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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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「ねえねえ、ルイ姉! こっちの可愛いのとセクシーなドレスと、どっちがフィリップ君に喜んでもらえるかなぁ?
 大人っぽさをアピールするなら、やっぱりこっちのセクシーの方? でもはしたない娘だって思われちゃいそうだし……。ならこっちの可愛い方かなあ? でもでも、これって、子供っぽく見られちゃわないかしら?」
 シュミーズ姿でバタバタと洋服をとっかえひっかえ身体にあてながら、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が半分泣きそうな顔でルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)に助けを求めていた。
 本人曰く、やっとフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)とデートを取りつけたということらしい。
 その手には、フリルがふんだんについた、ミニスカートの魔法少女ふうのツーピースと、背中の大きく開いた真紅のイブニングドレスがかかえられている。
「えーと、フリッカ、まずはもう少し落ち着きましょうよ。私はいつものお気に入りのドレスでいいと思いますよ。フィリップ君も、きっと今のあたふたしているフリッカよりも、いつもの元気なフリッカの方が好きなのではないでしょうか?」
 ルイーザ・レイシュタインが、フレデリカ・レヴィを落ち着かせるように言った。どうも、相手のフィリップ・ベレッタは鈍感なようだから、フレデリカ・レヴィがデートだと思っていても、彼がそうは思っていないことも充分にありえる。そんなときに、思いっきり恋人衣装で行って引かれるよりも、自然体の方が着実に仲が深まるというものだ。
「あんな優男のどこがいいんだか……」
 言ってしまってから、グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)がキッとフレデリカ・レヴィに睨まれていったん口を噤む。
「私に言わせてもらえば、そのフリフリの服はないな。なぜかって? 脱がせにくいからに決まってるじゃないか。それから、セクシーなドレスも却下な。悩殺するつもりならもっと成長してからな。今のスタイルで色仕掛けができると思ってるのか? あう、いてててて……」
 毒舌を吐くグリューエント・ヴィルフリーゼが、いきなり頭をぐわしと手でつかまれて黙った。
「ヴィリー。少しデリカシーについて話し合いましょうか?」
 しっかりと警告すると、つかんでいたグリューエント・ヴィルフリーゼを、ルイーザ・レイシュタインが部屋の隅の方にポイした。ぶつぶつ言いながらも、グリューエント・ヴィルフリーゼが静かになる。
「はいはい。さあ、早く着替えましょうね。遅れてしまいますよ」
「でも、グリューエントが……」
「気にしない、気にしない」
 そう言うと、ルイーザ・レイシュタインはあえてフレデリカ・レヴィにイルミンスール魔法学校の制服を着せていった。パニックになっている本人は気づかないかもしれないが、一応、フィリップ・ベレッタはいつも制服を愛用しているので、これでペアルックということになる。せっかくのクリスマスで着飾っている者が多いから、あからさまに制服を着ている者も少ないだろう。要は、考えようだ。
「それでも自信がないと言うのなら、ちょっとしたおまじないをしてあげましょうか? 少しでもフリッカがキラキラしていられますように……」
 そう言って、ルイーザ・レイシュタインはフレデリカ・レヴィの唇に、光沢のある薄桃色のリップグロスを塗ってやった。
「はい、これで大丈夫。頑張って行ってらっしゃい」
 
    ★    ★    ★
 
「お待たせしました、御主人様あ♪」
 ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)が、宿り樹に果実のカフェテラスに飲み物を運びながら言った。
「なんで働いているんだ。せっかく、カフェテラス部分を借り切ってクリスマスパーティーを開いたのに、主役が給仕していちゃ……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が主催した「彷徨う島お疲れパーティー」に便乗してクリスマスパーティーを主催したラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、なんとも所在なさげにココ・カンパーニュに言った。
「しかたないだろ。この間飛空艇を手に入れたはいいけど、おかげでいろいろと入り用になっちゃったんだから」
 ずいとラルク・クローディスに近づいてプライベートエリアに踏み込みながら、腰に手をあてたココ・カンパーニュが顔を寄せて言った。珍しく、いつものゴチメイの衣装ではなく、白地に青のアリスドレス姿でウェイトレスをやっている。髪を下ろした頭に被っているのは、白いフリルのついたカチューシャだ。こうしてみると、なんだか髪を黒く染めたアルディミアク・ミトゥナにも見える。
「なんなんだ、入り用な物って?」
 わざわざサンタクロース姿をしているラルク・クローディスが、素朴な疑問をぶつける。
「可愛いぬいぐるみとか、可愛いクッションとか、可愛いカーテンとか……」
 ちょっと顔を赤らめながら、ココ・カンパーニュが連呼した。
「可愛い物ばかりじゃねえか」
 ラルク・クローディスが少し呆れる。
「いいじゃねえかよ!」
 照れ隠しするように、ココ・カンパーニュがいきなりラルク・クローディスにヘッドロックをかました。
「うわわ……、ココさん、ココさん、あたってる、あたってる」
 ラルク・クローディスが、悲鳴とも歓声ともつかない叫びをあげた。
「それがどうした!」
「ぐぁああああ!!」(V)
 胸にラルク・クローディスの頭があたっていることを意にも介さず、ココ・カンパーニュがごきゅっと持っていた首を捻った。泡を吹いたラルク・クローディスをポイと床に投げ捨てる。
「ふっ、リジェネレーションがなければ死んでたところだぜ」
 即座に復活したラルク・クローディスが、何ごともなかったように言った。
「さすがは変態だ。復活も人並み外れてる」
「だから、変態言うな!」
「やーい、変態、変態」
 真っ赤になって怒るラルク・クローディスを指さして、ココ・カンパーニュが囃し立てた。
「なんだか、あそこ凄く楽しそうなんだもん」
 ちょっとうらやましそうに、小鳥遊美羽が言った。
「いい玩具が見つかった子供というところだな。それにしても、他のゴチメイたちはどこにいるんだ?」
 テーブルの上に持ってきたケーキを載せながら、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)があらためて周囲を見回した。
「うゅ……なの。せっかく、リンちゃんに、甘口シャンパン持ってきたのに……なの」
 極辛口のシャンパンのラベルを手書きででかでかと「甘口」と書いた物にすり替えたボトルを持ったエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が、残念そうに言った。
「彷徨える島でのお話とかしたかったのですが」
 相変わらず鎧と仮面で全身を被ったエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)も残念そうに言う。
「ああ、シェリルたちは、今日はいろいろやりたいことがあるらしいから。全員自由行動にしたんだ。今ごろは、どっかそのへんを散歩してるんだろ。まあ、気がむいたらここへ来るさ」
 ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の作ったオードブルを運びながら、ココ・カンパーニュが言った。
「それは残念だよね。せっかくみんなに美味しい物食べてもらおうと思ってたのに」
「ああ、俺もいろいろプレゼントとか持ってきたんだぜ。ほら、ココにはこいつだ」
 サンタの袋から綺麗に包装されたクリスマスプレゼントを取り出して、ラルク・クローディスが言った。
「なに、なに? 開けてもいい?」
 ちょっと嬉しそうに言って、ココ・カンパーニュがバリバリと包みを開けた。
 中からで出てきたのは、お風呂セットだ。
「これは、また一緒にお風呂に入りましょうという宣戦布告と受けとってもいいんだな、変態」
「なぜそうなる!」
「そうなるだろうが!」
 問答無用で、ココ・カンパーニュがドラゴンアーツの拳圧を放った。即座に、ラルク・クローディスも同様の拳圧を飛ばして相殺する。
「何やってるの、二人とも」
 料理が吹き飛ばされないようにかばいながら、小鳥遊美羽が叫んだ。
「はーい、ちょっとココさん、こちらへいらっしゃーい」
 ミリア・フォレストが、店内のカウンターの方からココ・カンパーニュを手招きした。思いっきり注意されて、ココ・カンパーニュがしょんぼりする。
「さあさあ、気をとりなおしてケーキでも食べましょう。ちょっと本格的なクリスマスケーキということで、ブッシュドノエルですよ」
 本郷涼介が、ケーキを切り分けながら言った。
「とりあえず、休憩時間もらったから」
 ミリア・フォレストから解放されたココ・カンパーニュが、やれやれという感じで言った。
「まあ、星拳でここが吹き飛ぶなかっただけましだったよね」
「ああ、さすがに、それはちょっと。今は無理だし……」
 ココ・カンパーニュが、布製のガントレットも何もつけていない両手首をちょっと寂しそうにまさぐりながら言った。
「どれ、いただこうかな」
 ココ・カンパーニュが、ケーキにフォークを突き立てた。そのそばで、エシク・ジョーザ・ボルチェがむせる。
「ふゅ……こんなときまで、仮面なんか被ってるから……なの。取ればいい……の」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが突っ込む。
 いかたなしに、エシク・ジョーザ・ボルチェが仮面を外した。
「おや、あなたたち、結構似ているな」
 本郷涼介が、ココ・カンパーニュとエシク・ジョーザ・ボルチェを見比べて言った。
 今は、ココ・カンパーニュが髪を下ろしているので、結構エシク・ジョーザ・ボルチェとシルエットが近い。
「そうですか? アルディミアクには似ていると感じたことはありますが」
 ちょっと怪訝そうにエシク・ジョーザ・ボルチェが答えた。
 とはいえ、今のアルディミアク・ミトゥナの容姿は、再生した後にココ・カンパーニュそっくりになったものだ。元々の姿はもっと年嵩で、アムリアナ・シュヴァーラの影武者を務められるほどに彼女に似ている。その姿を実際に目にしたことがあるのは、タシガンの霧の城で過去の幻影を見た数人だけだ。
「みんなー、楽しくやってる?」
 そこへ、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、パートナーたちを迎えにやってきた。デートを早めに切り上げての帰りらしい。
「美味しい物食べてるかしら? えっ、まさか気づいてなかったとか」
 ローザマリア・クライツァールが、エシク・ジョーザ・ボルチェの持っていた「割れ物注意」と紙の貼られた袋を指さした。あわててそれを開けると、中からいろいろな料理のパック詰めが出てくる。
「せっかくだから、暖めてきてもらうよ」
 ココ・カンパーニュが、それを集めてミリア・フォレストの方へとむかった。