校長室
男子生徒全滅!?
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第四章:皿ば! 青春の日々よ!! ほぼ同時刻、ここは蒼空学園の校舎にあるサーバー室の中である。 サーバー室としては準備中であるため、誰かが趣味で買った冷蔵庫のようなスーパーコンピューターが3台だけ申し訳なさそうに鎮座しており、大半はまだ何も置かれていない広い空間であった。……本来は、である。 今、そこの空間では魔法陣の中心に置かれた青色とも緑色ともとれる不思議な輝きを持つ一枚の皿を、取り囲むように黒服を着た生徒達が佇んでいる。 「こ、これで、明日の試合も流せるな」 「ああ、ウチのクラブの今週末の遠征の時もよろしく頼むぜ」 高らかに笑いあう黒服の生徒達。 その部屋の壁際には誰にも気付かれないように気配を殺したテクノクラートの影野 陽太(かげの・ようた)がいた。 影野はベルフラマントの効果発動と迷彩塗装のスキルで気配を消し、ここまで気付かれずに侵入に成功していたのだった。 もちろんそのために払った代償は大きく、河童との交渉では抵抗は試みたもののオカマにされてしまうというミスを犯していた。 だが、先日、オカマ化したことによって気の弱そうな外見に文化部系の少女特有の儚さを得る事に成功した影野は「マネージャー志望です」と言い、目星をつけていた体育会系の部内にて有力な情報を得ていたのだ。 不慣れなスカート姿に少々恥じらいを感じながらも、部室から帰る途中の影野は廊下を悠々と歩いていた。 その時である。 影野の時間が一瞬止まってしまった。 目の前から歩いてくる環菜に出会ってしまったのだ。 「(非常にマズイです……こんな姿になったと知られたら、私いや俺は……)」 どっと冷や汗をかきながら、他人のフリで通そうと決めた影野であったが、 「ちょっと、あなた?」 すれ違って数歩進んだ時、ジャッジメントの瞬間が訪れた。 「……はい? 私ですか?」 と、振り返り、ニッコリと笑う影野。 「……あなた、陽太の親戚か何か?」 「いいえ、知りません!」 「そう、他人の空似かしら? 陽太に用事を言おうと思っていたんだけれど」 「用事?」 「ええ、最近、学園の近くの女性用の衣服が大量に売れているみたいなのよ。その調査を……て思ったんだけど。まぁいいわ」 少し困った顔を浮かべた環菜に、影野は考える間もなく即答してしまっていた。 「環菜会長! その件、私がお引き受けいたし……」 ハッと口元を抑える影野。 環菜が影野をジーッとみた後、小さな溜息をつく。 「環菜会長ね……その呼び方をする子なんて本当に稀だけど」 「……」 「じゃあ言付け、よろしくね。頼りにしてるとも言っておいて」 去り際に環菜がフッと笑ったのを、影野は見た。 そしてその翌日、彼は徹夜して作った詳細なレポートを環菜に提出したのであった。 このように、例え性別が変わろうとも、影野の環菜に対する思いは変わらなかった。(もちろんテクノクラートのスキルであるセルフモニタリングの能力によるところもあるのであろうが) そんな思い出を反芻しながらも、影野は、如何にあの皿を奪うかを考えていた。しかし、河童は皿を無くすと死ぬと聞いたが……? ふとそんな思いが過るが、気を取りなおしてチャンスを伺う。 と、ドアを開け、一人の黒服の生徒がやってくる。 「チィィーッス!」 「おう! 誰かに尾行されなかっただろうな?」 「へい! あ……道中でトラブってる生徒が数名いたくらいです」 「池はどうだった?」 「バッチリっすよ! ほとんどの生徒はオカマ化の事件の方に夢中になってます」 「うむ。これで強豪クラブの奴らも選手不足で試合を放棄するしかなくなりそうだな」 「て、事は、ウチらの部費は?」 「校長も上げざるを得まいて」 「図書館で調べた雨乞いの儀式がこれ程効くなんて。ヌハハハハハ!!」 高らかに笑う黒服達。 影野が「今か!」と行動しようとしたその瞬間!! ――バチンッ!! 何かが破壊される音がサーバー室内に響く。 「な……なんだ!?」 「おい! 誰か見てこい!!」 ドアに向けてエモノを持った二名の黒服が忍び寄っていく。 ……と!! ドアが勢い良く倒れてくる。 「うわわああぁぁぁー!!」 ――ドォォオオーン!! 埃を巻きあげて黒服達を押しつぶすドア。 「最初からこうすればよかったんですよ」 「えー、カッコ悪いよ!」 そう言い合うのは朱宮と絢乃である。その後ろから浅葱と樹月、エヴァルト、小夏、桃子が立っている。 「馬鹿な! どうしてココが!?」 「……目の前で入っていったじゃん?」 「サーセン!! 自分のミスです!!」 と、一人の黒服が頭を下げる。 「うぬぬ……かくなる上は……!」 「やめとけ……皿さえ返せば見逃すが……そうでなければ」 と、低い声で唸るエヴァルトに同調するかのように、小夏を除く全員が各々の武器に手をかける。 「喋らないか……ペンチ。俺が捉えるからこいつらのを捻り切ってくれ」 樹月の言葉に浅葱が冷淡に頷く。 その迫力は尋常ではなく、体育会系の猛者であろう黒服達が後退する程である。 そこに、バタバタと走りこんでくる一団があった。ミルディアと綺人達の4人である。 「ふー、何とか間に合ったね!」 額の汗を拭ったミルディアが綺人に言う。 「はい……あ、あれが河童の皿かしら?」 綺人が皿を指差すも、クリスとユーリは眼中にないように一歩前に進み出る。 「さて……お仕置きですね?」 腕まくりしたクリスが歩み出る。 「待て。皿を確保してからの方が良い」 どことなく怒りを押し殺したような声でユーリが呟く。 ちなみにクリスとユーリの袖を持ち、後ろから必死に引きとめようとしているのが瀬織である。 皆から一歩進み出たミルディアが黒服のリーダーらしき男に話しかける。 「う〜ん、乱暴ごとはあんまり好きじゃないんだけどなぁ……。ねぇ、黒服さん達も何か理由があったんでしょう? お話してくれない?」 「……」 綺人もミルディアに続く。 「わたくし達も出来る事ならお手伝いしますわ? どうかしら?」 綺人の顔を見て、ワッと涙を流す黒服の男。 「姐さん!! 俺達は部活がやりたいだけなんです!!」 そう言って綺人の手を握り、泣き崩れていく。 「どういう事よ?」 少し苛立った声を出したのは絢乃である。 「……雨が降らなきゃ試合をすることになるんだ。環菜校長に実績の無いクラブは経費を削られる。だから雨乞いの儀式で試合を先延ばしにしてやろうと思って……」 環菜校長というフレーズを聞いた影野は、思うところがあったのか、静かに教室を去って行った。 その後も呆れた顔で黒服達の告白を聞く一同であったが、たまらずエヴァルトが呟く。 「練習しろよ……こんな事してる間に……」 「違う! ウチの部はエースが魔球の開発中に肩を壊したんだ!!」 「ウチも、フォワードがタイガーショットの真似して靭帯を痛めて……!!」 「主将が、ボクを捨てて彼女を選んだんです……」 それらの言い訳が、先程からジワジワ溜まっていた絢乃の怒りゲージが最大にさせた。 「あのね……試合に負けたくないからって雨降らせてどうするのよ! 練習しなさいよ! それがイヤなら、結果をずるずる伸ばすんじゃなくて、さっさと負けちゃいなさいよ!」 絢乃のあまりの迫力に押し黙る一同。 この時、瀬織は両手に人生最大の渾身の力を込めて二匹の野獣を捉えていたのだが、それは誰も知らない事であった。