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第三章:謎の参加者



 

カフェでの騒動が終息した頃、その余波を受けた感じで蒼空学園の校庭の一角に開かれたソルジャーの七尾 正光(ななお・まさみつ)、アリスでメイドのアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)、守護天使でセイバーの直江津 零時(なおえつ・れいじ)、魔女でウィザードのステア・ロウ(すてあ・ろう)が切り盛りする軽食屋は、カフェ難民やイベントで敗北した男性参加者達でごった返しでいた。

 アリアが恋人なのでイベントには参加はしないが、何らかで参加者の手助けになれればいいなと考えていた正光はアリアの発案で軽食屋を開き、彼自身は裏でアリアとステアのサポートに回っていた。料理においてはアリアのプロ級の腕に勝てないためである。

「やぁ……随分混んできたな。ゼロ、何かあったのかな?」

 そう呟いた正光が隣で共に皿洗いをする零時に声をかける。

「さぁな」

 ぶっきらぼうに呟いた零時を見る正光が苦笑する。

「たまにはこういった雰囲気にも慣れようぜ?」

「……ふん、しけた面したヤツばっか見てて疲れただけだ。それに先に言っただろう? 俺は励ますのが苦手だから、失敗した参加者の励ましは正光とアリアとステアに任せると」

「ああ、そうだな」
 
ジャブジャブと皿を洗いながら足で正光をつんつんと突付く零時。

「……で? いいのかよ? あんな事させたら、アリアに勘違いするヤツが出てくると思うぜ?」
 
零時に促されて厨房からパンケーキを生徒に笑顔で渡しているアリアを見る正光。

「はい! ホラ、そんな顔しないで? 次がきっとあるよ、大丈夫大丈夫!」

 半泣きの生徒に料理を渡す際、アリアはその手をそっと添えて励ましていた。

「あ……ありがとう」

「ホラ、アリアキッスあげるから!」

 再び顔を皿洗いに戻す正光

「アリアキッスは公認済みだ……問題ない。それに敗北者への料理とサービスの提供は無料だ。勿論後で運営に請求するがな」

「そうそう。アリ姉だけじゃなくて、私もいることお忘れなく、だぜ?」

 そう言って顔をひょいと覗かせたのは、アリアの調理のサポートをしていたステアである。

「ステアも何か役に立っているのか?」

 零時の質問にステアがフフンと胸を張る。

「先ほども元気だせよっと、抱き寄せて励ましてやった」

「まぁ、風俗営業法ギリギリか……」

「ベアハッグ?」

「何だよ!? その反応は!」

「ああ、すまない。……そう言えば、ステア?」

「何? ニーサン?」

「ステアは誕生日プレゼントは何が欲しいんだ?」

 きょとんとした顔で正光を見るステア。

「わ、私? ど、どうして?」

「アリアとゼロとクリスマスの話をしていたんだ。そう言えばステアの誕生日はクリスマスと同じだったなと思って」

「……覚えていてくれたんだ」

「誕生日とクリスマスでダブルに祝ってもらえるんだ。羨ましいヤツだな」

「ゼロにぃも……」

 二人の言葉に感極まった顔をするステアだが、顔を背けて、

「わ、私、アリ姉の手伝いしなくちゃな!!」

 そう言って駆けていこうとしたステアが、ドンっと男子生徒にぶつかる。

「アテテ……ごめんよ……って! 少年!? 大丈夫?」

「うん……あまり大丈夫じゃないね。僕らは」

 ステアが驚いたのも無理はない。
イベントに参加していた数名の男子生徒は、見るからに心が折れた顔で立っていたし、彼らの頭の上の紙風船は完璧に破壊されていたのだ。

「アリ姉! 料理の大増産しないとマズいよ!」

「えー? 何ー?」

 ステアと入れ替わるように席についた男性生徒達に水を配る正光。

「何があったんだ?」

「辻斬りかな?」

「辻斬り?」

 首を傾げる正光の傍にユラリと近づいてきたのは、先ほどからお茶を飲んで休憩していたパラディンのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)である。

「へぇ……私にその話詳しく聞かせてくれない? こう見えて審判役なの?」

 リカインをちらりと見る正光。

「リカイン? 確かイベントに参加していたはずじゃ……?」

「フ、フフフ……私のタイプの人がいなかったから、涼司君にヘルメットもハリセンも強引に押し付けてやったのよ!」

「こ、校長に?」

「ええ、何か妙にノリノリで、バレるとマズいぜ、変装しなきゃなぁとか言ってたけど……まぁそんなわけで今の私は審判なのよ、不正を働く不届き者は疾風突きやシーリングランス(盾だけど)で封殺ですよ!」

 リカインのタイプが、シャツはだけてても強い人という需要の少ないジャンルであった事はもちろん秘密だ。

 凄まれた男子生徒は、彼らがあった辻斬りについて、少しずつ話しだした。

「何て名乗ってたっけ?」

「片方は神代 明日香(かみしろ・あすか)だったんだけど、もう片方は、奇妙な仮面をつけた小さい子で……」

「ああ、マジカルエリザベート、略してマジカルベスとか言ったな」

 会話を聞いていた正光とリカインが沈黙する。同時に厨房でアリア、ステア、零時も各々の手元を見つめたまま固まっていた。

「それ、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長じゃない? 参加しないって言ってたのに……」

「何というネーミングセンス……」

「いや、待て。これはきっと前時代の知識を集約した我々に考えもつかないものなのだ」

 封を切ったようにあちこちで喧々諤々の議論を始める生徒達。

「出番だな?」

 正光がリカインに問う。

「……みたいね。審判役としてちゃんと止められたらいいんだけど。じゃ、行ってくるわ」

「ああ、気をつけてな」

 大きな溜息をつきながら、リカインは正光達の軽食屋を後にするのであった。