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人形師と、人形の見た夢。

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人形師と、人形の見た夢。
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第十一章 おかえり。


 帰り道に、ようやくチャンスを見つけた。
「こんにちは。あなたがリンスさんの工房から逃げた人形さんね」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)はクロエの隣に歩み寄って話しかける。
 大きな瞳をくるくると動かし瞬かせ、「おねぇちゃんだぁれ?」とクロエは当然の疑問を口にした。
「私は芦原郁乃。瀬蓮ちゃんから頼まれてあなたを捜しに来たの」
「だいじょうぶよ、わたし、ちゃんとかえるもの」
 えへん、と胸を張って言うクロエを、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は心配そうな目で見た
「大丈夫ですか?」
「どうして?」
「だって、主が言うにあなたはリンスさんのことが好きなのでは?」
「リンスのこと? すきよ。だってわたしをつくってくれたひとだもの!」
 嬉しそうに、うふふと笑う。
 その笑みは、純粋なもので。言うならば、子供が親に向ける笑みだ。
 そこで郁乃は理解する。
「……あれ、じゃあ、もしかしてあなた……リンスさんに恋愛感情って、」
「れんあい? わたし、よくわからないわ」
 てっきり、恋愛感情を持っているものだと思っていた。
 リンスの工房から逃げ出したと聞いたから、好きな相手が自分を見てくれないから拗ねて出て来たのだと。
 そして、その想いを伝えられなくて苦しんでいるのだと。
 思っていたけれど、
「違うみたいね……」
「? リンスのこと、すきよ? ほんとうよ?」
「それを伝えてあげると、喜ぶと思うわ」
「つたえるわ! だって、リンスがわたしをつくってくれたから、わたしはきょうとってもすてきないちにちをすごせたの! ありがとうなんてことばじゃたりないわ」
 笑ってスキップをしていくクロエを、郁乃は見ていた。
 ああいう『好き』の形も、きちんと存在するのだなぁと。


*...***...*


「リンス様は、人形を作られる際、どのようなことを思いながら作り上げていくのですか?」
 アーデルハイド人形を作成依頼に来た風森 望(かぜもり・のぞみ)が自ら用意した紅茶に砂糖を入れながら尋ねた。
「どうって?」
 同じく、望に入れてもらった紅茶にミルクを入れながらリンスは問い返す。
「たとえば、今回。何をお思いになられながら作ったのかしら、と思いまして」
「今回、ね。
 ご存知の通りで、モチーフの少女は死んでるわけだ」
「ええ」
「で、さ。その子、まだ7歳だったかな。小学校低学年の子なんだよ。
 そんな小さい子がさ、死んじゃってさ。どう思ったのかなーって考えた」
「どう思いました?」
「まだ遊びたかっただろうな、とか。辛かったんだろうな、とか。これからいろいろ識ることもできたのにな、って思ったよ。
 そしたら、人形に別の魂が入り込んでた。
 モチーフの子と同じように、幼くして死んだ子の、ね」
 言って、リンスは湯気の立ち上る熱い紅茶を飲んだ。「あち」と言って舌を出す。猫舌だったのに、やってしまったらしい。無表情なりに、心中では変化があるのだろうと望は推測する。とりあえず、同じ轍は踏むまいと冷ましながら紅茶を飲んだ。
「ああ、ごめん。質問とズレたね。俺はいつも、依頼人のことや今回みたいなことを考えて作るよ。……なんていうのかな、相手のこと? うーん」
「相手の想い、ですか?」
 言葉に窮しているリンスに、助け舟。「それだ」とリンスが頷く。
「……まあ、考えすぎてたまに頭が痛くなる」
「真面目な方ですのね」
「やめて、照れるから」
 そっぽを向いたリンスに微笑みかけて、外から幾人かの話声と歌声と足音が聞こえて。
「帰ってきたかな」
「そのようですわね」
 迎えに、と入口へ向かうリンスと共にドアへ向かった。
「無事に解決したようですし……私も帰りますわ」
「依頼の期日についてとかまだ話してないけど」
「いえ、改めてお願いしに参りますわ。噂に聞いた高名な人形師様ではなく、思いを籠めて人形に命を噴きこむリンス様に」
 それでは、と微笑み別れのあいさつをして、望は工房を出て行った。
 好事家の間で噂になっていた、腕のいい人形師。興味半分と、アーデルハイド人形作成への下心半分で来たけれど。
「思いのほか、実益がありましたわね」
 楽しそうに呟いて、帰り道を歩いた。


*...***...*


「ねえリンス、きょうね、すごくたのしかったわ! 名前ももらったの!」
 クロエは開口一番そう言った。「そう」と短く返し、
「よかったね」
 頭を撫でてやろうとして、キャスケットやらリボンやら薔薇の花に気付く。
 相当愛でられたのだろうな、と思うと、なんだか嬉しい。
 この子がそうして、幸せなひと時を過ごせたならと。
 このまま幸せに、楽しかった想いとともに還っていければと。
「もうかえらないとだめよね」
 寂しそうに、クロエが呟いた。
「だめだよ。きみを作った理由、知ってるでしょ」
「……そう、よね。うん。わかってるの。だいじょうぶよ。だってわたし、またあそびにくるもの!」
 悲しさを見せないようにか、クロエは気丈に言い放って胸を張った。
「だからリンスがそんなかおをしなくてもいいのよ! だってまたすぐにあえるわ!」
 そうでしょう? と微笑んで。
 ごめんね。そう言う前に、クロエは人形から去っていた。
「そりゃ、あまりに突然でしょ……」
 バイバイくらい言わせろよ、と。
 くたり、力を無くした人形を抱えながら、空に呟く。


*...***...*


 事件から三日が経った。

「リンスくーん! クマさんがっ! 瀬蓮のクマさんがっ!」
 今日も瀬蓮が工房に駆けこんできて、
「高原、俺は思うの。一緒に寝るから、寝相でクマがボロっちくなるんだ、って」
 呆れた声でリンスが返す。

「う、うぅ! でも、怖い話とか聞いた日は一緒に寝たいじゃない……!」
「ねえ高原、いくつになったの?」
「リンスくんのいじわるー!」
 いつもの工房、いつもの光景。

「だけどなんか寂しいね」

 瀬蓮は思って、そのまま想いが口に出た。
 目の前の人形師が寂しそうだからか。

「お人形さんは? 納品したの?」
「した。ちゃんとしたお別れができたって。お礼の手紙もらったよ」
「……そっか。うん、よかったね」

 静かで静かで、なんだか寂しい気もするけれど。

「せれんちゃんだわ!」
 唐突に、声が聞こえた。
「え!?」
 声に驚いた。リンスも驚いて、目を丸くしている。
 振り返ると、作業台の上、出来上がったばかりの西洋人形が躍っていた。

「クロエ、ちゃん?」
「そうよ! またあそびにきたの!」
「きゃー♪ じゃあ、また一緒に遊べるんだ!」

 瀬蓮はクロエと手を取り合って笑う。
 そこではっとした。またリンスが、クロエの魂を抜いてしまおうとするのではないかと。
 けれどそれは杞憂だった。

 だって、笑ってる。
 優しそうに、微笑ってる。

「おかえり。そう言えば俺、まだきみからちゃんと名前聞いてなかったね」
「うふふ! わたしの名前はね――」

担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいははじめまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 突然ですが、灰島にはタイトルセンスに始まり服装のセンスまで、あらゆる『センス』と名のつくものが欠如しておりまして。
 というわけで、全部のページにサブタイ(っぽいの)をつける試みに出ましたが、自身のセンスのなさを痛感するだけに終わった気がします。
 でも章番号だけじゃ寂しいかなあとか思ったわけでして。いかがでしょう。次回も思いつくことができたら、挑戦してみようと思います。ヨ。
 称号とかもね、もっと素敵でセンスに溢れるものをつけたいんです。でも、思いつかないんですよ言葉が……! 語彙が……! 辞書をインストールできたらいいのに。でもそれだけじゃセンスに繋がりませんよね。うーむむむ。

 閑話休題。
 今回は人形師と逃げた人形のお話でした。皆様素敵なアクションをありがとうございます! 親ばかなんで、NPC関連のアクションを見るたびに身悶えしておりました。ぎゃーやべーこんなに友人が居る! とかね。うんもう。嬉しすぎて死ぬかと思ったよ。
 調子に乗った結果がこれなんですけどね。自重しろよ会話文……! いや誰かがいいぞもっとやれと言ってくれると信じている。自戒? 自重? できないですごめんなさい。
 さてまあ、無事にハッピーエンドに辿りつけました!
 人形に、クロエちゃんというお名前もいただけました!
 ありがとう皆様。綺麗に終われたのは皆様のお力だよ……!
 そういうわけで、また人形師関連のお話を予定しておりますので。
 人形師や、人形関連の行動をとられた方に送った微妙な称号(「知り合い」とか「友達」とか)を、受け取ってもらえると嬉しいなあ。人形師シナリオ以外では使いどころ本当にないから、カビるんじゃね? かもしちゃう? とか、ええ。

 相変わらずマスターコメントが冗長でウザ長いので、いい加減シメますねっ。

 今回もご参加いただきました皆様。
 素敵なアクションをくださった皆様。
 文字数制限のあるアクション欄で、わざわざ灰島に私信を下さったあの方やこの方!
 みんな大好きです! 感謝の限りですっ!
 是非またお会いしましょう。むしろお会いしてください。

 それではそれでは、最後まで読んでいただきましてありがとうございました!