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灰色の涙

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灰色の涙

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・全能の書1


「……その全能の書というのは……どこにいるのでしょうか?」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が探しているのは、全能の書だ。
「どうやら自在に移動出来るようじゃからの」
 アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)が彼女に応じる。前に一度レイナはここを訪れているが、その時は裏人格だったため、覚えていないのである。
 そのため、パートナーであるアルマンデルのマッピングデータを元に、艦内を進み行く。機甲化兵・改に対しては使い魔の傀儡で時間を稼ぎつつ、レイナがサンダーブラストを、アルマンデルが雷術で迎撃していく。
 彼女達の目的は、あくまでも全能の書だ。倒すことまではせず、軽く足止めする程度だ。
 そうやってアーク内を駆け回っていると、突然空間の一部に歪みが生じた。
「座標誤差3.8。システム干渉有り」
 白髪紅眼の女、全能の書がそこには立っていた。
「……探しました」
 レイナが、全能の書へと声を掛ける。魔導力連動システムの内容を補完するために、交渉して情報を得るつもりだ。
「目標を確認。排除します」
 だが、全能の書は聞く耳を持たなかった。目の前に現れた者を問答無用で排除しようとする。
「まずいぞ!」
 瞬時にアルマンデルとレイナが氷術を放ち、その間に後退する。だが、それは気休めにすらならない。
 相手は詠唱動作を一切行わず、魔力を練って術を繰り出している。
 それは、かつて『研究所』で彼女達を苦しめた守護者ノインを彷彿させるものであった。
「……一旦下がった方が良さそうですね」
 聞くかどうかは分からなくとも、バニッシュで目晦ましを行い、その間に全能の書から離れる。
 二人で正面きって戦える相手ではない。再交渉するにしても、せめて同じように魔導力連動システムを追っている者を味方につけなければ厳しいだろう。
「捕捉完了。殲滅します」
 十分に距離は取った。だが、それは関係なかった。
 全能の書が右手を自分の胸の前で伸ばした。そこから発射されるのは、魔力の波動だ。収束されたエネルギーが、彼女達に迫る。
「……ッ!」
 氷術で防ごうとするが、それを破ってくる。勢いは衰えることはない。
 咄嗟に身を伏せ、なんとか難を逃れる。
 だが、まだ相手の気配は消えない。
「後方から反応有り」
 レイナ達を見据えていた全能の書が、後ろを振り返る。
「システムへの干渉者を発見。これより殲滅を開始します」
 通路後方には彼女の他に人影はない。魔力を感知して、近くにノインがいると判断したのだろう。

(見つけた……けど、ヤバイわね)
 そこにいたのは、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)だった。アーク内のマッピングデータを元に、女王の加護が危険だと告げる方へと彼女はあえて進んでいた。
 そこに、全能の書がいると踏んで。
(とにかく、無線で連絡をしないと)
 即座にPASD製の無線を取り出し、連絡を行う。全能の書がここにいる事を知れば、向かってくる者もいるはずだ。
 隠れ身で相手の視界からは見えないようにしているものの、全能の書はアルメリアの方へ向かっている。
(とりあえず、他の人が来るまではここで食い止めないとね)
 氷術を放ち、全能の書の進行方向上に氷の壁を形成する。同じ箇所に氷術を繰り出す事によって、氷の層を厚くし、少しでも足止めになるように手を加えもした。
 だが、
(嘘ッ!?)
 まるで意味をなしていなかった。始めから氷などなかったかのように、全能の書が手を触れただけで、跡形もなく氷の壁は消滅した。
 同じ事を繰り返そうにも、おそらく魔法では太刀打ちできる相手ではない。
(なら、これはどう?)
 諸葛弓で矢を放ちつつ、彼女は後退していく。が、全能の書の周囲には結界が張られているらしく、矢もそれに触れた瞬間に消滅する。
 一歩ずつ近付いてくる全能の書に、成す術はない。
 だが、アルメリアの背後から収束された光が飛んできた。
 仲間がやって来たのである。

「被験体0073と認識。システムへの最大の脅威として、排除します」