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【十二の星の華】『黄昏の色、朝焼けの筆』(前編)

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【十二の星の華】『黄昏の色、朝焼けの筆』(前編)

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第3章 情熱の赤

 ヴォン。

 風圧をともなったペインティングナイフの横薙ぎを、小型飛空艇を器用に操りかわしておいてから、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は猫のように爛々とその眼を輝かせた。
「カーディ! 近すぎる! 相手の得物は充分わかったから距離をとれっ」
 大型騎狼を操りながら、白砂 司(しらすな・つかさ)が声を張った。
「いいえ。こんな興味深い存在……司は以前にも関わっているんですよね?」
「姿はまるで違うがな」
「そんなのずるい。ビハインドです。ぜひとも身体検査させていただかなくては……この差が埋まりませんね」
 舌なめずりでもせんばかりの勢いで、サクラコは突進の構えを取る。
 司は舌打ちをひとつ。
 サクラコが動くより先に、大型騎狼でカンバス・ウォーカーに飛びかかった。
「今度はまたずいぶん物騒なものが出てきたわね」
 騎狼の前肢での一撃を、カンバス・ウォーカーはペインティングナイフで逸らす。
「美術品の端くれならば人が押しかけるのは嫌ではあるまい。それに、お前がしている所業が責められるべきものだとしても、誰かの願いに誠心誠意全力で応えるのは当然のことだ――全力で止めてやる」
 司の言葉に、カンバス・ウォーカーは面白そうな表情を浮かべた。
「そうね。見られるのは喜びだわ。オトコのコの視線は特にね」
 そう言うと、カンバス・ウォーカーは、ことさら自分の身体のラインを強調するように背中を反らせた。豊かな胸の形が明らかになる。

「なるほど。これはあらゆる意味で敵ですね」

 自分の胸元を一瞥。
 サクラコが、その眼に凄みのある光を称えた。
「……おい、感情的になるなよ」
「なるもんですか。私は大人ですからね。ただちょっと、『普通に捕まえる』から『鉄拳制裁の後捕まえる』に予定変更しただけです。司こそ、伸びっぱなしの鼻の下縮めてください」
「なっ! 伸びてなんかっ!」
 司は、バタバタと慌てて自分の鼻を押さえつける。
「さ、行きますよ。『シンプルに最大の成果を。それが魔法使いの流儀』ですよね」
 拳を振りかぶるサクラコに合わせて、司は適者生存を発動させた。

 司のとった行動に、カンバス・ウォーカーの瞳に怯えの色が過ぎる。

 そこへ――

 ドゥオルルルルっ!

 重厚な駆動音と共に、軍用バイクの鈍色が舞い、司の騎狼に車体を横付け――
 現れた霧島 玖朔(きりしま・くざく)が、至近距離からルミナスライフルを発砲させた。
 光り輝く弾道はカンバス・ウォーカーの肌を擦ってその身を揺さぶる。

「よう、悪い子ちゃん。随分と派手にヤってくれたみたいだが――これ以上は見過ごせない。おイタはここまでってことで――大人しく捕まってもらうぜ」
「強引なのは嫌いじゃないけど……腕づくってのは嫌われるわよ」
 巨大なペインティングナイフは引きずるように。
 身体のキレこそ先ほどに比べて鈍ったけれど、舌のなめらかさは変わらない。

 玖朔はカンバス・ウォーカーと視線を絡ませる。

 ニヤッと、笑って先に動いたのはカンバス・ウォーカーだった。

 重荷となったペインティングナイフは放り捨て、さっさと身を翻して逃走をはかる。
「マジかよっ!?」
 
 舌打ち混じりに驚愕を吐き出し、玖朔はカンバス・ウォーカーの背中めがけて弾幕援護による銃弾をバラまいた。

「上等っ! 逃がしませんっ!」
 弾幕援護の弾雨もくぐり抜けたカンバス・ウォーカーに、物陰から飛び出したカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)は雷術を展開させた。
 大気を渡る放電の束を、カンバス・ウォーカーは強引に身体をひねって逃れてみせる。
「この街は――君の美観には合わないかい? 俺はそうでもないんだけれどね」
 バーストダッシュですぐ側まで接近した緋山 政敏(ひやま・まさとし)の姿に、カンバス・ウォーカーはギリリと奥歯を噛んで忌々しそうな表情を浮かべた。
「ともあれ。どんな『想い』であれ『夢』は賞賛に値する」
 政敏は一瞬で抜刀。
 高速の剣戟をカンバス・ウォーカーに見舞った。
 
 グウゥ!

 その身に急制動をかけ、カンバス・ウォーカーは政敏の一撃を泳がせる。
「まだです!」
 剣を構えたカチェアは未だ硬直状態のカンバス・ウォーカーに向かって、バーストダッシュによる突進撃をかけた。
「――っ!」
 金属が肉をえぐる感触。
 カチェアの一撃を、左腕で無理矢理に軌道変更してみせたカンバス・ウォーカーは、その手からまるで絵の具のように鮮烈な赤色を滴らせ、さすがにその足をグラリとふらつかせた。
 キッと。
 その瞬間を鋭く捕らえた政敏は一気に方向転換。

 再びバーストダッシュを発動させると――カンバス・ウォーカーに飛びかかった。