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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション





01:世の中は 何をするにも まず準備



 プロジェクト名【KAORI】

 KAORIとは何か? からまず説明せねばなるまい。
 天御柱学院の機密に絡むことだが、「イコンシミュレーター」などで存在が確認されているAIである。
 KAORIはプリンセス計画によって生まれた。プリンセス計画とは性欲を刺激することが、超能力スキルを向上させる強い動機になりうるとわかったという結果発案されたプログラムだった。要はKAORIにセックスシンボルとなることを求めたものである。
 残念ながらこれ以上の情報を閲覧する権限はないが、以上がKAORIの概要である。
 そのKAORIをアイドルとして売りだそうと考えたのが、茅野 茉莉(ちの・まつり)である。彼女の弁によると、
「わざわざアイドルのオーディション? もう、学院にはもうKAORIっていう素敵なアイドルがいるじゃないっ」
 とのことだった。その言葉に【KAORIナンバー1サポーター】月夜見 望(つきよみ・のぞむ)が賛同した。
「こういう楽しそうなイベントこそKAORIに体験してもらいたいよな!」
「あたしたちとKAORIでバンドを組んで特別ゲストとして出演しない?」
「いいね。彼女にはもっと色々と楽しい事を体験してもらいたい。ただのプログラムじゃなく、大切な「仲間」として想っているからな」
「あら素敵。じゃあ、上層部に<根回し>かけましょ。あたしは校長に許可を取りに行くわ」
「じゃさ、俺は生徒会所属の神無と一緒にプロジェクトチームを説得してくるぜ」
「おーけー。それじゃ、早速行動しましょ。善は急げって言うしね」
「応!」
 こうして望はパートナーの天原 神無(あまはら・かんな)とともにプリンセス計画の管理をしている学院上層部を説得しに行った。
 神無はKAORIに嫉妬にも似た感情を抱いていたが、望のために我慢することにした。
(……全く、望くんにも困ったものね……。KAORIに色々経験させたいから、許可をとりたいなんて。……まあ、望くんの頼みです! 頑張って説得しますか!)

「双方の利としては、プリンセス計画ではアイドルとして歌わせることにより、アイドル形態にした場合の観客の性欲の測定と実験を兼ね備える事が出来ます。S@MPには少人数ながらもユニットを用意することにより、このプロジェクトの完成形を簡潔に提示させる事が出来ます。また、他校生へのいい宣伝になると思います」
 神無がヒートアップした望を<精神感応>でなだめながら上層部を説得する。
(この借りは体で返してもらうからね)
(おいおい……)
(肉体労働って意味よ。買い物に付き合ってね。荷物持ちさせるから)
(お、おう……)
「なるほどな……だが、そうそう簡単に許可が出せるものでもない」
 上層部は手ごわかった。一方茉莉はというと

「校長、S@MPがOKならあたし達のプロジェクトを認めてよ」
 茉莉がそう言うとコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)はこう答えた。
(私の一存では決められんよ、少女よ)
 それに対し茉莉はこう反論した。
「KAORIを管理してる上層部には望が根回ししてあるわ。そして、上層部が研究しているプリンセス計画にKAORIのアイドル化は効果があることは明白よ。マリリン・モンローのようなセックスシンボルにすることが、プロジェクトの目的の一つなんでしょ?」
(ふむ……)
 校長はしばし思案すると思念波で上層部の一人に話しかけました。
(KAORIのセキュリティクライアンスは低い。公開しても問題ないのではないか?)
(はっ。校長がそうおっしゃるのならば……)
「校長にも話を持ちかけていたとはな。よかろう。KAORIの公開を許可する。ただし端末はプロジェクトのものを使うこと。外部への持ち出しによる作業は禁止だ」
「わかりました。それじゃぁOKなんですね?」
「ああ」
 望の問に教官はそう答える。
「よっしゃ!」
 望は快哉をあげる。
「KAORIのデータを解凍する。さっそく作業に入りたまえ」
 教官はそう言うと端末をコントロールしてKAORIのデータを展開した。コリマ校長から許可が降りた茉莉はしばらくしてパートナーのレオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)とともにプロジェクトルームへ入ってきた。
「ふむ……では、学院の制服をアイドルらしいかわいくてセクシーなアレンジにしようか……」
 ダヴィンチはそう言うと、端末をいじり始めた。
 KAORIのグラフィックを変更する。
 たゆんすぎない程よい胸の大きさとゆれ具合、腰のくびれ、ヒップのライン、脚線美をバランスよく整え、調整していく。
「歌を聞いてもらうことを重視しないとな……」
 あまりヴィジュアルに力を入れず、歌手らしく整える。
「ダミアン、歌詞はできたか?」
「我に問題はない。作曲、編曲もできたよ」
 悪魔のダミアンがそう言ってKAORIの為につくった歌詞と楽譜を公開する。
「なるほど……私はヴォーカルのデータを作成しよう。望、君はKAORIに演奏させるギターのデータを打ち込んでくれ」
「了解」
 そう言うと二人はデスクトップミュージックソフトを立ち上げてKAORIのための音声データを作成する。
 ダミアンは楽譜を茉莉に渡すと、
「練習しておくのだよ、茉莉」
 と言った。
「おっけー。まかせて」
 茉莉の担当パートはベースだった。そして望のパートナーの須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)がドラムを担当する。
 早速楽器が持ち込まれて、データ入力と共に練習が始まった。
「ぬおー! なぜじゃ! 我が握る物は大剣と相場が決まっておるのに、何故我が棒きれ(ドラムスティック)を握らなくてはいけないのじゃ!」
 櫛名田姫がそう叫ぶと神無が説得を始めた。
「なに? この『どらむ』とやらをやればピロシキを一杯用意しておくだと? ……ふふふ、それを早く言うのじゃ! やる気が出てきたわ!! ほれ、早くやるぞ、茉莉にKAORIとやら。この須佐之 櫛名田姫が最高の『どらむ』というのを見せてやるのじゃ!」
「ねえ、これが私の歌?」
「そうだぞ……」
 KAORIの問にダヴィンチが答える。
「これ、どうやって歌えばいいの?」
「気になる男の子のことを思って歌うといい」
「気になる男の子……」
 そう言うとKAORIは頬を染めた。
 そして――

 天司 御空(あまつかさ・みそら)御剣 紫音(みつるぎ・しおん)とともにイコンでの警備を希望する他校生にイコンの操縦方法をレクチャーしていた。
「こんにちは、本日皆さんにイコンのレクチャーをさせて貰います。イコン操縦講座のお兄さん、天司です」
「……こんにちは、イコン操縦講座のお姉さん、白滝 奏音(しらたき・かのん)です」
「第1回のテーマは姿勢制御。最初から空中での姿勢制御は難しいので、歩行から慣れて行きましょう」
「イコンは……通常パートナーと2人1組で乗るものです。この際、片方が姿勢制御と火器管制、片方が情報管制をするのが一般的です」
「姿勢制御のコツは普段歩いている感覚をイコンに浸透させる事です。日常的に直感でやっている事を自覚的にやってみて下さい」
 御空と奏音が交互にしゃべる。
「寺院の襲撃があっても転んでばかりでは話になりません。と言って飛行機と同じで最初から飛行制御は無理があります」
「なかなか操作が難しいな」
 シャンバラ教導団の大岡 永谷(おおおか・とと)がそう言う。その言葉に御空は、
「時間がないからスパルタで体に叩き込んでもらいますよー」
 そして笑顔である。
「ちなみに地球人とパートナーが一緒に乗らなければ動きません。シャンバラの種族が二人乗ってもイコンは動きませんので注意してくださいね」
「では設楽 カノンのような強化人間部隊はどうなのだ? あれらは一人でイコンを動かしているが……」
「わかりません。何か特殊な方法を使っているようです」
 林田 樹(はやしだ・いつき)の質問に、奏音がそう答える。
 天御柱学院の生徒でも知らない強化人間部隊の内部事情。これが学院と生徒の間に溝を引いている事象の一つでもあった。
「操縦カリキュラムをとばしていきなり搭乗するんですから、操縦の基礎位は身体に叩き込んで行きましょうね♪ というわけでビシバシ行きますよー」
「ひえ〜」
 悲鳴が上がるが気にしない。
 そして厳しい訓練は続く。
「さて、そろそろ地上での操作も安定してきましたね。それでは、空を飛んでみましょうか?」
 黒髪のポニーテールに黒い瞳、一見美少女で声がいい紫音がそう言うと一同は喜んだ。
「ついてきてください……」
 紫音のコームラントの機晶石がパワーをあげると埃を舞い上げながらふわりと舞い上がる。
 そしてバーナーをふかして急上昇していく。
 他校生達のイコンがそれに続く。
「空中での姿勢制御はバーニアと各部スラスターの出力調整です。適切な値で常に修正し続けないとすぐにバランスを崩してしまいます」
 実際バランスを崩して空中で回転している。それは昔動画投稿サイトで流行ったMADのようだった。
「ほな、実践と行きますでー。けど、その前に姿勢制御補助プログラム渡しときますな」
 黒髪のロングに黒い瞳京人形のようなはかなげな美少女綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がそう言ってデータを送信する。
「それから、警備プログラムと対抗プログラムもな」
 渡されたデータをインストールすると姿勢制御が安定する。
「それじゃー、フォーメーションを組んでいきますよ……それから、操縦担当の方、情報管制の意義は計器やレーダー、裸眼での目視等を含めあらゆる手段で以って敵機の位置を確認し、それらを速やかに火器管制のパイロットへ伝達する事にあります。先ず計器の読み方、行動予測を含めた情報伝達のコツから……詰め込みで行きます、付いて来て下さい」
 奏音が教科書代わりになるデータを流しながら教授する。
「一秒先に敵機がどこにいるか、そう言う予測を立てながら期待をコントロールするのが大切です……」
「空中機動は逆に的に先読みさせないことが優先されますぅ」
 風花が補う。
「火器管制の人は敵の予測軌道にキャノンやライフルを発射するといいでしょう。そうすれば精密な狙いをつけなくても敵のほうからあたりに来てくれる時があります……」
 奏音の言葉に一同は頷く。
「逆にロックオンしても、発射した次の瞬間にはロックオンした位置にはいないということもありますしなぁ……ほんま、駆け引きどすぇ」
「そこら辺はFPSとかで遊んだことがある人ならよく分かってると思うけどね。遊んだことのない人には実感できないだろうなぁ……」
 御空がそう言って笑うと、「シミュレーターもそこら辺はよく再現されていて、あれはあれで面白いものですよ」と付け加えた。
「さて、それじゃあ戦闘機動を行ないながらロックオンするゲームでもしましょうか。2チームに分かれましょう」
 そういってイコンを二つのグループに分けるとそれぞれ御空と紫音が小隊長となってチームの指揮をとりながら実際に戦闘機動をとらせる。
 最初はぎこちなかった動きも次第に滑らかになってくる。そこら辺は風花の姿勢制御補助プログラムのおかげといえよう。
「イーグリットは必ず3機以上で行動してください。人間が意識を向けられるのは二つまでが限界というのが定説です。ですから、三つ、あるいは四つの標的がいた場合、敵は回避行動を取ることが難しくなります。これはテーブルトークRPGだと命中プラス補正、あるいは回避マイナス補正となります」
 紫音が説明する。
「また、20世紀の某スペオペ小説では一つの敵の一つの部分に射線……攻撃を集中させ攻撃力を飽和状態にして敵の防御力を上回るダメージを与えるという戦闘方法が取られていましたが、あれは極めて有効です。ですから攻撃は集中させましょう。生身の戦闘でも同じことが言えますがテーブルトークRPGだとダメージ集中補正という感じですかね」
 御空が解説する。
「そう。3機が今一斉にロックオンしましたね。その感じです」
「もっとも、生身の戦闘では実戦経験がある皆さんには釈迦に説法かもしれません。でも、生身で戦うのもイコンで戦うのもそう変わりませんので……」
 紫音はそう言ってからさらに付け加える。
「ただ、生身と絶対的に違うのは戦場が三次元だということです。前後左右で囲むだけではなく、上下で敵を囲むことも必要になってきます。そこら辺は戦闘機と同じですが、機動戦闘では敵の後ろと上空をとったほうが圧倒的になります。ですからケッテ……3機1組以上で行動してて機を包囲することが重要になります」
「さて、こんな感じですかね。それじゃ、今日の訓練はここまでにしましょう。明日もまた、お願いします。では、全機降下」
 御空は地上に降りてイコンを止めると、格納庫に向かって歩き出した。

「コリマ校長、お願いがあるのですが……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がロイヤルガードとしてコリマ校長と面会していた。
「私も審査員に加えてください。かつては【蒼空学園のアイドル】と呼ばれた歌って踊れるアイドルです。また、余談ですが、同じ蒼空学園所属の十二星華、山羊座のリフル・シルヴェリアをアイドルプロデュースしたこともあります。」
(ふむ……話は通しておこう)
「よろしくお願いします」

 榊 朝斗(さかき・あさと)は会場とオーディション参加者に使う機材を確認すると、会場の図面を把握し、観客全員が楽しめるよう音域を確認する。
 それから、会場のスピーカーを調整させる為、携帯から操作できるようにし、実際の楽器を手に取り、チューニングする。
「学校もまた思い切った事を考えるよね。イコン使って音楽オーディションって……。まあ、別に戦いをやろうってわけじゃないし皆が楽しめる事なら大賛成だから文句はないけどね。とはいえ、成功させる為にこっちの方もちゃんとやっておかないとね。機器トラブルなんておきたら皆困るし……
 ソニックスピーカーも念の為チェックしてみるか。音が出ない、小さい、トーンが外れてるなんて起こったら折角の音楽も台無しになるし、オーディション頑張ってる人も可哀想だ」
 パートナーのルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は会場関係者・整備科の人々と連絡を取り合ってもらいトラブル・ミスを最小限にする為に行動していた。
 機材配置などで連絡しあわないと2度手間や行き違い等が起こりやすいのである。
 そんな二人の事前準備もあって当日のイベント運営はスムーズに進んだ。