リアクション
第六章:皆が作りあげたモノ……
連戦の疲れもあるのであろう。
ルカルカのビートルの砲撃は、全くと言っていい程、ブラックタイガーには効果がなかった。
ただでさえ頑丈なワイヤーとスキル強化装甲を持つブラックタイガーは、その重量を載せた強烈な一撃で、準決勝の疲労を抱えつつ最後まで抵抗するルカルカのビートルを破ったのである。
ほぼ大半の生徒が避難した武道会場では、カゲローを止めようと、参加選手たちや先程までブローカーを追いかけていた影野や歩たちの工作が激戦を繰り広げていた。
俺も! と思ったエヴァルトであるが、彼の工作は前回のブラックタイガー戦で大破し、既に無い。ゆえにエヴァルトはロートラウトによって避難させられていた。
「僕のブラックタイガーは蘇るさ! 何度でもな!!」
そう叫ぶカゲロー。
環菜が至急手配した戦闘に長けた生徒達も、工作相手では手が出ない。
「イブニングムーン!」
「クレイエル!!」
「無駄です……火力が足りませんよ?」
美羽とアスカの軽さと機動力が自慢の工作も、ブラックタイガーの耐久力を崩せない。
「どうだ! 僕はやっぱり天才だったんだぁぁ!!」
勝ち誇るカゲローを見て、一人の女生徒が歩み出る。
先程カゲローから紫の小瓶を貰った円である。
「ねぇ、こんな事するの、もうやめようよ!」
ひそかに片思い中のパッフェルが作ったパッフェル人形を真似て作った人形を抱えた円が叫ぶ。
「キミだって、その虎を動かしてみたかった……だけど、動いた後制御不能になっちゃったんでしょ? それが壊されて悔しくてこんな事してるんでしょ!?」
そう言った円が紫の小瓶を掲げる。
「……」
円の叫びにカゲローが沈黙する。
「キミはキミの工作が傷つくのが怖くないの!?」
「五月蝿いっ!! 僕はもう誰にも止められないんだ」
ブラックタイガーが円の周囲を腕で薙ぎ払う。
「あっ!?」
「捕まって下さい!!」
そう言って現れた小次郎が円を抱えて跳躍する。
しかしそのはずみで円の手に持った紫の小瓶が放物線を描き、リングへと落ちて割れてしまう。
「(なんとか突破口を開かないと……)」
ボロボロの工作で必死の抵抗を続ける生徒達であるが、目の前の巨大な敵と戦うには、彼らは余りにも疲弊しすぎていた。
先程から様子を観ていた環菜が静かにエリザベートに言う。
「あなた、あの小瓶には物に意思を与える力があるんでしょう?」
「え? そ、そうですけどぉ……」
ハッとする顔の生徒達。
「そうか!」
「そういう事ね!!」
口々に叫ぶトーナメントに参加した生徒や屋台の生徒、犯人を追っていた生徒、皆が祈る。
「「「あの虎を倒せ!!」」」
――ゴゴゴゴッ
突然リングが動き出し、側の屋台や椅子を巻き込んで巨大な造形物へと変化する。
「何ッ!? まさか!?」
「この大会を創り上げたのは、誰か……思い出すんですね」
小次郎が言い終わると同時に、人の形になったリングが立ち上がる。
「「「これが俺達、私達の工作だッッ!!」」」
「愚民どもがぁぁーーっ!!」
叫んだカゲローがブラックタイガーに攻撃の指示を出す。
ブラックタイガーが勢い良く腕を振り上げる。
――ガンッッ!!
「何!? 鉄板でガードぉぉ!?」
翡翠達の焼きそばの屋台で使用した鉄板を盾にしてブラックタイガーの攻撃を受け止める巨大な工作。
お返しとばかり、そのリングのコーナーが固まって出来た剛腕が唸る。
――ドゴォォンッッ!!
一撃でブラックタイガーの胴体に大きな穴が空く。
「何をしている!? ブラックタイガー!! やれっ! やるんだっ!!」
カゲローが叫びに応えて動こうとするブラックタイガーだが、バチンバチンと言った内部のワイヤーが断線していく音が聞こえた後、バラバラになって崩れ落ちていく。
リングサイドにいたイチローがもはや線の繋がっていないマイクを持って叫ぶ。
「決ェェ着ゥゥゥッッ!!」
周囲にいた生徒達から歓声が起こる。
騒動が一段落した後、取り押さえられて皆に囲まれるカゲロー。
「どうとでもするがいい。敗者の弁は語るまい……」
「どうする?」
「とりあえず一発殴っておくか?」
そう話す生徒達を横切り、カゲローの前にブラックタイガーから分離したプロトタイガーがカゲローを守ろうと彼の前に立つ。
「どけ、プロトタイガー……。お前も所詮失敗作だったんだ」
「ガルルーッ!」
だがプロトタイガーはカゲローを取り囲む生徒達を威嚇する。
「どけって言ってるんだ! これ以上、僕を惨めにするのかっ!!」
ガンッとカゲローがプロトタイガーに蹴りを入れる。しかしそれでもプロトタイガーはカゲローの前を離れようとしない。
「ガルルーッ」
「……お前は、どうして……」
「そりゃ、あなたが作った工作だもん」
戦い終えた生徒達に焼きそばを配りながら、詩穂がウインクする。
「……う、ううぅぅっ……」
カゲローがプロトタイガーの背に顔を突っ伏して泣き崩れる。
そんなをカゲロー見て、一同が顔を見合わす。
――ドサッ
「プロトタイガー? おい、どうしたんだ!?」
倒れたプロトタイガーに、カゲローが話かけるもその反応はない。
「どうやら薬の効果が切れたみたいですねぇ」
エリザベートがそう呟く。
見ると、周囲の生徒達の工作も次々と動かなくなっていく。
「何だか……少し寂しいね」
いちるがポツリと呟く。
皆が自分の工作を大事そうに抱える中、夕日が沈み、闇が蒼空学園を包んでいくのであった。
エピローグ
翌日、蒼空学園の掲示板にて、図画工作武道会の各賞の発表が行われた。
決勝戦が無効試合となり、繰り上げでルカルカのビートルが優勝となった。
また、激戦を戦った環菜賞にはアスカのクレイエル、アイデアを認めたエリザベート賞には、藤乃の拷問くん一号が選ばれたのであった。
尚、今回の浦野カゲローの騒動に全力であたった生徒達の奮闘が認められ、翌年の夏休みの宿題は少し減らされる事になった。
そしてカゲローには、一年間の校内の掃除と来年の蒼空学園の図画工作展への出品取り消しという軽い処分で落ち着いた。
これには、カゲローの人格はさておき、その優れた発明者魂をこのまま消してしまうのは勿体無いというアイムの進言があったものと噂されている。
すっかり落ち着きを取り戻した蒼空学園の校長室では、環菜とエリザベートが話をしている。
「環菜にしては随分寛大な処分ですねぇ」
「まぁね。彼も被害者だったのよ、ようやく出来た作品が勝手に動き出して破壊されちゃったんだもの……。せめて、もうちょっとマシな夢を願えばよかったものを」
「夢……?」
「ウチの生徒に調べて貰ったの。あなたのあの薬、盗難時にはまだ未完成だったのよ。それを拾った彼が道具を動かす薬にしちゃったって事。確か……元々は身長とか胸を大……」
「わー! わー! それ以上言ってはいけませぇぇぇーん!!」
校長室のドアに耳をつけて二人のやりとりを聞いていた生徒達が一斉にずっこける。
(完)
こんにちわ、深池豪(みいけ ごう)と申します。
今回のお話では大小合わせて相当な数の工作バトルや追走劇を描かせて頂きました。
トーナメント参加の皆さんの工作の想像力に負けまいと、頭をフル回転させたため、いつフットーしてもおかしくない状態です(笑)
さて、今回のお話は夏休み明けの工作を使った武道会とその黒幕であるブローカーを追うという流れでしたが、私のガイドで今回の浦野カゲロー君を出しておくべきだったなぁと反省し、同時に、思った以上にブローカーを追う方々がいらっしゃったのですが、工作を所持して追うというアクションを書かれた方は流石だなぁと思いました。
基本はコメディなので、なんとか笑いを取れる方向に持って行くのに苦心しましたが、同時に全ての工作バトルを書き起こしきれなかった事はちょっと反省しております。
ですが、MC、LCの他に工作という新たなキャラを書けたのは私にとって新鮮な感じがしました。
また今回、嘘みたいに一回戦で凄いカードばかりが揃っておりましたが、一組を除き、対戦カードは全てくじ引きで決めさせて頂きました。……本当です。決まった瞬間は「ああ、もうコレは私が全て書くっきゃないな!」といい感じに腹をくくれました。
尚、なんでボスが虎やねん? という質問には、ただ単に龍と虎と巨人がいるとしたら、私が虎が熱烈に好きなだけですという解答をさせて頂きます。察してください(笑)
多くの人達や愉快な工作に参加してもらえて、私は楽しく執筆できた気がしますが、皆さんはいかがだったでしょうか?
(尚、エリザベートや環菜等との絡み希望で叶わなかった在校生の方々、アクション不採用の方々、本当にごめんなさい!)
なにわともあれ、皆さんにも少しでもこのお話を楽しんでいただけたら幸いですし、あわよくばまた図画工作武道会のシナリオを書きたいなぁと目論んでいます。
今回の称号はトーナメント参加の方を中心に付けさせて頂きました。
付いてないよ、と言う方は、私がいいネーミングが浮かばなかっただけです。ごめんなさい!
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。