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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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8-03 黒羊郷までの戦い

 ぶちぬこ隊、ヴァルキリーらは、関所に向け逃走した敗残兵らを追討。
 桐生ひな(きりゅう・ひな)はとくに、この方面の指揮を執っていた敵将チェルバラ(ちぇるばら)を探し出すつもりでいた。
 ルミナはヴァルキリーの先頭に立つ。残党を狩った勢いで、そのまま関所を次々に落としていく心積もりだ。
 ハルモニアの軍勢は、すでに最初の関所に行き着いた。
 主力がほぼ出てきているので、100程の関所では、彼女らを防ぐことは……
 シュカッ。
 ルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ)、関所の門を真っ二つにする。
「またつまんないものを斬り捨ててしまった」
 メイドの土産だ。
 なだれ込む、ヴァルキリー勢。
 また、壁の上にも、
「たぁぁぁぁ!!」
 ルミナが、バーストダッシュで駆け上がっている。
「凄い勢いだね……」
 そう言いながら、隣に並ぶ、みっちゃんこと柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)。ミニスカをひらひらさせながら、壁を駆ける! 駆け登る!
 ルミナは、ふん、という感じだ。これはもはや、ルミナにとって鬱憤晴らしの砦攻めだ。
「あっ」
 しかし一足早く関所の上に駆け上がったみっちゃんが、弓兵達を一斉に切り伏せていく。みっちゃんにとっても……今まで、ユウとの絡みが少なかったという、鬱憤を晴らしたという説が囁かれる。
「く、おのれ、我も……」みっちゃんの意外な黒い部分に触れ少々恐怖を覚えるも、敵にはまったく怯む様子を見せない、ルミナ。
 続々と出てくる敵を、なぎ払う。
 ユウがやって来た頃には……
「……。早い。もうここの敵は、全滅か……」
「……。せっかく門を開けたのですから、礼儀正しくここから攻めればよいものを……」
 そんな三人を眺める、ルゥ。
 仕上げは……新兵器だ。
 ごろごろ……
「何か、転がってまいりましたね……」
 巨大な団子だ。
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が、説明しよう。
「この団子は、トロルを主成分に、桐生ひな(きりゅう・ひな)と誤字姫(セシリア)からできておるのじゃ。
 ひなと誤字姫を接合面にして、一個の巨大な団子にしたものじゃ。面倒じゃから接着剤で強引に二人をくっ付けてしまったのじゃよ。
 解体してもひっついたままになりゅが、まぁよいじゃろ」
 と言いつつ、音頭をとって、ぶちぬこにごろごろと団子を転がらせるナリュキ。
「後は、皆で団子を転がして、巻き込み祭りなのじゃ。
 うーん……巻き込んだら、"潰れてぺっちゃんこ"と"一緒にトロル化"のどっちになるか楽しみじゃ」
 えーい、それ、にゃー! ぶちぬこがづばーんと転がし勢いを増して、関所に突っ込んでいく巨大団子。
「あとは、団子に女性分も補充できればさらに美味しくなるのじゃがの」
 ナリュキは、ルゥを見た。きらーん。
「わ、私は……わー」
 ごろごろごろごろ
 団子は、関所に正面からぶっつかっていった。
 づばーん。
 関所、陥落。
 ……
 だっだかだっだか。
  だっだかだっだか。
「お、遅かったでありますか……し、しかしィ!!
 ハァァァ! 黒羊の将、マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)参上でありますぞ。
 ふふり。ふふり、名のある将と見た。その首、差し出して頂きましょうでありますぞ。ふふり」
「何と。マリーじゃと?」
 マリー、黒羊の敗残兵をまとめてここまで来たらしい。
「そうかえ。にひひ、妾のごっとふぃんがーの魅せ所なのじゃっ。
 ぶちぬこ隊最強の魔乳このナリュキ・オジョカンがお相手いたそう」
 ナリュキはドリルを抜いた。
「魔乳。……ふふり。ではナリュキ・オジョカン。
 あなたを倒しその称号このマリーこそが奪い取ってあげよう。勝負でありますぞ!!」
 マリーはアイドルコスチュームを脱いだ。
 マリーとナリュキの一騎打ちになった。

「その勝負、待った。待ちなさい。待つのよ!」
「!! あなたは……わてが信仰の姉妹、ちぇるばら?」
 崩壊した関所の跡から、ハルモニアの侵攻軍指揮官であったチェルバラ(ちぇるばら)が現れた。
「ワタクシ様は、もう何処にも逃げも隠れもしないヮ。
 マリー? もう、戦争は終わったのよ……いえ、いいのよ。いいのだワ。ワタクシ様のこと……ウフフ。
 もう、戦争は終わったのよだと、見せかけて! ハァァァァ!!」
 チェルバラは飛び上がり、マリー、道満の更に後ろにどっかと乗馬した。
「マリィィィィ!! よくぞ、ワタクシ様を助けに来たァァァ。
 よぉく、わかっているようネ。偉いワ。この南部戦記最大のボスが、このチェルバラであると……さあ、マリー。逃げるのよ。敵が動揺している、今のうちに。ワタクシ様たちだけでも!!」
「行くでありますぞ!」
「……フ」
 マリー、道満、チェルバラ、それに残った数名の兵たちも何とかその三人の馬に徒歩で付き従い、関所を破壊して転がっていったトロル団子の後を追って黒羊郷の方へと猛ダッシュしていったのであった。
「何じゃ。この猿芝居……」
 ナリュキのところへ、倒壊した関所から、ユウら、それに斥候に出ていた高月芳樹(たかつき・よしき)らも、集まってくる。
「この分だと、あと二つの関所も抜けられそうですね」
「いえ、それとも今頃もう、団子が……。ともあれ。
 僕たちが、斥候を行ってきましたよ」
 高月の両脇には、ヴァルキリーのアメリアの他に、ハーフフェアリーのマリル・システルース(まりる・しすてるーす)、魔道書の伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)らが、侍っている。主である高月を守りながら、共に任務にあたってきた。
「関所を抜けるのは、先ほども示された通り、今のこの戦力をもってすれば容易かも知れない。
 しかし、関所を抜ければ黒羊郷の正面に達し、そこには千もの兵が守っている……というのが、報告になります」
 高月は、淡々と述べた。
「一千……か」
 ユウは、ふ、と目を閉じそう述べる。
「ふむ……どうしたものか」
 ナリュキも、しゅんとうつむく(するとそこには魔乳があった)。
「だけど……私は負けない!」
 メイドナイト、ユウはメイドの剣を抜き放ち、空を指した。その方角は……勿論、黒羊郷だ。
「な、なんじゃ急に。わっ」
 ユウのもとに、ぞろぞろと、武装メイド隊が集ってくる。
「ユウ……!」ミニスカメイドみっちゃん、ルゥも、今や武装メイド隊の長となったユウを頼もしく、見つめる。ユウ万能化計画(?)が進められつつある。
「黒羊郷に正面から、戦いを挑む!
 きっとこれが、最後の戦いに……なるかもしれない」
 沈み始めた夕陽に向かって、粛々と言い放つ、ユウ。
「そうじゃの。他にやる者がおらねば、妾たちが、やるしかないじゃろ。にひにひ」
 ナリュキ、その後ろには、ぶちぬこたち。
「うん」ルミナの後ろには、ヴァルキリーたち。
「できることなら、」高月も、彼らに並ぶ。「教導団側とも連携を図りたいところでしたが。
 砂漠では、幾つかの新興勢力ができ、混戦の模様になっていると聞きました。風の便りでは、本営と北方警備の部隊が揉め事を起こしている、とも聞きます。
 難しいかもしれません……。
 それに何より、東の谷に、黒羊郷の神ジャレイラ率いる軍主力が、鋼鉄の獅子と対峙している、とのこと。こちらもすぐには無理でしょうが、ただ、その後背を脅かすことになれば、……」
「ほう。なるほど」「……ということは。……」
 東の谷が有利になれば、二方向から、攻め入れることになる。
 もっとも、これから、ぶちぬこ、ハルモニアのヴァルキリー、謎の武装メイド隊の連合軍らは、千の精兵にあたらねばならない。
 ハルモニア解放も、激戦であった。
 しかし、これもまた、それを凌ぐ激戦になるだろう。おそらく、最後の戦いになる。
「僕に、考えがあります。僕たちは一足先に黒羊郷の方面へ向かい、ゲリラ活動を行ってきます。アメリア」
「はい。戦力の少なさを覆すには、そのゲリラ活動をもっての敵連絡線遮断、物資集積所や補給のための輸送部隊襲撃でしょう」
「うん。厳しい作戦にはなるだろう。マリル、そして伯道上人著『金烏玉兎集』」
「はっ。パートナー同士連携し死角なきよう行動したいと思います。ここは、自分たちとしても精一杯戦うのみです」「わらわは魔法で支援しようぞ」
「高月殿……」
 ユウは、高月と固く握手をした。
「ご武運を」「互いに」
 こうして高月らゲリラ組を送り出すと、三軍はいよいよ、黒羊郷の正面目指して、進軍を開始した。いざ……最後の戦いへ。