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【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?

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【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?
【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!? 【サルヴィン川花火大会】東西シャンバラ花火戦争!?

リアクション

「はい、こちらに寝てくださいね、もうちょっと冷やしてきますから」
 時々、暑さで倒れた人がクーラーテントに担ぎこまれてくる。
 救護所には熱中症対策の設備はあれども、ここほど強力に涼めるところはないらしく、片隅を仕切って患者を寝かせることにしたのだった。
 そこに志方綾乃が担ぎ込まれてきた。こたつがそれに付き添っている。
 あわてて京子が駆け寄った。今まで運び込まれてきた患者の中で、一番ひどいように思えたからだ。
「私の中に入るのはやめてくださいと言いましたのにぃ…」
 こたつは、文字通りこたつ型の機晶姫である、何故かはわからないが、どうしてこうなったかは一目瞭然だった。
 熱中症には首筋やわき、足の付け根を冷やすことが一番いい、京子は氷術で氷を作り出し、タオルでくるんで綾乃に手当てを施した。
「ううっ、つめたいなあ…」
 涼しいところでさらに氷を触るのは、体温が低めな彼女にはちょっと厳しかった。

「うーん、ちょーしわるいなあ…」
 蒼はテントの片隅で、機材とにらみ合っていた。
 クーラーの一台が、どうもあんまり冷えないみたいなのだ。
「あーてひさーなんだもん、なおすぞー」
 がちゃがちゃ、ちゃきちゃき、ねじをぐるぐる、さいごにいっぱつ『べちん』の魔法、するとくーらーは元気になるはずだ。
「うん、すっごくつめたぁーい、やったー」
 あがー、と口を開けながらダクトから出る冷風を浴びて、存分に成果を堪能する蒼である。しかし。
「…あう…さぶい…」
 全身で冷風を独り占めしすぎた蒼は、がたがたよろよろとテントの外に這い出ていった。
「…さのにいちゃんーうううう…」
 蒼は外で客引きという名目のサボりで日本酒を傾けていた左之助を見つけ、ぴっとりはりついた。
「どうした蒼?あー…すっかり冷えちまってるなこりゃ…。おしおし存分に暖をとれ」
「あいー…」
 こういうときだけ懐いてくるのな、とからかいながら、結局は嬉しそうな左之助である。
「さて、なんか屋台に食いにいくか」
「ついでにせんでんー」
「そうだなー」
 左之助は背中に蒼をはりつけたまま、いい匂いのする方に向かって歩き出した。

「ポットの緑茶は、そろそろ足さないとダメだな。添える塩昆布のストックは、まだあるな」
 真は温度差で体調を崩さないように、テントを出る人のために用意する熱いお茶や、塩分やミネラルを摂取できる塩昆布の量をチェックしている。
 ちょっと一息入れに外に出て、そういえばせっかく蒼に描いてもらった看板を見ていなかったと思い至り、看板の前に立った。
 『ひやししーな はじめましたぁ』
「………もう、蒼ってば」
 きゅーっきゅきゅっ。『涼み所』と書き直す。ひやししーなってなにさ。
 少し温まってテントにもどると、救護のために設けたスペースで働いていた京子と顔を合わせた。
「京子ちゃん、唇真っ青だよ!」
「ん、ちょっとだけ、寒いかな?…くちゅん!」
 厨房代わりに区切った衝立の向こうに引き込み、あわてて真は執事服の上着を京子に着せ掛けた。二の腕がとても冷たく、心配になるほどだ。思わずごしごしとさすって熱を発生させようとする。
「あーん、真くんの手、あったかあい…」
 ほわあ、とほっとした顔になる京子の様子に真も安堵した。
「ほら、ほっぺたもものすごく冷たいよ」
 頬を包んで熱を分ける、じんわりと体温がうつり、真も京子の唇の色が戻りつつあることに喜んだ。
 もうちょっとだけこうしててほしいな、と思った京子は、真の手を上から自分の手ではさんだ。
「んー、あったかくてしあわせ…ふふっ」
 ことんと首をかしげてあたたかい幸せをかみしめる京子の頬は、ようやく桜色に近づいてきた。
 そこで二人は、同時にはっと気が付いた。
 近い、ものすごく近い、心臓の音が聞こえそうなほど近く、重なった手は、まるでこれから何か違うことをするかのような位置にある。
 真を見上げる京子の頬は、もう桜色を通り越し、薔薇色になってしまった。
「…あ」
 真の顔もゆでダコだ、今ここで動けば何かが取り返しのつかないことになる予感がする。
 頬も手も、頭の中も熱くなってしまっているくせに、体は凍りついたように動けなくなる。
「あれー? 店の人いないのかな?」
「い、いらっしゃいませーっ!」
 お客様の声に真はあわてて衝立から飛び出し、二人の間の奇妙な空気は霧散した。

 京子は衝立の後ろにしゃがみこんでいた。ほっぺたの熱さが戻るまで、誰の前にも出られそうにない。
「ま、真くんの手、あったかくて大きかったな…」
 京子はそのことを忘れられそうになく、しかし同時にその手は自分のものにはなりえないことも忘れてはならないのだ…。

「ええと、何になさいますか」
「あー涼しいな! アイスコーヒーもらえるかな」
「かしこまりました」
 衝立の向こうにアイスコーヒーをとりに戻ると、頬をまだ赤くしたままの京子と鉢合わせる。
「うあ、ご、ごめんね、ごめんねっ!」
 取り返しのつかないことをしてしまったかも! と一瞬で思考が突き抜けた真は平謝りに謝った。
 京子のほうは、少しは冷静さが戻っていた。
「…じゃあ、これでおあいこね」
 京子の華奢な手が真の頬に伸ばされ、そっと包んだかと思うと『むにっ』と引っ張られた。


「何、どっかで激辛たこ焼きテロだって? 大丈夫だよ、こっちはそんな辛いもの扱ってないからね」
 道行く人に、その屋台の主は声をかけて、自分のたこ焼き屋の宣伝を行う。
 確かに、そのたこ焼きは辛いものではない、うまい部類に入るだろう、そしてタコに間違いはなく、安全だ。
 但し、すべてに解釈の振れ幅の巨大な「多分」がつく。
 その多大に解釈すれば「タコ」と呼べるものを正確に表現するならば、『デローン』というものである。
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)のたこ焼き屋台の看板の片隅には、『デローン入り』と小さく確かに書かれているのだ。ちょっとまぎらわしいが、うそでも大げさでもない。
「さて、どんどん焼かなくちゃ」
 たこ焼きの手順を確認し、材料も指差し確認、ただしその過程にあるウゾウゾしたどう見てもあやしいものはスルーされた。否スルーではなく、絶対に必要なものなのだ。
 姫神 夜桜(ひめかみ・よざくら)が、道行く人にたこ焼きの味見をすすめている。
「今日はうまくできたんだってさ、はい、あーん」
 そういって手品の要領でたこ焼きを取り出す。思わず目を引いて、道行く客はつい口にしていまう。
 試食をうまいと褒められた夜桜は、屋台へと案内してまんまとたこ焼きを買わせてしまった。
「ねぇ、夜桜、そのたこ焼き…」
 ルクス・ナイフィード(るくす・ないふぃーど)がその様子を見て『食べさせて大丈夫なの?』と少しだけ不安そうに尋ねた。
 夜桜は、とてもいい笑顔のままだ。
「今のは僕が作ったやつ。ひー君達の作ったのと違って変な効果も出ないし味も美味しいよ」
「じゃあ、今あの客が買っているのは?」
 ルクスはいやな予感がする、むしろそんな予感しかしない。
「何言ってるのルー君。今お客さんが買ってるのはひー君達が作ったのに決まってるじゃん。フフッ、今回はどんな効果が出るんだろうね」
 先ほどのお客さんが、たこ焼きの容器が銀製品らしいことに驚いている。さもなくばデローンは溢れ出し、やがて世界を覆いつくし、火の七日間が起きるといわれているそうである、由来は不明だが。

 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、手にたこ焼きを入れた袋を持ってあいさつ回りだ。そのたこ焼きにはもちろんデローンが入っている。
 バカップルに武力で介入するより、精神に介入できそうな方を選んだのだ。そして何もバカップル達は中洲だけにいるわけではない。
 デローンがあれば、はるかに戦力的アドバンテージがとれる、バカップルにデローン介入すれば、いずれ世界が統一される時が来よう。根拠は不明だが。
「しかしデローンか、流石だ、瘴気を発してやがるぜ…」
 ちらりと手にした袋を覗き込む、今は怪しい気配は幸い全て封じ込められてあり、外には漏れ出していなかった。
「え、これまさか…デローンなの!?」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は悲鳴を上げた、デローンにはまったくいい思い出はなく、勝てたためしはなく、うわさではドージェよりも強いそうである、出所は不明だが。
 もはや本能レベルから恐れているデローンを、その恐ろしさから投げ捨てることもできない。
 正悟の親戚がやっている屋台や、そのまわりの露天におすそ分けに行くために持たされた荷物が、デローンであったとは…彼はデローンを親戚にまで押しつける気だったのか! おに! あくま! でろーんにたべられちゃえ!
「え、あ…私なんて食べても美味しくないわー!」
 さっきのモノローグのせいか、手に持った袋がウゾウゾとうごめき、瘴気を噴出しながら中からエミリアに向かって襲い掛かってきた。
「キャーーーー!!」
 エミリアは一目散に逃げ出し、デローン様の降臨に正悟はキャラ崩壊して嬉しい悲鳴を上げた。
「ヒャーッハッハッハァー!! バカップル介入といこうぜぇぇぇぇーーー!」
 信じられないほどの高速移動でけたたましく笑いながら、彼はあちこちのカップルに、屋台の軒先に、デローン入りのそれを投下してまわった。
 山積みのタコ焼きがなくなる頃、ようやく正悟は元の彼に戻った。
「はっ、今俺はいったい何を…」
 エミリアが逃げ出してからあとの記憶がない。
 あのときの彼はきっと、瘴気にあてられていたに違いないだろう。
 何故か嫌な予感がして、そそくさと正悟はその場を離れた。

「はあ、ひどいめにあったでござるよ…」
 坂下鹿次郎は早々に中洲をリタイアしていた。山中鹿之助にぶん回され、その握力で手を握りつぶされるかと思った。
 なんとか口八丁手八丁で手をふりほどき、自ら失格になって逃げ出してきたのである。
「鹿次郎殿、雪殿に怒られるであろうな…」
 それでもとりあえず今は姉ヶ崎雪を探しつつ屋台をひやかしている、財布を奪われたままなので、何も買えないのだ。
「…はっ、これは…拙者の巫女さんレーダーに反応がっ!」
 いきなり何かをピキーンと受信し駆け出す鹿次郎の行く先には、屋台の手伝いをしながらパートナーが戻るのを待っているゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)がいた。
「そこのおぬし、巫女さんにならんでござるか!? いやなるべきでござるよ!」
「い、一体なんなんですかぁ!? ご主人様、はやく戻ってきてぇ!」
 突然女の子に迫り出す主を止めようと鹿之助は鹿次郎を羽交い絞めにした。
「いやー! あっちいってー!」
 ゼファーは鹿次郎にデローンたこ焼きを投げつける、食べ物は大事にしましょう、これはデローンの恐怖よりもまさる掟である。
 投げつけられたたこ焼きは、ぽーんと鹿次郎の口に飛び込んだ。
「はふっ、ほれははほはひれほはぶぁっ!?(熱っ、これはたこ焼きでござ…)」
 たこ焼きから何か湯気、にしてはアヤシイもやが立ちのぼり、いきなり彼の表情がどす黒くなり、緑色になったかと思うとぐったりと昏睡状態に陥った。
「鹿次郎殿ー!」
 鹿之助は絶叫した、思わず力が入りすぎて、思い切り関節が極まっていることを、誰か教えてあげて欲しい。

「でろ〜んでろ〜ん、でろでろ〜ん、でろでろでろ〜んでろでろ〜ん、素敵なたこ焼きでろ〜んはこちら〜♪」
 即興の歌を歌いながら、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)はデローン入りたこ焼きの宣伝をしている。
 今日のデローン料理はとてもすばらしいものなのだ。
「外はかりっと、中はとろとろっとして…デローンの味がアクセントになって…
 私が今まで食べたたこ焼きの中で一番おいしいと思ったんだもの!」
 うっとりとリースは反芻している、あのたこ焼きの味を知らないとは、間違いなく人生を全て損している、生きている意味などあるのだろうか、いやかけらとてない!
 そんな彼女の言動は、実際自分で思うよりも不明瞭で、支離滅裂になっている。
「…デローンはアクションをよく読み用量用法を守ってダブルアクションにならぬよう正しくリアクションしましょううふふふふふ…」

「しっかし、花火大会ってだけあってカップル多いねぇ…幸せそうでねたましいわ…」
 アリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)は愚痴をこぼしながらリースの手伝いのために屋台の前に立つ。
「かわいい子、いないかしら…」
 しかしそこで、彼女は運命の出会いを果たした。
「わあこの子、かわいいー! かわいいは正義だよね!」
「なっ、なにこの女! 離れろ!」
 屋台の前で、自分は無関係でいたいオーラを出しているルクスをターゲットにして抱きついた。
「わぁ。この嫌がってる反応もたまらない!! 可愛いよこの子! ねぇ氷雨君! この子名前なんていうの〜?」
「マスターこいつ切っていい!? むしろ切るから!」
 たこ焼きを焼くのに夢中になっている氷雨は、その物騒な問いに生返事だ。
「んー、いいよー」
 しかし残念ながら、あんまりしっかり抱きしめられてしまっていたために。
「あー離れろ! ナイフ出せないだろっ!」

 あちこちで騒ぎが起き、また制圧され、確実に満ちていく不穏な空気に、デローンに自覚して関わったものはそろそろと一人、また二人と顔を合わせながら退散していった。