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【相方たずねて三千里】旅の果て(第3歩/全3歩)

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【相方たずねて三千里】旅の果て(第3歩/全3歩)

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2.ザンスカールにて

「トレルが、猫アレルギーなのに猫に好かれちゃったんだよ!」
 鳥丘ヨル(とりおか・よる)は電話越しの返答にびっくりした。
「え、忙しいの? そっか、じゃあしょうがないね。ボクだけでもトレルを助けに行くよっ」
 と、決意をすると、ヨルは通話を切った。
「マスクとえーっと、そうだ、マタタビ! あとゴーグルも」
 呟きながらトレルの携帯番号へ電話をかける。
「あ、トレル? 今、どこにいるの? え、ザンスカールに向かってる?」
 ちゃちゃっと支度を済ませ、ヨルは電話で話しながら外へと飛び出した。

 ザンスカールへの道すがら、トレルと合流したヨルは猫娘を見て言う。
「これが噂の猫かぁ……大きいね」
「はい、普通の獣人サイズだと思われます」
「実は猫じゃなくて、虎の子どもだったりして」
「えっ」
 びっくりするトレルに、ヨルはあははと笑う。
「冗談だよー。大丈夫、ボクに任せてっ」
 ヨルは鞄からゴーグルと酸素マスクを取り出すと、それらをトレルへ手渡した。
「これ付けたら、少しはアレルギー反応もましになると思うよ」
「え、ああ……ありがとうございます」
 トレルはヨルの好意を素直に受け取ったが、装着することはしなかった。
「聞いた話なんだけど、猫ってね、目を細くするのが好意の印なんだって」
「へぇ」
「だから、あんまり顔はしかめない方が良いかも」
 様子を伺っている猫娘を無視し、トレルとヨルはザンスカールへ向かう。
 トレルが酸素マスクとゴーグルを鞄にしまおうとすると、猫娘は走り出した。
「にゃあー!」
 背後から抱きつこうとする猫娘に、ヨルが鞄からマタタビを取り出す。
「ていっ!」
 ふわりと香るマタタビに猫娘の注意が向き、その隙にマタタビを放り投げるヨル。
「みゃああーん」
 猫娘はトレルから離れると、マタタビに夢中になった。ごろごろと地面に横たわるなり、マタタビの香りに酔っている。
「やった、成功したみたい。これでトレルも安心だね」
 無邪気に笑うヨルを見て、トレルも微笑む。
「はい、わざわざありがとうございます」
 気を取り直して歩き出すトレルとヨル。
 彼女たちの姿が遠く手の平サイズになった頃、猫娘ははっとした。
「にゃ!? にゃっ!?」
 マタタビにすっかり酔わされ、うっかりトレルのそばを離れてしまった。
 猫娘は慌てて二人の足跡を追い始めた。

 時はさかのぼって数時間前。
 トレルからの返信に、湯上凶司(ゆがみ・きょうじ)はパートナーを呼びつけた。
「えーと……エクス、来い」
 呼ばれたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は不満げにしながらも彼の元へ寄る。
「え、来いってどこに?」
「友人のピンチなんだ。僕やセラフは何故か動物に嫌われるからな、お前が適任だ」
「ああ、そういうことなら……また、何か企んだりしてないよね?」
 と、疑うエクス。
 凶司は気にせずに携帯電話を閉じると、すぐに猫よけグッズを買いに外へ出た。

 ザンスカールの街の中、きょろきょろと首を回すエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は、見覚えのある空色のショートカットを見つけた。
「……いた、あそこ」
 と、高峰結和(たかみね・ゆうわ)の袖を引っ張るエメリヤン。
 結和は彼の指さす方向に顔を向け、確かにその人であることを認める。
「えっと、トレルさーん!」
 声をかけたら、相手もこちらに気づいたようで歩み寄ってきた。
「あ、あの、覚えてますか?」
 と、ドキドキしながら問いかけると、トレルは言った。
「えーと、見たことはある気がします。でも、自己紹介はまだでしたね?」
「良かったぁ。あ、私、高峰結和って言います」
「……エメリヤン・ロッソー、です」
 トレルは二人の様子を見て、改めて自分も名乗った。
「トレルです。確か、夏のパーティーの時に、来て下さった方ですよね」
「あ、はい。そうです、本当に覚えていてくれたんですね」
 と、ほっと息をつく結和。
 トレルの後ろには気配を殺したつもりの猫娘が付いてきていた。
「まだパートナー探ししてるって聞いたので、今度は私がお力になりたいのですけれど……」
「ああ、そういうことですか。それはありがたいです」
 その返答を聞いて、結和はエメリヤンと目を合わせた。
「それでは、早速ご案内いたしますね」

「私にはもう一人、パートナーがいるんです。その彼と出会ったのが、このイルミンスール大図書室の禁書書庫で……」
 と、若干声を潜めつつ、結和は図書室の中を奥へと進む。
「許可証がないと入れないんですが、今日は貸しますので安心して下さい」
 エメリヤンは後ろを付いてくる猫娘をちらちらと振り返っては、結和の後をはぐれないよう付いて行く。
「何か読みたい本があればご案内しますよ」
 と、人の好い笑顔を見せる結和。
 禁書書庫の前まで来ると、一人の男性が立っていた。
「待ってたよ、結和ちゃーん。それで、そっちの方が噂のお嬢様?」
 と、占卜大全風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)がにこやかに言う。
「はい、トレルさんです」
「どうも、初めまして」
 美形に弱いトレルは占卜大全の姿ににやにやしそうになっていた。こんなところで目の保養ができるとは……!
「俺は結和ちゃんのパートナー、占卜大全風水から珈琲占いまで、です」
 と、自己紹介をする占卜大全。彼は以前まで、この禁書書庫内に置かれていた魔道書だった。
「はい、これが許可証です」
 と、結和から『禁書閲覧許可証』を渡され、トレルはそれをまじまじと眺める。滅多に入れないところなので、少しだけ緊張してきた。
 結和はエメリヤンを振り返って言った。
「それじゃあ行ってくるね、エメリヤン」
「うん」
 占卜大全を筆頭に、結和たちが書庫へ入っていくのを見送るエメリヤン。
 猫娘が近くの棚の影からのぞいているのを見つけ、エメリヤンはその場にしゃがみ込むと手招きをした。
「……中に入れない、から……僕と、あそぼ?」
「……にゃう」
 猫娘は警戒を解くと、エメリヤンへ歩み寄った。

「この棚のここら辺だったかな、俺がいたの」
 と、占卜大全。
「はい、この位置だったと思いますー」
 結和の示す棚を見上げ、トレルは思ったことをそのまま口にする。
「こんなところで魔道書と出逢うなんて、素敵ですね」
「だろー? つーか、運命なんだよ。だって俺、結和ちゃんが目の前を通った瞬間、一目でびびっときたんだぜ」
 占卜大全が調子よく言い出し、結和はトレルの耳元に囁く。
「魔道書さんとは、何だか無理矢理、契約しちゃったんです」
「……なるほど、分かる気がします」
 と、苦笑いをするトレル。
 庫内を一通り見て回ったところで、占卜大全が『ティータイム』のセットをした。
「じゃ、トレルちゃんのこれからを占ってみようかな」
 と、カップにコーヒーを注ぎ入れ、トレルの前へ置く。
「えっと、確か飲み干せばいいんですよね?」
「そうそう、よく知ってるじゃん。結果は俺が見るから、どうぞ飲んじゃって」
 占卜大全に促され、カップの中身を飲み干すトレル。結和はその様子をただ見守っていた。
「そしたら、受け皿をカップに乗せて逆さまに」
 言われたとおり、受け皿をカップの上に載せ、逆さにする。
「さあ、何が出るかな?」
 カップを取り上げ、中の模様を見る占卜大全。結果を待つトレルに、占卜大全は言った。
「んー、何か悪いことが起きそうだけど、最後は良いことが待ってるぜ」
「……そうですか」
 占いなんて滅多に信じないトレルだが、さすがにちょっと不安になった。
 それから外へ出ると、エメリヤンと猫娘がじゃれ合っていた。トレルはそれに気づきながらも無視をする。
「ありがとう、ゆーわちゃん。あと、珈琲さん」
「いえ、こちらこそありがとうございましたー」
「気をつけろよ、トレルちゃん」
 エメリヤンが慌てて猫娘から手を放し、歩き出そうとするトレルの服を引っ張る。
「うわっ」
 振り返ったトレルに、エメリヤンが猫娘を指さす。
「……この子……獣人じゃ、ない」
「え?」
 一同が目を丸くし、エメリヤンは猫娘の両腕を掴んで宙ぶらりんにさせる。
「……からだ、硬い」
 トレルが疑いの視線を向けると、猫娘は鳴いた。
「にゃーん」