せる。
「これで全部ですね」
「陽太、退きなさい!」
「へっ?―・・・・・・・・・!?」
エリシアが放った炎が陽太の頭上を通過する。
「ク・・・クマァアアーッ」
口からよだれを垂らした血に飢えたクマが、陽太を食べようと狙っているのだ。
「さすがにタフですわね。なら、倒れるまで魔法をくらわしてやるまでですわ!」
クマの目に向かってアシッドミストを放ち、サンダーブラストの雷を降り注がせる。
エリシアの魔法にクマはあっとゆう間に朽ち果ててしまった。
「ぼーっとしてると置いていきますわよっ」
肉食の獣に完膚抹殺をくらわしたエリシアは、満足そうな笑顔になり空飛ぶ箒に乗って出口へ飛ぶ。
「あっ、待ってくださいよぉお!」
その後をクマに驚き動けなかった陽太は彼女の声を聞き、ようやく動けるようになり慌てて追う。
「熔鉱水を見つけたし、私たちも出よう。これだけあると、ちょっと重いわね・・・」
美羽とベアトリーチェは重そうにタンクを抱えて歩く。
一方、スクルトたちは洞窟の奥で材料集めをしている生徒たちを待っている。
「―・・・誰も戻って来ないわね。もう36分経ったわ、そろそろ出ないと・・・」
40分待っても来なかったら戻ろうと、スクルトは携帯電話で時間を確認した。
「奥の方から何人か戻ってきますよ」
ランツェレットが光術の明かりで美羽たちの姿を見つける。
「重そうね、シュペール持ってあげて」
「アイ・サー」
スクルトに言われシュペールは美羽とベアトリーチェが抱えているタンクを持ってやる。
「助かったわ、ありがとう」
「ありがとうございます」
礼を言う彼女たちに顔を向け、シュペールは軽く頷く。
「皆が待っているわ、急ぎましょう」
スクルトたちは洞窟の出口を目指して進む。
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